160 / 419
魔道具技師への道
実践と恋敵(1)
しおりを挟む
「俺はルシアだ。よろしくな!」
ルシアはスティアナにさわやかな笑みを向けた。
「ええ、よろしく。それじゃあ、こっちに来て」
スティアナに促されるまま、ルシアはなんの疑問も持つ様子もなく彼女の隣に座った。
指導するからと言われればそれまでなのだけれど、そんなに近づかなくてもと言いたくなるような距離まで、スティアナはルシアに体を近づけていた。リーシャのことなど眼中にない様子だ。
リーシャはモヤっとした思いを抱えながら、ルシアの向かいの席に座った。
「じゃあ、さっそく作ってみましょうか。作ると言っても、ブレスレッドに刻印を刻むだけなんだけど。どの魔力刻印がいいかしら」
スティアナは持参していた本をテーブルの上に広げ、目を細めて真剣に目を通し始めた。本には様々な図案が数多く載っている。
分厚い本の中から目ぼしいページを見つけたのか、スティアナの瞳が広がった。
「うん、これがいいかも」
スティアナがある図案を指差したため、リーシャとルシアは覗き込むように本に視線を落とした。
「これはね、効力は弱いけど1番簡単な回復の刻印。まだ仕事として作るわけじゃないから、作りやすさ重視で、尚且つ実用的な物を作ったほうがいいだろうし。少し深めの切り傷くらいなら簡単に治せるわ」
指差されている図案は同じページに書かれている図案の中でも単純そうで、初心者にもどうにか作れそうな模様をしていた。ルシアの表情も悪くないと言っている。
「これなら俺にもできそうな気がする。これにするよ」
「わかったわ。それじゃあ、そのままいきなり形を彫るのは難しいから、まずはこの紙に書いて練習しましょう」
スティアナは足元に置いてあった荷物の中から白い紙を取り出し、テーブルの上に置いた。
ルシアは不思議そうな顔で白紙を見た後、スティアナの顔へ視線を向けた。
「なんで練習で紙に描くんだ? 練習なら木とかを彫って練習した方がいいんじゃないのか?」
「紙に描く練習は初心者にとって重要な修行過程なのよ。それにね、これはただの紙じゃないの。刻印は彫るときに魔力でコーティングするように加工しながら彫らないといけないことは知ってるわよね?」
「ああ。加工した部分は使用者が流し込んだ魔力を弾いて、魔力を魔法発動に必要な流れに整えるとかいうようなことが本に書いてあった」
「そうね。こうして図案として描かれている刻印と比べて形の誤差が大きいと、魔力の流れが狂って魔法は発動しない。だから、魔道具技師になりたい人はどんな図案でも正確に描けるようになるために何年も修行を積まないといけないのよ。熟練の技師も初めて彫る模様は何度も練習してるわ。そういう練習をする時にこれが使われるの」
スティアナは机の上に置いてあった紙を手に取った。
「普通の紙にしか見えねぇけど」
「見た目はそうね。けど、普通の紙じゃないわ。はじめのうちは刻印の模様を描きながら、同時にそれに魔力を込めるなんてこと難しいわよね?」
「そうだな。途中でわけわかんなくなって、魔力込めるの忘れそうな気がする」
「でしょ? かといってただ紙に描いたり実際に何かに彫ったりするだけだと、魔力を流しても流れができなくて魔法は発動しないから、その模様が正確かどうかなんてわからない。で、そこで登場するのがこの紙。これにただ模様を描いて、出来上がった模様に魔力を流すだけでだけで正確に描けているかがわかる優れものなのよ!」
ルシアは差し出された紙を受け取ると裏表をひっくり返しながら観察し始めた。
「ふーん。やっぱ、普通の白い紙にしか見えねぇんだけど」
「ふふっ。それでも、れっきとした練習用の道具だから安心してちょうだい。私も仕組みについては詳しくはわからないんだけど、紙の繊維に細工がしてあるらしいわ。刻印の模様が正確に書けていれば魔力を流した時、紙はそのまま維持される。発動が不可だった場合は紙が裂けるようになっているの」
「へぇ」
「それじゃあさっそくやってみましょう」
「ああ、そうだな」
ルシアは気合いを入れてペンを握ると、黙々と図案を紙に写し始めた。
ルシアはスティアナにさわやかな笑みを向けた。
「ええ、よろしく。それじゃあ、こっちに来て」
スティアナに促されるまま、ルシアはなんの疑問も持つ様子もなく彼女の隣に座った。
指導するからと言われればそれまでなのだけれど、そんなに近づかなくてもと言いたくなるような距離まで、スティアナはルシアに体を近づけていた。リーシャのことなど眼中にない様子だ。
リーシャはモヤっとした思いを抱えながら、ルシアの向かいの席に座った。
「じゃあ、さっそく作ってみましょうか。作ると言っても、ブレスレッドに刻印を刻むだけなんだけど。どの魔力刻印がいいかしら」
スティアナは持参していた本をテーブルの上に広げ、目を細めて真剣に目を通し始めた。本には様々な図案が数多く載っている。
分厚い本の中から目ぼしいページを見つけたのか、スティアナの瞳が広がった。
「うん、これがいいかも」
スティアナがある図案を指差したため、リーシャとルシアは覗き込むように本に視線を落とした。
「これはね、効力は弱いけど1番簡単な回復の刻印。まだ仕事として作るわけじゃないから、作りやすさ重視で、尚且つ実用的な物を作ったほうがいいだろうし。少し深めの切り傷くらいなら簡単に治せるわ」
指差されている図案は同じページに書かれている図案の中でも単純そうで、初心者にもどうにか作れそうな模様をしていた。ルシアの表情も悪くないと言っている。
「これなら俺にもできそうな気がする。これにするよ」
「わかったわ。それじゃあ、そのままいきなり形を彫るのは難しいから、まずはこの紙に書いて練習しましょう」
スティアナは足元に置いてあった荷物の中から白い紙を取り出し、テーブルの上に置いた。
ルシアは不思議そうな顔で白紙を見た後、スティアナの顔へ視線を向けた。
「なんで練習で紙に描くんだ? 練習なら木とかを彫って練習した方がいいんじゃないのか?」
「紙に描く練習は初心者にとって重要な修行過程なのよ。それにね、これはただの紙じゃないの。刻印は彫るときに魔力でコーティングするように加工しながら彫らないといけないことは知ってるわよね?」
「ああ。加工した部分は使用者が流し込んだ魔力を弾いて、魔力を魔法発動に必要な流れに整えるとかいうようなことが本に書いてあった」
「そうね。こうして図案として描かれている刻印と比べて形の誤差が大きいと、魔力の流れが狂って魔法は発動しない。だから、魔道具技師になりたい人はどんな図案でも正確に描けるようになるために何年も修行を積まないといけないのよ。熟練の技師も初めて彫る模様は何度も練習してるわ。そういう練習をする時にこれが使われるの」
スティアナは机の上に置いてあった紙を手に取った。
「普通の紙にしか見えねぇけど」
「見た目はそうね。けど、普通の紙じゃないわ。はじめのうちは刻印の模様を描きながら、同時にそれに魔力を込めるなんてこと難しいわよね?」
「そうだな。途中でわけわかんなくなって、魔力込めるの忘れそうな気がする」
「でしょ? かといってただ紙に描いたり実際に何かに彫ったりするだけだと、魔力を流しても流れができなくて魔法は発動しないから、その模様が正確かどうかなんてわからない。で、そこで登場するのがこの紙。これにただ模様を描いて、出来上がった模様に魔力を流すだけでだけで正確に描けているかがわかる優れものなのよ!」
ルシアは差し出された紙を受け取ると裏表をひっくり返しながら観察し始めた。
「ふーん。やっぱ、普通の白い紙にしか見えねぇんだけど」
「ふふっ。それでも、れっきとした練習用の道具だから安心してちょうだい。私も仕組みについては詳しくはわからないんだけど、紙の繊維に細工がしてあるらしいわ。刻印の模様が正確に書けていれば魔力を流した時、紙はそのまま維持される。発動が不可だった場合は紙が裂けるようになっているの」
「へぇ」
「それじゃあさっそくやってみましょう」
「ああ、そうだな」
ルシアは気合いを入れてペンを握ると、黙々と図案を紙に写し始めた。
0
お気に入りに追加
215
あなたにおすすめの小説
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける
朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。
お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン
絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。
「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」
「えっ!? ええぇぇえええ!!!」
この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる