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魔道具技師への道

実践と恋敵(1)

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「俺はルシアだ。よろしくな!」

 ルシアはスティアナにさわやかな笑みを向けた。

「ええ、よろしく。それじゃあ、こっちに来て」

 スティアナに促されるまま、ルシアはなんの疑問も持つ様子もなく彼女の隣に座った。
 指導するからと言われればそれまでなのだけれど、そんなに近づかなくてもと言いたくなるような距離まで、スティアナはルシアに体を近づけていた。リーシャのことなど眼中にない様子だ。
 リーシャはモヤっとした思いを抱えながら、ルシアの向かいの席に座った。

「じゃあ、さっそく作ってみましょうか。作ると言っても、ブレスレッドに刻印を刻むだけなんだけど。どの魔力刻印がいいかしら」

 スティアナは持参していた本をテーブルの上に広げ、目を細めて真剣に目を通し始めた。本には様々な図案が数多く載っている。
 分厚い本の中から目ぼしいページを見つけたのか、スティアナの瞳が広がった。

「うん、これがいいかも」

 スティアナがある図案を指差したため、リーシャとルシアは覗き込むように本に視線を落とした。

「これはね、効力は弱いけど1番簡単な回復の刻印。まだ仕事として作るわけじゃないから、作りやすさ重視で、尚且つ実用的な物を作ったほうがいいだろうし。少し深めの切り傷くらいなら簡単に治せるわ」

 指差されている図案は同じページに書かれている図案の中でも単純そうで、初心者にもどうにか作れそうな模様をしていた。ルシアの表情も悪くないと言っている。

「これなら俺にもできそうな気がする。これにするよ」
「わかったわ。それじゃあ、そのままいきなり形を彫るのは難しいから、まずはこの紙に書いて練習しましょう」

 スティアナは足元に置いてあった荷物の中から白い紙を取り出し、テーブルの上に置いた。
 ルシアは不思議そうな顔で白紙を見た後、スティアナの顔へ視線を向けた。

「なんで練習で紙に描くんだ? 練習なら木とかを彫って練習した方がいいんじゃないのか?」
「紙に描く練習は初心者にとって重要な修行過程なのよ。それにね、これはただの紙じゃないの。刻印は彫るときに魔力でコーティングするように加工しながら彫らないといけないことは知ってるわよね?」
「ああ。加工した部分は使用者が流し込んだ魔力を弾いて、魔力を魔法発動に必要な流れに整えるとかいうようなことが本に書いてあった」
「そうね。こうして図案として描かれている刻印と比べて形の誤差が大きいと、魔力の流れが狂って魔法は発動しない。だから、魔道具技師になりたい人はどんな図案でも正確に描けるようになるために何年も修行を積まないといけないのよ。熟練の技師も初めて彫る模様は何度も練習してるわ。そういう練習をする時にこれが使われるの」

 スティアナは机の上に置いてあった紙を手に取った。

「普通の紙にしか見えねぇけど」
「見た目はそうね。けど、普通の紙じゃないわ。はじめのうちは刻印の模様を描きながら、同時にそれに魔力を込めるなんてこと難しいわよね?」
「そうだな。途中でわけわかんなくなって、魔力込めるの忘れそうな気がする」
「でしょ? かといってただ紙に描いたり実際に何かに彫ったりするだけだと、魔力を流しても流れができなくて魔法は発動しないから、その模様が正確かどうかなんてわからない。で、そこで登場するのがこの紙。これにただ模様を描いて、出来上がった模様に魔力を流すだけでだけで正確に描けているかがわかる優れものなのよ!」

 ルシアは差し出された紙を受け取ると裏表をひっくり返しながら観察し始めた。

「ふーん。やっぱ、普通の白い紙にしか見えねぇんだけど」
「ふふっ。それでも、れっきとした練習用の道具だから安心してちょうだい。私も仕組みについては詳しくはわからないんだけど、紙の繊維に細工がしてあるらしいわ。刻印の模様が正確に書けていれば魔力を流した時、紙はそのまま維持される。発動が不可だった場合は紙が裂けるようになっているの」
「へぇ」
「それじゃあさっそくやってみましょう」
「ああ、そうだな」

 ルシアは気合いを入れてペンを握ると、黙々と図案を紙に写し始めた。
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