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魔道具技師への道
工房見学(1)
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竜王が訪れて2週間後。
リーシャはルシアを連れて、王都のある店を訪れた。
「お邪魔しまぁす……」
リーシャは少しだけ開けた扉の隙間から建物の中を覗き込んだ。
中にはリーシャの好奇心をくすぐるような、大小さまざまな、たくさんの魔道具が並べられていた。
この建物は魔道具を作るための場所、魔道具工房。リーシャはルシアに魔道具技師の仕事を見せるためにこの工房を訪れたのだ。
工房で作られた魔道具の一部は出荷せず、販売もしているらしい。覗いているこの場所が販売している場所のようだけれど、見える範囲に人の姿は見当たらなかった。
リーシャの背後にいたルシアも、同じようにリーシャの上から工房内を覗き込んだ。
「なあ、なんでこんなコソコソする必要あるんだよ。ちゃんと見学に行くって話は通したんだろ?」
「そうだけど、いきなり遠慮なしに入って行ったらびっくりさせちゃうかなって思ってさ。ほら、ルシアたちの事を受け入れられないって人だっていっぱいいるし、ここで働いてる人の中にだってそういう人いるかもしれないでしょ?」
「まあ、それはそうだけどさ。つーか誰もいなくね? 普通に入って呼んだ方がいいだろ。こうしてても仕方ねぇし、明らかに不審者だろ、今の俺ら」
「そうだね」
2人が話をしている間に、店の奥から誰かが近づいて来る足音が聞こえ始めていた。
「おい、誰か来たぞ」
悪い事をしたわけでもないのに、ルシアは声を小さくして言った。
奥から現れたのは頭にバンダナを巻いた男性だった。商品の補充に来たようで、手には魔道具の入った木箱を抱えている。
男性が箱を床に置き、中を漁り始めたところでリーシャは思い切って声をかけた。
「あのぉ、すみません」
男性は振り返った。
はじめはリーシャの姿を捉えられず、声の主を探して頭を左右に動かしていた。少しだけ開かれた扉に気付くとギョッとした顔をした。
「⁉ あんたら、そんなとこで何してんだ⁉」
「えっと、工房見学をお願いしてた者なんですけど。入ってもいいかわからなかったので」
「入っていいに決まってるだろう。約束してたんだから。てか、もうそんな時間になってたのか…………おい、入っていいって言ってんだから、ずっとそんなコソコソしてないで、入りな」
入るタイミングがわからず扉の影にいたリーシャたちに向かって、男性は不機嫌そうに言った。
男性はどうやら2人を歓迎してはいないようだ。むしろ迷惑だ、とでも言いたそうな雰囲気すら醸し出している。ルシアたち竜の兄弟を快く思っていない人なのだろう。
リーシャとルシアが工房へと足を踏み入れると、男性は2人の事を見定めようとするかのように交互に見た。そしてもう1度リーシャに視線を向けると口を開いた。
「あんたがリーシャっていう嬢ちゃんか。ってことはそいつが魔道具技師を目指してるっていう竜だな。アンタの恋人の1人とかいう」
「あ、はい。そうで……はいっ⁉」
リーシャは驚きのあまり声が裏返った。
(今なんて……恋人の1人⁉)
周囲からどういう関係に思われているのか知らなかったけれど、まさか恋人のように見られていたとは思っていなかった。せいぜい仲の良い兄弟ぐらいだろうと勝手に思い込んでいたリーシャは唖然とした。
ルシアはというと、男性の発言に気分をよくしたようで、満足そうに口角を上げた。
「よくわかってるな。けど残念なことに、リーシャだけは恋人ってことに納得してくれてないんだよ。だから人間がするような恋人っぽいことは出来ねぇし……俺らとしては早いところ恋人を通過して、番いたいんだけどなぁ」
ルシアはまったくと言いたげに首を横に振った。
これ以上ルシアが口を開けば更なる誤解を招きかねないのは明らかだ。
リーシャはルシアを連れて、王都のある店を訪れた。
「お邪魔しまぁす……」
リーシャは少しだけ開けた扉の隙間から建物の中を覗き込んだ。
中にはリーシャの好奇心をくすぐるような、大小さまざまな、たくさんの魔道具が並べられていた。
この建物は魔道具を作るための場所、魔道具工房。リーシャはルシアに魔道具技師の仕事を見せるためにこの工房を訪れたのだ。
工房で作られた魔道具の一部は出荷せず、販売もしているらしい。覗いているこの場所が販売している場所のようだけれど、見える範囲に人の姿は見当たらなかった。
リーシャの背後にいたルシアも、同じようにリーシャの上から工房内を覗き込んだ。
「なあ、なんでこんなコソコソする必要あるんだよ。ちゃんと見学に行くって話は通したんだろ?」
「そうだけど、いきなり遠慮なしに入って行ったらびっくりさせちゃうかなって思ってさ。ほら、ルシアたちの事を受け入れられないって人だっていっぱいいるし、ここで働いてる人の中にだってそういう人いるかもしれないでしょ?」
「まあ、それはそうだけどさ。つーか誰もいなくね? 普通に入って呼んだ方がいいだろ。こうしてても仕方ねぇし、明らかに不審者だろ、今の俺ら」
「そうだね」
2人が話をしている間に、店の奥から誰かが近づいて来る足音が聞こえ始めていた。
「おい、誰か来たぞ」
悪い事をしたわけでもないのに、ルシアは声を小さくして言った。
奥から現れたのは頭にバンダナを巻いた男性だった。商品の補充に来たようで、手には魔道具の入った木箱を抱えている。
男性が箱を床に置き、中を漁り始めたところでリーシャは思い切って声をかけた。
「あのぉ、すみません」
男性は振り返った。
はじめはリーシャの姿を捉えられず、声の主を探して頭を左右に動かしていた。少しだけ開かれた扉に気付くとギョッとした顔をした。
「⁉ あんたら、そんなとこで何してんだ⁉」
「えっと、工房見学をお願いしてた者なんですけど。入ってもいいかわからなかったので」
「入っていいに決まってるだろう。約束してたんだから。てか、もうそんな時間になってたのか…………おい、入っていいって言ってんだから、ずっとそんなコソコソしてないで、入りな」
入るタイミングがわからず扉の影にいたリーシャたちに向かって、男性は不機嫌そうに言った。
男性はどうやら2人を歓迎してはいないようだ。むしろ迷惑だ、とでも言いたそうな雰囲気すら醸し出している。ルシアたち竜の兄弟を快く思っていない人なのだろう。
リーシャとルシアが工房へと足を踏み入れると、男性は2人の事を見定めようとするかのように交互に見た。そしてもう1度リーシャに視線を向けると口を開いた。
「あんたがリーシャっていう嬢ちゃんか。ってことはそいつが魔道具技師を目指してるっていう竜だな。アンタの恋人の1人とかいう」
「あ、はい。そうで……はいっ⁉」
リーシャは驚きのあまり声が裏返った。
(今なんて……恋人の1人⁉)
周囲からどういう関係に思われているのか知らなかったけれど、まさか恋人のように見られていたとは思っていなかった。せいぜい仲の良い兄弟ぐらいだろうと勝手に思い込んでいたリーシャは唖然とした。
ルシアはというと、男性の発言に気分をよくしたようで、満足そうに口角を上げた。
「よくわかってるな。けど残念なことに、リーシャだけは恋人ってことに納得してくれてないんだよ。だから人間がするような恋人っぽいことは出来ねぇし……俺らとしては早いところ恋人を通過して、番いたいんだけどなぁ」
ルシアはまったくと言いたげに首を横に振った。
これ以上ルシアが口を開けば更なる誤解を招きかねないのは明らかだ。
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