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巨大な訪問者
後日談(4)
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「あの魔力は異質すぎて、私もその竜王以外には感じとれたことはないかな。上手く言えないんだけど、暖かそうなんだけど落ち着かないっていうか、むしろ恐怖を感じる。あとたぶん、リーシャちゃんの得意属性は相性悪そうだよね」
「私の? 得意属性?」
リーシャは首を傾げた。
大体の魔法は使いこなせているため、今まで自分の得意な有属性魔法など考えたこともなかった。
「あれ? 自覚なかった? リーシャちゃんが一番うまく扱えるのって闇の魔法だよ?」
「なんでそれを……」
スコッチの言葉にリーシャは目を見開いた。
自分ですら最近やっと闇の魔法について自覚したというのに、スコッチに何という事もなさげに言い当てられ体全体がゾッとした感覚に包まれた。
「だから魔法使ってなくても私にはわかっちゃうんだって」
リーシャは戸惑い一瞬声を失っていたけれど、次の瞬間ほぼ無意識ともいえるような状態で、辺りに響くような大きな声で懇願していた。
「スコッチさん! そのことは絶対に誰にも言わないで! 闇は本来人間が使える魔法じゃないから、バレたらまずいの!」
今のリーシャは少し考えれば思い至る事も考えられない程度には混乱していた。
スコッチが人間と会話するなどリーシャ以外とはあり得ないし、誰かがこの話を聞いている可能性があるこの状況では口を噤むのが最善だったはずだ。
リーシャの必死さにスコッチの瞳がほんの少しだけ大きく開いた。
「え? そうなのかい? 昔、闇の魔力を使える人間がいたから、てっきり使える人は使えるものだと思ってたよ」
「へっ……?」
リーシャから呆気にとられたような声がこぼれ出た。
(闇の魔力を使える人がいた?)
魔法学校で闇の魔力について話をした時に闇の魔法を使える竜の話は出たけれど、人間で使える者はいないと教員たちは言っていたらしい。
なのにスコッチは闇の魔法を使える人間が“いた”という。
つまりは遭遇したとまではいかなくとも、過去にスコッチが魔力を感じ取ることができる範囲にその人間が“存在していた”という事だ。
リーシャが混乱して黙り込んでいると、スコッチがあわあわと焦り始めた。
「えっ、なに? 私、また何か変なこと言ったのかい?」
「それってほんと? もしかして、闇の魔法を使ってる人に会ったことあるの?」
「会ったというより、この辺りに来てたんだよ。まさに竜王らしき気配が現れた大戦中だったかなぁ。ああ、そうそう。そういえばもう1つ、闇の魔力を持つ大きな気配もあった気がするよ。たしか竜王と戦ってたのがそうだったような。うーん、あれも竜だったのかなぁ」
「ちょ、ちょっと待って! 1回頭を整理させて!」
闇の魔力を持つのはアンデッドと呼ばれる魔物たちだけ。
そう結論付けられていた事実が間違っていたという事をリーシャが自身の存在で覆し、さらにはその覆した事を肯定するかのように告げられたスコッチの発言を聞いて、心を乱されるなというのは無理な話だった。
「それが事実なら、何で知られてないの? 人や竜が闇の魔法を使ったってことがわかれば、普通は噂になるはず……魔法を研究する機関が黙ってないはずだよ」
「えー、そこまではわからないよぉ。もしかしたら、その人間、闇の魔法を人前で使ったことなかったんじゃないのかい? もう1つの気配も本当に竜なのかはわからないし、それにその辺にいた人間共々竜王に蹴散らされたみたいだから、ただ単に伝える人間がいなかっただけなんじゃないかなぁ」
スコッチが話したことがすべて事実だとすると、これは1人で抱えるにはあまりにも大きすぎる事実だった。
とはいえ、それを魔法の研究機関に伝えたところでリーシャの言葉だけでは信じてもらえるはずもない。
信じてもらえるためにはスコッチの存在を公にしなければならないけれど、彼はそれを良しとはしないだろう。
さらに言うと、下手をすればリーシャ自身が闇の魔法を操ることができることがバレ、自由を失ってしまう事だってあり得る。
魔法を調べたり実験したりすることが好きなリーシャではあるが、さすがにこの話を聞くんじゃなかったと今さらながら後悔し始めていた。
「大丈夫? 顔色悪くない?」
「ちょっと頭痛くなってきたかも」
「それは大変だ。お家に戻ってゆっくりとお休み」
少し勘違いをしているような言い方だったけれど、気分が悪くなってきたのは間違いない。リーシャは素直に頷いた。
「うん。そうする。私は家に戻るけど、エリアルはどうする?」
エリアルも心配そうな表情でリーシャのことを見つめていた。
「僕はスコッチのおじちゃんのお話聞きたいからここにいたいけど……ねぇちゃん、僕も戻る? 看病する?」
思考の幼いエリアルもスコッチ共々リーシャが頭を抱える理由などわかるわけはない。
リーシャは力なくエリアルに微笑みかけた。
「大丈夫だよ。ゆっくりしてればすぐに治るから」
「ほんと? じゃあ僕、スコッチのおじちゃんと一緒にいるけど、何かあったらすぐに呼んで。今日はにいちゃんたちいないんだから僕を頼ってね」
「うん、ありがと」
リーシャは2人に背を向け歩き出した。
広がりつつある人外の繋がりと、彼らからもたらされる人間が知らない事実。
その事実という情報はリーシャが認めたくなくて誰にも言えていない、ノアたちにすら打ち明けられずに隠し続けていることに結びつき始めているように思えた。
そしてその事実が結びついてしまった時、周りがどう変化するのか。変わらずにいてくれるのか。
リーシャは大きな不安に押しつぶされそうになっていた。
「私の? 得意属性?」
リーシャは首を傾げた。
大体の魔法は使いこなせているため、今まで自分の得意な有属性魔法など考えたこともなかった。
「あれ? 自覚なかった? リーシャちゃんが一番うまく扱えるのって闇の魔法だよ?」
「なんでそれを……」
スコッチの言葉にリーシャは目を見開いた。
自分ですら最近やっと闇の魔法について自覚したというのに、スコッチに何という事もなさげに言い当てられ体全体がゾッとした感覚に包まれた。
「だから魔法使ってなくても私にはわかっちゃうんだって」
リーシャは戸惑い一瞬声を失っていたけれど、次の瞬間ほぼ無意識ともいえるような状態で、辺りに響くような大きな声で懇願していた。
「スコッチさん! そのことは絶対に誰にも言わないで! 闇は本来人間が使える魔法じゃないから、バレたらまずいの!」
今のリーシャは少し考えれば思い至る事も考えられない程度には混乱していた。
スコッチが人間と会話するなどリーシャ以外とはあり得ないし、誰かがこの話を聞いている可能性があるこの状況では口を噤むのが最善だったはずだ。
リーシャの必死さにスコッチの瞳がほんの少しだけ大きく開いた。
「え? そうなのかい? 昔、闇の魔力を使える人間がいたから、てっきり使える人は使えるものだと思ってたよ」
「へっ……?」
リーシャから呆気にとられたような声がこぼれ出た。
(闇の魔力を使える人がいた?)
魔法学校で闇の魔力について話をした時に闇の魔法を使える竜の話は出たけれど、人間で使える者はいないと教員たちは言っていたらしい。
なのにスコッチは闇の魔法を使える人間が“いた”という。
つまりは遭遇したとまではいかなくとも、過去にスコッチが魔力を感じ取ることができる範囲にその人間が“存在していた”という事だ。
リーシャが混乱して黙り込んでいると、スコッチがあわあわと焦り始めた。
「えっ、なに? 私、また何か変なこと言ったのかい?」
「それってほんと? もしかして、闇の魔法を使ってる人に会ったことあるの?」
「会ったというより、この辺りに来てたんだよ。まさに竜王らしき気配が現れた大戦中だったかなぁ。ああ、そうそう。そういえばもう1つ、闇の魔力を持つ大きな気配もあった気がするよ。たしか竜王と戦ってたのがそうだったような。うーん、あれも竜だったのかなぁ」
「ちょ、ちょっと待って! 1回頭を整理させて!」
闇の魔力を持つのはアンデッドと呼ばれる魔物たちだけ。
そう結論付けられていた事実が間違っていたという事をリーシャが自身の存在で覆し、さらにはその覆した事を肯定するかのように告げられたスコッチの発言を聞いて、心を乱されるなというのは無理な話だった。
「それが事実なら、何で知られてないの? 人や竜が闇の魔法を使ったってことがわかれば、普通は噂になるはず……魔法を研究する機関が黙ってないはずだよ」
「えー、そこまではわからないよぉ。もしかしたら、その人間、闇の魔法を人前で使ったことなかったんじゃないのかい? もう1つの気配も本当に竜なのかはわからないし、それにその辺にいた人間共々竜王に蹴散らされたみたいだから、ただ単に伝える人間がいなかっただけなんじゃないかなぁ」
スコッチが話したことがすべて事実だとすると、これは1人で抱えるにはあまりにも大きすぎる事実だった。
とはいえ、それを魔法の研究機関に伝えたところでリーシャの言葉だけでは信じてもらえるはずもない。
信じてもらえるためにはスコッチの存在を公にしなければならないけれど、彼はそれを良しとはしないだろう。
さらに言うと、下手をすればリーシャ自身が闇の魔法を操ることができることがバレ、自由を失ってしまう事だってあり得る。
魔法を調べたり実験したりすることが好きなリーシャではあるが、さすがにこの話を聞くんじゃなかったと今さらながら後悔し始めていた。
「大丈夫? 顔色悪くない?」
「ちょっと頭痛くなってきたかも」
「それは大変だ。お家に戻ってゆっくりとお休み」
少し勘違いをしているような言い方だったけれど、気分が悪くなってきたのは間違いない。リーシャは素直に頷いた。
「うん。そうする。私は家に戻るけど、エリアルはどうする?」
エリアルも心配そうな表情でリーシャのことを見つめていた。
「僕はスコッチのおじちゃんのお話聞きたいからここにいたいけど……ねぇちゃん、僕も戻る? 看病する?」
思考の幼いエリアルもスコッチ共々リーシャが頭を抱える理由などわかるわけはない。
リーシャは力なくエリアルに微笑みかけた。
「大丈夫だよ。ゆっくりしてればすぐに治るから」
「ほんと? じゃあ僕、スコッチのおじちゃんと一緒にいるけど、何かあったらすぐに呼んで。今日はにいちゃんたちいないんだから僕を頼ってね」
「うん、ありがと」
リーシャは2人に背を向け歩き出した。
広がりつつある人外の繋がりと、彼らからもたらされる人間が知らない事実。
その事実という情報はリーシャが認めたくなくて誰にも言えていない、ノアたちにすら打ち明けられずに隠し続けていることに結びつき始めているように思えた。
そしてその事実が結びついてしまった時、周りがどう変化するのか。変わらずにいてくれるのか。
リーシャは大きな不安に押しつぶされそうになっていた。
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