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巨大な訪問者
後日談(2)
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「竜王様? 竜の王様ってことだよね? 竜族に王なんて地位があること自体、私は知らなかったよ。というか、そもそも私、ずっとこの池の底にいたのに、水面より上に知り合いなんていると思う?」
「えーっとですねぇ……」
リーシャがこの場所に住み始めてから最近まで、警戒して1度も姿を現わさなかったのだ。異質で巨大な魔力を持つ竜王などという存在がこの辺りをうろついる時に彼が顔を出すわけがない。
ただなんとなく「いないと思う」と答えるは躊躇われたため、リーシャはあえてその部分を避けて話を進めることにした。
「スコッチさんはこの前ここに変わった訪問者が来たの気付いた?」
「うん。あれだけ存在感があれば池の底からでもさすがにね」
「その訪問者が竜王様だったの。なんだかスコッチさんのことを知っるような言い方してたから、もしかしたら知り合いなのかなぁって思って」
スコッチの既に限界まで開いたような丸い目が、さらに見開かれたように見えた。
「ああ、やっぱり。この前来たの竜だったんだね」
「何か思い当たる事があるの?」
「うーん、思い当たるというか。ただ、エリアルくんたちと似た気配だったからそうかなぁとは思ったくらいだよ。だから、残念ながら私から得られる情報はな……」
スコッチの口の動きが何かを思い出したようにピタリと止まった。
制止したまま瞳孔は上を向いていて、考え事をしているかのようだった。
「どうしたの?」
「んー? そういえば昔この辺りにあの竜と似たような気配の生き物が来てたことがあったような……」
スコッチは唸りながらその時がいつなのか思い出そうと努力をしていた。
そんな彼の傍らで、リーシャも何か引っかかりを感じていた。何かがかみ合いそうなのだけれど、結論に辿り着けずもどかしさを感じた。
そしてふと気がつき、前のめりに尋ねた。
「もしかしてこの辺りが戦場になってた時?」
竜王はこの辺りが戦場になったときからスコッチがこの池にいたことを知っていた。スコッチが竜王の気配を感じ取ったとしたらその時に違いない。
「あー、そうそう、たしかそうだよ。人間たちの声と魔法のぶつかり合う音がうるさかったんだよね。ただね、昔のことだし、その時の気配の生き物はかなり怒気が混ざってたから、絶対に同じ竜だとは言えないんだよねぇ」
「竜王様が? 怒ってたの?」
竜王とはつい最近出会ったばかりではあるけれど、リーシャは彼のことは異質な存在だけれど、おそらく基本的には心穏やかな竜だろうと認識していた。なので、気配が大きく変わるほどに怒りをあらわにしていたという事がかなり意外だった。
スコッチの頭部は縦に揺れた。
「うん。何があったのかは知らないよ。私も自分の身を守るので必死だったからね。今ではこんなに大きな体になっちゃったけど、あの頃は少し大きめの魚と同じくらいの大きさしかなかったから。住処を守るって意味でも、飛んでくる魔法とか武器とかからこの池を守らないといけなかったわけだし」
「この池を? スコッチさんが守ったの?」
「うん」
スコッチの住むこの池は決して小さくはない。巨大なスコッチが泳げるほどに広く、深さもかなりあるようだ。
(この池を、小さな体の時に守っただなんて……)
それが事実であるなら、体が巨大化し魔力も巨大化しているであろうスコッチとは絶対に敵対しないようにしようと、リーシャはひっそりと思った。
そんなリーシャの考えを知らないスコッチは、どうかしたのかいというように頭を傾げていた。
「あっ、そういえば」
スコッチがまた何か思い出したように声を出した。
「どうしたの?」
「君にあげた指輪もその戦いのときに降ってきたような気がする。あー、そうそう思い出した。たしか、その竜王とかいう竜の気配ともう1つ気味の悪い気配をかなり近くに感じた時、たぶんその2体の魔法がぶつかり合ったんだろうね。あの戦いの中で一番の爆発が起きたんだよ。その後しばらくして私の作った結界をすり抜けてここに落ちてきた。あの頃の指輪は魔力を帯びていたからすぐに目に留まったんだ。じゃなきゃ、そんな小さい物が池に落ちて来たって気づくわけないよね」
「竜王様、何でそんなに怒ってたんだろう」
「さあ。直接見てたわけじゃないから、そこまではわからないかな」
「そっかぁ」
竜王についての収穫はほとんどなく、これ以上は望めないだろうと感じたリーシャは肩を落とした。
「えーっとですねぇ……」
リーシャがこの場所に住み始めてから最近まで、警戒して1度も姿を現わさなかったのだ。異質で巨大な魔力を持つ竜王などという存在がこの辺りをうろついる時に彼が顔を出すわけがない。
ただなんとなく「いないと思う」と答えるは躊躇われたため、リーシャはあえてその部分を避けて話を進めることにした。
「スコッチさんはこの前ここに変わった訪問者が来たの気付いた?」
「うん。あれだけ存在感があれば池の底からでもさすがにね」
「その訪問者が竜王様だったの。なんだかスコッチさんのことを知っるような言い方してたから、もしかしたら知り合いなのかなぁって思って」
スコッチの既に限界まで開いたような丸い目が、さらに見開かれたように見えた。
「ああ、やっぱり。この前来たの竜だったんだね」
「何か思い当たる事があるの?」
「うーん、思い当たるというか。ただ、エリアルくんたちと似た気配だったからそうかなぁとは思ったくらいだよ。だから、残念ながら私から得られる情報はな……」
スコッチの口の動きが何かを思い出したようにピタリと止まった。
制止したまま瞳孔は上を向いていて、考え事をしているかのようだった。
「どうしたの?」
「んー? そういえば昔この辺りにあの竜と似たような気配の生き物が来てたことがあったような……」
スコッチは唸りながらその時がいつなのか思い出そうと努力をしていた。
そんな彼の傍らで、リーシャも何か引っかかりを感じていた。何かがかみ合いそうなのだけれど、結論に辿り着けずもどかしさを感じた。
そしてふと気がつき、前のめりに尋ねた。
「もしかしてこの辺りが戦場になってた時?」
竜王はこの辺りが戦場になったときからスコッチがこの池にいたことを知っていた。スコッチが竜王の気配を感じ取ったとしたらその時に違いない。
「あー、そうそう、たしかそうだよ。人間たちの声と魔法のぶつかり合う音がうるさかったんだよね。ただね、昔のことだし、その時の気配の生き物はかなり怒気が混ざってたから、絶対に同じ竜だとは言えないんだよねぇ」
「竜王様が? 怒ってたの?」
竜王とはつい最近出会ったばかりではあるけれど、リーシャは彼のことは異質な存在だけれど、おそらく基本的には心穏やかな竜だろうと認識していた。なので、気配が大きく変わるほどに怒りをあらわにしていたという事がかなり意外だった。
スコッチの頭部は縦に揺れた。
「うん。何があったのかは知らないよ。私も自分の身を守るので必死だったからね。今ではこんなに大きな体になっちゃったけど、あの頃は少し大きめの魚と同じくらいの大きさしかなかったから。住処を守るって意味でも、飛んでくる魔法とか武器とかからこの池を守らないといけなかったわけだし」
「この池を? スコッチさんが守ったの?」
「うん」
スコッチの住むこの池は決して小さくはない。巨大なスコッチが泳げるほどに広く、深さもかなりあるようだ。
(この池を、小さな体の時に守っただなんて……)
それが事実であるなら、体が巨大化し魔力も巨大化しているであろうスコッチとは絶対に敵対しないようにしようと、リーシャはひっそりと思った。
そんなリーシャの考えを知らないスコッチは、どうかしたのかいというように頭を傾げていた。
「あっ、そういえば」
スコッチがまた何か思い出したように声を出した。
「どうしたの?」
「君にあげた指輪もその戦いのときに降ってきたような気がする。あー、そうそう思い出した。たしか、その竜王とかいう竜の気配ともう1つ気味の悪い気配をかなり近くに感じた時、たぶんその2体の魔法がぶつかり合ったんだろうね。あの戦いの中で一番の爆発が起きたんだよ。その後しばらくして私の作った結界をすり抜けてここに落ちてきた。あの頃の指輪は魔力を帯びていたからすぐに目に留まったんだ。じゃなきゃ、そんな小さい物が池に落ちて来たって気づくわけないよね」
「竜王様、何でそんなに怒ってたんだろう」
「さあ。直接見てたわけじゃないから、そこまではわからないかな」
「そっかぁ」
竜王についての収穫はほとんどなく、これ以上は望めないだろうと感じたリーシャは肩を落とした。
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