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巨大な訪問者

2つの選択肢(4)

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「若い同胞たちがそう遠くないうちに人間に戦いを仕掛けようと目論んでいるみたいだよ」
「……えっ?」

 ファイや竜王から聞いた竜が人間に向ける敵意の話に、雷竜による国の陥落。
 リーシャは竜との戦いを全く考えていなかったわけではなかった。
 ただあまりにも現実味がなかったため、もしかしたらという程度でしかとらえていなかった。
 実際にそうだと肯定され、これから起こるだろう出来事を想像したリーシャの心臓は、全身をめぐる血液を感じられるほどに音を立てて鼓動し始めた。
 困惑するリーシャを他所に、竜王は淡々と続けた。

「もともとそういう動きはあったんだけど、この前の雷の彼の事が後押しになったみたいだ。私が止めるよう言っても止まらないからもう好きにさせているけど」
「それっていつ頃……」
「詳しくは教えてあげられないって言ったよね? これ以上は仲間を裏切るようなことは言えないよ」

 リーシャは竜王の立ち位置がよくわからなかった。
 竜王はリーシャたちの敵ではないようだけれど、味方をしているというわけでもない様子だ。中立の立場という事なのだろうか。
 だとしても、竜王も少なからず人間を憎んでいるはずだ。何らかの理由で人間に手を下さないようにしているのはわかるにしても、仲間の竜たちが不利になる情報を教えてきた理由がわからなかった。

「なんでわざわざ私にそのことを教えてくれたんですか? もしかしたら私が他の人に言って対策を練るかもしれないですよね? 言わなければ確実に奇襲をかけられて、そちらの被害も最小限ですむのに……」

 リーシャは緊張が纏わりつく中、竜王の答えを待った。
 すると、竜王の確信を持っているような強い視線が向けられた。

「君たちがこのことを他の人間に話したところで、人間から受ける同胞たちへの被害は大して変わらないと私は考えている。昔のように我々は個々で縄張りを守っているわけではないし、過去の戦士たちよりも今の子たちは実力を伸ばしている。数体でかかれば1国を落とすことなどたやすいことだ。現に君たちに殺された雷の彼だって1体で1国を滅ぼしただろう? リーシャ、たとえ君たちが同胞の行く先に待ち受けていたとしても、彼らの勝利は揺るがない」
「けど……!」

 どうにか戦いを回避したかったリーシャは必死に声を張り上げた。けれど、竜王の態度は変わらなかった。
 続きを言わせまいとするように、リーシャの言葉に続けた。

「だから、できれば君たちはここで身を潜めていてほしい。君のような子には死んでほしくはないからね。池の主殿の力があればここが被害を受けることもないだろう。彼は幼い頃にこの辺りで起きていた人間たちの大戦の中を己の能力で生き抜いた。今度の大戦下でも身を守り切れるだろう」
「竜王様はスコッチさんとはお知り合いなんですか?」

 竜王はニコッと笑っただけだった。
 おそらく竜王がスコッチを一方的に認識しているだけで、スコッチはこの竜の事を知っているわけではないのだろう。
 スコッチは自身より力のある存在からは身を隠して暮らしていたような魔物だ。リーシャでも側にいると落ち着かないと感じる相手の前に姿を現すとは到底思えなかった。
 結局、竜王はそうとも違うとも答えはしなかった。

「話はそれだけ。伝えるべきことは伝えたし、そろそろ帰らせてもらうよ。黙って出てきてしまったから、周りの者が慌てているだろうしね。いきなり来てすまなかったね」
「いえ。いろいろ教えてくださってありがとうございました」
「ああ。またいつか会えるといいね」

 竜王は外へ出ると、人の姿のまま翼を生やし、空へと飛びあがった。
 飛び去るうちに姿が変化していった。遠く離れた頃には元の竜の姿になって飛んでいた。
 ただ、リーシャはその竜の色を見て目を丸くした。

「え? 白?」
「どうかしたのか?」

 リーシャの唖然とした声にルシアが不思議そうに反応した。
 いろんな種類の竜がいるのは知っているけれど、白い竜がいるとは聞いたことがなかった。

「……ううん。何でもない。さっ、家にはいろう」
「? ああ」

 この世の全ての事をリーシャが、人間が知り尽くしているというわけではない。まだ発見されていない事があっても不思議ではないのだ。

(いったいどんな竜なんだろう)

 リーシャは竜王が飛び去っていった空を見上げた。空を滑るように飛ぶ姿はもう見えない。
 竜王の言葉を聞いたリーシャは竜と人間が共に暮らすことには大きな障害があるという事を知り、これからの事を本気で考えていく必要があると悟った。
 感情を取るか、ノアたち兄弟の命を取るか。
 思った以上の難問に感じたリーシャは大きな溜め息をついたのだった。



 後日、竜王のことを知りたかったリーシャは後にスコッチに竜王について尋ねてみた。
 けれどやはり2人は知り合いというわけではないようで、竜王が一方的にスコッチの存在を認識していただけ。
 ただスコッチ曰く、竜王は昔この辺りで起きていた人間同士の戦争に手を加えて去って行った、怒りを纏った不気味な気配の生き物に似ていたらしい。
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