152 / 419
巨大な訪問者
2つの選択肢(4)
しおりを挟む
「若い同胞たちがそう遠くないうちに人間に戦いを仕掛けようと目論んでいるみたいだよ」
「……えっ?」
ファイや竜王から聞いた竜が人間に向ける敵意の話に、雷竜による国の陥落。
リーシャは竜との戦いを全く考えていなかったわけではなかった。
ただあまりにも現実味がなかったため、もしかしたらという程度でしかとらえていなかった。
実際にそうだと肯定され、これから起こるだろう出来事を想像したリーシャの心臓は、全身をめぐる血液を感じられるほどに音を立てて鼓動し始めた。
困惑するリーシャを他所に、竜王は淡々と続けた。
「もともとそういう動きはあったんだけど、この前の雷の彼の事が後押しになったみたいだ。私が止めるよう言っても止まらないからもう好きにさせているけど」
「それっていつ頃……」
「詳しくは教えてあげられないって言ったよね? これ以上は仲間を裏切るようなことは言えないよ」
リーシャは竜王の立ち位置がよくわからなかった。
竜王はリーシャたちの敵ではないようだけれど、味方をしているというわけでもない様子だ。中立の立場という事なのだろうか。
だとしても、竜王も少なからず人間を憎んでいるはずだ。何らかの理由で人間に手を下さないようにしているのはわかるにしても、仲間の竜たちが不利になる情報を教えてきた理由がわからなかった。
「なんでわざわざ私にそのことを教えてくれたんですか? もしかしたら私が他の人に言って対策を練るかもしれないですよね? 言わなければ確実に奇襲をかけられて、そちらの被害も最小限ですむのに……」
リーシャは緊張が纏わりつく中、竜王の答えを待った。
すると、竜王の確信を持っているような強い視線が向けられた。
「君たちがこのことを他の人間に話したところで、人間から受ける同胞たちへの被害は大して変わらないと私は考えている。昔のように我々は個々で縄張りを守っているわけではないし、過去の戦士たちよりも今の子たちは実力を伸ばしている。数体でかかれば1国を落とすことなどたやすいことだ。現に君たちに殺された雷の彼だって1体で1国を滅ぼしただろう? リーシャ、たとえ君たちが同胞の行く先に待ち受けていたとしても、彼らの勝利は揺るがない」
「けど……!」
どうにか戦いを回避したかったリーシャは必死に声を張り上げた。けれど、竜王の態度は変わらなかった。
続きを言わせまいとするように、リーシャの言葉に続けた。
「だから、できれば君たちはここで身を潜めていてほしい。君のような子には死んでほしくはないからね。池の主殿の力があればここが被害を受けることもないだろう。彼は幼い頃にこの辺りで起きていた人間たちの大戦の中を己の能力で生き抜いた。今度の大戦下でも身を守り切れるだろう」
「竜王様はスコッチさんとはお知り合いなんですか?」
竜王はニコッと笑っただけだった。
おそらく竜王がスコッチを一方的に認識しているだけで、スコッチはこの竜の事を知っているわけではないのだろう。
スコッチは自身より力のある存在からは身を隠して暮らしていたような魔物だ。リーシャでも側にいると落ち着かないと感じる相手の前に姿を現すとは到底思えなかった。
結局、竜王はそうとも違うとも答えはしなかった。
「話はそれだけ。伝えるべきことは伝えたし、そろそろ帰らせてもらうよ。黙って出てきてしまったから、周りの者が慌てているだろうしね。いきなり来てすまなかったね」
「いえ。いろいろ教えてくださってありがとうございました」
「ああ。またいつか会えるといいね」
竜王は外へ出ると、人の姿のまま翼を生やし、空へと飛びあがった。
飛び去るうちに姿が変化していった。遠く離れた頃には元の竜の姿になって飛んでいた。
ただ、リーシャはその竜の色を見て目を丸くした。
「え? 白?」
「どうかしたのか?」
リーシャの唖然とした声にルシアが不思議そうに反応した。
いろんな種類の竜がいるのは知っているけれど、白い竜がいるとは聞いたことがなかった。
「……ううん。何でもない。さっ、家にはいろう」
「? ああ」
この世の全ての事をリーシャが、人間が知り尽くしているというわけではない。まだ発見されていない事があっても不思議ではないのだ。
(いったいどんな竜なんだろう)
リーシャは竜王が飛び去っていった空を見上げた。空を滑るように飛ぶ姿はもう見えない。
竜王の言葉を聞いたリーシャは竜と人間が共に暮らすことには大きな障害があるという事を知り、これからの事を本気で考えていく必要があると悟った。
感情を取るか、ノアたち兄弟の命を取るか。
思った以上の難問に感じたリーシャは大きな溜め息をついたのだった。
後日、竜王のことを知りたかったリーシャは後にスコッチに竜王について尋ねてみた。
けれどやはり2人は知り合いというわけではないようで、竜王が一方的にスコッチの存在を認識していただけ。
ただスコッチ曰く、竜王は昔この辺りで起きていた人間同士の戦争に手を加えて去って行った、怒りを纏った不気味な気配の生き物に似ていたらしい。
「……えっ?」
ファイや竜王から聞いた竜が人間に向ける敵意の話に、雷竜による国の陥落。
リーシャは竜との戦いを全く考えていなかったわけではなかった。
ただあまりにも現実味がなかったため、もしかしたらという程度でしかとらえていなかった。
実際にそうだと肯定され、これから起こるだろう出来事を想像したリーシャの心臓は、全身をめぐる血液を感じられるほどに音を立てて鼓動し始めた。
困惑するリーシャを他所に、竜王は淡々と続けた。
「もともとそういう動きはあったんだけど、この前の雷の彼の事が後押しになったみたいだ。私が止めるよう言っても止まらないからもう好きにさせているけど」
「それっていつ頃……」
「詳しくは教えてあげられないって言ったよね? これ以上は仲間を裏切るようなことは言えないよ」
リーシャは竜王の立ち位置がよくわからなかった。
竜王はリーシャたちの敵ではないようだけれど、味方をしているというわけでもない様子だ。中立の立場という事なのだろうか。
だとしても、竜王も少なからず人間を憎んでいるはずだ。何らかの理由で人間に手を下さないようにしているのはわかるにしても、仲間の竜たちが不利になる情報を教えてきた理由がわからなかった。
「なんでわざわざ私にそのことを教えてくれたんですか? もしかしたら私が他の人に言って対策を練るかもしれないですよね? 言わなければ確実に奇襲をかけられて、そちらの被害も最小限ですむのに……」
リーシャは緊張が纏わりつく中、竜王の答えを待った。
すると、竜王の確信を持っているような強い視線が向けられた。
「君たちがこのことを他の人間に話したところで、人間から受ける同胞たちへの被害は大して変わらないと私は考えている。昔のように我々は個々で縄張りを守っているわけではないし、過去の戦士たちよりも今の子たちは実力を伸ばしている。数体でかかれば1国を落とすことなどたやすいことだ。現に君たちに殺された雷の彼だって1体で1国を滅ぼしただろう? リーシャ、たとえ君たちが同胞の行く先に待ち受けていたとしても、彼らの勝利は揺るがない」
「けど……!」
どうにか戦いを回避したかったリーシャは必死に声を張り上げた。けれど、竜王の態度は変わらなかった。
続きを言わせまいとするように、リーシャの言葉に続けた。
「だから、できれば君たちはここで身を潜めていてほしい。君のような子には死んでほしくはないからね。池の主殿の力があればここが被害を受けることもないだろう。彼は幼い頃にこの辺りで起きていた人間たちの大戦の中を己の能力で生き抜いた。今度の大戦下でも身を守り切れるだろう」
「竜王様はスコッチさんとはお知り合いなんですか?」
竜王はニコッと笑っただけだった。
おそらく竜王がスコッチを一方的に認識しているだけで、スコッチはこの竜の事を知っているわけではないのだろう。
スコッチは自身より力のある存在からは身を隠して暮らしていたような魔物だ。リーシャでも側にいると落ち着かないと感じる相手の前に姿を現すとは到底思えなかった。
結局、竜王はそうとも違うとも答えはしなかった。
「話はそれだけ。伝えるべきことは伝えたし、そろそろ帰らせてもらうよ。黙って出てきてしまったから、周りの者が慌てているだろうしね。いきなり来てすまなかったね」
「いえ。いろいろ教えてくださってありがとうございました」
「ああ。またいつか会えるといいね」
竜王は外へ出ると、人の姿のまま翼を生やし、空へと飛びあがった。
飛び去るうちに姿が変化していった。遠く離れた頃には元の竜の姿になって飛んでいた。
ただ、リーシャはその竜の色を見て目を丸くした。
「え? 白?」
「どうかしたのか?」
リーシャの唖然とした声にルシアが不思議そうに反応した。
いろんな種類の竜がいるのは知っているけれど、白い竜がいるとは聞いたことがなかった。
「……ううん。何でもない。さっ、家にはいろう」
「? ああ」
この世の全ての事をリーシャが、人間が知り尽くしているというわけではない。まだ発見されていない事があっても不思議ではないのだ。
(いったいどんな竜なんだろう)
リーシャは竜王が飛び去っていった空を見上げた。空を滑るように飛ぶ姿はもう見えない。
竜王の言葉を聞いたリーシャは竜と人間が共に暮らすことには大きな障害があるという事を知り、これからの事を本気で考えていく必要があると悟った。
感情を取るか、ノアたち兄弟の命を取るか。
思った以上の難問に感じたリーシャは大きな溜め息をついたのだった。
後日、竜王のことを知りたかったリーシャは後にスコッチに竜王について尋ねてみた。
けれどやはり2人は知り合いというわけではないようで、竜王が一方的にスコッチの存在を認識していただけ。
ただスコッチ曰く、竜王は昔この辺りで起きていた人間同士の戦争に手を加えて去って行った、怒りを纏った不気味な気配の生き物に似ていたらしい。
0
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説
純潔の寵姫と傀儡の騎士
四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。
世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました
平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。
騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。
そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる