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巨大な訪問者
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「察しがよくて助かるよ。ただ、番を持った者の寿命が短くなるという表現は適切ではないかな。番を持った竜は片割れを失うと、皆衰弱死するか、自ら命を絶ってしまったんだ」
「そんな……なんで……」
愛の形は違えど、リーシャも大好きだった母を亡くしているため、愛した人を失って悲しみに落ちるのはわかる。
人間でもそういう道を選ぶ者がいるのも知っている。
ただそういう人間は本当に稀で、竜の全てがそうであるという事がにわかには信じられなかった。
そして、それを信じたくなかったリーシャの手には力気込められた。
「私たち竜の執着は並々ならないって聞いただろう? 数日会えないだけで気が狂ったように心配する者もいる。そんな者が大切な相手を失って、その後の長い長い時の旅を愛しい相手無しで渡って行けると思うかい?」
「……でも、竜王様。あなたはこうして生きてますよね? その姿になれるっていうことはあなたも……」
竜王の姿が人間に恋をした結果、という確証はなかったけれど、ノアたちやファイの状況からその可能性は極めて高い。
リーシャのそんな推測から出た言葉を竜王は否定しなかった。
「私は手遅れでなかっただけさ」
「どういう事ですか?」
「この姿を手にした時、たしかにその女性を傍に置きたいと思ったよ。けどその感情が何なのかわからなかった私は、そうはしなかった。そして私は自分の内側にあるその感情が恋だと自覚する前に、人間との戦いで自らその女性のいる街を滅ぼし、彼女も同胞に殺された」
平然とした態度で答えた竜王が信じられなかった。
竜王の恐ろしい本性が垣間見えてしまうのではないかと、恐る恐る尋ねた。
「つらく、なかったんですか?」
「つらくはあったよ。けどそれは仲のよかった者を失ったからだと思ってたし、実際それが恋の始まりだったのではと気がついた時にはすっかり彼女への熱は冷めてしまっていたんだ。だから、後を追う気にはならなかったんだ」
どうやら竜王は非情な竜ではないらしく、つらかったと答えた時、複雑そうで悲しそうな表情をしていた。どんなに憎んでいる人間でも情を持ち、失えば悲しんでくれる優しさを持ち合わせた竜だ。
ふと、ファイドラスの顔が頭をよぎった。
あの火竜も愛した人間を殺されたと言っていた。どこかで臥せっていないかという心配だった。
「じゃあ、ファイさんは?」
「会ったときに憔悴しきっている様子はなかったから、彼もまだ後追いするまでの感情に至っていなかったんだろう。今もどこかで思うままに旅を続けているはずだ」
「そうですか。よかった」
ただの知り合い程度の関係でしかないけれど、言葉を交わした相手が命を絶っていたら後味が悪い。
リーシャがほっと胸を撫で下ろすと、竜王は優し気な瞳でリーシャの事を捉えた。
「君は優しい子だね。1度しか会ったことのない相手の、しかも敵対しているような関係上の立場にある相手の心配をするなんて」
ファイの事を敵として認識していなかったリーシャは、竜王から言われたことに驚いた。
けれどたしかにその通りだと思うと困り気味に返事をした。
「ひどいことをされたわけではないですから」
「そうか。君たちのように互いに竜と人間が寄り添って生きられれば、互いの心配事も減るんだけどね」
竜王はリーシャと3兄弟のことを交互に見た。
リーシャも竜王と同意見だ。ただ、人間側のノアたち兄弟に対する様子を見る限りそう簡単には達成し得ない事だと痛感していた。
「うーん。この子たちのことを受け入れてくれる人たちはいますけど、やっぱりよく思ってない人も結構いるみたいなので難しいかもしれませんね」
「やっぱりそう思うか」
竜王は大きく溜め息をついた。
「そんな……なんで……」
愛の形は違えど、リーシャも大好きだった母を亡くしているため、愛した人を失って悲しみに落ちるのはわかる。
人間でもそういう道を選ぶ者がいるのも知っている。
ただそういう人間は本当に稀で、竜の全てがそうであるという事がにわかには信じられなかった。
そして、それを信じたくなかったリーシャの手には力気込められた。
「私たち竜の執着は並々ならないって聞いただろう? 数日会えないだけで気が狂ったように心配する者もいる。そんな者が大切な相手を失って、その後の長い長い時の旅を愛しい相手無しで渡って行けると思うかい?」
「……でも、竜王様。あなたはこうして生きてますよね? その姿になれるっていうことはあなたも……」
竜王の姿が人間に恋をした結果、という確証はなかったけれど、ノアたちやファイの状況からその可能性は極めて高い。
リーシャのそんな推測から出た言葉を竜王は否定しなかった。
「私は手遅れでなかっただけさ」
「どういう事ですか?」
「この姿を手にした時、たしかにその女性を傍に置きたいと思ったよ。けどその感情が何なのかわからなかった私は、そうはしなかった。そして私は自分の内側にあるその感情が恋だと自覚する前に、人間との戦いで自らその女性のいる街を滅ぼし、彼女も同胞に殺された」
平然とした態度で答えた竜王が信じられなかった。
竜王の恐ろしい本性が垣間見えてしまうのではないかと、恐る恐る尋ねた。
「つらく、なかったんですか?」
「つらくはあったよ。けどそれは仲のよかった者を失ったからだと思ってたし、実際それが恋の始まりだったのではと気がついた時にはすっかり彼女への熱は冷めてしまっていたんだ。だから、後を追う気にはならなかったんだ」
どうやら竜王は非情な竜ではないらしく、つらかったと答えた時、複雑そうで悲しそうな表情をしていた。どんなに憎んでいる人間でも情を持ち、失えば悲しんでくれる優しさを持ち合わせた竜だ。
ふと、ファイドラスの顔が頭をよぎった。
あの火竜も愛した人間を殺されたと言っていた。どこかで臥せっていないかという心配だった。
「じゃあ、ファイさんは?」
「会ったときに憔悴しきっている様子はなかったから、彼もまだ後追いするまでの感情に至っていなかったんだろう。今もどこかで思うままに旅を続けているはずだ」
「そうですか。よかった」
ただの知り合い程度の関係でしかないけれど、言葉を交わした相手が命を絶っていたら後味が悪い。
リーシャがほっと胸を撫で下ろすと、竜王は優し気な瞳でリーシャの事を捉えた。
「君は優しい子だね。1度しか会ったことのない相手の、しかも敵対しているような関係上の立場にある相手の心配をするなんて」
ファイの事を敵として認識していなかったリーシャは、竜王から言われたことに驚いた。
けれどたしかにその通りだと思うと困り気味に返事をした。
「ひどいことをされたわけではないですから」
「そうか。君たちのように互いに竜と人間が寄り添って生きられれば、互いの心配事も減るんだけどね」
竜王はリーシャと3兄弟のことを交互に見た。
リーシャも竜王と同意見だ。ただ、人間側のノアたち兄弟に対する様子を見る限りそう簡単には達成し得ない事だと痛感していた。
「うーん。この子たちのことを受け入れてくれる人たちはいますけど、やっぱりよく思ってない人も結構いるみたいなので難しいかもしれませんね」
「やっぱりそう思うか」
竜王は大きく溜め息をついた。
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