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魔法学校
約束(2)
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「リーシャ。その子供はあとどれくらいここにいなければならないんだ?」
竜の姿をしたノアから、辺りに響き渡るような声が発せられた。
「えーっと、勉強が終わるのが5年くらいかかるからそれくらいかな? 頑張って勉強すればもっと早くなるかもしれないけど。でも、それは養子先とか保護者が見つかったらの場合で、1人で生活となると10年はここにいないといけないんじゃない?」
聞くだけ聞くと、ノアはリーシャには言葉を返さず、若干視線を下げた。
「おい、そこの小さいの」
「ちいさいのじゃないもん! ステファニーだっていってるでしょ! ノアおにいちゃんのバァカ!」
ステファニーはリーシャ越しに、可愛らしい瞳でノアを睨みつけた。
当然そんなことでノアは心を乱しはしなかった。ノアはステファニーの怒る姿を無視して話を続けた。
「5年」
「5ねん?」
話についていけていないステファニーは首を傾げた。
「遅くとも5年後にはこの地に来てやる。リーシャといたいならそれくらいは耐えろ」
「……? どういうこと?」
「お前がここから去れるようになった時、迎えに来てやると言っている。努力すればもっと早く来てもやれる。俺たちの住処には住ませはしないが、王都でなら面倒を見てやる。それならすぐにリーシャに会えるだろ。それでどうだ」
勝手な提案に驚いたリーシャは、何を言いだすのかと声を張り上げた。
「ちょっ! ノア! 勝手にいい加減な約束しないでよ! そんな放り出すような事できるわけないでしょ! 5年後って、ステファニーちゃんはまだ小さいんだよ⁉」
「お前も幼いころから、1人であの家で暮らしていたんじゃなかったか? ならば無理な話というわけではない。それに5年もあれば気も変わるだろう」
「そんな、いい加減な……」
2人のそんな大声の会話も、ステファニーは聞こえていないようだった。ぼんやりと何かを考えているようにじっと何もない宙をじっと見つめている。
そして恐る恐るノアの方へ視線を向けた。
「……がんばっておべんきょーしてまってたら、せんせーとまいにちあえるようになる? エリアルおにいちゃんとも?」
「ああ」
そう言葉を交わすと、ノアとステファニーはじっと目を合わせた。ノアはステファニーの返答を待っているような、ステファニーはノアが嘘をついていないか探っているかのような時間だった。
リーシャの事を拘束していた両腕から力が抜けた。
そしてステファニーはリーシャから手を放すとノアの方へ一歩近づいた。
「……わたし、がんばる。がんばるから! せんせーたちに、リーシャせんせーのとこにいってもいいよっていわれたら、おてがみかく! おむかえにきてって! だから、ぜったいおむかえにきてよ、ノアおにいちゃん!」
「ああ、わかった。約束してやる」
ステファニーが、こっちを向いてというようにリーシャの服の裾を軽く引っ張った。
「せんせ。せんせは、わたしをおいていなくならなでね……」
眉が下がり、不安そうな表情だった。
本人が理解しているのかどうかはわからない。けれど、幼いころに親に置いて行かれた小さな女の子の縋るような姿に、事情を知るリーシャの胸は締め付けられた。
「うん。ちゃんとステファニーちゃんのお手紙待ってる。お迎えにも来るから」
「! やくそくだよ!」
リーシャの言葉に安心したステファニーは、花が咲いたように顔をほころばせた。
ノアの背の上の方から声が聞こえてきた。
「リーシャ、話終わったのかぁ? 終わったなら、早く乗れよ」
上を向くとルシアがノアの背の上からリーシャたちのいる地上を覗き込んでいた。
「すぐ行くからもうちょっと待って!」
リーシャは教員たちの方を向いた。
またしばらくの別れの時が来た。もしかしたら、今回で合う事もなくなる教員もいるかもしれない。
リーシャは寂しさを押し殺し、明るく笑った。
「じゃあ、今度こそ帰ります。お世話になりました」
「こちらこそ、助かったわ。ありがとう」
リーシャの1番の師であるナタリーが微笑みながら言った。他の教員たちもみんな笑顔で送り出そうとしてくれている。
リーシャは続けてステファニーの方を向き、腰を屈めた。
「ステファニーちゃん、元気でね」
「うん。やくそくわすれちゃやだよ?」
リーシャは小さな背中に手を回し、優しく抱きしめた。
「忘れない。忘れないよ」
ステファニーもリーシャの背中に手を回し、互いにキュッと抱き合ってから体を離した。
「それじゃあ、さようなら」
リーシャは風の魔法で体を浮かせてノアの背中に上ると、学校の人たちに向かって手を振った。
「みんな、さようなら! 元気でね」
「さようなら、先生!」
見送りに来てくれた子供たちが大声で別れの挨拶を叫び、手を振った。その中で一際大きく聞こえてくる声があった。
「ぜんぜー、まだねぇぇぇぇ‼」
ステファニーの瞳からはずっと我慢していた大粒の涙が流れ出し、ぐしゃぐしゃの顔で叫んでいた。
つられてリーシャの目頭も熱くなってきた。
「またねぇぇぇ、ステファニーちゃぁぁぁん!」
そんな別れの合戦の中、ノアは翼を羽ばたかせ空に舞い上がると、王都クレドニアムの方角へと飛び立った。
竜の姿をしたノアから、辺りに響き渡るような声が発せられた。
「えーっと、勉強が終わるのが5年くらいかかるからそれくらいかな? 頑張って勉強すればもっと早くなるかもしれないけど。でも、それは養子先とか保護者が見つかったらの場合で、1人で生活となると10年はここにいないといけないんじゃない?」
聞くだけ聞くと、ノアはリーシャには言葉を返さず、若干視線を下げた。
「おい、そこの小さいの」
「ちいさいのじゃないもん! ステファニーだっていってるでしょ! ノアおにいちゃんのバァカ!」
ステファニーはリーシャ越しに、可愛らしい瞳でノアを睨みつけた。
当然そんなことでノアは心を乱しはしなかった。ノアはステファニーの怒る姿を無視して話を続けた。
「5年」
「5ねん?」
話についていけていないステファニーは首を傾げた。
「遅くとも5年後にはこの地に来てやる。リーシャといたいならそれくらいは耐えろ」
「……? どういうこと?」
「お前がここから去れるようになった時、迎えに来てやると言っている。努力すればもっと早く来てもやれる。俺たちの住処には住ませはしないが、王都でなら面倒を見てやる。それならすぐにリーシャに会えるだろ。それでどうだ」
勝手な提案に驚いたリーシャは、何を言いだすのかと声を張り上げた。
「ちょっ! ノア! 勝手にいい加減な約束しないでよ! そんな放り出すような事できるわけないでしょ! 5年後って、ステファニーちゃんはまだ小さいんだよ⁉」
「お前も幼いころから、1人であの家で暮らしていたんじゃなかったか? ならば無理な話というわけではない。それに5年もあれば気も変わるだろう」
「そんな、いい加減な……」
2人のそんな大声の会話も、ステファニーは聞こえていないようだった。ぼんやりと何かを考えているようにじっと何もない宙をじっと見つめている。
そして恐る恐るノアの方へ視線を向けた。
「……がんばっておべんきょーしてまってたら、せんせーとまいにちあえるようになる? エリアルおにいちゃんとも?」
「ああ」
そう言葉を交わすと、ノアとステファニーはじっと目を合わせた。ノアはステファニーの返答を待っているような、ステファニーはノアが嘘をついていないか探っているかのような時間だった。
リーシャの事を拘束していた両腕から力が抜けた。
そしてステファニーはリーシャから手を放すとノアの方へ一歩近づいた。
「……わたし、がんばる。がんばるから! せんせーたちに、リーシャせんせーのとこにいってもいいよっていわれたら、おてがみかく! おむかえにきてって! だから、ぜったいおむかえにきてよ、ノアおにいちゃん!」
「ああ、わかった。約束してやる」
ステファニーが、こっちを向いてというようにリーシャの服の裾を軽く引っ張った。
「せんせ。せんせは、わたしをおいていなくならなでね……」
眉が下がり、不安そうな表情だった。
本人が理解しているのかどうかはわからない。けれど、幼いころに親に置いて行かれた小さな女の子の縋るような姿に、事情を知るリーシャの胸は締め付けられた。
「うん。ちゃんとステファニーちゃんのお手紙待ってる。お迎えにも来るから」
「! やくそくだよ!」
リーシャの言葉に安心したステファニーは、花が咲いたように顔をほころばせた。
ノアの背の上の方から声が聞こえてきた。
「リーシャ、話終わったのかぁ? 終わったなら、早く乗れよ」
上を向くとルシアがノアの背の上からリーシャたちのいる地上を覗き込んでいた。
「すぐ行くからもうちょっと待って!」
リーシャは教員たちの方を向いた。
またしばらくの別れの時が来た。もしかしたら、今回で合う事もなくなる教員もいるかもしれない。
リーシャは寂しさを押し殺し、明るく笑った。
「じゃあ、今度こそ帰ります。お世話になりました」
「こちらこそ、助かったわ。ありがとう」
リーシャの1番の師であるナタリーが微笑みながら言った。他の教員たちもみんな笑顔で送り出そうとしてくれている。
リーシャは続けてステファニーの方を向き、腰を屈めた。
「ステファニーちゃん、元気でね」
「うん。やくそくわすれちゃやだよ?」
リーシャは小さな背中に手を回し、優しく抱きしめた。
「忘れない。忘れないよ」
ステファニーもリーシャの背中に手を回し、互いにキュッと抱き合ってから体を離した。
「それじゃあ、さようなら」
リーシャは風の魔法で体を浮かせてノアの背中に上ると、学校の人たちに向かって手を振った。
「みんな、さようなら! 元気でね」
「さようなら、先生!」
見送りに来てくれた子供たちが大声で別れの挨拶を叫び、手を振った。その中で一際大きく聞こえてくる声があった。
「ぜんぜー、まだねぇぇぇぇ‼」
ステファニーの瞳からはずっと我慢していた大粒の涙が流れ出し、ぐしゃぐしゃの顔で叫んでいた。
つられてリーシャの目頭も熱くなってきた。
「またねぇぇぇ、ステファニーちゃぁぁぁん!」
そんな別れの合戦の中、ノアは翼を羽ばたかせ空に舞い上がると、王都クレドニアムの方角へと飛び立った。
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