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魔法学校

別れの日(2)

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「私ね、今まで攻撃に使える魔法しか練習してこなかったから、回復魔法は発動するまでの時間は長いし、不発のことも多いんだ。今までは、私自身が大怪我することほとんどなかったし、パーティを組んだときは他の魔法使いの人が回復魔法を使ってくれてたから、まぁいいかって思ってた。けど、最近はそれじゃダメだなって……」

 リーシャは手元の箱を指でさすりながら、ぼんやり遠くを見つめるような瞳で見つめた。

「そう思える何か、があったのですね?」
「……私が参加した武闘大会で起きたこと知ってる? 決勝戦でのこと」
「ええ。見に行っていたわけではないのですけど、お話は聞いております。たしか、お相手はラディウス様という、とてもお強い方だったとか」

 ハンナの答えを聞いたリーシャは悲しげな顔をした。
 知らないわけはないだろうとは思っていたけれど、やはり知られていたのだとわかり、胸の奥で黒い靄のような感情が膨らんできているような気がした。

「そう。その人に大怪我をさせちゃったのに、私はその怪我をすぐに治してあげられなかった。それに私自身も怪我をして寝込んだ事もあるし。それから時々練習はしてるんだけど、思うように上達できなくてさ……ある程度上達するまでは魔道具を使おうかなぁとかも考えてはいたんだけど、なんか踏ん切りがつかなくってずっと先延ばしにしてた。そしたら、また今回のホーリンス先生の足の件でしょ……もっと、きちんとどうすべきなのかを考えてたら、違う結果になったんじゃないかな、って思ったんだ」
「……それは……」

 さんざん聞かされた言葉が出る予感がした。
 リーシャのせいじゃない。
 責めて欲しくてこの話をしたわけではないけれど、できたかもしれない努力を怠っていたと反省しているリーシャにとって、その言葉は聞きたくはないものだった。
 リーシャは自分が作り出した淀んだ空気を打ち払うように、明るい声でハンナの言葉を遮った。

「ごめん、こんな変な話して。なんか最近ずっとモヤモヤしてて。ハンナが優しいから聞いて欲しくなっちゃった」
「……いいんですよ。年齢的には私の方がお姉さんですし。それに、先生がこうして心の内を話してくれるのは信頼してもらえていると実感できて、嬉しくもありますから」

 ハンナも慰めの言葉は不要だと察したようで、リーシャの声の調子に合わせて言った。
 こういう聡いところも好きなのだ。
 リーシャは安心したような柔らかい笑みを浮かべた。

「ありがとう、ハンナ。あっ、そういえば……」
「どうしました?」

 これまでこの学校を離れる時、生徒とはいつも互いに別れの言葉を交わすだけで贈り物など貰った事はないし、何かを贈った事もない。なので、今リーシャの手元にはハンナに渡せるようなものが何もなかった。

「ハンナはこうしてプレゼントをくれたのに、私の方は何も用意してないよ! うーん、どうしよう……」

 リーシャは唸りながら、真剣に悩み始めた。
 次々と出てくる案をあーでもないこうでもないと棄却していくばかりで、なかなか決まらなない。
 そんなリーシャを見て、ハンナはクスリと笑うと愛しいものを見るような視線を向けて微笑んだ。

「それでしたら先生、贈り物の代わりに私が気になっていたことを教えていただけませんか? ずっと気になっていたことがあるんです」
「いいけど、私に答えられること?」
「魔法の理論の質問のような、そういうお話ではないので大丈夫ですよ」
「?」

 魔法関係以外の質問内容には見当がつかず、リーシャは頭を傾けた。
 リーシャのその行動が面白かったのか、ハンナはまたクスリと笑った。
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