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魔法学校
別れの日(1)
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リーシャたちがセントノーグ魔法学校に来て1カ月以上の日々が過ぎた。
この間トラブルに見舞われることも多々あったけれど、魔法研究や練習に没頭できる有意義な時間を過ごせた。訪問の目的だったステファニーに魔法の扱いを教えるという仕事も無事完遂する事が出来た。
役目を終えたリーシャは、小さなカバンの中へ残されていた衣類と書物を黙々と詰め込んでいた。
「ふう。これで全部まとめられたはず」
最後の物を詰め終わり部屋の中を見渡すと、借り受けたときと同じ眺めの部屋が広がっていた。
リーシャは久々に住み慣れた自分の領域に帰ることができる嬉しさと、新しい思い出ができた懐かしい地を離れる寂しさが同時に押し寄せて来て何とも言えない気分に浸っていた。
これまでも何度かこんな思いを繰り返してきたけれど、この学校を去る感覚はなかなか慣れないものだった。
コンコンーー
部屋の扉がノックされる音がした。
ノアたちは先に広場で待機させている。訪れたのは見送りの誰かだろう。
「どうぞ」
リーシャが答えると、扉を開けた主は遠慮がちに声を発した。
「リーシャ先生。今よろしいですか?」
「ハンナ?」
外の広場からワイワイと騒ぐ声が聞こえてきた。教員や生徒たちがリーシャを見送るために集まり始めているようだ。
リーシャはハンナやステファニーともその別れの場で言葉を交わすつもりでいたため、こうしてわざわざ部屋まで来てくれたのが嬉しく、心が温かく感じられた。
「荷物はまとめ終わったから平気。どうしたの?」
「先生が発たれる前にお渡ししておきたい物がありまして」
「私に?」
「はい。よろしければこちらを受け取っていただけませんか?」
ハンナは小さな紙袋をリーシャに差し出した。
「これは?」
「先生へのプレゼントです。よければ開けてみてください」
「うん、じゃあ遠慮なく」
受け取り、中を覗いてみると可愛らしい箱が入っていた。
リーシャは箱を取り出し、蓋をゆっくりと開けた。
箱の中にはブレスレッドが入っていた。
ブレスレッドの内側に、何か模様が彫られているのがちらりと見えた。どこかで見覚えのある形が所々に刻み込まれている。
「これって、回復の魔道具?」
「はい。先生は回復系の魔法が不得手と伺いましたので。この魔道具、魔力量が多い人でないと使えない効果抜群の1品なのですよ。少しでもお役に立てたらと思いまして。余計なお世話、でしたか?」
リーシャは突然の素敵な贈り物に驚き、すぐに言葉を返せなかった。
けれど思考が巡り始めるとすぐに頭を左右に揺らし、ブレスレッドの入った箱を両手でキュッと握りしめた。
「ううん、余計なんてことない! とっても嬉しい! 助かるよ! けどこれ、すっごい高かったんじゃ……」
効果が抜群という事は、それだけ値も張るという事だ。
装飾として彫られている模様やはめ込まれている石もそれを物語っていた。
ハンナがにこりと柔らかく笑った。
「実家が実家ですから。小さい頃からお金は貯めていましたし、先生のお役に立てるならなんてことありませんよ」
本当になんという事もなさげの、とても良い笑顔だ。
人のことを下に見ることはしないハンナではあるけれど、こういう羽振りのいいところだけはさすが魔法貴族だと思わざるを得なかった。
「アハハ……」
リーシャは苦笑した。
けれど、手元の魔道具に目を向けるとハンナの心遣いに再び心が温かくなり、自然な笑みが浮かび上がってきた。
「ありがとう、ハンナ。大切にするね」
「喜んでいただけたならよかったです」
ハンナもつられて幸福そうな笑顔になっていた。
こうして親身になってくれるハンナだからだろう。
なんとなく最近の心情を聞いてほしくなったリーシャは、自分を待っている人たちがいるにもかかわらずその場で語り始めた。
この間トラブルに見舞われることも多々あったけれど、魔法研究や練習に没頭できる有意義な時間を過ごせた。訪問の目的だったステファニーに魔法の扱いを教えるという仕事も無事完遂する事が出来た。
役目を終えたリーシャは、小さなカバンの中へ残されていた衣類と書物を黙々と詰め込んでいた。
「ふう。これで全部まとめられたはず」
最後の物を詰め終わり部屋の中を見渡すと、借り受けたときと同じ眺めの部屋が広がっていた。
リーシャは久々に住み慣れた自分の領域に帰ることができる嬉しさと、新しい思い出ができた懐かしい地を離れる寂しさが同時に押し寄せて来て何とも言えない気分に浸っていた。
これまでも何度かこんな思いを繰り返してきたけれど、この学校を去る感覚はなかなか慣れないものだった。
コンコンーー
部屋の扉がノックされる音がした。
ノアたちは先に広場で待機させている。訪れたのは見送りの誰かだろう。
「どうぞ」
リーシャが答えると、扉を開けた主は遠慮がちに声を発した。
「リーシャ先生。今よろしいですか?」
「ハンナ?」
外の広場からワイワイと騒ぐ声が聞こえてきた。教員や生徒たちがリーシャを見送るために集まり始めているようだ。
リーシャはハンナやステファニーともその別れの場で言葉を交わすつもりでいたため、こうしてわざわざ部屋まで来てくれたのが嬉しく、心が温かく感じられた。
「荷物はまとめ終わったから平気。どうしたの?」
「先生が発たれる前にお渡ししておきたい物がありまして」
「私に?」
「はい。よろしければこちらを受け取っていただけませんか?」
ハンナは小さな紙袋をリーシャに差し出した。
「これは?」
「先生へのプレゼントです。よければ開けてみてください」
「うん、じゃあ遠慮なく」
受け取り、中を覗いてみると可愛らしい箱が入っていた。
リーシャは箱を取り出し、蓋をゆっくりと開けた。
箱の中にはブレスレッドが入っていた。
ブレスレッドの内側に、何か模様が彫られているのがちらりと見えた。どこかで見覚えのある形が所々に刻み込まれている。
「これって、回復の魔道具?」
「はい。先生は回復系の魔法が不得手と伺いましたので。この魔道具、魔力量が多い人でないと使えない効果抜群の1品なのですよ。少しでもお役に立てたらと思いまして。余計なお世話、でしたか?」
リーシャは突然の素敵な贈り物に驚き、すぐに言葉を返せなかった。
けれど思考が巡り始めるとすぐに頭を左右に揺らし、ブレスレッドの入った箱を両手でキュッと握りしめた。
「ううん、余計なんてことない! とっても嬉しい! 助かるよ! けどこれ、すっごい高かったんじゃ……」
効果が抜群という事は、それだけ値も張るという事だ。
装飾として彫られている模様やはめ込まれている石もそれを物語っていた。
ハンナがにこりと柔らかく笑った。
「実家が実家ですから。小さい頃からお金は貯めていましたし、先生のお役に立てるならなんてことありませんよ」
本当になんという事もなさげの、とても良い笑顔だ。
人のことを下に見ることはしないハンナではあるけれど、こういう羽振りのいいところだけはさすが魔法貴族だと思わざるを得なかった。
「アハハ……」
リーシャは苦笑した。
けれど、手元の魔道具に目を向けるとハンナの心遣いに再び心が温かくなり、自然な笑みが浮かび上がってきた。
「ありがとう、ハンナ。大切にするね」
「喜んでいただけたならよかったです」
ハンナもつられて幸福そうな笑顔になっていた。
こうして親身になってくれるハンナだからだろう。
なんとなく最近の心情を聞いてほしくなったリーシャは、自分を待っている人たちがいるにもかかわらずその場で語り始めた。
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