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魔法学校

兄弟対決(1)

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 順番と勝敗内容が決まると、ルシアはリーシャの方を向いた。

「と、いうわけで、3回連続命中したやつの勝ちだと時間かかりそうだから、2回成功したやつが勝ちってことにしたから。審判頼んだぜ、リーシャ!」
「はいはい……」

 1番手はルシアのようで、的に向かって魔法を放つための場所へと足を進めた。
 魔法を当てにくいような距離ではないけれど、集中して狙わなければ当たらない程々の距離だ。

「んじゃ、まず俺の1発目な!」

 ルシアは定位置に立つと、この数週間で練習した通りに魔力を操り始めた。
 魔力の流れを見ることができるリーシャには、ルシアがこれまで通りにできていることはわかった。だからこその不安もある。

「よし、いくぞ。炎よ」

 ルシアが右手に魔力を集めた手を的に向けるとほんの少し先の宙に炎が現れた。
 この場の全員がその成否を見届けようと息を呑んだ。

「あっ‼」

 静寂はルシアの一言を境に破られた。
 炎は的に向けて放たれることはなく、突然膨らんだかと思うと次の瞬間にはルシアの手に燃え移った。

「うわっ! あっちーーーー‼」
「もう、なにやってんの⁉」

 リーシャは慌てて魔法で大きな水の球を作り、炎で燃えているルシアの右手に向かって投げつけた。そしてすぐに、慣れない回復魔法を施した。

「これでやけどの跡は残らないとは思うけど。大丈夫?」
「ああ……ありがとな」

 ルシアの目尻にはうっすらと雫が浮かんでいた。
 この光景は果たして何度目になるのだろうと、リーシャは片眉を上げた。

「魔力をきちんと1点に集めきれないうちに発動させるからこうなるんだよ。前にも言ったでしょ?」
「……言われた……」
「もー、回復魔法使っても跡が残っちゃうことはあるんだから。次からは慣れるまで水か土の魔法を使いなさい。ってことで、ルシア1投目失敗ね」
「くそぉ……」

 ルシアはその場で項垂れた。
 するとそんなルシアを他所に、次に魔法を披露する選手は名乗りを上げた。

「次は僕の番! ルシアにいちゃんどいて」
「おー……」
「それじゃあいくよ。炎よ」

 エリアルは落ち込みモードのルシアを追いやると、こともなさげに炎を作り出した。
 炎は安定していて、消える気配もない。
 ルシアと違って、ここまでは完璧だった。

「それっ!」

 炎を放っても軌道はぶれてはいない。
 魔力のコントロールは申し分なく、エリアルの魔法は見事に的に命中した。

「エリアルは1回目成功だね」
「やったぁ!」

 エリアルは両手を上げて喜ぶと、くるりと向きを変えてリーシャの元へと駆けていった。

「すごかったでしょ? ルシアにいちゃんにできなかったことが僕にできたんだよ! 練習の時、1回目で成功したことあんまりないんだけど、初めて1回で成功できたんだよ! やったぁ! やったぁ!」

 一通りの喜びをリーシャに伝えたエリアルは満面の笑顔をしていた。
 すると突然、思い出しといわんばかりにノアの方を向いた。

「次ノアにいちゃんの番だよ!」
「ああ」

 いつも通り冷静さを保っているように見えるノアは、エリアルに促され勝負の舞台に立った。そして手に魔力を集め始めた。
 その姿を見守っているとノアの瞳がリーシャの方を向いた。視線が合ったように感じたリーシャの体はビクッと震えた。
 ノアは溜め息をついた。
 集めていた魔力は手から消え、何故か見物人たちの元へと戻って来た。

「ノア、どうしたの?」
「やはり俺は棄権する。勝敗の見えている勝負に挑んでも魔力の無駄だ」
「え?」

 ノアらしからぬ発言に、しゃがんで項垂れていたルシアも顔を上げた。

「は? なんだよそれ。俺らはラッキーだけどさぁ。つーか、兄貴は負けるってわかっても棄権するような奴じゃねぇだろ」
「……万が一にエリアルに勝てたとしても、今の状況ではリーシャとの距離が開くだけだと思い直しただけだ」
「あー……リーシャに避けられまくってるからってことか?」
「そうだな」
「ふーん。まあ、兄貴がいいならいいんだけど」

 ノアは勝負から降りると、何食わぬ顔でリーシャの真横に立った。先ほどからノアの行動にビクついているリーシャが戸惑わないわけがない。
 思わず身構えていると、ノアが口を開いた。

「リーシャ」
「な、なに?」

 見上げたノアは正面を向いたまま、何かを考えているように目は閉じていた。次の言葉を発しないところから、呼んだはいいけれど言うかどうか悩んでいるといったところだろうか。
 リーシャは何を言われるのだろうと心臓の鼓動を大きくさせながら、ノアの次の言葉を待った。
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