129 / 419
魔法学校
それぞれの成果(3)
しおりを挟む
ステファニーの様子を見ていたエリアルが模擬戦をしていた2人の方へと駆けてきた。
「ステファニーちゃん!」
「あっ! エリアルおにいちゃん!」
駆け寄ってくるエリアルの声を聞いたステファニーは嬉しそうに振り向いた。
初対面の日から、ステファニーとエリアルは仲がいい。
エリアルは妹ができたように思っているのだろう。リーシャ以外の人間に積極的に関わっていくのも珍しいのに、いつも楽しそうに世話を焼き、一生懸命兄のように振る舞おうとしているように見えた。
ステファニーも初対面好印象で優しく接してくれるエリアルを兄のように慕っているようだった。
と、リーシャは胸の内に巣食う不可解な感覚を、そう思う事で覆い隠す事にした。
ステファニーの側へ駆け寄ったエリアルは、まるで自分が何かを成し遂げたかのように興奮気味だった。
「ステファニーちゃん、すごかったよ! 僕も早くあんな風に魔法を使えるようになりたいな」
「でしょ、すごかったでしょ! せんせにもほめてもらったんだよ!」
ステファニーは胸を張って誇らしげだった。
そして、ステファニーは飛びつきそうな勢いでエリアルに提案した。
「そうだ! おにいちゃん! 今度はおにいちゃんともしょうぶしたい! しょうぶしよ!」
「いいけど、僕じゃ相手にならないと思うよ?」
「いいの! それでね、しょうぶしたあとに、わたしがエリアルおにいちゃんにまほーおしえてあげるの!」
「んー、じゃあお願いしようかなぁ」
それは微笑ましい光景だった。
けれどそれを見たリーシャの中に拭いきれない何かがあった。胸がわずかに締め付けられるような、そんな感じだ。
エリアルとステファニーの2人がワイワイ盛り上がっていると、ノアとルシア、ハンナもリーシャたちの方へやって来た。
「リーシャ!」
それはルシアの上機嫌といえるような声だった。
何も起きていない今、何故か上機嫌になっているルシアを見て嫌な予感がした。
「何?」
「休憩入れるならその間に俺らの勝負の審判やってくれねぇか? 誰が先に的に魔法を当てられるかの勝負するからさ」
「えっ、ええー⁉ あれ本気だったの⁉」
やはり予感は的中した。
リーシャはこの2週間、ルシアたちがこの話題を持ち出すことがなかったため、冗談だったのか忘れる程度の話だったのだろうと高をくくっていた。
けれどそうではなかった。
兄弟たちが、リーシャを景品にした勝負事を冗談で言ったり、忘れたりするわけがなかった。
「当たり前だろ。何のために今日まで頑張ってきたと思ってんだよ。なぁ?」
ルシアは同意を得ようと2人の兄弟たちに視線を送った。
けれどエリアルは少し首をかしげた。
「うーん。それもあるけど、僕はねぇちゃん守れるようになりたかったから頑張ったよ? 僕、元の姿に戻るのへたくそだし、いざって時に役に立てないのは嫌だもん」
「……」
エリアルはそれなりの理由を並べ、ノアは目を瞑っただけ。
2人に肯定してもらえると思っていたルシアは声を荒らげた。
「なんだよ! 裏切りか! んじゃあ俺の不戦勝ってことでいいんだな‼」
「ふせんしょう?」
エリアルがはてなマークを浮かべながらノアの方を見た。
「戦わずして勝つという事だ」
ノアは平然とした態度で答えた。
対してそれを聞いたエリアルは焦りで声を張り上げた。
「なんでそうなるの⁉ 僕、やりたくないとは言ってないじゃん‼」
ルシアの口元がニヤリと弧を描いた。
「なら、エリアルもこの勝負のために頑張ってきたんだよな?」
「うん! 僕、ねぇちゃんにチュウしてもらうために頑張ったよ‼」
見事に乗せられているように見えたけれど、リーシャはつっこまなかった。
つっこまなかったというより、もう何につっこんでいいのかすらわからなかった。
憐れむかのような目をしたハンナから肩に手を置かれ、リーシャは遠い目で空を見つめた。
そんな状態のリーシャをよそに、兄弟たちの勝負の話は着々と進んでいく。
「よし、んじゃあ順番決めるぞー」
もう何を言っても止まらないだろう。
不意に横から服をちょいちょいと引っ張られた。
「せんせー」
「なに? ステファニーちゃん」
「私もあの勝負したい」
それでリーシャはステファニーも聞き捨てならないことを言っていたのを思い出した。
(そういえば……ステファニーちゃんも……)
この勝負に参加させれば十中八九勝者はステファニーだ。本人もそれをわかっているはずだ。
リーシャはステファニーと視線の高さを合わせると、真剣な顔で言った。
「……ステファニーちゃん。ぎゅっとしてあげるから、ステファニーちゃんはここにいよ?」
「うーん、いいよー!」
そう返事をしたステファニーは勢いよくリーシャの腕の中へと飛び込んだ。とてもご機嫌だった。
話し合いに熱中する竜の兄弟たちはこの状態に気付いていない様子だ。
リーシャの苦悩が増える中、竜の兄弟たちの戦いの火蓋は切られるのだった。
「ステファニーちゃん!」
「あっ! エリアルおにいちゃん!」
駆け寄ってくるエリアルの声を聞いたステファニーは嬉しそうに振り向いた。
初対面の日から、ステファニーとエリアルは仲がいい。
エリアルは妹ができたように思っているのだろう。リーシャ以外の人間に積極的に関わっていくのも珍しいのに、いつも楽しそうに世話を焼き、一生懸命兄のように振る舞おうとしているように見えた。
ステファニーも初対面好印象で優しく接してくれるエリアルを兄のように慕っているようだった。
と、リーシャは胸の内に巣食う不可解な感覚を、そう思う事で覆い隠す事にした。
ステファニーの側へ駆け寄ったエリアルは、まるで自分が何かを成し遂げたかのように興奮気味だった。
「ステファニーちゃん、すごかったよ! 僕も早くあんな風に魔法を使えるようになりたいな」
「でしょ、すごかったでしょ! せんせにもほめてもらったんだよ!」
ステファニーは胸を張って誇らしげだった。
そして、ステファニーは飛びつきそうな勢いでエリアルに提案した。
「そうだ! おにいちゃん! 今度はおにいちゃんともしょうぶしたい! しょうぶしよ!」
「いいけど、僕じゃ相手にならないと思うよ?」
「いいの! それでね、しょうぶしたあとに、わたしがエリアルおにいちゃんにまほーおしえてあげるの!」
「んー、じゃあお願いしようかなぁ」
それは微笑ましい光景だった。
けれどそれを見たリーシャの中に拭いきれない何かがあった。胸がわずかに締め付けられるような、そんな感じだ。
エリアルとステファニーの2人がワイワイ盛り上がっていると、ノアとルシア、ハンナもリーシャたちの方へやって来た。
「リーシャ!」
それはルシアの上機嫌といえるような声だった。
何も起きていない今、何故か上機嫌になっているルシアを見て嫌な予感がした。
「何?」
「休憩入れるならその間に俺らの勝負の審判やってくれねぇか? 誰が先に的に魔法を当てられるかの勝負するからさ」
「えっ、ええー⁉ あれ本気だったの⁉」
やはり予感は的中した。
リーシャはこの2週間、ルシアたちがこの話題を持ち出すことがなかったため、冗談だったのか忘れる程度の話だったのだろうと高をくくっていた。
けれどそうではなかった。
兄弟たちが、リーシャを景品にした勝負事を冗談で言ったり、忘れたりするわけがなかった。
「当たり前だろ。何のために今日まで頑張ってきたと思ってんだよ。なぁ?」
ルシアは同意を得ようと2人の兄弟たちに視線を送った。
けれどエリアルは少し首をかしげた。
「うーん。それもあるけど、僕はねぇちゃん守れるようになりたかったから頑張ったよ? 僕、元の姿に戻るのへたくそだし、いざって時に役に立てないのは嫌だもん」
「……」
エリアルはそれなりの理由を並べ、ノアは目を瞑っただけ。
2人に肯定してもらえると思っていたルシアは声を荒らげた。
「なんだよ! 裏切りか! んじゃあ俺の不戦勝ってことでいいんだな‼」
「ふせんしょう?」
エリアルがはてなマークを浮かべながらノアの方を見た。
「戦わずして勝つという事だ」
ノアは平然とした態度で答えた。
対してそれを聞いたエリアルは焦りで声を張り上げた。
「なんでそうなるの⁉ 僕、やりたくないとは言ってないじゃん‼」
ルシアの口元がニヤリと弧を描いた。
「なら、エリアルもこの勝負のために頑張ってきたんだよな?」
「うん! 僕、ねぇちゃんにチュウしてもらうために頑張ったよ‼」
見事に乗せられているように見えたけれど、リーシャはつっこまなかった。
つっこまなかったというより、もう何につっこんでいいのかすらわからなかった。
憐れむかのような目をしたハンナから肩に手を置かれ、リーシャは遠い目で空を見つめた。
そんな状態のリーシャをよそに、兄弟たちの勝負の話は着々と進んでいく。
「よし、んじゃあ順番決めるぞー」
もう何を言っても止まらないだろう。
不意に横から服をちょいちょいと引っ張られた。
「せんせー」
「なに? ステファニーちゃん」
「私もあの勝負したい」
それでリーシャはステファニーも聞き捨てならないことを言っていたのを思い出した。
(そういえば……ステファニーちゃんも……)
この勝負に参加させれば十中八九勝者はステファニーだ。本人もそれをわかっているはずだ。
リーシャはステファニーと視線の高さを合わせると、真剣な顔で言った。
「……ステファニーちゃん。ぎゅっとしてあげるから、ステファニーちゃんはここにいよ?」
「うーん、いいよー!」
そう返事をしたステファニーは勢いよくリーシャの腕の中へと飛び込んだ。とてもご機嫌だった。
話し合いに熱中する竜の兄弟たちはこの状態に気付いていない様子だ。
リーシャの苦悩が増える中、竜の兄弟たちの戦いの火蓋は切られるのだった。
0
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説
純潔の寵姫と傀儡の騎士
四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。
世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
【完結】レスだった私が異世界で美形な夫達と甘い日々を過ごす事になるなんて思わなかった
むい
恋愛
魔法のある世界に転移した割に特に冒険も事件もバトルもない引きこもり型エロライフ。
✳✳✳
夫に愛されず女としても見てもらえず子供もなく、寂しい結婚生活を送っていた璃子は、ある日酷い目眩を覚え意識を失う。
目覚めた場所は小さな泉の辺り。
転移して若返った?!と思いきやなんだか微妙に違うような…。まるで自分に似せた入れ物に自分の意識が入ってるみたい。
何故ここにいるかも分からないまま初対面の男性に会って5分で求婚されあれよあれよと結婚する事に?!
だいたいエロしかない異世界専業主婦ライフ。
本編完結済み。たまに番外編投稿します。
サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。
ゆちば
恋愛
ビリビリッ!
「む……、胸がぁぁぁッ!!」
「陛下、声がでかいです!」
◆
フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。
私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。
だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。
たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。
「【女体化の呪い】だ!」
勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?!
勢い強めの3万字ラブコメです。
全18話、5/5の昼には完結します。
他のサイトでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる