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魔法学校

それぞれの成果(3)

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 ステファニーの様子を見ていたエリアルが模擬戦をしていた2人の方へと駆けてきた。

「ステファニーちゃん!」
「あっ! エリアルおにいちゃん!」

 駆け寄ってくるエリアルの声を聞いたステファニーは嬉しそうに振り向いた。
 初対面の日から、ステファニーとエリアルは仲がいい。
 エリアルは妹ができたように思っているのだろう。リーシャ以外の人間に積極的に関わっていくのも珍しいのに、いつも楽しそうに世話を焼き、一生懸命兄のように振る舞おうとしているように見えた。
 ステファニーも初対面好印象で優しく接してくれるエリアルを兄のように慕っているようだった。
 と、リーシャは胸の内に巣食う不可解な感覚を、そう思う事で覆い隠す事にした。
 ステファニーの側へ駆け寄ったエリアルは、まるで自分が何かを成し遂げたかのように興奮気味だった。

「ステファニーちゃん、すごかったよ! 僕も早くあんな風に魔法を使えるようになりたいな」
「でしょ、すごかったでしょ! せんせにもほめてもらったんだよ!」

 ステファニーは胸を張って誇らしげだった。
 そして、ステファニーは飛びつきそうな勢いでエリアルに提案した。

「そうだ! おにいちゃん! 今度はおにいちゃんともしょうぶしたい! しょうぶしよ!」
「いいけど、僕じゃ相手にならないと思うよ?」
「いいの! それでね、しょうぶしたあとに、わたしがエリアルおにいちゃんにまほーおしえてあげるの!」
「んー、じゃあお願いしようかなぁ」

 それは微笑ましい光景だった。
 けれどそれを見たリーシャの中に拭いきれない何かがあった。胸がわずかに締め付けられるような、そんな感じだ。
 エリアルとステファニーの2人がワイワイ盛り上がっていると、ノアとルシア、ハンナもリーシャたちの方へやって来た。

「リーシャ!」

 それはルシアの上機嫌といえるような声だった。
 何も起きていない今、何故か上機嫌になっているルシアを見て嫌な予感がした。

「何?」
「休憩入れるならその間に俺らの勝負の審判やってくれねぇか? 誰が先に的に魔法を当てられるかの勝負するからさ」
「えっ、ええー⁉ あれ本気だったの⁉」

 やはり予感は的中した。
 リーシャはこの2週間、ルシアたちがこの話題を持ち出すことがなかったため、冗談だったのか忘れる程度の話だったのだろうと高をくくっていた。
 けれどそうではなかった。
 兄弟たちが、リーシャを景品にした勝負事を冗談で言ったり、忘れたりするわけがなかった。

「当たり前だろ。何のために今日まで頑張ってきたと思ってんだよ。なぁ?」

 ルシアは同意を得ようと2人の兄弟たちに視線を送った。
 けれどエリアルは少し首をかしげた。

「うーん。それもあるけど、僕はねぇちゃん守れるようになりたかったから頑張ったよ? 僕、元の姿に戻るのへたくそだし、いざって時に役に立てないのは嫌だもん」
「……」

 エリアルはそれなりの理由を並べ、ノアは目を瞑っただけ。
 2人に肯定してもらえると思っていたルシアは声を荒らげた。

「なんだよ! 裏切りか! んじゃあ俺の不戦勝ってことでいいんだな‼」
「ふせんしょう?」

 エリアルがはてなマークを浮かべながらノアの方を見た。

「戦わずして勝つという事だ」

 ノアは平然とした態度で答えた。
 対してそれを聞いたエリアルは焦りで声を張り上げた。

「なんでそうなるの⁉ 僕、やりたくないとは言ってないじゃん‼」

 ルシアの口元がニヤリと弧を描いた。

「なら、エリアルもこの勝負のために頑張ってきたんだよな?」
「うん! 僕、ねぇちゃんにチュウしてもらうために頑張ったよ‼」

 見事に乗せられているように見えたけれど、リーシャはつっこまなかった。
 つっこまなかったというより、もう何につっこんでいいのかすらわからなかった。
 憐れむかのような目をしたハンナから肩に手を置かれ、リーシャは遠い目で空を見つめた。
 そんな状態のリーシャをよそに、兄弟たちの勝負の話は着々と進んでいく。

「よし、んじゃあ順番決めるぞー」

 もう何を言っても止まらないだろう。
 不意に横から服をちょいちょいと引っ張られた。

「せんせー」
「なに? ステファニーちゃん」
「私もあの勝負したい」


 それでリーシャはステファニーも聞き捨てならないことを言っていたのを思い出した。

(そういえば……ステファニーちゃんも……)

 この勝負に参加させれば十中八九勝者はステファニーだ。本人もそれをわかっているはずだ。
 リーシャはステファニーと視線の高さを合わせると、真剣な顔で言った。

「……ステファニーちゃん。ぎゅっとしてあげるから、ステファニーちゃんはここにいよ?」
「うーん、いいよー!」

 そう返事をしたステファニーは勢いよくリーシャの腕の中へと飛び込んだ。とてもご機嫌だった。
 話し合いに熱中する竜の兄弟たちはこの状態に気付いていない様子だ。
 リーシャの苦悩が増える中、竜の兄弟たちの戦いの火蓋は切られるのだった。
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