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魔法学校
厄介な相手(1)
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第1練習場からは壁の外まで響く破壊音がしている。
リーシャたちが急いで駆け込むと、そこにはナタリーが言っていたように毛皮を纏った巨大な獣のような姿の魔物がいた。その魔物は対峙する教員に向かって強力な魔法を繰り出している。
突然動き出したかと思うと、魔物は人間の何倍もの速さで教員たちへと突撃していく。
教員たちは魔法で応戦しているけれど、どうにも魔物には効いていない様子だ。
リーシャは魔物の姿を見て、あの魔物がどんな魔物かすぐに理解した。
「メガレットロンバーかぁ……厄介だなぁ」
「あの形……見覚えがある。以前見たものはあんな大きさではなかったが」
ノアのその感覚はあながち間違いではなかった。
「あの魔物はね、前にノアがクエストで毛皮を取るために追いかけてたシャレットロンバーの変異体。物理攻撃も魔法攻撃も効きにくい厄介な相手なの」
メガレットロンバー自体の個体数はそこまで少なくはないけれど、討伐の報告数は異様に少ない。
普段、大人しくしている時の姿はシャレットロンバーとほとんど変わらず、違いと言えば毛皮の色が少し薄いくらいだ。気性が大人しいため、メガレットロンバーの性質を知らない人間が出会ったとしても、怒らせない限り気づくことはない。
けれど攻撃を仕掛けた途端にその姿は一変する。
怒らせたメガレットロンバーは体を巨大化させ、臨戦態勢になる。もともと厚い皮膚もさらに厚くなり、腕の良い剣士の攻撃でさえもなかなかダメージを与えられない。さらには魔力に対する耐性のある毛皮によって、魔法攻撃は威力を弱められてしまう。
メガレットロンバーは圧倒的な防御力を有した魔物だ。
攻撃の方も、変異元のシャレットロンバーより圧倒的に魔力が多く威力も強い。話によると魔力保有量はSランクの中でもかなり上の方らしい。
ただ、放っておいても被害がないため討伐の依頼が出される事はほとんどなく、戦力を削ってまでわざわざ倒す必要のある魔物でもないため放っておかれている魔物なのだ。
メガレットロンバーがドスンと音を立て地面を踏みしめると、地面から鋭い土の突起が現れた。突起は1つだけではなく、おびただしい数の突起が教員たちに向かって一直線上に生え進んでいった。
リーシャは咄嗟に地面に手をついた。
「割けろ!」
手元の地面が割れ、その割け目は教員たちの方へ向かって伸びていく。
「リーシャ⁉ 何やってんだ⁉」
守るべき相手に向かって魔法を使う瞬間を見たルシアはリーシャの腕をつかんだ。
しかしリーシャが何の考えも無しにそんな事をするわけがない。
「大丈夫」
リーシャの魔法は、メガレットロンバーの魔法よりも速い速度で進んでいき、教員たちのすぐ前の地面を割いた。
そこへメガレットロンバーが放った魔法は到達した。地面の裂け目にぶつかると、土の突起はそれ以上現れはしなかった。
リーシャが教員の方へと駆けて行くと、そのうちの一人の男性が手を振ってきた。あまり覚えてはいないけれど、高学年の教員をしていたような気がした。
「リーシャ! 助かった、ありがとう」
「戦況は? どうなってます?」
「見ての通り、僕らの魔法じゃあ全く歯が立たない。それどころか余計に興奮させてしまったみたいで……負傷者が6人、そのうちの4人が重傷だ」
男性教員の視線の先にはひどい怪我をした教員と、彼らの怪我を回復魔法で塞ごうとしている教員たちがいた。状態もよくない。
この状況で幸運なことは死者が出なかった事くらいだ。
「このまま私が討伐に回るので、負傷してる人を移動させても大丈夫そうになったら先生たちは皆で逃げてください」
「まだ君は成人もしていないのに……任せきりになって申し訳ない……」
「大丈夫ですよ。こういうのは慣れてますから。むしろ魔法練習になるので気にしないでください」
リーシャはいかにも今から戦うのが楽しみですというような顔で笑った。
実際、メガレットロンバーは魔法も物理攻撃も効きにくい厄介な相手ではあるけれど、複雑な攻撃を仕掛けてこないため魔法練習にはもってこいの相手だ。
場所も場所のため加減も無用だ。
(思いっきり魔法を使うには、今攻撃に回ってる先生たちにも引いてもらわないとね)
リーシャが隙を作るための攻撃を仕掛けようと1歩踏み出したとき、いきなり手首を掴まれた。
掴んできたのは真剣な表情をしたノアだった。
リーシャたちが急いで駆け込むと、そこにはナタリーが言っていたように毛皮を纏った巨大な獣のような姿の魔物がいた。その魔物は対峙する教員に向かって強力な魔法を繰り出している。
突然動き出したかと思うと、魔物は人間の何倍もの速さで教員たちへと突撃していく。
教員たちは魔法で応戦しているけれど、どうにも魔物には効いていない様子だ。
リーシャは魔物の姿を見て、あの魔物がどんな魔物かすぐに理解した。
「メガレットロンバーかぁ……厄介だなぁ」
「あの形……見覚えがある。以前見たものはあんな大きさではなかったが」
ノアのその感覚はあながち間違いではなかった。
「あの魔物はね、前にノアがクエストで毛皮を取るために追いかけてたシャレットロンバーの変異体。物理攻撃も魔法攻撃も効きにくい厄介な相手なの」
メガレットロンバー自体の個体数はそこまで少なくはないけれど、討伐の報告数は異様に少ない。
普段、大人しくしている時の姿はシャレットロンバーとほとんど変わらず、違いと言えば毛皮の色が少し薄いくらいだ。気性が大人しいため、メガレットロンバーの性質を知らない人間が出会ったとしても、怒らせない限り気づくことはない。
けれど攻撃を仕掛けた途端にその姿は一変する。
怒らせたメガレットロンバーは体を巨大化させ、臨戦態勢になる。もともと厚い皮膚もさらに厚くなり、腕の良い剣士の攻撃でさえもなかなかダメージを与えられない。さらには魔力に対する耐性のある毛皮によって、魔法攻撃は威力を弱められてしまう。
メガレットロンバーは圧倒的な防御力を有した魔物だ。
攻撃の方も、変異元のシャレットロンバーより圧倒的に魔力が多く威力も強い。話によると魔力保有量はSランクの中でもかなり上の方らしい。
ただ、放っておいても被害がないため討伐の依頼が出される事はほとんどなく、戦力を削ってまでわざわざ倒す必要のある魔物でもないため放っておかれている魔物なのだ。
メガレットロンバーがドスンと音を立て地面を踏みしめると、地面から鋭い土の突起が現れた。突起は1つだけではなく、おびただしい数の突起が教員たちに向かって一直線上に生え進んでいった。
リーシャは咄嗟に地面に手をついた。
「割けろ!」
手元の地面が割れ、その割け目は教員たちの方へ向かって伸びていく。
「リーシャ⁉ 何やってんだ⁉」
守るべき相手に向かって魔法を使う瞬間を見たルシアはリーシャの腕をつかんだ。
しかしリーシャが何の考えも無しにそんな事をするわけがない。
「大丈夫」
リーシャの魔法は、メガレットロンバーの魔法よりも速い速度で進んでいき、教員たちのすぐ前の地面を割いた。
そこへメガレットロンバーが放った魔法は到達した。地面の裂け目にぶつかると、土の突起はそれ以上現れはしなかった。
リーシャが教員の方へと駆けて行くと、そのうちの一人の男性が手を振ってきた。あまり覚えてはいないけれど、高学年の教員をしていたような気がした。
「リーシャ! 助かった、ありがとう」
「戦況は? どうなってます?」
「見ての通り、僕らの魔法じゃあ全く歯が立たない。それどころか余計に興奮させてしまったみたいで……負傷者が6人、そのうちの4人が重傷だ」
男性教員の視線の先にはひどい怪我をした教員と、彼らの怪我を回復魔法で塞ごうとしている教員たちがいた。状態もよくない。
この状況で幸運なことは死者が出なかった事くらいだ。
「このまま私が討伐に回るので、負傷してる人を移動させても大丈夫そうになったら先生たちは皆で逃げてください」
「まだ君は成人もしていないのに……任せきりになって申し訳ない……」
「大丈夫ですよ。こういうのは慣れてますから。むしろ魔法練習になるので気にしないでください」
リーシャはいかにも今から戦うのが楽しみですというような顔で笑った。
実際、メガレットロンバーは魔法も物理攻撃も効きにくい厄介な相手ではあるけれど、複雑な攻撃を仕掛けてこないため魔法練習にはもってこいの相手だ。
場所も場所のため加減も無用だ。
(思いっきり魔法を使うには、今攻撃に回ってる先生たちにも引いてもらわないとね)
リーシャが隙を作るための攻撃を仕掛けようと1歩踏み出したとき、いきなり手首を掴まれた。
掴んできたのは真剣な表情をしたノアだった。
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