110 / 419
魔法学校
魔法授業の開始(1)
しおりを挟む
リーシャはステファニーの魔法能力を測るため、皆を連れて練習場へと場所を移した。
そこは名前の通り、魔法の練習をするための場所だ。
周りは石の壁で囲われているため、たとえ魔法を放つ手元が狂ったとしても周囲への影響はほとんどない。
リーシャも何度もこの練習場のお世話になり、あの頑丈な壁を破壊してきた。石壁には修理した後がしっかりと残されている。
「それじゃあ、ステファニーちゃん。あの的に向かって得意な魔法を当ててください。できれば全力で」
「はい!」
ステファニーに狙うように言ったのは魔物の形をした木製の的。
魔法を使うことに不慣れな少女は胸の前で両手を組み、その手に魔力を集めるように意識を集中させ始めた。
魔道具という魔力を集中させるための媒介がない場合、体幹に手を近づけた姿勢が一番魔力をコントロールしやすい。なので、魔道具を使用せずとも魔法と使うことができる魔法使いたちの大半は、魔法を発動する直前にはこのような姿勢をとる。
対してリーシャは魔法を発動しようとした際にはそんなことはせずに、いきなり相手に向かって掌を向け標準を合わせる。これができるのは、無意識に近いレベルで魔力を操ることのできる魔法使いだけだ。
集中するステファニーの手に炎の属性を帯びた魔力が集まり始めた。リーシャの目にはその様子が見えていた。
(おおっ。これは、なかなか……鍛えがいがありそうかも)
ステファニーの年齢を考えると、魔力は多い方だった。
リーシャがこれからの教師としての生活に心躍らせている間にも、ステファニーの周りにゆっくりと魔力が揺らめいている。
手に集まっていた魔力の流れがピタリと止まるとステファニーは手を前に伸ばし、的を指差した。
「炎よ!」
指の先に集められた魔力が一気に炎へと変換され始めた。
これだけの魔力を圧縮させたのだ。的に当たるだけにはとどまらず、破壊するだろうとリーシャは予想立てていた。
ステファニーの指先に炎の一端が現れた。
プスン……
予想外の音が聞こえ、練習場に複雑な空気が流れた。
「……あ、あれ?」
ステファニーの口から戸惑いの声が漏れた。
魔力は炎にうまく変換されず、音を立てて散ったのだ。
リーシャも期待していただけに、この結末には呆気に取られていた。
魔力を集める事はうまくできていたように見えた。かなりセンスがある方だと思われる。
(うーん、これは属性の付与か物質への変換がうまくできてないってところかな?)
リーシャはステファニーの実力を一目見て、ある程度分析していた。これは魔力を目で見ることのできる能力を持つからこそできる分析方法で、できる人間はあまりいない。
分析を踏まえどう教えるかを考え込んでいると、ハンナが心配そうな顔をしてリーシャに近づいた。
「ステファニーは安定して魔法が使えないみたいで。こんな風に失敗することもあれば、逆に力が強すぎて暴発することもあるんです。とても悔しいみたいで、実践練習の後はいつもあんな具合で……」
「あんな具合?」
ステファニーを見ると、思った通りに魔法が使えなかったのが相当悔しかったようで、既に涙目になっていた。もう少しで泣き叫びそうだ。
リーシャは慌ててステファニーに駆け寄った。
「だ、大丈夫だよ。私も小さい頃はうまく魔法を使えなかったけど、今はいろんなことができるようになったんだよ! ほら」
リーシャが地面をトントンと叩くと、その部分の土がぽこリと盛り上がった。
「?」
泣くことを忘れたステファニーは、しゃがんでその土の塊をまじまじと見つめた。
土はさらに盛り上がり、その下から生き物の形をした塊が顔を出すかのように現れた。完全に地表に現れたそれはウサギの形をした土人形。
ウサギの土人形は鼻をひくつかせながら周りをキョロキョロと、まるで様子を窺うような仕草をしている。
「せんせ! つちのウサギさんがうごいてる!」
「ふっふっふっ……実はね、このウサギさんは私が動かしてるんだよ!」
「えっ! ほんとに? すっごーい!」
ステファニーは興味津々の様子でウサギの頭を撫でた。ウサギは気持ちよさそうに、大人しく撫でられ続けている。
「ざらざらしてる。やっぱり土だ」
これはレインことシュレインが得意とする、魔力の糸を物体につないで操る技を有属性魔法と合わせて応用した魔法だ。
術者のイメージを転写して有属性魔法の動きを操る魔法。複合魔法としては一番広く知られている魔法で使える者はちらほらといる。ただし、魔力の消費は著しい。
ステファニーはウサギを凝視した後、リーシャの方を見た。
「ねぇねぇせんせ。リーシャせんせーって、すごいまほーつかいさんいなの?」
「えーっと、そうでもないとは思うけど……」
この質問にどう答えるべきか、リーシャは戸惑った。
自分ではまだまだだと思っているけれど、周りからの評価はわりと高めなのだ。
現にちらりと視界に入ったハンナは「自信を持ってください」とでも言いたげな顔で頷いていた。それに「ステファニーの背中を押してあげてください」という意味も込められているような気がした。
けれど、それを自身で言うのは憚られる。
リーシャが言い淀んでいると、足元にエリアルがしゃがみ、代わりに答えてくれた。
そこは名前の通り、魔法の練習をするための場所だ。
周りは石の壁で囲われているため、たとえ魔法を放つ手元が狂ったとしても周囲への影響はほとんどない。
リーシャも何度もこの練習場のお世話になり、あの頑丈な壁を破壊してきた。石壁には修理した後がしっかりと残されている。
「それじゃあ、ステファニーちゃん。あの的に向かって得意な魔法を当ててください。できれば全力で」
「はい!」
ステファニーに狙うように言ったのは魔物の形をした木製の的。
魔法を使うことに不慣れな少女は胸の前で両手を組み、その手に魔力を集めるように意識を集中させ始めた。
魔道具という魔力を集中させるための媒介がない場合、体幹に手を近づけた姿勢が一番魔力をコントロールしやすい。なので、魔道具を使用せずとも魔法と使うことができる魔法使いたちの大半は、魔法を発動する直前にはこのような姿勢をとる。
対してリーシャは魔法を発動しようとした際にはそんなことはせずに、いきなり相手に向かって掌を向け標準を合わせる。これができるのは、無意識に近いレベルで魔力を操ることのできる魔法使いだけだ。
集中するステファニーの手に炎の属性を帯びた魔力が集まり始めた。リーシャの目にはその様子が見えていた。
(おおっ。これは、なかなか……鍛えがいがありそうかも)
ステファニーの年齢を考えると、魔力は多い方だった。
リーシャがこれからの教師としての生活に心躍らせている間にも、ステファニーの周りにゆっくりと魔力が揺らめいている。
手に集まっていた魔力の流れがピタリと止まるとステファニーは手を前に伸ばし、的を指差した。
「炎よ!」
指の先に集められた魔力が一気に炎へと変換され始めた。
これだけの魔力を圧縮させたのだ。的に当たるだけにはとどまらず、破壊するだろうとリーシャは予想立てていた。
ステファニーの指先に炎の一端が現れた。
プスン……
予想外の音が聞こえ、練習場に複雑な空気が流れた。
「……あ、あれ?」
ステファニーの口から戸惑いの声が漏れた。
魔力は炎にうまく変換されず、音を立てて散ったのだ。
リーシャも期待していただけに、この結末には呆気に取られていた。
魔力を集める事はうまくできていたように見えた。かなりセンスがある方だと思われる。
(うーん、これは属性の付与か物質への変換がうまくできてないってところかな?)
リーシャはステファニーの実力を一目見て、ある程度分析していた。これは魔力を目で見ることのできる能力を持つからこそできる分析方法で、できる人間はあまりいない。
分析を踏まえどう教えるかを考え込んでいると、ハンナが心配そうな顔をしてリーシャに近づいた。
「ステファニーは安定して魔法が使えないみたいで。こんな風に失敗することもあれば、逆に力が強すぎて暴発することもあるんです。とても悔しいみたいで、実践練習の後はいつもあんな具合で……」
「あんな具合?」
ステファニーを見ると、思った通りに魔法が使えなかったのが相当悔しかったようで、既に涙目になっていた。もう少しで泣き叫びそうだ。
リーシャは慌ててステファニーに駆け寄った。
「だ、大丈夫だよ。私も小さい頃はうまく魔法を使えなかったけど、今はいろんなことができるようになったんだよ! ほら」
リーシャが地面をトントンと叩くと、その部分の土がぽこリと盛り上がった。
「?」
泣くことを忘れたステファニーは、しゃがんでその土の塊をまじまじと見つめた。
土はさらに盛り上がり、その下から生き物の形をした塊が顔を出すかのように現れた。完全に地表に現れたそれはウサギの形をした土人形。
ウサギの土人形は鼻をひくつかせながら周りをキョロキョロと、まるで様子を窺うような仕草をしている。
「せんせ! つちのウサギさんがうごいてる!」
「ふっふっふっ……実はね、このウサギさんは私が動かしてるんだよ!」
「えっ! ほんとに? すっごーい!」
ステファニーは興味津々の様子でウサギの頭を撫でた。ウサギは気持ちよさそうに、大人しく撫でられ続けている。
「ざらざらしてる。やっぱり土だ」
これはレインことシュレインが得意とする、魔力の糸を物体につないで操る技を有属性魔法と合わせて応用した魔法だ。
術者のイメージを転写して有属性魔法の動きを操る魔法。複合魔法としては一番広く知られている魔法で使える者はちらほらといる。ただし、魔力の消費は著しい。
ステファニーはウサギを凝視した後、リーシャの方を見た。
「ねぇねぇせんせ。リーシャせんせーって、すごいまほーつかいさんいなの?」
「えーっと、そうでもないとは思うけど……」
この質問にどう答えるべきか、リーシャは戸惑った。
自分ではまだまだだと思っているけれど、周りからの評価はわりと高めなのだ。
現にちらりと視界に入ったハンナは「自信を持ってください」とでも言いたげな顔で頷いていた。それに「ステファニーの背中を押してあげてください」という意味も込められているような気がした。
けれど、それを自身で言うのは憚られる。
リーシャが言い淀んでいると、足元にエリアルがしゃがみ、代わりに答えてくれた。
0
お気に入りに追加
218
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》
新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。
趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝!
……って、あれ?
楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。
想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ!
でも実はリュシアンは訳ありらしく……

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる