魔法使いと彼女を慕う3匹の黒竜~魔法は最強だけど溺愛してくる竜には勝てる気がしません~

村雨 妖

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魔法学校

魔法授業の開始(1)

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 リーシャはステファニーの魔法能力を測るため、皆を連れて練習場へと場所を移した。
 そこは名前の通り、魔法の練習をするための場所だ。
 周りは石の壁で囲われているため、たとえ魔法を放つ手元が狂ったとしても周囲への影響はほとんどない。
 リーシャも何度もこの練習場のお世話になり、あの頑丈な壁を破壊してきた。石壁には修理した後がしっかりと残されている。

「それじゃあ、ステファニーちゃん。あの的に向かって得意な魔法を当ててください。できれば全力で」
「はい!」

 ステファニーに狙うように言ったのは魔物の形をした木製の的。
 魔法を使うことに不慣れな少女は胸の前で両手を組み、その手に魔力を集めるように意識を集中させ始めた。
 魔道具という魔力を集中させるための媒介がない場合、体幹に手を近づけた姿勢が一番魔力をコントロールしやすい。なので、魔道具を使用せずとも魔法と使うことができる魔法使いたちの大半は、魔法を発動する直前にはこのような姿勢をとる。
 対してリーシャは魔法を発動しようとした際にはそんなことはせずに、いきなり相手に向かって掌を向け標準を合わせる。これができるのは、無意識に近いレベルで魔力を操ることのできる魔法使いだけだ。
 集中するステファニーの手に炎の属性を帯びた魔力が集まり始めた。リーシャの目にはその様子が見えていた。

(おおっ。これは、なかなか……鍛えがいがありそうかも)

 ステファニーの年齢を考えると、魔力は多い方だった。
 リーシャがこれからの教師としての生活に心躍らせている間にも、ステファニーの周りにゆっくりと魔力が揺らめいている。
 手に集まっていた魔力の流れがピタリと止まるとステファニーは手を前に伸ばし、的を指差した。

「炎よ!」

 指の先に集められた魔力が一気に炎へと変換され始めた。
 これだけの魔力を圧縮させたのだ。的に当たるだけにはとどまらず、破壊するだろうとリーシャは予想立てていた。
 ステファニーの指先に炎の一端が現れた。

 プスン……

 予想外の音が聞こえ、練習場に複雑な空気が流れた。

「……あ、あれ?」

 ステファニーの口から戸惑いの声が漏れた。
 魔力は炎にうまく変換されず、音を立てて散ったのだ。
 リーシャも期待していただけに、この結末には呆気に取られていた。
 魔力を集める事はうまくできていたように見えた。かなりセンスがある方だと思われる。

(うーん、これは属性の付与か物質への変換がうまくできてないってところかな?)

 リーシャはステファニーの実力を一目見て、ある程度分析していた。これは魔力を目で見ることのできる能力を持つからこそできる分析方法で、できる人間はあまりいない。
 分析を踏まえどう教えるかを考え込んでいると、ハンナが心配そうな顔をしてリーシャに近づいた。

「ステファニーは安定して魔法が使えないみたいで。こんな風に失敗することもあれば、逆に力が強すぎて暴発することもあるんです。とても悔しいみたいで、実践練習の後はいつもあんな具合で……」
「あんな具合?」

 ステファニーを見ると、思った通りに魔法が使えなかったのが相当悔しかったようで、既に涙目になっていた。もう少しで泣き叫びそうだ。
 リーシャは慌ててステファニーに駆け寄った。

「だ、大丈夫だよ。私も小さい頃はうまく魔法を使えなかったけど、今はいろんなことができるようになったんだよ! ほら」

 リーシャが地面をトントンと叩くと、その部分の土がぽこリと盛り上がった。

「?」

 泣くことを忘れたステファニーは、しゃがんでその土の塊をまじまじと見つめた。
 土はさらに盛り上がり、その下から生き物の形をした塊が顔を出すかのように現れた。完全に地表に現れたそれはウサギの形をした土人形。
 ウサギの土人形は鼻をひくつかせながら周りをキョロキョロと、まるで様子を窺うような仕草をしている。

「せんせ! つちのウサギさんがうごいてる!」
「ふっふっふっ……実はね、このウサギさんは私が動かしてるんだよ!」
「えっ! ほんとに? すっごーい!」

 ステファニーは興味津々の様子でウサギの頭を撫でた。ウサギは気持ちよさそうに、大人しく撫でられ続けている。

「ざらざらしてる。やっぱり土だ」

 これはレインことシュレインが得意とする、魔力の糸を物体につないで操る技を有属性魔法と合わせて応用した魔法だ。
 術者のイメージを転写して有属性魔法の動きを操る魔法。複合魔法としては一番広く知られている魔法で使える者はちらほらといる。ただし、魔力の消費は著しい。
 ステファニーはウサギを凝視した後、リーシャの方を見た。

「ねぇねぇせんせ。リーシャせんせーって、すごいまほーつかいさんいなの?」
「えーっと、そうでもないとは思うけど……」

 この質問にどう答えるべきか、リーシャは戸惑った。
 自分ではまだまだだと思っているけれど、周りからの評価はわりと高めなのだ。
 現にちらりと視界に入ったハンナは「自信を持ってください」とでも言いたげな顔で頷いていた。それに「ステファニーの背中を押してあげてください」という意味も込められているような気がした。
 けれど、それを自身で言うのは憚られる。
 リーシャが言い淀んでいると、足元にエリアルがしゃがみ、代わりに答えてくれた。
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