109 / 419
魔法学校
新しい生徒(2)
しおりを挟む
「こんにちは。あなた、お名前は?」
少女は体をピクリと震わせ、またハンナの後ろに隠れてしまった。
「あらら……」
「人見知りが激しいみたいで。ステファニー、この人は私の魔法の先生なの。怖い人じゃないわ」
ハンナの言葉に、隠れていた少女が顔半分をのぞかせた。
人見知り以前に、やはり初対面の登場の仕方がよくなかったのだろう。ステファニーは不安そうにリーシャを見ている。
リーシャは困って苦笑した。
(完全に警戒されちゃってるなぁ)
この警戒を解くことがリーシャの最初の一仕事となるようだ。
(何か面白い魔法で興味を惹くとか? 何かあったかなぁ、そんな感じの魔法)
思考を巡らせていると、突然ステファニーの周りにパチパチと光る粉のようなものが舞った。
リーシャは火の属性の魔力が辺りに流れている気配を感じ取った。
(⁉ これ、魔法使おうとしてるんじゃ⁉)
リーシャは少女が何をしようとしているのか気がつくと、すぐに対抗策を講じた。
ハンナも少し遅れてステファニーの異変に気が付いようだ。
「ステファニー⁉」
ハンナは止めようと声を上げた。
けれど時すでに遅く、炎の球は姿を現し、リーシャに向かって放たれてしまった。
(これは、なかなかの発動速度と威力)
普通ならそう簡単に止められるような魔法ではなかった。ステファニーも魔法の才に恵まれているようだ。
けれど、それでもリーシャほどではなかった。
「水よ!」
ハンナがステファニーを止めようとするのとほぼ同時に魔法を発動し始めていたリーシャは、自身に火の球が直撃する寸前に強力な水魔法の障壁を完成させ、炎を消し去った。
間一髪だとはこの事だった。
「はぁ……びっくりしたぁ……」
リーシャの肩から力が抜けた。
防ぎ切る自信はあった。けれどステファニーの予想外の魔法センスに驚き、緊張で体に力が入ってしまっていたのだ。
少女が使った今の魔法は、相手がリーシャでなければ黒焦げだったかもしれない。
ハンナも、ほっと胸を撫で下ろした。そして、しゃがんでステファニーと目線を合わせると、少しきつい口調で言った。
「ステファニー、いきなりどうしたの? 人に向けてあんな魔法は使っちゃダメだって言ってるでしょ?」
「ちがっ……」
「何が違うの? 今のは先生じゃなかったら、すごく痛いおもいをしていたのよ」
「……うう……」
ステファニーは何か言いたそうだった。
けれどハンナが冷静さを欠いていたため、その言葉を聞こうとはしていなかった。これではステファニーが可哀想だ。
話しかけにくい雰囲気の中、リーシャはためらいがちにハンナに話しかけた。
「あの、大丈夫だよ、ハンナ。私、平気だったんだし。ちょっと落ち着こうよ」
「こういうことはちゃんと言わないと、また同じことになるかもしれません。今度は相手が先生じゃなかったらどうするんですか?」
「はい、すみません……」
リーシャはハンナの迫力にそれしか言えず、ステファニーと一緒に小さくなった。どうやら止めることは難しそうだ。
ハンナはステファニーの方へ向き直った。
「ステファニー、なんで魔法を使ったの?」
「……」
「黙ってちゃわからないわよ?」
ステファニーの目元には涙が溜まっている。彼女自身、何故魔法を使ってしまったのか説明できず混乱しているようだ。おそらく暴走させてしまったのだろう。
するとエリアルがこの場の今の雰囲気をものともせずに、今にも泣きだしそうなステファニーに話しかけた。
「知らない人がいっぱい来て怖かったんだよね? それで、いきなり話しかけられてびっくりしちゃって、魔法使っちゃったんでしょ?」
ステファニーは小さくコクリと頷いた。
エリアルはこういう時どうすれば相手が落ち着くかわかっていた。いつも兄たちがリーシャにするよう、ステファニーの頭を撫でた。
「わざとじゃないけど、ねぇちゃんには謝ろうね? ステファニーちゃんもいきなり火が飛んできたらびっくりしちゃうでしょ?」
ステファニーは再びコクリと頷くと、おずおずとリーシャの方を向いた。
「あの、せんせ。ご、ごめんなさい」
「大丈夫だよ。私もびっくりさせちゃってごめんね。私はリーシャっていうの。あなたはお名前ちゃんと言えるかな?」
リーシャがニコッと笑うと、ステファニーもつられて恥ずかしそうに笑った。
「ステファニー。ステファニー・メイスンです」
「ステファニーちゃんね。よろしく」
「よ、よろしくおねがいします。リーシャせんせ」
ステファニーはもじもじしながら言った。
続けてステファニーはエリアルの方を向いた。
「おにいちゃんは?」
名前を聞かれたエリアルは自身を指差し、首を傾げた。
「僕?」
「うん」
「僕ね、エリアルだよ。よろしくね?」
エリアルの屈託のない笑顔にステファニーの気が緩んだようだった。
ステファニーは他2人のエリアルの兄弟たちには見向きもせず、ハンナの陰から手てくるとエリアルの腰に抱き着いた。
「わわっ!」
「エリアルおにいちゃん!」
エリアルも自分より小さい子に懐かれ、初めて兄として振る舞えてまんざらでもなさそうだった。
リーシャはその様子を微笑ましく思いながら見ていた。
一方、なんとなく面白くないとも感じていた。もやもやして、なんだかエリアルをとられたような。そんな気分だ。
リーシャは、その考えを払拭するかのように首を大きく振った。
窓の外を見るとまだ日は高く、落ちる気配はない。
(今日のうちにできることはやっておこうかな)
リーシャはステファニーの事を見た。
「それじゃあさっそくだけど、ステファニーちゃんの魔法を見せてもらおうかな?」
少女は体をピクリと震わせ、またハンナの後ろに隠れてしまった。
「あらら……」
「人見知りが激しいみたいで。ステファニー、この人は私の魔法の先生なの。怖い人じゃないわ」
ハンナの言葉に、隠れていた少女が顔半分をのぞかせた。
人見知り以前に、やはり初対面の登場の仕方がよくなかったのだろう。ステファニーは不安そうにリーシャを見ている。
リーシャは困って苦笑した。
(完全に警戒されちゃってるなぁ)
この警戒を解くことがリーシャの最初の一仕事となるようだ。
(何か面白い魔法で興味を惹くとか? 何かあったかなぁ、そんな感じの魔法)
思考を巡らせていると、突然ステファニーの周りにパチパチと光る粉のようなものが舞った。
リーシャは火の属性の魔力が辺りに流れている気配を感じ取った。
(⁉ これ、魔法使おうとしてるんじゃ⁉)
リーシャは少女が何をしようとしているのか気がつくと、すぐに対抗策を講じた。
ハンナも少し遅れてステファニーの異変に気が付いようだ。
「ステファニー⁉」
ハンナは止めようと声を上げた。
けれど時すでに遅く、炎の球は姿を現し、リーシャに向かって放たれてしまった。
(これは、なかなかの発動速度と威力)
普通ならそう簡単に止められるような魔法ではなかった。ステファニーも魔法の才に恵まれているようだ。
けれど、それでもリーシャほどではなかった。
「水よ!」
ハンナがステファニーを止めようとするのとほぼ同時に魔法を発動し始めていたリーシャは、自身に火の球が直撃する寸前に強力な水魔法の障壁を完成させ、炎を消し去った。
間一髪だとはこの事だった。
「はぁ……びっくりしたぁ……」
リーシャの肩から力が抜けた。
防ぎ切る自信はあった。けれどステファニーの予想外の魔法センスに驚き、緊張で体に力が入ってしまっていたのだ。
少女が使った今の魔法は、相手がリーシャでなければ黒焦げだったかもしれない。
ハンナも、ほっと胸を撫で下ろした。そして、しゃがんでステファニーと目線を合わせると、少しきつい口調で言った。
「ステファニー、いきなりどうしたの? 人に向けてあんな魔法は使っちゃダメだって言ってるでしょ?」
「ちがっ……」
「何が違うの? 今のは先生じゃなかったら、すごく痛いおもいをしていたのよ」
「……うう……」
ステファニーは何か言いたそうだった。
けれどハンナが冷静さを欠いていたため、その言葉を聞こうとはしていなかった。これではステファニーが可哀想だ。
話しかけにくい雰囲気の中、リーシャはためらいがちにハンナに話しかけた。
「あの、大丈夫だよ、ハンナ。私、平気だったんだし。ちょっと落ち着こうよ」
「こういうことはちゃんと言わないと、また同じことになるかもしれません。今度は相手が先生じゃなかったらどうするんですか?」
「はい、すみません……」
リーシャはハンナの迫力にそれしか言えず、ステファニーと一緒に小さくなった。どうやら止めることは難しそうだ。
ハンナはステファニーの方へ向き直った。
「ステファニー、なんで魔法を使ったの?」
「……」
「黙ってちゃわからないわよ?」
ステファニーの目元には涙が溜まっている。彼女自身、何故魔法を使ってしまったのか説明できず混乱しているようだ。おそらく暴走させてしまったのだろう。
するとエリアルがこの場の今の雰囲気をものともせずに、今にも泣きだしそうなステファニーに話しかけた。
「知らない人がいっぱい来て怖かったんだよね? それで、いきなり話しかけられてびっくりしちゃって、魔法使っちゃったんでしょ?」
ステファニーは小さくコクリと頷いた。
エリアルはこういう時どうすれば相手が落ち着くかわかっていた。いつも兄たちがリーシャにするよう、ステファニーの頭を撫でた。
「わざとじゃないけど、ねぇちゃんには謝ろうね? ステファニーちゃんもいきなり火が飛んできたらびっくりしちゃうでしょ?」
ステファニーは再びコクリと頷くと、おずおずとリーシャの方を向いた。
「あの、せんせ。ご、ごめんなさい」
「大丈夫だよ。私もびっくりさせちゃってごめんね。私はリーシャっていうの。あなたはお名前ちゃんと言えるかな?」
リーシャがニコッと笑うと、ステファニーもつられて恥ずかしそうに笑った。
「ステファニー。ステファニー・メイスンです」
「ステファニーちゃんね。よろしく」
「よ、よろしくおねがいします。リーシャせんせ」
ステファニーはもじもじしながら言った。
続けてステファニーはエリアルの方を向いた。
「おにいちゃんは?」
名前を聞かれたエリアルは自身を指差し、首を傾げた。
「僕?」
「うん」
「僕ね、エリアルだよ。よろしくね?」
エリアルの屈託のない笑顔にステファニーの気が緩んだようだった。
ステファニーは他2人のエリアルの兄弟たちには見向きもせず、ハンナの陰から手てくるとエリアルの腰に抱き着いた。
「わわっ!」
「エリアルおにいちゃん!」
エリアルも自分より小さい子に懐かれ、初めて兄として振る舞えてまんざらでもなさそうだった。
リーシャはその様子を微笑ましく思いながら見ていた。
一方、なんとなく面白くないとも感じていた。もやもやして、なんだかエリアルをとられたような。そんな気分だ。
リーシャは、その考えを払拭するかのように首を大きく振った。
窓の外を見るとまだ日は高く、落ちる気配はない。
(今日のうちにできることはやっておこうかな)
リーシャはステファニーの事を見た。
「それじゃあさっそくだけど、ステファニーちゃんの魔法を見せてもらおうかな?」
0
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる