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魔法学校

新しい生徒(2)

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「こんにちは。あなた、お名前は?」

 少女は体をピクリと震わせ、またハンナの後ろに隠れてしまった。

「あらら……」
「人見知りが激しいみたいで。ステファニー、この人は私の魔法の先生なの。怖い人じゃないわ」

 ハンナの言葉に、隠れていた少女が顔半分をのぞかせた。
 人見知り以前に、やはり初対面の登場の仕方がよくなかったのだろう。ステファニーは不安そうにリーシャを見ている。
 リーシャは困って苦笑した。

(完全に警戒されちゃってるなぁ)

 この警戒を解くことがリーシャの最初の一仕事となるようだ。

(何か面白い魔法で興味を惹くとか? 何かあったかなぁ、そんな感じの魔法)

 思考を巡らせていると、突然ステファニーの周りにパチパチと光る粉のようなものが舞った。
 リーシャは火の属性の魔力が辺りに流れている気配を感じ取った。

(⁉ これ、魔法使おうとしてるんじゃ⁉)

 リーシャは少女が何をしようとしているのか気がつくと、すぐに対抗策を講じた。
 ハンナも少し遅れてステファニーの異変に気が付いようだ。

「ステファニー⁉」

 ハンナは止めようと声を上げた。
 けれど時すでに遅く、炎の球は姿を現し、リーシャに向かって放たれてしまった。

(これは、なかなかの発動速度と威力)

 普通ならそう簡単に止められるような魔法ではなかった。ステファニーも魔法の才に恵まれているようだ。
 けれど、それでもリーシャほどではなかった。

「水よ!」

 ハンナがステファニーを止めようとするのとほぼ同時に魔法を発動し始めていたリーシャは、自身に火の球が直撃する寸前に強力な水魔法の障壁を完成させ、炎を消し去った。
 間一髪だとはこの事だった。

「はぁ……びっくりしたぁ……」

 リーシャの肩から力が抜けた。
 防ぎ切る自信はあった。けれどステファニーの予想外の魔法センスに驚き、緊張で体に力が入ってしまっていたのだ。
 少女が使った今の魔法は、相手がリーシャでなければ黒焦げだったかもしれない。
 ハンナも、ほっと胸を撫で下ろした。そして、しゃがんでステファニーと目線を合わせると、少しきつい口調で言った。

「ステファニー、いきなりどうしたの? 人に向けてあんな魔法は使っちゃダメだって言ってるでしょ?」
「ちがっ……」
「何が違うの? 今のは先生じゃなかったら、すごく痛いおもいをしていたのよ」
「……うう……」

 ステファニーは何か言いたそうだった。
 けれどハンナが冷静さを欠いていたため、その言葉を聞こうとはしていなかった。これではステファニーが可哀想だ。
 話しかけにくい雰囲気の中、リーシャはためらいがちにハンナに話しかけた。

「あの、大丈夫だよ、ハンナ。私、平気だったんだし。ちょっと落ち着こうよ」
「こういうことはちゃんと言わないと、また同じことになるかもしれません。今度は相手が先生じゃなかったらどうするんですか?」
「はい、すみません……」

 リーシャはハンナの迫力にそれしか言えず、ステファニーと一緒に小さくなった。どうやら止めることは難しそうだ。
 ハンナはステファニーの方へ向き直った。

「ステファニー、なんで魔法を使ったの?」
「……」
「黙ってちゃわからないわよ?」

 ステファニーの目元には涙が溜まっている。彼女自身、何故魔法を使ってしまったのか説明できず混乱しているようだ。おそらく暴走させてしまったのだろう。
 するとエリアルがこの場の今の雰囲気をものともせずに、今にも泣きだしそうなステファニーに話しかけた。

「知らない人がいっぱい来て怖かったんだよね? それで、いきなり話しかけられてびっくりしちゃって、魔法使っちゃったんでしょ?」

 ステファニーは小さくコクリと頷いた。
 エリアルはこういう時どうすれば相手が落ち着くかわかっていた。いつも兄たちがリーシャにするよう、ステファニーの頭を撫でた。

「わざとじゃないけど、ねぇちゃんには謝ろうね? ステファニーちゃんもいきなり火が飛んできたらびっくりしちゃうでしょ?」

 ステファニーは再びコクリと頷くと、おずおずとリーシャの方を向いた。

「あの、せんせ。ご、ごめんなさい」
「大丈夫だよ。私もびっくりさせちゃってごめんね。私はリーシャっていうの。あなたはお名前ちゃんと言えるかな?」

 リーシャがニコッと笑うと、ステファニーもつられて恥ずかしそうに笑った。

「ステファニー。ステファニー・メイスンです」
「ステファニーちゃんね。よろしく」
「よ、よろしくおねがいします。リーシャせんせ」

 ステファニーはもじもじしながら言った。
 続けてステファニーはエリアルの方を向いた。

「おにいちゃんは?」

 名前を聞かれたエリアルは自身を指差し、首を傾げた。

「僕?」
「うん」
「僕ね、エリアルだよ。よろしくね?」

 エリアルの屈託のない笑顔にステファニーの気が緩んだようだった。
 ステファニーは他2人のエリアルの兄弟たちには見向きもせず、ハンナの陰から手てくるとエリアルの腰に抱き着いた。

「わわっ!」
「エリアルおにいちゃん!」

 エリアルも自分より小さい子に懐かれ、初めて兄として振る舞えてまんざらでもなさそうだった。
 リーシャはその様子を微笑ましく思いながら見ていた。
 一方、なんとなく面白くないとも感じていた。もやもやして、なんだかエリアルをとられたような。そんな気分だ。
 リーシャは、その考えを払拭するかのように首を大きく振った。
 窓の外を見るとまだ日は高く、落ちる気配はない。

(今日のうちにできることはやっておこうかな)

 リーシャはステファニーの事を見た。

「それじゃあさっそくだけど、ステファニーちゃんの魔法を見せてもらおうかな?」
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