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魔法学校
親友(2)
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呼ばれた3人は表情を明るくしてリーシャの傍へとやって来た。エリアルにいたっては、リーシャがハンナに駆け寄った時と同じような勢いだった。違ったのは実際に飛びついたかどうかといったところだ。
「もしかしたらハンナも気が付いてるかもしれないけど、この子たちが今一緒に暮らしてる竜の兄弟。この髪の長い子がノアで、こっちがルシア。で、今私にしがみついてる子がエリアル」
紹介されると3人は「よろしく」と言い、軽く頭を下げた。
ハンナもそれに応え会釈をした。
「初めまして。私はハンナ・マグダレーノと申します。リーシャ先生には昨年大変お世話になりました」
ハンナは上品な貴族のような話し方で自己紹介をした。
実のところハンナは“貴族のような“ではなく、本当に魔法貴族だったりする。
魔法貴族の多くは周りを顧みない振る舞いをするけれど、ハンナは身分を笠に着ることはない。そのためリーシャはハンナといても不快になる事はなかった。むしろ、下手に出すぎでいると感じる。
リーシャとしてはもう少し対等に話してほしいと思っていた。
「ねぇ、やっぱり先生はやめようよ。なんか恥ずかしい。それにハンナの方が年上なんだしさ」
「年齢なんて関係ありませんよ。先生は先生です」
純粋に尊敬してもらえるのは嬉しい。けれど、年上から先生と言われるのは変な感じだった。それが親しい相手なら余計にむず痒い。
そんなくすぐったい感情と戦っていると、リーシャは前にハンナが悩んでいた事をふと思い出した。
思い出した途端、気になって聞かずにはいられなくなった。
「そういえば、ハンナ。あの話どうなったの? ほら、縁談の話」
魔道具を使わずに魔法を使える人材はとても貴重な存在だ。魔法貴族たちはこぞって彼らと縁を結びたがる。
すでに魔法貴族であるハンナも例外ではなかったらしく、より力のある家から圧力がかけられ、婚約させられそうだと去年の別れ際にぼやいていた。
ハンナはリーシャの問いかけに、困った顔で笑っていた。
「一応大丈夫そうです。そのことで先日、ネクロノーム家の方へ伺ったのですが、どうやら白紙に戻りそうで」
「よかったぁ! 不安そうにしてたから、心配だったんだ。しかも相手ハンナの従兄なんでしょ?」
「ええ……」
ハンナの母親は彼女の縁談相手であるネクロノーム家の現当主の妹。従兄との婚約だったため、余計に抵抗があったようだ。けれど、断りたくとも家柄の力関係もあり、断るに断れなかったという事だった。
それが白紙に戻りそうだというのに、ハンナの表情はなぜか浮かないまま。
リーシャは不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの? 嬉しくないの?」
リーシャが聞くとハンナは言いにくそうに口を開いた。
「安心はしてますよ? シリウス様……従兄のことは嫌いではないですし、仲はいい方だと思うのですが、婚約者としては考えられませんでしたので。ただ、伺った際に聞いたのですが……その、私より先生の方が大変なのでは? シリウス様の婚約者候補に挙げられている、とお聞きしたので……」
「ああ、そういう」
思い返せば、たしかにそれ関係の手紙の中にネクロノームと書かれた手紙もあった。
応じる気は全くないので、リーシャはきれいさっぱり忘れていた。というよりも、忘れていたかったから忘れていた、という方が正しいかもしれない。
「うーん。一応お断りはしてるんだけど……たしかあそこはしつこい方だった気が……未だに手紙が来てた気がする」
断りの手紙を送ってからも、いくつかの魔法貴族からはしつこく縁談の申し入れの手紙は送られてきている。何度断っても、何度断っても際限なく。ネクロノーム家もその一つだったはずだ。
「ですよね……リーシャ先生ほどの魔法使いとなると、どこの家も先生の才能は喉から手が出るほど欲しいでしょうから」
ハンナはリーシャが魔法貴族をよく思っていないことを知っている。そのせいか、彼女自身が何かしたわけでもないのに、申し訳なさそうにしていた。
この場に暗い空気が流れた。
こんな空気を作りたかったわけではないのにと、リーシャは申し訳なさげに視線を下げた。けれど作ってしまったものは仕方ない。
リーシャは流れを断とうと、パンと手を鳴らし、明るく切り出した。
「もうこの話はおしまい‼ ハンナがあの家の人間と婚約しなくて済むならそれでいいの! 私の方はどうにかするから、大丈夫!」
「先生が大丈夫とおっしゃるのでしたら、きっと大丈夫なのでしょうね」
ハンナも同じようにこの場の空気を変えたかったようで、目元は困り気味だったけれど、穏やかそうに口元に弧を描いていた。
「もしかしたらハンナも気が付いてるかもしれないけど、この子たちが今一緒に暮らしてる竜の兄弟。この髪の長い子がノアで、こっちがルシア。で、今私にしがみついてる子がエリアル」
紹介されると3人は「よろしく」と言い、軽く頭を下げた。
ハンナもそれに応え会釈をした。
「初めまして。私はハンナ・マグダレーノと申します。リーシャ先生には昨年大変お世話になりました」
ハンナは上品な貴族のような話し方で自己紹介をした。
実のところハンナは“貴族のような“ではなく、本当に魔法貴族だったりする。
魔法貴族の多くは周りを顧みない振る舞いをするけれど、ハンナは身分を笠に着ることはない。そのためリーシャはハンナといても不快になる事はなかった。むしろ、下手に出すぎでいると感じる。
リーシャとしてはもう少し対等に話してほしいと思っていた。
「ねぇ、やっぱり先生はやめようよ。なんか恥ずかしい。それにハンナの方が年上なんだしさ」
「年齢なんて関係ありませんよ。先生は先生です」
純粋に尊敬してもらえるのは嬉しい。けれど、年上から先生と言われるのは変な感じだった。それが親しい相手なら余計にむず痒い。
そんなくすぐったい感情と戦っていると、リーシャは前にハンナが悩んでいた事をふと思い出した。
思い出した途端、気になって聞かずにはいられなくなった。
「そういえば、ハンナ。あの話どうなったの? ほら、縁談の話」
魔道具を使わずに魔法を使える人材はとても貴重な存在だ。魔法貴族たちはこぞって彼らと縁を結びたがる。
すでに魔法貴族であるハンナも例外ではなかったらしく、より力のある家から圧力がかけられ、婚約させられそうだと去年の別れ際にぼやいていた。
ハンナはリーシャの問いかけに、困った顔で笑っていた。
「一応大丈夫そうです。そのことで先日、ネクロノーム家の方へ伺ったのですが、どうやら白紙に戻りそうで」
「よかったぁ! 不安そうにしてたから、心配だったんだ。しかも相手ハンナの従兄なんでしょ?」
「ええ……」
ハンナの母親は彼女の縁談相手であるネクロノーム家の現当主の妹。従兄との婚約だったため、余計に抵抗があったようだ。けれど、断りたくとも家柄の力関係もあり、断るに断れなかったという事だった。
それが白紙に戻りそうだというのに、ハンナの表情はなぜか浮かないまま。
リーシャは不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの? 嬉しくないの?」
リーシャが聞くとハンナは言いにくそうに口を開いた。
「安心はしてますよ? シリウス様……従兄のことは嫌いではないですし、仲はいい方だと思うのですが、婚約者としては考えられませんでしたので。ただ、伺った際に聞いたのですが……その、私より先生の方が大変なのでは? シリウス様の婚約者候補に挙げられている、とお聞きしたので……」
「ああ、そういう」
思い返せば、たしかにそれ関係の手紙の中にネクロノームと書かれた手紙もあった。
応じる気は全くないので、リーシャはきれいさっぱり忘れていた。というよりも、忘れていたかったから忘れていた、という方が正しいかもしれない。
「うーん。一応お断りはしてるんだけど……たしかあそこはしつこい方だった気が……未だに手紙が来てた気がする」
断りの手紙を送ってからも、いくつかの魔法貴族からはしつこく縁談の申し入れの手紙は送られてきている。何度断っても、何度断っても際限なく。ネクロノーム家もその一つだったはずだ。
「ですよね……リーシャ先生ほどの魔法使いとなると、どこの家も先生の才能は喉から手が出るほど欲しいでしょうから」
ハンナはリーシャが魔法貴族をよく思っていないことを知っている。そのせいか、彼女自身が何かしたわけでもないのに、申し訳なさそうにしていた。
この場に暗い空気が流れた。
こんな空気を作りたかったわけではないのにと、リーシャは申し訳なさげに視線を下げた。けれど作ってしまったものは仕方ない。
リーシャは流れを断とうと、パンと手を鳴らし、明るく切り出した。
「もうこの話はおしまい‼ ハンナがあの家の人間と婚約しなくて済むならそれでいいの! 私の方はどうにかするから、大丈夫!」
「先生が大丈夫とおっしゃるのでしたら、きっと大丈夫なのでしょうね」
ハンナも同じようにこの場の空気を変えたかったようで、目元は困り気味だったけれど、穏やかそうに口元に弧を描いていた。
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