上 下
96 / 419
出会い

2人だけの捜索隊(2)

しおりを挟む
 森の中は他の生物などいないのではと思えるほど静かだった。聞こえてくるのは風のざわめきと自分たちの足音だけ。
 2人はスカイディーパの痕跡を見つけるため、森の中を広範囲にわたって探索し続けた。けれど、どれだけ探してもスカイディーパへと辿り着く手掛かりは見つからず、時間ばかりが経過していった。
 ついには何の手掛かりもないまま、空は赤く色づき始めてしまった。

(だいぶ暗くなってきたな。このまま探しても危ないだけだし、今日はもう切り上げた方がいいだろうな。リーシャもいることだし)

 シルバーはリーシャの事を見た。
 いくらギルドに所属しているとはいえ、彼女はまだ子供。真っ暗で魔物が徘徊する森の中を連れ歩くのは危険すぎる。

「なぁ、日も暮れてきた今日はこのへんにしとこうぜ。暗い中で探したところで、見つかるもんも見つからねぇよ」
「そう、ですね」

 リーシャは不満げに視線を落とした。まだ捜索を続けたいというのが本音なのだろう。
 1人でスカイディーパの討伐に行こうとしていたあたり、あまり状況を理解しないで動くタイプかのように思われたけれど、そうではなかったためシルバーは安心した。
 探索を切り上げるならば、これから問題になってくるのはどこで体を休めるかという事だ。
 シルバーは野営の備えをそれなりにしてきているけれど、リーシャの方はそうは見えない。

「つーかよ、リーシャ。お前何も持ってきてないみたいだけど大丈夫か? 村があるらしいし、そっちの方へ行って宿に泊まってもいいけど、どうする?」

 正確な年齢は知らないけれど、リーシャはおそらく10歳前後。
 シルバーは、こんな暗い森の中でほとんど初対面の男と2人になるより、多少歩いてでも他の人間の気配のある場所で眠っ方がリーシャにとってはいいだろうと思い、提案した。
 けれど肝心な本人はというと野営については何とも思っていない様子だった。

「大丈夫です、慣れてますから」
「慣れてる?」
「はい。クエスト中に外で寝るのは慣れてるんです。それより、寝る場所はここでいいですか? ここでいいなら、今から夕食と朝食分の食べ物を採ってきたいんですけど」

 リーシャは当然のように言った。
 それは子供の口から出てくるような言葉ではなかったため、シルバーは耳を疑った。

「は? 採ってくる?」
「はい。採ってきます。シルバーの分も取ってきましょうか?」
「いや……俺は遠征用の保存食持って来てるけど……」
「そうですか。それなら、私の分だけ取ってきたらいいですね」
「ちょ……」
「じゃあ行ってきます。なるべく早く戻ってくるので」

 リーシャは一方的に言いたいことを言うと、そのまま薄暗い森の中へと向かおうとした。
 そんな後先考えていない行動にシルバーは慌てた。

「ちょちょ、ちょっと待て! 暗い中歩き回ったら危ないだろ! 何のために探索切り上げたと思ってんだよ!」
「平気です。それに、採りに行かせてもらえないと私、今晩食べるものないのでこれだけは譲れません! じゃあ、今度こそ行ってきます」

 シルバーの制止など聞く耳を持たず、再びリーシャは暗い森の奥へと駆けだして行った。
 このまま1人で行かせてしまっては、変な魔物に出くわし危険な目にあうかもしれない。シルバーは咄嗟に叫んだ。

「待てって! 俺も行く‼」

 シルバーは急いでリーシャの後を追った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

処理中です...