魔法使いと彼女を慕う3匹の黒竜~魔法は最強だけど溺愛してくる竜には勝てる気がしません~

村雨 妖

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出会い

距離感(2)

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 あまり整備されていない森の中の道を歩いていると、2人は早々に魔物と遭遇した。
 魔物の気配を感じ取ったシルバーは即座に剣を構え、敵が飛び出してきたのと同時に素早く切りかかっていった。

「おらぁぁぁぁぁぁぁ‼」

 2人の目の前に現れたのは1匹のオオカミのような姿の魔物、ヘンダーウルフ。それほど強くはない魔物だったため、シルバーの出会いがしらの一振りで両断してしまった。

「弱すぎたな。一撃で倒しちまった。けど、気をつけろよ。こいつら群れで移動してることが多いからな」

 シルバーは剣に付いた血を、振って払い落とした。
 そんなシルバーの力強い一瞬の攻撃を間近で見る事になったリーシャは、出発前の様子とは打って変わって尊敬のまなざしを向けていた。

「強いですね。ミストレストさんって」
「コイツが弱すぎただけだって。あと、シルバーでいい」
「シルバー……さん?」
「さん付けでもいいけど、なぁんかむず痒いんだよなぁ」
「じゃあ……シルバー……」
「おう」

 リーシャはそわそわしながら、嬉しそうな表情をしていた。
 どうやらシルバーは嫌われているわけではないようだ。
 ならば何がリーシャに暗い顔をさせているのか。それが今一番の謎だった。
 なにはともあれ、シルバーは少し打ち解けられたと安心し、ニッと笑いかけた。

「じゃあ、次に魔物が現れたらリーシャ、お前が倒せよ」
「はい!」

 リーシャはまだ少し緊張しているようだけれど、これまでよりもずっと明るい表情で答えた。
 その次の瞬間、シルバーの背後の草むらが揺れ、3頭のヘンダーウルフが2人に襲いかかってきた。
 シルバーに近かった1頭はシルバーの剣によって瞬時に切り裂かれ、絶命した。
 攻撃が届かなかった残り2頭がシルバーへ襲いかかる。

「ちっ!」

 シルバーは一振りですべてを仕留められなかったことに少しの苛立ちを覚え思考が遅れたけれど、戦いを知る体が無意識に動き、すぐさま剣を構え直した。
 次の瞬間、後方から早い物体がシルバーの顔の横を通り越し、ヘンダーウルフへと衝突した。
 2頭が後方へ飛ばされたかと思うと、鳴き声を上げる間もなく木にはりつけにされていた。見ると、ヘンダーウルフに土色の槍先のような形をしたものが突き刺さっている。
 攻撃が放たれたであろう方を向くと、シルバーに向かって手を突き出すリーシャの姿があった。
 驚いたシルバーはぽつりと言った。

「今の、お前か?」

 リーシャは、はっと我に返ったような表情をするとすぐに怯えたような様子で頷いた。
 けれどシルバーはこの子供があんな短時間で魔法を発動させることができたとは、にわかには信じられなかった。

「わるいけどさ、もう一回今のできるか? そうだな、あの大きな木に向かってやってみてくれよ」

 リーシャは再び頷き、シルバーが指差す木に向かって手を突き出した。

「土よ」

 何もなかった手の前の空間に、土の槍先が現れた。
 リーシャが手をいったん自分の方へ引き、もう一度木の方へ向かって振り出すと、土の槍は手の指し示す方へと猛スピードで飛び出していった。木に衝突すると、槍は的である木を貫通し、その背後にあった木に突き刺さって止まった。

「おい、リーシャ。今の全力でやったのか?」

 リーシャは全力で首を左右に振った。

「かなり魔力は込めたけど、全力というほどでは……」

 シルバーは目を見開き、言葉を失っていた。
 これで本気ではないというのならば、彼女が本気を出せばどれほど強力な攻撃が繰り出されるのか。
 シルバーが黙り込んでしばらくすると、リーシャは何かを思い出したかのように挙動不審になった。

「あの、シ、シルバー? きっ、きっと、これは、その、木が柔らかかったから……穴が開いたんだと……」

 リーシャが目を泳がせながら言葉を紡いでいた。
 シルバーはそんなリーシャの肩を勢いよく掴んだ。

「すっげーな、お前! やるじゃねぇか!」
「え?」

 シルバーの言葉に、リーシャの口が止まった。
 シルバーは自身の興奮を抑えきれず、リーシャが呆然としているのに気がつきながらも話すのを止められなかった。

「魔道具なしで魔法使えるってだけでもすげぇのに、その歳でこの威力。なぁ、リーシャ。お前、俺んとこのパーティに入んねぇか?」
「えっと……あ、あの……その……」

 シルバーは真剣だった。
 このクエストに同行する事にしたのは1人で行かせるのが心配だったからだけれど、今はそんな心配をする必要がないほどリーシャには実力がある事がわかった。そんな彼女がパーティに入ってくれればより強いクエストに挑め、万が一危機的状況に陥った際にも突破する活路が見い出せる。
 リーシャはシルバーが本気で言っている事をすぐに理解した。だからこそ、シルバーの望む答えを口にはできなかった。

「ごめんなさい。私、人と過ごすのが苦手、で。パーティに入ったらいっぱいの人といる時間、長くなるから、嫌、なんです。ごめんなさい」

 リーシャは何かを隠すようにシルバーから視線を外し、伝えたい言葉をどうにかつなぎ合わせたような話し方だった。
 その様子からシルバーもなんとなく、彼女には言いたくないことがあるんじゃないかと察し、“何故か”を追及する事はしなかった。

「そうか。じゃあ、たまに俺と組むのはどうだ?」
「……正直に言っていいですか?」
「おう」

 リーシャは躊躇いがちに言った。

「……シルバーはよくしゃべるから、ちょっと遠慮したいです」
「なっ! おまっ! ほんとにそんな正直に言うなよなぁ」
「だって、シルバーがいいって言った……」

 困りがちに言うリーシャに少し悪戯をしてやろうと、シルバーは冗談交じりに落ち込んで見せた。

「そこはもう少し言いようがあるだろ。その断り方はしょげるぞ」
「あの、ご、ごめんなさい!」

 リーシャは深々と頭を下げた。リーシャのその思いのほか焦る姿に、シルバーは「ぷっ」っと噴き出した。

「……なーんてな。冗談だ」
「ひ、ひどい!」

 このことでリーシャは完全にシルバーに気を許せたようで、明らかに態度が柔らかくなっていた。
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