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出会い
無愛想な少女(1)
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5年前。王都クレドニアムのギルドにて。
「ちっ。割のいいやつねぇなぁ。どうする?」
シルバーは生活費という名の酒代を稼ぐため、高ランクのクエストを受けようと自ら結成したパーティメンバーを招集していた。今はクエストの紙が貼られるボードの前に立ち並び、どれに向かうかの相談中である。
メンバーがそれなりに集まったのは良いものの、貼られているクエストの依頼書はどれも低ランク。大人数のパーティで挑むようなクエストは貼られていなかった。
シルバーの真横に立っていた男がシルバーに向かって言った。
「この程度のクエストなら、全員で行かずにそれぞれで行った方がよくね?」
「だよなぁ。せっかく集まってもらったってのに悪いんだが、お前らもそれでいいか?」
シルバーが集まったメンバーにそう言うと、集団のうちの1人がシルバーの問いかけに反応した。
「いいっスよ、シルバーさん。こういうこともありますよ。それにどうせここにいるのは暇してるか、もともとここに来るつもりのやつばっかりなんスから。気にすることないっスよ」
この場にいた全員が頷き、同意した。
仲間たちの反応にシルバーは感極まり、胸からジーンとする何かが溢れ出してきた。
「お前らぁぁ! 俺は、こんないい連中と、パーティを組めて……」
「ということで、解散していいっスか?」
シルバーが感動を声に出していると、その感動させるような事を言った張本人が言葉を遮った。
「お前っ! 人がせっかく……」
「はいはーい! じゃあみんなお疲れっス~」
「おい! 勝手に終わらせんじゃねぇ‼」
集まっていたメンバーは解散し、各々自由に立ち去った。そのまま外に出て行く者、クエストの依頼書をはがしていく者。
この場に残ったのはシルバーと、横に立っていた男だけになってしまった。
「シルバー。俺も行くわ」
「……」
結局シルバーはその場に一人残されたのだった。
シルバーは仲間たちのそっけない態度にしばらくその場に立ちすくんでいたけれど、頭をひと掻きすると仕方なしに適当な依頼書を掲示板からはがし取った。
手にしたクエストの依頼書はシルバーの実力に対しては低すぎるランクのもので、報酬も大した額ではない。
「やらねぇよりはマシか」
依頼書を持ってギルドマスターの元へ行こうとしてカウンターに視線を移すと、先客がいるのに気がついた。見たことのない少女だ。10歳前後といったところだろうか。
少女は要件が済んだようで出口の方へ歩いて行った。
「なぁ、マスター。あの子は? 初めて見る顔だけど」
マスターと呼ばれる老婆は心配そうな表情をしている。
「彼女はリーシャ。最近王都の近くに越して来たらしい。」
「王都の近く?」
王都近くといえるような周辺には街や村は無い。
マスターの言い方にシルバーは顔をしかめた。
「ああ、森の中に1人で住んでいるらしい」
「1人? 親は?」
「詳しくは知らんが、父親は物心ついたころにはすでにおらんで、母親は最近亡くなられたそうだ」
話をした事のないシルバーでさえ、聞けば聞くほど彼女の生活状況が心配になった。少女の姿を目で追っていると、どこか悲し気な後姿をしているような気がした。
「大丈夫か? あいつ」
「生活はどうにかなっているみたいだよ。それに、それなりに腕の立つ子みたいだからCランクのクエストくらいまでは問題ないようさ……ただねぇ、今回持って行ったクエストがBランクのだから心配なんだよ」
「腕が立つなら、Bランクくらい仲間何人かいたら余裕だろ」
シルバーの言葉にマスターの表情が曇った。
シルバーもまさかとは思ったけれど、マスターの口から出た言葉はその“まさか”だった。
「それがあの子、いつも1人なんだよ。実力も完全に把握できているわけじゃないから、考え直すように忠告はしたんだけど、聞かなくてねぇ……」
「はぁ⁉」
振り返ると、少女はちょうど出入り口の扉をくぐったところだった。
「馬鹿じゃねぇのか⁉ 信じらんねえ‼ マスター、この依頼書戻しといてくれ」
「わかった。悪いけど頼んだよ」
「おう」
シルバーは少女を慌てて追いかけた。
ギルドから走り出ると、シルバーは少女の姿を探した。
すぐに後を追ったとはいえ、行き交う人々で特定の人物を見つけるのは一苦労だ。右へ左へと首を動かしていると、背の低い、黒い長髪の少女の後姿が見えた。おそらく先ほどの少女だ。
シルバーは走りながら大声で呼んだ。
「おーい! じょーちゃーん! 待ってくれ!」
少女は自分が呼ばれているとは思わず、そのままスタスタと歩き続けている。
「おい、待てって」
やっとのことで追いつき、肩に手をのせると少女は振り向いた。
その顔はいきなり触られたことへの不快感どころか、驚きすらない、そもそも何も感じていないような顔をしている。
「……何か、用ですか?」
「あーっと、ちょっと頼みがあんだよ。俺さ、今月生活費が結構厳しくて、そのクエスト一緒に行かせてもらいたいんだけど、ダメか?」
少女は躊躇っていた。けれど、躊躇うばかりで拒む言葉もいっこうに出てこない。
すぐに断らないのを見るかぎり、もう少し押せばいけると確信したシルバーは、切羽詰まっているように見せながら再び願い出た。
「頼むよ! 取り分は俺のが少なくてもかまわねぇからさ! 人助けだと思って!」
シルバーは手を合わせ、頭を下げた。少女は大柄の男に頭を下げられ狼狽えながら答えた。
「えっと……わかりました。けど、報酬は半々でいいです」
シルバーは「助かる」と申し訳なさそうにしていたけれど、内心ではラッキーと喜んだ。
「ありがとな。俺は、シルバー・ミストレスト。シルバーでいい。お前は?」
「リーシャ」
「ラストネームは?」
「……ただのリーシャ」
教えたくはないという事なのだろうとシルバーは思った。それならば無理に聞き出す必要はない。
「わかった。よろしくな、リーシャ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
リーシャは深々と頭を下げた。
と、同時に彼女の腹の虫が盛大に鳴った。
「まずは腹ごしらえするか」
「……はい」
2人は近くの店へと足を運ぶことにした。
「ちっ。割のいいやつねぇなぁ。どうする?」
シルバーは生活費という名の酒代を稼ぐため、高ランクのクエストを受けようと自ら結成したパーティメンバーを招集していた。今はクエストの紙が貼られるボードの前に立ち並び、どれに向かうかの相談中である。
メンバーがそれなりに集まったのは良いものの、貼られているクエストの依頼書はどれも低ランク。大人数のパーティで挑むようなクエストは貼られていなかった。
シルバーの真横に立っていた男がシルバーに向かって言った。
「この程度のクエストなら、全員で行かずにそれぞれで行った方がよくね?」
「だよなぁ。せっかく集まってもらったってのに悪いんだが、お前らもそれでいいか?」
シルバーが集まったメンバーにそう言うと、集団のうちの1人がシルバーの問いかけに反応した。
「いいっスよ、シルバーさん。こういうこともありますよ。それにどうせここにいるのは暇してるか、もともとここに来るつもりのやつばっかりなんスから。気にすることないっスよ」
この場にいた全員が頷き、同意した。
仲間たちの反応にシルバーは感極まり、胸からジーンとする何かが溢れ出してきた。
「お前らぁぁ! 俺は、こんないい連中と、パーティを組めて……」
「ということで、解散していいっスか?」
シルバーが感動を声に出していると、その感動させるような事を言った張本人が言葉を遮った。
「お前っ! 人がせっかく……」
「はいはーい! じゃあみんなお疲れっス~」
「おい! 勝手に終わらせんじゃねぇ‼」
集まっていたメンバーは解散し、各々自由に立ち去った。そのまま外に出て行く者、クエストの依頼書をはがしていく者。
この場に残ったのはシルバーと、横に立っていた男だけになってしまった。
「シルバー。俺も行くわ」
「……」
結局シルバーはその場に一人残されたのだった。
シルバーは仲間たちのそっけない態度にしばらくその場に立ちすくんでいたけれど、頭をひと掻きすると仕方なしに適当な依頼書を掲示板からはがし取った。
手にしたクエストの依頼書はシルバーの実力に対しては低すぎるランクのもので、報酬も大した額ではない。
「やらねぇよりはマシか」
依頼書を持ってギルドマスターの元へ行こうとしてカウンターに視線を移すと、先客がいるのに気がついた。見たことのない少女だ。10歳前後といったところだろうか。
少女は要件が済んだようで出口の方へ歩いて行った。
「なぁ、マスター。あの子は? 初めて見る顔だけど」
マスターと呼ばれる老婆は心配そうな表情をしている。
「彼女はリーシャ。最近王都の近くに越して来たらしい。」
「王都の近く?」
王都近くといえるような周辺には街や村は無い。
マスターの言い方にシルバーは顔をしかめた。
「ああ、森の中に1人で住んでいるらしい」
「1人? 親は?」
「詳しくは知らんが、父親は物心ついたころにはすでにおらんで、母親は最近亡くなられたそうだ」
話をした事のないシルバーでさえ、聞けば聞くほど彼女の生活状況が心配になった。少女の姿を目で追っていると、どこか悲し気な後姿をしているような気がした。
「大丈夫か? あいつ」
「生活はどうにかなっているみたいだよ。それに、それなりに腕の立つ子みたいだからCランクのクエストくらいまでは問題ないようさ……ただねぇ、今回持って行ったクエストがBランクのだから心配なんだよ」
「腕が立つなら、Bランクくらい仲間何人かいたら余裕だろ」
シルバーの言葉にマスターの表情が曇った。
シルバーもまさかとは思ったけれど、マスターの口から出た言葉はその“まさか”だった。
「それがあの子、いつも1人なんだよ。実力も完全に把握できているわけじゃないから、考え直すように忠告はしたんだけど、聞かなくてねぇ……」
「はぁ⁉」
振り返ると、少女はちょうど出入り口の扉をくぐったところだった。
「馬鹿じゃねぇのか⁉ 信じらんねえ‼ マスター、この依頼書戻しといてくれ」
「わかった。悪いけど頼んだよ」
「おう」
シルバーは少女を慌てて追いかけた。
ギルドから走り出ると、シルバーは少女の姿を探した。
すぐに後を追ったとはいえ、行き交う人々で特定の人物を見つけるのは一苦労だ。右へ左へと首を動かしていると、背の低い、黒い長髪の少女の後姿が見えた。おそらく先ほどの少女だ。
シルバーは走りながら大声で呼んだ。
「おーい! じょーちゃーん! 待ってくれ!」
少女は自分が呼ばれているとは思わず、そのままスタスタと歩き続けている。
「おい、待てって」
やっとのことで追いつき、肩に手をのせると少女は振り向いた。
その顔はいきなり触られたことへの不快感どころか、驚きすらない、そもそも何も感じていないような顔をしている。
「……何か、用ですか?」
「あーっと、ちょっと頼みがあんだよ。俺さ、今月生活費が結構厳しくて、そのクエスト一緒に行かせてもらいたいんだけど、ダメか?」
少女は躊躇っていた。けれど、躊躇うばかりで拒む言葉もいっこうに出てこない。
すぐに断らないのを見るかぎり、もう少し押せばいけると確信したシルバーは、切羽詰まっているように見せながら再び願い出た。
「頼むよ! 取り分は俺のが少なくてもかまわねぇからさ! 人助けだと思って!」
シルバーは手を合わせ、頭を下げた。少女は大柄の男に頭を下げられ狼狽えながら答えた。
「えっと……わかりました。けど、報酬は半々でいいです」
シルバーは「助かる」と申し訳なさそうにしていたけれど、内心ではラッキーと喜んだ。
「ありがとな。俺は、シルバー・ミストレスト。シルバーでいい。お前は?」
「リーシャ」
「ラストネームは?」
「……ただのリーシャ」
教えたくはないという事なのだろうとシルバーは思った。それならば無理に聞き出す必要はない。
「わかった。よろしくな、リーシャ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
リーシャは深々と頭を下げた。
と、同時に彼女の腹の虫が盛大に鳴った。
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