魔法使いと彼女を慕う3匹の黒竜~魔法は最強だけど溺愛してくる竜には勝てる気がしません~

村雨 妖

文字の大きさ
上 下
90 / 419
出会い

無愛想な少女(1)

しおりを挟む
 5年前。王都クレドニアムのギルドにて。


「ちっ。割のいいやつねぇなぁ。どうする?」

 シルバーは生活費という名の酒代を稼ぐため、高ランクのクエストを受けようと自ら結成したパーティメンバーを招集していた。今はクエストの紙が貼られるボードの前に立ち並び、どれに向かうかの相談中である。
 メンバーがそれなりに集まったのは良いものの、貼られているクエストの依頼書はどれも低ランク。大人数のパーティで挑むようなクエストは貼られていなかった。
 シルバーの真横に立っていた男がシルバーに向かって言った。

「この程度のクエストなら、全員で行かずにそれぞれで行った方がよくね?」
「だよなぁ。せっかく集まってもらったってのに悪いんだが、お前らもそれでいいか?」

 シルバーが集まったメンバーにそう言うと、集団のうちの1人がシルバーの問いかけに反応した。

「いいっスよ、シルバーさん。こういうこともありますよ。それにどうせここにいるのは暇してるか、もともとここに来るつもりのやつばっかりなんスから。気にすることないっスよ」

 この場にいた全員が頷き、同意した。
 仲間たちの反応にシルバーは感極まり、胸からジーンとする何かが溢れ出してきた。

「お前らぁぁ! 俺は、こんないい連中と、パーティを組めて……」
「ということで、解散していいっスか?」

 シルバーが感動を声に出していると、その感動させるような事を言った張本人が言葉を遮った。

「お前っ! 人がせっかく……」
「はいはーい! じゃあみんなお疲れっス~」
「おい! 勝手に終わらせんじゃねぇ‼」

 集まっていたメンバーは解散し、各々自由に立ち去った。そのまま外に出て行く者、クエストの依頼書をはがしていく者。
 この場に残ったのはシルバーと、横に立っていた男だけになってしまった。

「シルバー。俺も行くわ」
「……」

 結局シルバーはその場に一人残されたのだった。


 シルバーは仲間たちのそっけない態度にしばらくその場に立ちすくんでいたけれど、頭をひと掻きすると仕方なしに適当な依頼書を掲示板からはがし取った。
 手にしたクエストの依頼書はシルバーの実力に対しては低すぎるランクのもので、報酬も大した額ではない。

「やらねぇよりはマシか」

 依頼書を持ってギルドマスターの元へ行こうとしてカウンターに視線を移すと、先客がいるのに気がついた。見たことのない少女だ。10歳前後といったところだろうか。
 少女は要件が済んだようで出口の方へ歩いて行った。

「なぁ、マスター。あの子は? 初めて見る顔だけど」

 マスターと呼ばれる老婆は心配そうな表情をしている。

「彼女はリーシャ。最近王都の近くに越して来たらしい。」
「王都の近く?」

 王都近くといえるような周辺には街や村は無い。
 マスターの言い方にシルバーは顔をしかめた。

「ああ、森の中に1人で住んでいるらしい」
「1人? 親は?」
「詳しくは知らんが、父親は物心ついたころにはすでにおらんで、母親は最近亡くなられたそうだ」

 話をした事のないシルバーでさえ、聞けば聞くほど彼女の生活状況が心配になった。少女の姿を目で追っていると、どこか悲し気な後姿をしているような気がした。

「大丈夫か? あいつ」
「生活はどうにかなっているみたいだよ。それに、それなりに腕の立つ子みたいだからCランクのクエストくらいまでは問題ないようさ……ただねぇ、今回持って行ったクエストがBランクのだから心配なんだよ」
「腕が立つなら、Bランクくらい仲間何人かいたら余裕だろ」

 シルバーの言葉にマスターの表情が曇った。
 シルバーもまさかとは思ったけれど、マスターの口から出た言葉はその“まさか”だった。

「それがあの子、いつも1人なんだよ。実力も完全に把握できているわけじゃないから、考え直すように忠告はしたんだけど、聞かなくてねぇ……」
「はぁ⁉」

 振り返ると、少女はちょうど出入り口の扉をくぐったところだった。

「馬鹿じゃねぇのか⁉ 信じらんねえ‼ マスター、この依頼書戻しといてくれ」
「わかった。悪いけど頼んだよ」
「おう」

 シルバーは少女を慌てて追いかけた。
 ギルドから走り出ると、シルバーは少女の姿を探した。
 すぐに後を追ったとはいえ、行き交う人々で特定の人物を見つけるのは一苦労だ。右へ左へと首を動かしていると、背の低い、黒い長髪の少女の後姿が見えた。おそらく先ほどの少女だ。
 シルバーは走りながら大声で呼んだ。

「おーい! じょーちゃーん! 待ってくれ!」

 少女は自分が呼ばれているとは思わず、そのままスタスタと歩き続けている。

「おい、待てって」

 やっとのことで追いつき、肩に手をのせると少女は振り向いた。
 その顔はいきなり触られたことへの不快感どころか、驚きすらない、そもそも何も感じていないような顔をしている。

「……何か、用ですか?」
「あーっと、ちょっと頼みがあんだよ。俺さ、今月生活費が結構厳しくて、そのクエスト一緒に行かせてもらいたいんだけど、ダメか?」

 少女は躊躇っていた。けれど、躊躇うばかりで拒む言葉もいっこうに出てこない。
 すぐに断らないのを見るかぎり、もう少し押せばいけると確信したシルバーは、切羽詰まっているように見せながら再び願い出た。

「頼むよ! 取り分は俺のが少なくてもかまわねぇからさ! 人助けだと思って!」

 シルバーは手を合わせ、頭を下げた。少女は大柄の男に頭を下げられ狼狽えながら答えた。

「えっと……わかりました。けど、報酬は半々でいいです」

 シルバーは「助かる」と申し訳なさそうにしていたけれど、内心ではラッキーと喜んだ。

「ありがとな。俺は、シルバー・ミストレスト。シルバーでいい。お前は?」
「リーシャ」
「ラストネームは?」
「……ただのリーシャ」

 教えたくはないという事なのだろうとシルバーは思った。それならば無理に聞き出す必要はない。

「わかった。よろしくな、リーシャ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

 リーシャは深々と頭を下げた。
 と、同時に彼女の腹の虫が盛大に鳴った。

「まずは腹ごしらえするか」
「……はい」

 2人は近くの店へと足を運ぶことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく……

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...