魔法使いと彼女を慕う3匹の黒竜~魔法は最強だけど溺愛してくる竜には勝てる気がしません~

村雨 妖

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穏やかな夜(3)

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 夜中、リーシャは目を覚ました。
 リーシャの両側にはルシアとエリアルが眠っている。ルシアとエリアルのベッドを繋ぎ合わせ、そこで3人で眠っていた。
 2人に囲まれていたせいか体の内側が熱く、喉も渇いていた。
 水を飲みに行くために立ち上がろうとしたときに、リーシャはエリアルに服を掴まれていたことをぼんやりと思い出した。
 掴まれていた箇所を見ると、エリアルの手は離れていて体が自由になっている。
 リーシャは、2人を起こさないようにそっと立ち上がり、ダイニングへと向かった。
 廊下に出ると、行き先の部屋にうっすらと明かりが灯っていた。
 ルシアとエリアルが眠っていたことは確認済みだ。
 リーシャは明かりが点いている部屋の中を廊下から覗いてみた。

「ノア?」
「……起きたのか」

 シンクの前に、ぼんやりとした目のノアが立っていた。かなり眠たい様子だ。
 リーシャはノアに近づいた。

「何してるの?」
「水を飲みに来ただけだ」
「なんだ一緒か」

 ノアは目的を達していたようで、手には洗った後の濡れたカップが握られていた。
 リーシャは自分のカップを手に取ると水を入れ、口へ運んだ。熱く感じていた体にひんやりとした水が心地いい。
 黙ってリーシャの行動を横で見ていたノアが口を開いた。

「……よかったな。今まで通りでいられて」
「何が?」
「家」
「ああ、うん。ダメだったらどうしようって焦ったよ。出て行かずに済んでよかったよね、ほんと」

 リーシャは冗談めかすような苦笑をしながら言った。
 リーシャの反応に何か思うところでもあったのか、ノアからの返事がないまま数秒が経った。
 まさか立ったまま眠ったのだろうかと思ったリーシャが横を見ると、目は開いたままだった。

「……俺は国を追われた方がよかった」
「え? なんで?」
「そうすれば、お前を人間に奪われる心配がなくなる。人間から弾かれればお前は完全に俺たちのものだ。人の寄り付かない場所を見つけてそこで4人で暮らせば、お前を他の人間の目にさらさずに済むし、余計な思考を植え付けられずに済む」

 ノアの独占欲丸出しの考えに、さすがの鈍いリーシャもゾッとしてしまった。それは眠気が一気に吹き飛ぶほどの衝撃だ。
 自分の事を大事に思ってくれるのはありがたいけれど、行き過ぎた執着は恐怖でしかない。

「あ、あのぉ、ノアさん? さすがに、考え方が怖いよ」
「普通だろ。惚れた雌を他に取られたくないのは」

 あながち間違ってはいないのだろうけれど、ノアが言うほどの事を考えるのは稀なのではないだろうかとリーシャは感じた。

「ねぇ、竜の兄弟ってみんなそんな風なの? 兄弟皆が同じ女の子の竜を好きになっちゃった時って」

 ノアは眠そうな目をしながらも、眉をしかめた。

「ふん。俺が知るわけないだろう。その問いはお前と会う前に多くの他の竜と出会っていて、それを鮮明に覚えているのが前提の疑問だとは思わないか? お前は俺たちがここに連れて来られた時の姿を思い出してみろ」
「……ごめん」

 リーシャは疑問が愚問だった事に気がつき額に指をあてた。ノアの方もそれ以降何もってはこない。
 2人の間に流れる気まずい空気に耐えられなくなったリーシャが、この場から逃れるためにきりだした。

「私、自分の部屋に戻るね」

 カップを簡単に洗い、立ち去ろうとした。

「リーシャ」
「何?」

 振り向くと、突然今まで視界に入っていた光が遮られた。と、同時に唇に温かく柔らかいものが触れた。
 リーシャは何が起こっているかわからず混乱し、立ち尽くした。
 しばらくして唇に触れる何かが遠のく感覚がすると、徐々に戻ってきた明かりに照らされ、自分の顔から離れていくノアの顔が見えた。
 リーシャは状況を理解した途端、慌てて口を押えた。

「なん、で……」
「……俺たちにとって、お前が全てなんだ。他の人間も竜もどうでもいい。兄弟とリーシャが居ればそれで。お前が誰と仲良くしようと目を瞑るが、俺たちから離れようとすることは許さない。何があろうとだ」

 そう言い残すとノアはダイニングを立ち去り、向かった先からドアが閉じられる音がした。
 リーシャは今起こったことが受け止められず、しばらくの間呆然としていた。去り際にノアが言った言葉も理解が追い付かないくらいに。
 そしてしばらくして気が付いた。

(あ、あれって、私、ファーストキスじゃなかったっけ⁉ 嘘でしょ⁉ ファーストキスがノアとだなんて‼ ……うぅ……でも、嫌ではなかった? ……かもしれない……)

 頭が回転し始めたリーシャは急激に恥ずかしくなり、その場にしゃがみこんでしばらくの間、悶え苦しんだのだった。
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