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穏やかな夜(2)

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 夕食後、4人は1対1のボードゲームをして過ごした。今日1日が慌ただしかったため、この有意義な時間に心が安らいだ。
 戦績はノアの大勝利、と言えるだろう。他3人のうちの誰かがここから勝ち続けても、寝るまでに巻き返すことは不可能な状態だった。
 リーシャの横に座っていたエリアルがうつらうつらと船を漕ぎ始めた。1日の終わりによく見る光景だ。

「エリアル眠いならベッド行こうね」
「……う、ん……」

 エリアルはすでにほとんど意識を手放している。自分で行かせるのは無理そうだった。
 ルシアも表面には出していなかっただけで、疲れで普段より早く睡魔に襲われているようだ。エリアルにつられたようで両手を上へ伸ばしながら大きなあくびをした。

「ふぁ……俺も眠くなってきたかも」

 ルシアがつぶやいたすぐ後に、エリアルは完全に夢の中に意識を沈め、座ったままリーシャの肩へ寄りかかってしまった。これもよくある事だった。

「またぁ……ごめんルシア。エリアルを部屋まで運んでもらってもいい?」
「ん。わかった」

 ルシアがエリアルを抱え上げようとしたところで、リーシャは服に何か違和感があるような気がした。何かに引っ張られているような感覚だ。
 エリアルを抱え上げようとしたルシアの方にも何かが起きていたようだ。

「ん? おいエリアル、手ぇ離しな?」

 眠るエリアルはリーシャの服を掴んでいた。ルシアが手を開かせようと試みるも、エリアルは思ったより強い力で掴んでいて離す気配はない。

「だめだ。1回起こさねぇと」

 エリアルはまるで子供のように、気持ちよさそうにスヤスヤと眠っている。よだれまで垂らしながら熟睡中だ。
 リーシャは兄弟の部屋に連れて行ってもらうのを諦める事にした。

「はぁ、もういいや。可哀想だから起こさなくていいよ。私も眠たいし。私のベッドに連れて行くから」

 自室に戻ろうと、リーシャは椅子から立ち上がった。それと同時に、リーシャの言葉を聞いたルシアは慌てた。

「はぁ⁉ 一緒に寝るつもりかよ⁉」
「? そうだけど」
「ダメだ、ダメ! それならリーシャが俺らの部屋で寝ろ!」

 ルシアは全力で首を左右に振っていた。

「はぁ? なんでそうなるのよ」
「そりゃ、エリアルだけ一緒に寝かせるわけにはいかないからだ」
「いいじゃない。こんな熟睡してるんだし」

 ルシアの腕の中で眠るエリアルは、リーシャの服を離す様子はなく、傍で発せられる大声でも起きる気配もない。ただ、うるさいと言いたげに眠ったまま顔を歪めることはあった。
 にもかかわらず、ルシアは頑なに主張を曲げることはせず、それなりの声量で反論を続けた。

「ダメだ! こいつはガキみたいな性格してるけど、体は俺らと同じ成熟した雄なんだ! 2人きりで寝かせられるわけないだろ!」
「……ついこの間まで人のベッドに勝手に潜りこんできてたのは誰よ……」

 弟への嫉妬から言っているのはわかっている。
 けれど自分のことを棚に上げで言っているのが引っ掛かり、リーシャはルシアをじっとっとした視線を送った。
 ルシアは、そのことをすっかり頭の片隅に追いやっていたため、想定外の反撃に狼狽えていた。

「うっ。そ、れは……だっ、だとしてもダメだ! 暗い中、俺らの目の届かないところで2人きりになんてさせられない!」

 何を言ってもダメだの一点張りのルシアの必死の抵抗は続いた。
 リーシャはルシアとやりとりしているうちに、一度は眠気が退いたものの、徐々に再び眠気に襲われ始めた。
 ぼんやりし始めて頭が回らなくなってきたリーシャは、仕方がないため盛大に溜め息をついた。

「もう、わかったから。私がそっちの部屋で寝れば文句ないの?」
「! ん。それでいい」

 ルシアは満足のいく結果に、満面の笑みを見せた。
 そんな2人のやり取りを、ノアは無言で見守っていたのだった。
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