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友人(3)

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「あれ? なんで不機嫌?」
「……どのような態度で接すればいいのかがわからない」

 不機嫌というより、ただ単に困った顔だったらしい。声も気だるげだった。
 先ほどレイモンドと口論になり、それを咎めてきた相手への態度。目上の存在。けれど、本人自身は敬われることを望んでいない。
 ノアはそんな相手へどう接すればよいのか決めかねているようだ。
 そんなノアを見たフェンリルは首を傾げた。

「なんか……お前さっきと雰囲気ちがくね? さっきはもっと、はきはきとしたさわやか美青年! みたいな感じだったような気がすんだけど」
「こっちが素だ。国王と話をしていた時の方がいいか?」
「ははっ。お前面白れぇな。ここまで変わるやつそうそういねぇだろ。いいよ素で。俺、畏まられるの嫌いなんだよ」
「……わかった」

 フェンリルの申し出で、ノアは自分がどうあるべきか決めたようだ。わずかにだけれど、声もすっきりしたような感じだった。
 フェンリルは、ノアに手を差し出した。握手を求められていると気が付いたノアはその手をとった。

「よろしくな、ノア」
「ああ、よろしく頼む」

 ノアたちとフェンリルは完全に打ち解けられたようで、いつも何しているのかという他愛のない話や、竜の姿がどうのだとか色々と聞き合っていた。放っておいたらまだしばらく話を続けそうな勢いだ。
 このまま長居をするわけにはいかないと思ったリーシャは、思い切って口を開いた。

「あの、それじゃ、私たちは帰りますね」
「もう帰んのか?」
「はい。用もないのに王宮をうろうろするわけにもいきませんし」

 というのはほとんど口実だった。
 正直なところ、王宮の雰囲気に疲れたため、早く家に帰って休みたかったリーシャだった。

「……送らせようか? 馬車を入り口前に呼ばせるけど」
「いえ、大丈夫です。ノアの竜の姿を見て慌てた街の人たちで、馬車が通れないような状態になってるかもしれませんし。それに、そこまでしてもらうのは気が引けるので」
「そうか」
「はい。それでは、私たちはこれで」

 リーシャは軽く会釈をした。ノアたちもリーシャが動き出したのを見て、フェンリルに別れの挨拶をした。

「では、こちらへ」

 存在を殺していた使用人は、リーシャの意を汲んだようで、5人を先導し始めた。
 リーシャたちが使用人の後を追って出口へと向かっていると、フェンリルがを追いかけてきて、突然リーシャの肩を掴んだ。

「待ってくれ」
「? 何ですか?」
「あーっと、一応言っておきたいことがあるんだ。別に大したことではないんだが……」

 フェンリルは真剣な面持ちだった。そして、申し訳なさそうに続けた。

「他の国の連中にもこいつらが竜だという事は知られちまってるから、もう隠し通すことはできない。だから、あえて親父からこいつらが竜であることを公表してもらう予定だ。調査の結果、人にあだなす存在ではなく、王都としても有能な戦力になるから王都の出入りを許可していた、恐れることはないってな」
「それは、助かります」

 ノアたちの事は、たしかにここだけで片のつく話ではない。
 考え方は人それぞれで、国王の公表で納得してくれる人もいれば、これまで通り竜を恐れたり嫌ったりする人もいるはずだ。むしろ、後者の方が多いだろう。フェンリルも同じように考えていたようだ。
 フェンリルは続けた。

「そうは言ってもな、民のほとんどが竜は危険な存在だと認識しているし、その認識がすぐに変わることはないだろう。レイモンドみたいに親しい者が殺され、憎しみで根本的に受け入れられない者もいるはずだ。しばらくは間違いなく風当たりが強くなると思う。けど、へこたれんじゃねぇぞ? お前らを取り巻く環境もきっと少しずつ良くなるはずだし、俺もそうなるように俺も動くつもりだから」
「あっ、ありがとうございます!」

 リーシャはフェンリルの心遣いがとても嬉しく、心からの笑みがこぼれた。王族に支援してもらえるのはとてもありがたいことだ。
 フェンリルはリーシャの笑顔に満足したようで、自身もニッと笑っていた。

「よし! じゃ、エントランスまで送る」
「え、別にそこまでしなくても」
「俺がこいつらとまだ話してぇんだよ。いいだろ?」
「まぁ、そう言う事でしたら」

 フェンリルは、使用人に案内は自分に任せ本来の仕事に戻るように言うと、宣言通り王宮の外へ着くまでの間ノアたち兄弟とあれこれ話をしていた。

(またお城に来れるようなこと、あるかな?)

 リーシャはこの光景を最後にとまじまじ眺めながら歩いた。




 王宮を出て、フェンリルに別れを告げると、リーシャと3兄弟はギルドには寄らず、このまま森の中の自宅へと帰ることにした。
 シルバーとも城壁を出たところで別れる事になった。

「んじゃ、俺はギルドの方に顔を出してから帰る。気をつけて帰れよ」
「うん、また」

 シルバーがそのまま立ち去ろうとすると、エリアルが手を振った。

「じゃーねー。シルバーのおじちゃん」
「誰がおじちゃんだ! 俺はまだ20代だ!」

 シルバーは怒り気味にそれだけ言い残すと、ギルドへと向かって行った。
 近くにいるのがノアたち兄弟だけになると、リーシャは先ほどまでの王宮での出来事が幻だったかのように感じられた。
 途中で買い物でもして帰ろうかと思い立ったけれど、リーシャたちが家路につくと王都の街は案の定、ノアの来訪により大騒ぎになっていて、どこかに寄って帰る事は出来そうもない状態だった。
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