82 / 419
ターニングポイント
友人(2)
しおりを挟む
「なぁ、リーシャ。こいつ誰? 国王の隣にいたやつだよな? 悪い奴じゃないみたいだけど、信用していい……」
「ちょっ、ちょっと、ルシア!」
どんな相手なのか知らないとはいえ、話もしたことのない初対面の王子に対するあまりにも無礼な物言いにリーシャは慌てて言葉を遮った。
フェンリルはというとルシアの態度を咎めはせず、むしろ上機嫌に歯を見せて笑っていた。
「いいって、気にすんな。俺は王子だからとかそんなのどーでもいいし。つーか、気楽に来られた方が俺も楽だからな。そういや、こいつら3匹……3人? には名乗ってねぇな。俺は、フェンリル・ジュレル・ハイド・クレドニアム。この国の第2王子ってやつさ」
フェンリルが自己紹介すると、ルシアがひらめいたような顔をした。
「ああ! さっき国王って人がリーシャに騎士についてけとか言ってた時に出てきたヤツか! 俺はルシア。兄貴と同じ黒竜だ。よろしくな」
「おう、よろしく」
フェンリルが手を差し出し握手を求めると、ルシアも躊躇うことなく手を差しだした。
どちらも友好的な性格をしているからか、2人の間には身分や種族の壁などないように見えた。
するとルシアが空いている方の手を顎に当てながら、再び口を開いた。
「にしても、あんたの名前長いな。フェンリル……ジュース? あれ? なんつったっけ?」
ルシアが真剣にそんな事を言っている姿にフェンリルは一瞬だけポカンとしていた。けれどすぐにブッと噴き出し、声をあげて笑った。
名前を覚えてもらえていないというだけなのに、何が面白かったのだろうか。
リーシャにとっては面白いどころか、顔が真っ青になるような発言だった。けれどフェンリルにとっては好ましく思ったのだけは間違いようだ。
「ハハハ! いいな、お前。気に入った。俺のことは王子とか様なんかつけねぇで、フェンリルって呼んでくれ。覚えらんねぇなら、そこだけ覚えてればいいから」
「ああ、わかった。フェンリル」
「いいぜいいぜ、その砕けた態度! お前は変わってくれるなよ?」
「? よくわかんねぇけど、とりあえずわかった」
ルシアのことをよほどお気に召したらしい。フェンリルは「どっちだよ」と笑い叫びながら、楽しそうにルシアの背中をバシバシと叩いていた。
笑いが収まると、目尻に浮かんでいた雫を指で拭い、ルシアの背後にいるエリアルを覗き見た。
「で? お前はなんて名前だったっけ?」
「僕?」
「おう」
「僕はね、エリアルだよ!」
エリアルは自身の事を指差しながら、嬉しそうに言った。
フェンリルはエリアルの仕草を見て、本当に子供のようだと思ったのかもしれない。
背丈は低くはあるけれど、子供といえるほど小さくはない。ただ、先ほどの怯えようは青年の反応にも見えなかったようだ。
フェンリルは迷った様子を見せると、ルシアと話していた時よりも少し柔らかな声を出した。
「そっか、エリアルか。お前もフェンリルって呼んでくれていいからな」
「わかった! フェンリルのにぃちゃん!」
「!」
予想外の呼ばれ方に、フェンリルは驚いていたようだけれど、どこか嬉しそうにも見えた。
「にぃちゃんか。それもいいな。そうやって呼ばれたのもずいぶん昔の事だし、弟が増えたみたいだ」
「今はにぃちゃんじゃないの?」
「今はな、皆兄上とか兄様とか堅苦しい呼び方しかしてくれねぇんだよ」
「へー、じゃあこれからは僕がにぃちゃんって呼んであげるね」
「おう。いやー、実の弟たちより可愛げがあっていいな、お前。リーシャのとこはいいやつばかり揃ってて羨ましいかぎりだ」
フェンリルはまたエリアルの頭を撫でた。エリアルも嬉しそうにしている。
ひとしきり撫でまわすと、フェンリルはエリアルの頭に手を載せたままノアの事を見た。
「んで、あんたがノアだったよな」
「……」
ノアは何故か眉間に皺を寄せたまま、口を閉ざしていた。
「ちょっ、ちょっと、ルシア!」
どんな相手なのか知らないとはいえ、話もしたことのない初対面の王子に対するあまりにも無礼な物言いにリーシャは慌てて言葉を遮った。
フェンリルはというとルシアの態度を咎めはせず、むしろ上機嫌に歯を見せて笑っていた。
「いいって、気にすんな。俺は王子だからとかそんなのどーでもいいし。つーか、気楽に来られた方が俺も楽だからな。そういや、こいつら3匹……3人? には名乗ってねぇな。俺は、フェンリル・ジュレル・ハイド・クレドニアム。この国の第2王子ってやつさ」
フェンリルが自己紹介すると、ルシアがひらめいたような顔をした。
「ああ! さっき国王って人がリーシャに騎士についてけとか言ってた時に出てきたヤツか! 俺はルシア。兄貴と同じ黒竜だ。よろしくな」
「おう、よろしく」
フェンリルが手を差し出し握手を求めると、ルシアも躊躇うことなく手を差しだした。
どちらも友好的な性格をしているからか、2人の間には身分や種族の壁などないように見えた。
するとルシアが空いている方の手を顎に当てながら、再び口を開いた。
「にしても、あんたの名前長いな。フェンリル……ジュース? あれ? なんつったっけ?」
ルシアが真剣にそんな事を言っている姿にフェンリルは一瞬だけポカンとしていた。けれどすぐにブッと噴き出し、声をあげて笑った。
名前を覚えてもらえていないというだけなのに、何が面白かったのだろうか。
リーシャにとっては面白いどころか、顔が真っ青になるような発言だった。けれどフェンリルにとっては好ましく思ったのだけは間違いようだ。
「ハハハ! いいな、お前。気に入った。俺のことは王子とか様なんかつけねぇで、フェンリルって呼んでくれ。覚えらんねぇなら、そこだけ覚えてればいいから」
「ああ、わかった。フェンリル」
「いいぜいいぜ、その砕けた態度! お前は変わってくれるなよ?」
「? よくわかんねぇけど、とりあえずわかった」
ルシアのことをよほどお気に召したらしい。フェンリルは「どっちだよ」と笑い叫びながら、楽しそうにルシアの背中をバシバシと叩いていた。
笑いが収まると、目尻に浮かんでいた雫を指で拭い、ルシアの背後にいるエリアルを覗き見た。
「で? お前はなんて名前だったっけ?」
「僕?」
「おう」
「僕はね、エリアルだよ!」
エリアルは自身の事を指差しながら、嬉しそうに言った。
フェンリルはエリアルの仕草を見て、本当に子供のようだと思ったのかもしれない。
背丈は低くはあるけれど、子供といえるほど小さくはない。ただ、先ほどの怯えようは青年の反応にも見えなかったようだ。
フェンリルは迷った様子を見せると、ルシアと話していた時よりも少し柔らかな声を出した。
「そっか、エリアルか。お前もフェンリルって呼んでくれていいからな」
「わかった! フェンリルのにぃちゃん!」
「!」
予想外の呼ばれ方に、フェンリルは驚いていたようだけれど、どこか嬉しそうにも見えた。
「にぃちゃんか。それもいいな。そうやって呼ばれたのもずいぶん昔の事だし、弟が増えたみたいだ」
「今はにぃちゃんじゃないの?」
「今はな、皆兄上とか兄様とか堅苦しい呼び方しかしてくれねぇんだよ」
「へー、じゃあこれからは僕がにぃちゃんって呼んであげるね」
「おう。いやー、実の弟たちより可愛げがあっていいな、お前。リーシャのとこはいいやつばかり揃ってて羨ましいかぎりだ」
フェンリルはまたエリアルの頭を撫でた。エリアルも嬉しそうにしている。
ひとしきり撫でまわすと、フェンリルはエリアルの頭に手を載せたままノアの事を見た。
「んで、あんたがノアだったよな」
「……」
ノアは何故か眉間に皺を寄せたまま、口を閉ざしていた。
0
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説
純潔の寵姫と傀儡の騎士
四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。
世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる