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友人(2)

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「なぁ、リーシャ。こいつ誰? 国王の隣にいたやつだよな? 悪い奴じゃないみたいだけど、信用していい……」
「ちょっ、ちょっと、ルシア!」

 どんな相手なのか知らないとはいえ、話もしたことのない初対面の王子に対するあまりにも無礼な物言いにリーシャは慌てて言葉を遮った。
 フェンリルはというとルシアの態度を咎めはせず、むしろ上機嫌に歯を見せて笑っていた。

「いいって、気にすんな。俺は王子だからとかそんなのどーでもいいし。つーか、気楽に来られた方が俺も楽だからな。そういや、こいつら3匹……3人? には名乗ってねぇな。俺は、フェンリル・ジュレル・ハイド・クレドニアム。この国の第2王子ってやつさ」

 フェンリルが自己紹介すると、ルシアがひらめいたような顔をした。

「ああ! さっき国王って人がリーシャに騎士についてけとか言ってた時に出てきたヤツか! 俺はルシア。兄貴と同じ黒竜だ。よろしくな」
「おう、よろしく」

 フェンリルが手を差し出し握手を求めると、ルシアも躊躇うことなく手を差しだした。
 どちらも友好的な性格をしているからか、2人の間には身分や種族の壁などないように見えた。
 するとルシアが空いている方の手を顎に当てながら、再び口を開いた。

「にしても、あんたの名前長いな。フェンリル……ジュース? あれ? なんつったっけ?」

 ルシアが真剣にそんな事を言っている姿にフェンリルは一瞬だけポカンとしていた。けれどすぐにブッと噴き出し、声をあげて笑った。
 名前を覚えてもらえていないというだけなのに、何が面白かったのだろうか。
 リーシャにとっては面白いどころか、顔が真っ青になるような発言だった。けれどフェンリルにとっては好ましく思ったのだけは間違いようだ。

「ハハハ! いいな、お前。気に入った。俺のことは王子とか様なんかつけねぇで、フェンリルって呼んでくれ。覚えらんねぇなら、そこだけ覚えてればいいから」
「ああ、わかった。フェンリル」
「いいぜいいぜ、その砕けた態度! お前は変わってくれるなよ?」
「? よくわかんねぇけど、とりあえずわかった」

 ルシアのことをよほどお気に召したらしい。フェンリルは「どっちだよ」と笑い叫びながら、楽しそうにルシアの背中をバシバシと叩いていた。
 笑いが収まると、目尻に浮かんでいた雫を指で拭い、ルシアの背後にいるエリアルを覗き見た。

「で? お前はなんて名前だったっけ?」
「僕?」
「おう」
「僕はね、エリアルだよ!」

 エリアルは自身の事を指差しながら、嬉しそうに言った。
 フェンリルはエリアルの仕草を見て、本当に子供のようだと思ったのかもしれない。
 背丈は低くはあるけれど、子供といえるほど小さくはない。ただ、先ほどの怯えようは青年の反応にも見えなかったようだ。
 フェンリルは迷った様子を見せると、ルシアと話していた時よりも少し柔らかな声を出した。

「そっか、エリアルか。お前もフェンリルって呼んでくれていいからな」
「わかった! フェンリルのにぃちゃん!」
「!」

 予想外の呼ばれ方に、フェンリルは驚いていたようだけれど、どこか嬉しそうにも見えた。

「にぃちゃんか。それもいいな。そうやって呼ばれたのもずいぶん昔の事だし、弟が増えたみたいだ」
「今はにぃちゃんじゃないの?」
「今はな、皆兄上とか兄様とか堅苦しい呼び方しかしてくれねぇんだよ」
「へー、じゃあこれからは僕がにぃちゃんって呼んであげるね」
「おう。いやー、実の弟たちより可愛げがあっていいな、お前。リーシャのとこはいいやつばかり揃ってて羨ましいかぎりだ」

 フェンリルはまたエリアルの頭を撫でた。エリアルも嬉しそうにしている。
 ひとしきり撫でまわすと、フェンリルはエリアルの頭に手を載せたままノアの事を見た。

「んで、あんたがノアだったよな」
「……」

 ノアは何故か眉間に皺を寄せたまま、口を閉ざしていた。
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