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王子様の意図(1)
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リーシャは、挨拶に来たというだけなのならば、すぐに立ち去ってほしいと思った。
王宮という本来なら縁遠い場所にいるというだけでも緊張で疲れてしまっているのに、その上フェンリルのノリにあてられ続けては参ってしまうこと間違いなしだ。
けれど、フェンリルは挨拶以外にも用事があったようで、立ち去る気配はない。話も終わらなかった。
「にしても、やっぱ残念だなぁ。もっと美人で胸もデカかったら正室にしてやったのにな」
フェンリルは頬杖を突きニカッとリーシャに笑いかけた。
冗談で言っているのか、本気で言っているのかわからない。
そんな事よりも、自分の口から出た言葉が相手を不快にさせる言葉だと気が付いていないのだろうか。リーシャとしてはいろいろと言いたい事があり、眉間に皺を寄せた。
けれどそれを指摘したのは、リーシャではなかった。
「フェンリル様! 女性に向かってそのようなことを言ってはなりません! ですから……」
「あーはいはい。俺が悪うございましたって」
このようなことが日常茶飯事で日々小言を言われ続けているのか、フェンリルは聞き飽きたという具合に言い放った。
失礼極まりない発言をするこのフェンリルという王子からは、王子の威厳というものが全く感じられない。この国の行く末は大丈夫なのか心配だ。
とは思ったものの、彼が国王を継ぐというわけではないようなので無用な心配なのだろう。
使用人の小言を振り切ったフェンリルは再びリーシャに意識を向けた。
「まあ、今はほんとに挨拶しに来ただけだ。今後遠征出る時には同行してもらうと思うから、そんときはよろしく頼むな」
「え? フェンリル様も……」
「様?」
不意に出た言葉に、フェンリルは不満の色を示した。
他よりもこういった礼儀にうるさそうな眼鏡の使用人もいる手前、「フェンリル」と呼ぶのは気が引ける。けれどフェンリルがわざわざ指摘してくるという事は、絶対にそう呼ばせようとしているということだ。
どうしようと躊躇いながら、眼鏡の使用人の方を見た。
使用人は呆れたような顔をしている。この様子だと注意されることはなさそうだ。なので、リーシャは話を進めるためにフェンリルの望むように呼ぶ事にした。
「えーっと、フェンリルも遠征へ行かれることがあるんですか?」
「おう。俺はこんな狭い城で書類と向き合うような玉じゃねぇからな。戦いでも何でもいいから、外に出る方が性に合ってんだよ。お前が手伝ってくれれば遠征の効率が上がるし、何より騎士たちの生存率も上がる。俺は、騎士たちを誰もかけることなくこの王都に帰ってこさせたいんだ。あいつらにも待ってる家族がいるからな」
リーシャは驚いた。
王族であるフェンリル王子が自ら望んで騎士と遠征に出ているとは思っていなかった。それに、彼の力強い真っ直ぐな瞳からは、騎士たちを思っていることがありありと感じ取れた。
王宮に仕える騎士の仕事は、王都の防衛、国の視察、民の救援など国の維持にかかわる対人間の仕事が多い。
その他にも、ギルドに送られるクエストの一部を請け負っていたりもする。ただし、国内の事案で難易度の高い、緊急性の要するものに限られている。そのせいで、時に実力に見合わない舞台に駆り出され、命を落とす者も多いそうだ。
リーシャはそんな話は聞かされたくなかった。
騎士団の仕事はギルドの仲間とのパーティを組んだ時とは違い、上下関係がはっきりしているため上に立つ人間の指示が絶対。自由が利きにくいのだ。リーシャはそんな自由に動き回れない戦場には立ちたくはなかった。
それなのに、そんな上に立つ人間の思いを聞かされてしまったら、断れるわけがない。
「でも……」
情だけではどうしようもない事態というものもある。
今リーシャがここにいる理由を知らずに言っているのだろうか。おそらく今のリーシャの立ち位置ではフェンリルの思いは叶えられないだろう。
王宮という本来なら縁遠い場所にいるというだけでも緊張で疲れてしまっているのに、その上フェンリルのノリにあてられ続けては参ってしまうこと間違いなしだ。
けれど、フェンリルは挨拶以外にも用事があったようで、立ち去る気配はない。話も終わらなかった。
「にしても、やっぱ残念だなぁ。もっと美人で胸もデカかったら正室にしてやったのにな」
フェンリルは頬杖を突きニカッとリーシャに笑いかけた。
冗談で言っているのか、本気で言っているのかわからない。
そんな事よりも、自分の口から出た言葉が相手を不快にさせる言葉だと気が付いていないのだろうか。リーシャとしてはいろいろと言いたい事があり、眉間に皺を寄せた。
けれどそれを指摘したのは、リーシャではなかった。
「フェンリル様! 女性に向かってそのようなことを言ってはなりません! ですから……」
「あーはいはい。俺が悪うございましたって」
このようなことが日常茶飯事で日々小言を言われ続けているのか、フェンリルは聞き飽きたという具合に言い放った。
失礼極まりない発言をするこのフェンリルという王子からは、王子の威厳というものが全く感じられない。この国の行く末は大丈夫なのか心配だ。
とは思ったものの、彼が国王を継ぐというわけではないようなので無用な心配なのだろう。
使用人の小言を振り切ったフェンリルは再びリーシャに意識を向けた。
「まあ、今はほんとに挨拶しに来ただけだ。今後遠征出る時には同行してもらうと思うから、そんときはよろしく頼むな」
「え? フェンリル様も……」
「様?」
不意に出た言葉に、フェンリルは不満の色を示した。
他よりもこういった礼儀にうるさそうな眼鏡の使用人もいる手前、「フェンリル」と呼ぶのは気が引ける。けれどフェンリルがわざわざ指摘してくるという事は、絶対にそう呼ばせようとしているということだ。
どうしようと躊躇いながら、眼鏡の使用人の方を見た。
使用人は呆れたような顔をしている。この様子だと注意されることはなさそうだ。なので、リーシャは話を進めるためにフェンリルの望むように呼ぶ事にした。
「えーっと、フェンリルも遠征へ行かれることがあるんですか?」
「おう。俺はこんな狭い城で書類と向き合うような玉じゃねぇからな。戦いでも何でもいいから、外に出る方が性に合ってんだよ。お前が手伝ってくれれば遠征の効率が上がるし、何より騎士たちの生存率も上がる。俺は、騎士たちを誰もかけることなくこの王都に帰ってこさせたいんだ。あいつらにも待ってる家族がいるからな」
リーシャは驚いた。
王族であるフェンリル王子が自ら望んで騎士と遠征に出ているとは思っていなかった。それに、彼の力強い真っ直ぐな瞳からは、騎士たちを思っていることがありありと感じ取れた。
王宮に仕える騎士の仕事は、王都の防衛、国の視察、民の救援など国の維持にかかわる対人間の仕事が多い。
その他にも、ギルドに送られるクエストの一部を請け負っていたりもする。ただし、国内の事案で難易度の高い、緊急性の要するものに限られている。そのせいで、時に実力に見合わない舞台に駆り出され、命を落とす者も多いそうだ。
リーシャはそんな話は聞かされたくなかった。
騎士団の仕事はギルドの仲間とのパーティを組んだ時とは違い、上下関係がはっきりしているため上に立つ人間の指示が絶対。自由が利きにくいのだ。リーシャはそんな自由に動き回れない戦場には立ちたくはなかった。
それなのに、そんな上に立つ人間の思いを聞かされてしまったら、断れるわけがない。
「でも……」
情だけではどうしようもない事態というものもある。
今リーシャがここにいる理由を知らずに言っているのだろうか。おそらく今のリーシャの立ち位置ではフェンリルの思いは叶えられないだろう。
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