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黒竜の兄弟(2)
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「おわった……の……」
3匹の戦いを固唾をのんで見守っていたリーシャの口から、無意識に言葉がこぼれた。
戦いは終わったけれど、2匹が人の姿に戻る様子はなかった。ノアは黒竜の姿で目を閉じてその場で佇み、ルシアはどことなく気まずそうに眼を泳がせている。
竜へ戻る姿を大勢の人にさらしてしまったのだ。2人ともこのまま人間の姿に戻っても良いのか迷っているようだ。
辺りが静まり返る中、リーシャに向かって近づいて来る足音がし始めた。足音の主はレインだった。
「リーシャ……この竜……どういうこと?」
レインの落ち着き払ったような声が響いた。
この場にいるレインと同じように思っていた連合軍の人間は、一同にリーシャの方を見た。その視線に耐えられないと感じたリーシャは視線を逸らした。
こうなることは予想できていたはずなのに、ノアとルシアの戦う姿に見入ってしまい、どう振る舞えばいいのか全く考えていなかった。
「えっと、あの、その……」
リーシャはたじたじな返事をすることしかできなかった。
そんなリーシャの姿を見るのに耐えられなくなったエリアルは、庇うように両手を広げてリーシャの前に立った。
「ねぇちゃんをいじめないで! ねぇちゃんは何も悪いことしてないじゃん! にぃちゃんたちも、みんなを守りたいって思ったから元の姿に戻って戦ってくれたんだよ! 倒せたんだから、それで……」
「エリアル!」
「えっ? え? な、なに?」
リーシャはエリアルの失言に気がつき、慌てて言葉を遮った。
エリアルは気がつかないうちに、自分たちが竜であるということを認めてしまっていた。
リーシャも、始めから言い逃れはできないとわかってはいたけれど、どうフォローしていいかわからない状態に焦らずにはいられなかった。
エリアルは、リーシャがなぜ自分の名前を慌てた様子で呼んだのかがわからず、ずっとオロオロしていた。
そんな2人を見ていたレインは大きく息を吐きだした。
「やっぱり。そういうことだったんだね」
既に気づかれていたかもしれないという事実にリーシャは困惑の表情を浮かべた。
「やっぱりって、いつから……」
「ここに来る前に、疑わしい事があったんだ。竜の叫び声を聞いて、その叫びの意味を理解してたみたいだったから。それでもありえないことだと思おうとはしたんだ。けど……その兄弟の正体はやっぱり竜だった。リーシャは知ってたんだよね? そして……シルバーも……」
レインの言葉にリーシャはただただ俯いた。シルバーは眉間にしわを寄せ、レインの問いを否定しはなかったけれど、無言を貫いていた。
リーシャはどうすればいいか必死に考えた。
このまま素直に認めてしまえば、ノアたちが討伐対象にされてしまうかもしれない。だから安易には返事ができなかった。もしかしたら今ここで連合軍と衝突する羽目になるかもしれない。
リーシャはずっと俯いていたけれど、自分たちが回りから向けられている目がどんな目をしているのか、見なくてもわかったような気がした。
雷竜を倒したという歓迎の視線なんてものはそこにはないだろう。戸惑いや恐怖、裏切りだと言わんばかりの視線を向けられているに違いない。
リーシャは怖くて目を閉じた。
すると巨大な何かが、ドスンドスンと地面を揺らし始めた。
目を開けると、1匹の黒竜が地を揺らしながらリーシャの側へやってきていた。この竜はおそらくノアだ。もう1匹と比べると、どことなく体の線が細い。
黒竜は爪先でリーシャを摘み上げ、自身の掌に乗せた。
そして、人ならざる形の口から、人の言葉を発した。
「詮索は不要だ。俺たちにかまうな……エリアル」
「うん……」
ノアが手を地に近づけると、エリアルはその手の上によじ登った。
「おい、シルバー。お前はどうする。この場を離れたいなら連れて行ってやる」
「いや。さすがに事情を知ってるやつが全員この場を離れるわけにはいかねぇだろう。リーシャは前みたいな発作が出てるみたいだし、早く休ませてやってくれ」
ノアの掌の上で、リーシャは顔面蒼白になっていた。
武闘大会の一件での不安定な状態は、やっとのことで収まっていた。けれど、幼いころのトラウマ自体はそう簡単に克服することはできなかった。
「そうか」
ノアはそう言うと空へと飛び上がった。ルシアも、竜の姿のままシルバーに軽く会釈だけすると、後を追って空へと舞い上がる。
連合軍は未だ何が起こっているのか理解できずその場に立ち尽くした。
2匹と2人は、数日前に馬に乗ってきた道を辿り、自分たちの住処へと飛び去って行った。
3匹の戦いを固唾をのんで見守っていたリーシャの口から、無意識に言葉がこぼれた。
戦いは終わったけれど、2匹が人の姿に戻る様子はなかった。ノアは黒竜の姿で目を閉じてその場で佇み、ルシアはどことなく気まずそうに眼を泳がせている。
竜へ戻る姿を大勢の人にさらしてしまったのだ。2人ともこのまま人間の姿に戻っても良いのか迷っているようだ。
辺りが静まり返る中、リーシャに向かって近づいて来る足音がし始めた。足音の主はレインだった。
「リーシャ……この竜……どういうこと?」
レインの落ち着き払ったような声が響いた。
この場にいるレインと同じように思っていた連合軍の人間は、一同にリーシャの方を見た。その視線に耐えられないと感じたリーシャは視線を逸らした。
こうなることは予想できていたはずなのに、ノアとルシアの戦う姿に見入ってしまい、どう振る舞えばいいのか全く考えていなかった。
「えっと、あの、その……」
リーシャはたじたじな返事をすることしかできなかった。
そんなリーシャの姿を見るのに耐えられなくなったエリアルは、庇うように両手を広げてリーシャの前に立った。
「ねぇちゃんをいじめないで! ねぇちゃんは何も悪いことしてないじゃん! にぃちゃんたちも、みんなを守りたいって思ったから元の姿に戻って戦ってくれたんだよ! 倒せたんだから、それで……」
「エリアル!」
「えっ? え? な、なに?」
リーシャはエリアルの失言に気がつき、慌てて言葉を遮った。
エリアルは気がつかないうちに、自分たちが竜であるということを認めてしまっていた。
リーシャも、始めから言い逃れはできないとわかってはいたけれど、どうフォローしていいかわからない状態に焦らずにはいられなかった。
エリアルは、リーシャがなぜ自分の名前を慌てた様子で呼んだのかがわからず、ずっとオロオロしていた。
そんな2人を見ていたレインは大きく息を吐きだした。
「やっぱり。そういうことだったんだね」
既に気づかれていたかもしれないという事実にリーシャは困惑の表情を浮かべた。
「やっぱりって、いつから……」
「ここに来る前に、疑わしい事があったんだ。竜の叫び声を聞いて、その叫びの意味を理解してたみたいだったから。それでもありえないことだと思おうとはしたんだ。けど……その兄弟の正体はやっぱり竜だった。リーシャは知ってたんだよね? そして……シルバーも……」
レインの言葉にリーシャはただただ俯いた。シルバーは眉間にしわを寄せ、レインの問いを否定しはなかったけれど、無言を貫いていた。
リーシャはどうすればいいか必死に考えた。
このまま素直に認めてしまえば、ノアたちが討伐対象にされてしまうかもしれない。だから安易には返事ができなかった。もしかしたら今ここで連合軍と衝突する羽目になるかもしれない。
リーシャはずっと俯いていたけれど、自分たちが回りから向けられている目がどんな目をしているのか、見なくてもわかったような気がした。
雷竜を倒したという歓迎の視線なんてものはそこにはないだろう。戸惑いや恐怖、裏切りだと言わんばかりの視線を向けられているに違いない。
リーシャは怖くて目を閉じた。
すると巨大な何かが、ドスンドスンと地面を揺らし始めた。
目を開けると、1匹の黒竜が地を揺らしながらリーシャの側へやってきていた。この竜はおそらくノアだ。もう1匹と比べると、どことなく体の線が細い。
黒竜は爪先でリーシャを摘み上げ、自身の掌に乗せた。
そして、人ならざる形の口から、人の言葉を発した。
「詮索は不要だ。俺たちにかまうな……エリアル」
「うん……」
ノアが手を地に近づけると、エリアルはその手の上によじ登った。
「おい、シルバー。お前はどうする。この場を離れたいなら連れて行ってやる」
「いや。さすがに事情を知ってるやつが全員この場を離れるわけにはいかねぇだろう。リーシャは前みたいな発作が出てるみたいだし、早く休ませてやってくれ」
ノアの掌の上で、リーシャは顔面蒼白になっていた。
武闘大会の一件での不安定な状態は、やっとのことで収まっていた。けれど、幼いころのトラウマ自体はそう簡単に克服することはできなかった。
「そうか」
ノアはそう言うと空へと飛び上がった。ルシアも、竜の姿のままシルバーに軽く会釈だけすると、後を追って空へと舞い上がる。
連合軍は未だ何が起こっているのか理解できずその場に立ち尽くした。
2匹と2人は、数日前に馬に乗ってきた道を辿り、自分たちの住処へと飛び去って行った。
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