61 / 419
ターニングポイント
竜の怒り(2)
しおりを挟む
「喜ぶのは後にしてください! まだ片翼を落としただけなんです! 危険な状態に変わりはありません!」
そう訴えかけると、集まって来ていた者たちはハッとし、リーシャの事を見た。
リーシャの必死な表情を見て危機的状況は去っていないのだと気づいたようで、皆表情を引き締めた。
「そっ、そうだ、彼女の言う通りだ! 皆、ラディウスに続くんだ! あの竜を討伐するぞ‼」
「おおおお‼」
連合軍のリーダーである男性が声を上げると、各々雷竜に向かって行った。
剣や槍の使い手たちは巨体目掛け突撃し、魔法使いたちは直接魔法で雷竜を攻撃したり、突撃していった者たちのサポートに回ったり、それぞれの役割に徹した。
時間が経つほどに戦いの激しさは増していった。
ただ、人間側からの攻撃は全くと言っていいほどに雷竜にダメージを与えられずにいる。
直撃したと思っても硬い鱗に守られている竜には大した痛みにもならないようで、よろめきすらしない。これほどまでにダメージになっていないとなると、片翼を切り落とせたのが不思議なくらいだった。
対する人々の顔には焦りや疲労から苦痛の色が浮かんでいる。死者は出ていないものの、軍は壊滅に近い状態になっていた。
そんな中でもラディウスは1人雷竜に地道にダメージを与え続けていた。現状では彼の剣術があの竜への唯一の対抗手段だ。
リーシャもできる限りの魔法でラディウスを援護し続けている。けれどもともと底をつきかけた魔力量だ。またいつ立っていられなくなるかわからない。
(この戦況を変える一手が欲しい……)
このままでは先に連合軍が力尽きてしまいそうな状況に、リーシャはそう思わずにはいられなかった。
「リーシャ!」
後方からリーシャを呼ぶ声がした。声につられて振り返ると、ノアたち兄弟とシルバー、レインが走って向かってくる姿が見えた。
「ノア! ルシア! エリアル!」
「ねぇちゃーん」
エリアルが我先にと全力で走り出した。けれど、その横をいとも簡単にルシアが追い抜き、リーシャを抱きしめた。
思ってもみなかった相手からの抱擁に、リーシャは戸惑った。
「ちょっ、えっ? な、なに⁉」
「よかった……無事で、ほんとよかった……」
相当心配していたようで、ルシアのリーシャを抱きしめる腕の力がさらに強くなった。
「そう簡単にやられるほど、やわじゃないって」
「それは知ってるけど……それでも心配だったんだ」
そっとルシアの手が頬に添えられた。
視線の先にある顔は心配そうな顔をしていた。けれど、リーシャの事を見つめる瞳は熱をはらんでいる。そして、その顔は少しずつリーシャの顔へと近づけられた。
リーシャはどうしていいかわからなかった。
近づいてくる顔に見とれ、無意識にルシアのその行動を受け入れていた。頭がぼーっとする中、まるでこうするのが当たり前なのだというように。
「おーい、ラブシーンは時と場合を選んでからしろよー」
シルバーの声でリーシャは現実に引き戻された。
周辺を見渡すと、数人の視線が自分たちに向いていた。ノアとエリアルも仏頂面でリーシャたちの事を見ている。
それに気がついたリーシャはルシアを押しのけ、無意識に呟いた。
「ちがっ……え? なんで、私……」
今の自分の行動を他人に見られていたと思うと、顔から火が出そうだった。
恥ずかしさが限界まで達すると熱を帯びた頬を両手で包み、誰もいない方へと顔を背けた。
そう訴えかけると、集まって来ていた者たちはハッとし、リーシャの事を見た。
リーシャの必死な表情を見て危機的状況は去っていないのだと気づいたようで、皆表情を引き締めた。
「そっ、そうだ、彼女の言う通りだ! 皆、ラディウスに続くんだ! あの竜を討伐するぞ‼」
「おおおお‼」
連合軍のリーダーである男性が声を上げると、各々雷竜に向かって行った。
剣や槍の使い手たちは巨体目掛け突撃し、魔法使いたちは直接魔法で雷竜を攻撃したり、突撃していった者たちのサポートに回ったり、それぞれの役割に徹した。
時間が経つほどに戦いの激しさは増していった。
ただ、人間側からの攻撃は全くと言っていいほどに雷竜にダメージを与えられずにいる。
直撃したと思っても硬い鱗に守られている竜には大した痛みにもならないようで、よろめきすらしない。これほどまでにダメージになっていないとなると、片翼を切り落とせたのが不思議なくらいだった。
対する人々の顔には焦りや疲労から苦痛の色が浮かんでいる。死者は出ていないものの、軍は壊滅に近い状態になっていた。
そんな中でもラディウスは1人雷竜に地道にダメージを与え続けていた。現状では彼の剣術があの竜への唯一の対抗手段だ。
リーシャもできる限りの魔法でラディウスを援護し続けている。けれどもともと底をつきかけた魔力量だ。またいつ立っていられなくなるかわからない。
(この戦況を変える一手が欲しい……)
このままでは先に連合軍が力尽きてしまいそうな状況に、リーシャはそう思わずにはいられなかった。
「リーシャ!」
後方からリーシャを呼ぶ声がした。声につられて振り返ると、ノアたち兄弟とシルバー、レインが走って向かってくる姿が見えた。
「ノア! ルシア! エリアル!」
「ねぇちゃーん」
エリアルが我先にと全力で走り出した。けれど、その横をいとも簡単にルシアが追い抜き、リーシャを抱きしめた。
思ってもみなかった相手からの抱擁に、リーシャは戸惑った。
「ちょっ、えっ? な、なに⁉」
「よかった……無事で、ほんとよかった……」
相当心配していたようで、ルシアのリーシャを抱きしめる腕の力がさらに強くなった。
「そう簡単にやられるほど、やわじゃないって」
「それは知ってるけど……それでも心配だったんだ」
そっとルシアの手が頬に添えられた。
視線の先にある顔は心配そうな顔をしていた。けれど、リーシャの事を見つめる瞳は熱をはらんでいる。そして、その顔は少しずつリーシャの顔へと近づけられた。
リーシャはどうしていいかわからなかった。
近づいてくる顔に見とれ、無意識にルシアのその行動を受け入れていた。頭がぼーっとする中、まるでこうするのが当たり前なのだというように。
「おーい、ラブシーンは時と場合を選んでからしろよー」
シルバーの声でリーシャは現実に引き戻された。
周辺を見渡すと、数人の視線が自分たちに向いていた。ノアとエリアルも仏頂面でリーシャたちの事を見ている。
それに気がついたリーシャはルシアを押しのけ、無意識に呟いた。
「ちがっ……え? なんで、私……」
今の自分の行動を他人に見られていたと思うと、顔から火が出そうだった。
恥ずかしさが限界まで達すると熱を帯びた頬を両手で包み、誰もいない方へと顔を背けた。
0
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる