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雷竜の出現(2)
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エリアルは森の中を走った。今までこんなにも必死になって走ったことはない。つらくて何度も足を止めてしまいたくなった。
けれど、リーシャとの約束を守るためにエリアルは足を止めなかった。
向かう先に人影が見えた。
その人物もどこかに向かおうと走っているようだった。けれどその方角を見失ってでもいるのか、途中で足を止めて辺りを見渡している。
エリアルにはその人物の背格好に見覚えがあった。彼が走り出す前にと、慌てて声をかけた。
「ラディウスのにぃちゃん!」
名を呼ぶとその人物はエリアルの方を向いた。やはりラディウスだ。
「君は……リーシャちゃんのところの子だね。さっき竜のような声が聞こえたと思うんだけど、何か知ってる?」
「うん、知ってる! 王都があったところにいた! 僕が見つけたんだ。最初は小っちゃかったけど、今はすっごい大きくなってて、ねぇちゃんが足止めするって!」
焦るエリアルは、とにかく言葉を並び立てた。それで言いたいことが伝わるかどうかわからないけれど、早くリーシャのところへ行ってあげてほしいと一生懸命伝えようとしていた。
ラディウスは焦っているエリアルの姿と王都があったところ、つまりはアイズリークの跡地に竜がいて、それをリーシャが足止めしているという言葉を聞き大体の状態を理解した。このままではリーシャが危ない。
「やっぱり……跡地はきちんと捜索できてなかったんだね。わかった。すぐにリーシャちゃんのところへ行くから、君は他の人にも竜はアイズリークにいるってことを伝えて回ってくれるかい?」
「うん! そのつもり!」
エリアルはコクリと頷いた。
ラディウスなら何があってもリーシャを守ってくれるはず。
エリアルは少しだけ安心し、自分の役割を果たすため再び森の中を走り出した。
人を見かけるたび、エリアルは足を止めることなく竜の居場所を叫び続けた。
けれど、どれだけ連合軍の人に会えても1番会いたいノアとルシアにはなかなか出会えずにいた。
側にリーシャも兄たちもいない。
エリアルの中には不安が募っていった。
「にぃちゃんたちどこへ行ったんだよぉ……にぃちゃぁぁぁぁん‼」
エリアルはついに立ち止まり、雷竜の咆哮に負けないくらいの大声で兄たちを呼んだ。
すると、遠くからエリアルの声に応じる声が微かに聞こえた。
「エリアル!」
「! にぃちゃん‼」
人間では聞き取れないほど遠くから聞こえてくる声。それはよく聞きなれたルシアの声だった。
兄ともう少しで会えると思ったエリアルは「どこにいるの?」と叫び、それに答えて微かに聞こえてくる声を頼りに走って行く。
ルシアの方もエリアルの叫ぶ声を頼りに走っているようだ。聞こえてくる声はすぐに大きくなってきた。
森の中を突き進んでいくと遠くの木々の間から、エリアルの方へ向かってくる人影が見えた。人影は4つ。その中にはノアの姿もあった。
「エリアル!」
エリアルは自分を呼ぶルシアに、勢いよく飛びついた。
このまま泣きついていたかったけれど、今はそんな場合ではないことを思い出した。早くリーシャのところへ戻らなければならない。
「リーシャねぇちゃんが竜のにぃちゃんと戦ってる! 早く行かないと! 竜のにぃちゃん、僕とねぇちゃんを殺すって叫んでた!」
「わかってる。俺らにも聞こえてたから。早く行ってやんねぇとな」
竜の咆哮が聞こえたとき、ノアとルシアはリーシャとエリアルの危機をすぐに悟った。けれど、どこからか響き渡ってきた、たった1度の咆哮だけではどの方角へ向かえばいいかわからなかった。
ノアとルシアはどうにか合流できたものの、どちらも向かうべき方向がわからず困り果てていた。そんなところにエリアルの声が聞こえてきたのだ。
ルシアは、やっとリーシャのところへ向かえると気持ちばかりが先走り、周りの状況が見えなくなっていた。
焦りで余計なことを口走るルシアの後頭部を、ノアがバシンと1発叩いた。
「いって!」
「ルシア。落ち着け。そして口を閉じろ」
「なんだよ! 落ち着いていられるわけねぇだろ! 兄貴も聞いただろ、あの声を! あのヤロー本気でリーシャのことを……」
ノアはルシアの胸ぐらを掴み上げ、小さく冷ややかな声で言った。
「この場にいるのはシルバーだけではない。シュレインもいるんだぞ。あいつは勘が鋭い」
ルシアはハッとした。
エリアルも含め、自分たちが余計なことを口走っていたことにようやく気が付き、気まずそうな顔になった。
「わりぃ……」
ルシアが口を閉じると、ノアは掴んでいた手を離した。
けれどノアの懸念は現実のものとなってしまった。
レインは不審に思う目つきでルシアたちの事を見ていた。
「ねぇ、竜のにぃちゃんってどういうこと? リーシャを殺すって聞こえたって、さっき聞こえてきたのは竜の咆哮だったよね?」
「ちっ」
さすがのノアも頭を抱え、押し黙ってしまった。
どう考えても弁明のしようがない。別々の場所にいたルシアとエリアルが、揃って似たようなことを言ってしまっているため、勘違いとしてごまかすのも難しい。
かといって、リーシャの判断なしに正直に話してしまうこともできない。それで被害に遭うのは主にリーシャなのだから。
そんなときに、助け舟を出してくれたのはやはりシルバーだった。
「レイン。その話はあとだ。今はリーシャと合流するのが先決だ」
「……シルバーも1枚噛んでるってことだね……わかった。今は聞かない。けど、後で必ず教えて」
「……ああ、わかった」
レインは渋々ながらも、この話を保留にすることに納得した。
このまま忘れてくれるのが1番ありがたいけれど、相手はレインだ。そうはいかないだろう。
気まずさを抱えてしまった5人は、急いでリーシャの元へ向かうのだった。
けれど、リーシャとの約束を守るためにエリアルは足を止めなかった。
向かう先に人影が見えた。
その人物もどこかに向かおうと走っているようだった。けれどその方角を見失ってでもいるのか、途中で足を止めて辺りを見渡している。
エリアルにはその人物の背格好に見覚えがあった。彼が走り出す前にと、慌てて声をかけた。
「ラディウスのにぃちゃん!」
名を呼ぶとその人物はエリアルの方を向いた。やはりラディウスだ。
「君は……リーシャちゃんのところの子だね。さっき竜のような声が聞こえたと思うんだけど、何か知ってる?」
「うん、知ってる! 王都があったところにいた! 僕が見つけたんだ。最初は小っちゃかったけど、今はすっごい大きくなってて、ねぇちゃんが足止めするって!」
焦るエリアルは、とにかく言葉を並び立てた。それで言いたいことが伝わるかどうかわからないけれど、早くリーシャのところへ行ってあげてほしいと一生懸命伝えようとしていた。
ラディウスは焦っているエリアルの姿と王都があったところ、つまりはアイズリークの跡地に竜がいて、それをリーシャが足止めしているという言葉を聞き大体の状態を理解した。このままではリーシャが危ない。
「やっぱり……跡地はきちんと捜索できてなかったんだね。わかった。すぐにリーシャちゃんのところへ行くから、君は他の人にも竜はアイズリークにいるってことを伝えて回ってくれるかい?」
「うん! そのつもり!」
エリアルはコクリと頷いた。
ラディウスなら何があってもリーシャを守ってくれるはず。
エリアルは少しだけ安心し、自分の役割を果たすため再び森の中を走り出した。
人を見かけるたび、エリアルは足を止めることなく竜の居場所を叫び続けた。
けれど、どれだけ連合軍の人に会えても1番会いたいノアとルシアにはなかなか出会えずにいた。
側にリーシャも兄たちもいない。
エリアルの中には不安が募っていった。
「にぃちゃんたちどこへ行ったんだよぉ……にぃちゃぁぁぁぁん‼」
エリアルはついに立ち止まり、雷竜の咆哮に負けないくらいの大声で兄たちを呼んだ。
すると、遠くからエリアルの声に応じる声が微かに聞こえた。
「エリアル!」
「! にぃちゃん‼」
人間では聞き取れないほど遠くから聞こえてくる声。それはよく聞きなれたルシアの声だった。
兄ともう少しで会えると思ったエリアルは「どこにいるの?」と叫び、それに答えて微かに聞こえてくる声を頼りに走って行く。
ルシアの方もエリアルの叫ぶ声を頼りに走っているようだ。聞こえてくる声はすぐに大きくなってきた。
森の中を突き進んでいくと遠くの木々の間から、エリアルの方へ向かってくる人影が見えた。人影は4つ。その中にはノアの姿もあった。
「エリアル!」
エリアルは自分を呼ぶルシアに、勢いよく飛びついた。
このまま泣きついていたかったけれど、今はそんな場合ではないことを思い出した。早くリーシャのところへ戻らなければならない。
「リーシャねぇちゃんが竜のにぃちゃんと戦ってる! 早く行かないと! 竜のにぃちゃん、僕とねぇちゃんを殺すって叫んでた!」
「わかってる。俺らにも聞こえてたから。早く行ってやんねぇとな」
竜の咆哮が聞こえたとき、ノアとルシアはリーシャとエリアルの危機をすぐに悟った。けれど、どこからか響き渡ってきた、たった1度の咆哮だけではどの方角へ向かえばいいかわからなかった。
ノアとルシアはどうにか合流できたものの、どちらも向かうべき方向がわからず困り果てていた。そんなところにエリアルの声が聞こえてきたのだ。
ルシアは、やっとリーシャのところへ向かえると気持ちばかりが先走り、周りの状況が見えなくなっていた。
焦りで余計なことを口走るルシアの後頭部を、ノアがバシンと1発叩いた。
「いって!」
「ルシア。落ち着け。そして口を閉じろ」
「なんだよ! 落ち着いていられるわけねぇだろ! 兄貴も聞いただろ、あの声を! あのヤロー本気でリーシャのことを……」
ノアはルシアの胸ぐらを掴み上げ、小さく冷ややかな声で言った。
「この場にいるのはシルバーだけではない。シュレインもいるんだぞ。あいつは勘が鋭い」
ルシアはハッとした。
エリアルも含め、自分たちが余計なことを口走っていたことにようやく気が付き、気まずそうな顔になった。
「わりぃ……」
ルシアが口を閉じると、ノアは掴んでいた手を離した。
けれどノアの懸念は現実のものとなってしまった。
レインは不審に思う目つきでルシアたちの事を見ていた。
「ねぇ、竜のにぃちゃんってどういうこと? リーシャを殺すって聞こえたって、さっき聞こえてきたのは竜の咆哮だったよね?」
「ちっ」
さすがのノアも頭を抱え、押し黙ってしまった。
どう考えても弁明のしようがない。別々の場所にいたルシアとエリアルが、揃って似たようなことを言ってしまっているため、勘違いとしてごまかすのも難しい。
かといって、リーシャの判断なしに正直に話してしまうこともできない。それで被害に遭うのは主にリーシャなのだから。
そんなときに、助け舟を出してくれたのはやはりシルバーだった。
「レイン。その話はあとだ。今はリーシャと合流するのが先決だ」
「……シルバーも1枚噛んでるってことだね……わかった。今は聞かない。けど、後で必ず教えて」
「……ああ、わかった」
レインは渋々ながらも、この話を保留にすることに納得した。
このまま忘れてくれるのが1番ありがたいけれど、相手はレインだ。そうはいかないだろう。
気まずさを抱えてしまった5人は、急いでリーシャの元へ向かうのだった。
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