55 / 419
ターニングポイント
捜索(2)
しおりを挟む
アイズリークはこの森抜け、少し行ったところに存在していた。
ほんの数週間前までなら、すぐに城壁が見えていたはず。なのに、今ではいつまで歩いても城壁は現れない。
代わりに見えてきたのは、見るも無残なアイズリークの姿だった。
「これは……ひどいね」
「うわぁ。なぁんにもないや」
それしか言葉が出なかった。
跡地となったアイズリークは想像通り、崩れた建物の瓦礫ばかり。
よほど雷竜が暴れたようで、驚くほどに見渡しが良かった。これほど何もないなら、雷竜は住みついていないと判断し、今回の捜索地域から除外されるのも当然だ。
しばらくの間、リーシャたちは足元に気を付けながら、跡地を歩き回った。
さすがにいないだろうと思えるような、ウサギが通り抜けられるくらいの隙間も覗き込み、念入りに調べていく。
「いないねぇ」
「そうだね。私たちの歩く音くらいしか物音しないし……やっぱり、ここにはいないのかもね」
「うーん、見つからないならそろそろ戻る? 森の中も探してないところがまだある……あっ!」
途中で言葉を止めたエリアルの視線の先には、この荒れ果てた地で数少ない、大きな瓦礫の山があった。エリアルはそこへ走って行き、山によじ登り始めた。
「この上からなら遠くまで見えるんじゃないかな? 何か動いたらきっとすぐにわかるよ!」
頂上に着くとエリアルは瓦礫の上に立ち、じっと周りを見渡した。足場の悪さに、エリアルの足はかすかにプルプルと震えている。
「エリアル! 落ちて怪我しないでよ!」
「わかってるよー……あれ?」
エリアルが足元の瓦礫のすぐ下を覗き込んだ。リーシャがいる側とは反対側に何かがあったようだ。
どうやらこの瓦礫の山は、小さな要塞のようになっているらしい。
エリアルがのぞき込んでいるのは瓦礫の要塞の中央だ。
何を見つけたのかわからないリーシャは、大きな声でエリアルに呼びかけた。
「どうしたの?」
「あのね、今この下からなんか聞こえた気がしたの。でも、暗くてよく見えない」
「何が落ちてるかわかんないから、中に入っちゃだめだよ」
「わかってるー」
さすがに、ここまであからさまに隠れやすそうな場所なら、前に捜索した人たちが探しているだろう。
けれど森を捜索しても見つからないという事実もある。もしかしたら捜索後にここに住みついた可能性がなくもない。
エリアルは目を細め、だんだん前のめりになっていった。
「うーん? ……あぁぁぁぁぁぁぁ‼」
エリアルは声を上げたかと思うと、突然リーシャの方へ振り返った。
「ねぇちゃん! いた!」
「え?」
「ちっちゃい金色のやついたよ! 僕よりちっちゃいの!」
エリアルが叫んでいる間に、リーシャは小さな要塞の辺りに妙な魔力が流れ始めたのを感じとった。
魔力は瓦礫の向こうの、ある1点に集中している。
(まずい‼)
リーシャは、大きな魔法がエリアルに向けて発動されそうになっている事に気がついた。
「エリアル‼ そこから離れて‼」
「なんで?」
「いいから! 急いで‼」
リーシャの慌て方につられ、エリアルは急いで瓦礫の山から飛び降りた。
次の瞬間、瓦礫の向こう側がバチバチと音を立てて光ったかと思うと、大きな光線が先ほどまでエリアルが乗っていた瓦礫を吹き飛ばした。
「わわっ!」
慌てていたエリアルは着地に失敗し、前のめりに転んでしまった。
けれど、それが幸いして間一髪で突然の攻撃から逃れることができた。普通に着地していたら上半身が吹き飛んでいたかもしれない。
リーシャは慌てて駆け出した。
早くエリアルを連れてこの場を離れなければただでは済まない。今の攻撃の威力からして、エリアルをかばいつつ、リーシャ一人で戦うには相手が悪すぎる。
リーシャが必死に足を動かしていると、先ほど光が発せられた場所で巨大化する、金色の何かが視界に入った。それが何なのか、確認している暇など今はない。
リーシャはエリアルの側まで行くと、しゃがんで顔を覗き込んだ。
「エリアル! 大丈夫⁉」
「うん、へーき。でも顎が痛いや」
倒れた拍子に擦りむいたようで、エリアルの顎にはうっすらと血が滲んでいた。
「後で治してあげるから、急いでここから逃げるよ」
「う、うん」
リーシャはエリアルに手を貸し、立ち上がらせた。
ふと、自分たちの足元に影が落ちている事に気がついた。まるでそこに木陰でもあるかのように異様に大きい影。
見上げると、以前戦った黒竜よりもさらに大きな竜がリーシャたちを見下ろしながら佇んでいた。
竜の体の色は、竜の種類を表している。
目の前にいる竜は黄色とも金色ともいえるような鱗を纏っていた。その色は、その竜が電気の魔法を得意とする竜であることを意味する。
リーシャの頭の中に、誰でもわかる1つの答えが導き出された。
(間違いない。この王都を滅ぼしたのは、この竜だ……)
まさかこんな風に遭遇するとは思っていなかったリーシャは、思わず後ずさった。
「グオオ! グアオオォォォォォォォォ‼」
雷竜がリーシャたちに向けて放った咆哮が、あたり一帯に響き渡った。
ほんの数週間前までなら、すぐに城壁が見えていたはず。なのに、今ではいつまで歩いても城壁は現れない。
代わりに見えてきたのは、見るも無残なアイズリークの姿だった。
「これは……ひどいね」
「うわぁ。なぁんにもないや」
それしか言葉が出なかった。
跡地となったアイズリークは想像通り、崩れた建物の瓦礫ばかり。
よほど雷竜が暴れたようで、驚くほどに見渡しが良かった。これほど何もないなら、雷竜は住みついていないと判断し、今回の捜索地域から除外されるのも当然だ。
しばらくの間、リーシャたちは足元に気を付けながら、跡地を歩き回った。
さすがにいないだろうと思えるような、ウサギが通り抜けられるくらいの隙間も覗き込み、念入りに調べていく。
「いないねぇ」
「そうだね。私たちの歩く音くらいしか物音しないし……やっぱり、ここにはいないのかもね」
「うーん、見つからないならそろそろ戻る? 森の中も探してないところがまだある……あっ!」
途中で言葉を止めたエリアルの視線の先には、この荒れ果てた地で数少ない、大きな瓦礫の山があった。エリアルはそこへ走って行き、山によじ登り始めた。
「この上からなら遠くまで見えるんじゃないかな? 何か動いたらきっとすぐにわかるよ!」
頂上に着くとエリアルは瓦礫の上に立ち、じっと周りを見渡した。足場の悪さに、エリアルの足はかすかにプルプルと震えている。
「エリアル! 落ちて怪我しないでよ!」
「わかってるよー……あれ?」
エリアルが足元の瓦礫のすぐ下を覗き込んだ。リーシャがいる側とは反対側に何かがあったようだ。
どうやらこの瓦礫の山は、小さな要塞のようになっているらしい。
エリアルがのぞき込んでいるのは瓦礫の要塞の中央だ。
何を見つけたのかわからないリーシャは、大きな声でエリアルに呼びかけた。
「どうしたの?」
「あのね、今この下からなんか聞こえた気がしたの。でも、暗くてよく見えない」
「何が落ちてるかわかんないから、中に入っちゃだめだよ」
「わかってるー」
さすがに、ここまであからさまに隠れやすそうな場所なら、前に捜索した人たちが探しているだろう。
けれど森を捜索しても見つからないという事実もある。もしかしたら捜索後にここに住みついた可能性がなくもない。
エリアルは目を細め、だんだん前のめりになっていった。
「うーん? ……あぁぁぁぁぁぁぁ‼」
エリアルは声を上げたかと思うと、突然リーシャの方へ振り返った。
「ねぇちゃん! いた!」
「え?」
「ちっちゃい金色のやついたよ! 僕よりちっちゃいの!」
エリアルが叫んでいる間に、リーシャは小さな要塞の辺りに妙な魔力が流れ始めたのを感じとった。
魔力は瓦礫の向こうの、ある1点に集中している。
(まずい‼)
リーシャは、大きな魔法がエリアルに向けて発動されそうになっている事に気がついた。
「エリアル‼ そこから離れて‼」
「なんで?」
「いいから! 急いで‼」
リーシャの慌て方につられ、エリアルは急いで瓦礫の山から飛び降りた。
次の瞬間、瓦礫の向こう側がバチバチと音を立てて光ったかと思うと、大きな光線が先ほどまでエリアルが乗っていた瓦礫を吹き飛ばした。
「わわっ!」
慌てていたエリアルは着地に失敗し、前のめりに転んでしまった。
けれど、それが幸いして間一髪で突然の攻撃から逃れることができた。普通に着地していたら上半身が吹き飛んでいたかもしれない。
リーシャは慌てて駆け出した。
早くエリアルを連れてこの場を離れなければただでは済まない。今の攻撃の威力からして、エリアルをかばいつつ、リーシャ一人で戦うには相手が悪すぎる。
リーシャが必死に足を動かしていると、先ほど光が発せられた場所で巨大化する、金色の何かが視界に入った。それが何なのか、確認している暇など今はない。
リーシャはエリアルの側まで行くと、しゃがんで顔を覗き込んだ。
「エリアル! 大丈夫⁉」
「うん、へーき。でも顎が痛いや」
倒れた拍子に擦りむいたようで、エリアルの顎にはうっすらと血が滲んでいた。
「後で治してあげるから、急いでここから逃げるよ」
「う、うん」
リーシャはエリアルに手を貸し、立ち上がらせた。
ふと、自分たちの足元に影が落ちている事に気がついた。まるでそこに木陰でもあるかのように異様に大きい影。
見上げると、以前戦った黒竜よりもさらに大きな竜がリーシャたちを見下ろしながら佇んでいた。
竜の体の色は、竜の種類を表している。
目の前にいる竜は黄色とも金色ともいえるような鱗を纏っていた。その色は、その竜が電気の魔法を得意とする竜であることを意味する。
リーシャの頭の中に、誰でもわかる1つの答えが導き出された。
(間違いない。この王都を滅ぼしたのは、この竜だ……)
まさかこんな風に遭遇するとは思っていなかったリーシャは、思わず後ずさった。
「グオオ! グアオオォォォォォォォォ‼」
雷竜がリーシャたちに向けて放った咆哮が、あたり一帯に響き渡った。
0
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる