52 / 419
ターニングポイント
3兄弟の真意(1)
しおりを挟む
「そんじゃあ、俺らも明日からのこと決めとくか。そうだなぁ……捜索は3つの班に分けちまうか。ノアたちを一人で行動させるのは心配だし、2人1組の方がその場その場での見落としが減るだろうからな」
いつものようにシルバーが場を仕切り始めた。こういう場では本当に頼りになる男性なのだ。
王都で出会う時はめんどくさがりで強引で、問題も多い。
それでもリーシャがシルバーとパーティを組むのを嫌だと思わないのは、こういう頼りがいがあるというのが大きかった。レインやギルドの他の人間も同じように思っているだろう。
ノアたち兄弟もシルバーにこの場を任せ、全員が大柄の男へと視線を向けた。
「まずはリーシャ、お前はエリアルと行け」
「うん。わかった」
実力を考慮しての妥当な判断。それ以外の事情も含めても間違いなく最善だ。
移動中、リーシャとあまり話すことができなかったエリアルは我慢の限界の様子なのだ。この地に着いてから妙に甘えてくるのはそのせいなのだろう。
エリアルは飛び上がって喜び、その勢いのままリーシャへ飛びついた。
「やったぁ‼ リーシャねぇちゃん、頑張ろうね!」
エリアルはリーシャのことをギュッと抱きしめ、キラキラと目を輝かせた。
雷竜との戦闘を控えているのだ。気を引き締めなければと思うのに、いつもゆるっとしているエリアルといると気が抜けてしまう。
けれどそんなエリアルの姿を見ていると、それも悪い事ではないかもしれないとふと気がついた。
本格的に活動を始めるのは明日。ずっと気を張り続けるのもよくないかもしれないと思い直し、リーシャはエリアルに微笑みかけた。
「うん、そうだね」
リーシャの反応に満足したエリアルは、よりいっそうギュッと力を入れて抱きしめた。
リーシャたちが納得した様子を見たシルバーは、次にレインの方を向いた。
「レイン、お前はノアと行ってくれ」
「うん、わかった。ノアね……」
ノアを割り振られたレインの声は、気の乗らないような声だった。
それに気がついていたノアは目を細め、レインに問いかけた。
「何か問題でもあるのか?」
「問題はないよ。君、それなりの実力はあるし。ただ、俺、君のこと苦手なんだ」
レインもノアと同様、言いたいことは何でも口に出す性格だ。もしかすると同族嫌悪でもしているのだろうか。
そんなことを言われたノアの方はというと、「面白いことを言う」とでも言いたげに口元が笑っていた。
「ふん。はっきり言ってくれるじゃないか。俺はそうやってものをはっきり言うヤツは嫌いではない」
「じゃあ、さっき君の弟が言い合いをしていた彼は?」
「アレは、はっきりものをいう以前に俺たちをからかって楽しんでいる節がある。できればあまり関わりたくはない」
「へー」
リーシャはそんな2人の会話を緊張しながら聞いていた。2人が会話をし始めた辺りは衝突するのではとハラハラしていたのだ。
けれど互いに大人な性格をしていることもあり、言いたいことを言い合ってもさほど険悪な雰囲気になる事はなかった。それなりにうまくやっていってくれそうだ。
リーシャ2人のやり取りに口を出さなくてもよさそうだと胸を撫で下ろした。
シルバーもそんな2人を見て大丈夫そうだと判断したらしく、笑みを浮かべていた。
そしてシルバーは、最後にルシアへと視線を向けた。
「そんで俺はルシア、お前とだな」
「ん。わかった」
ルシアのあっさりとした反応に、シルバーは意外そうな表情をした。
「お前、案外素直に納得するんだな。てっきりお前はリーシャとがいいって言いだすかと思ってたんだが……」
「んー? チーム分けは、力のバランスとか考えて分けたんだろ?」
「まあ、そうだが」
まだ意外そうにしているシルバーに、ルシアは複雑そうな顔をした。
たしかにルシアはリーシャの事になると暴走しがちではある。
けれど元々世話焼きな性格だ。もし本当に聞き分けが悪ければ、日ごろから的確にリーシャやエリアルの世話を焼くことはできないだろう。
ルシアは困ったように首の後ろを書き始めた。
「えーっとさ、たしかにリーシャと同じチームがいいっていうのが本音ではある。そこは否定しねえよ? たださ、今回はそういう我儘じみた事を言っていい時じゃねぇと思ったから、不満はあるけど納得してるってだけだ」
「……お前、わりと物分かりいいやつだったんだな」
「ひっでー言い草だなぁ」
シルバーの口から出た思った以上に低い評価に、ルシアは苦笑した。
ルシアはリーシャにじゃれつくエリアルに視線を向け、話を続けた。
「まあ、それ以外にも俺はここに来る間ずっとリーシャと一緒だったからってのもあるんだけどな。2人を差し置いて、俺ばっかりがリーシャを独占するのはまずいだろ? そもそも、エリアルの方は限界がきてるだろうしな」
「限界?」
ルシアはエリアルの視線が自分に向いていないことを確認すると、シルバーに近づき、口元が見えないように手で隠しながら話した。
「たぶん、リーシャと別行動にさせようとしたら間違いなく喚き散らす。あいつ中身が完全に子供だから」
「ああ、そういうことか」
さすがは世話焼きな兄だった。
幼い性格の弟の感情の起伏を予測し、自分の感情をうまく押し込めているようだ。ノアに対する折り合いもわかっているのだろう。
そして、おそらくそれはノアも同じ。
兄弟それぞれが互いに大事な存在だと認め合い、上2人がそれぞれの事を理解し、動ける。それがこの3兄弟が仲の良い秘訣なのだろう。
ただシルバーとしては、そんな仲の良い兄弟だからこそこれからどうするのだろうという疑問点もあった。
いつものようにシルバーが場を仕切り始めた。こういう場では本当に頼りになる男性なのだ。
王都で出会う時はめんどくさがりで強引で、問題も多い。
それでもリーシャがシルバーとパーティを組むのを嫌だと思わないのは、こういう頼りがいがあるというのが大きかった。レインやギルドの他の人間も同じように思っているだろう。
ノアたち兄弟もシルバーにこの場を任せ、全員が大柄の男へと視線を向けた。
「まずはリーシャ、お前はエリアルと行け」
「うん。わかった」
実力を考慮しての妥当な判断。それ以外の事情も含めても間違いなく最善だ。
移動中、リーシャとあまり話すことができなかったエリアルは我慢の限界の様子なのだ。この地に着いてから妙に甘えてくるのはそのせいなのだろう。
エリアルは飛び上がって喜び、その勢いのままリーシャへ飛びついた。
「やったぁ‼ リーシャねぇちゃん、頑張ろうね!」
エリアルはリーシャのことをギュッと抱きしめ、キラキラと目を輝かせた。
雷竜との戦闘を控えているのだ。気を引き締めなければと思うのに、いつもゆるっとしているエリアルといると気が抜けてしまう。
けれどそんなエリアルの姿を見ていると、それも悪い事ではないかもしれないとふと気がついた。
本格的に活動を始めるのは明日。ずっと気を張り続けるのもよくないかもしれないと思い直し、リーシャはエリアルに微笑みかけた。
「うん、そうだね」
リーシャの反応に満足したエリアルは、よりいっそうギュッと力を入れて抱きしめた。
リーシャたちが納得した様子を見たシルバーは、次にレインの方を向いた。
「レイン、お前はノアと行ってくれ」
「うん、わかった。ノアね……」
ノアを割り振られたレインの声は、気の乗らないような声だった。
それに気がついていたノアは目を細め、レインに問いかけた。
「何か問題でもあるのか?」
「問題はないよ。君、それなりの実力はあるし。ただ、俺、君のこと苦手なんだ」
レインもノアと同様、言いたいことは何でも口に出す性格だ。もしかすると同族嫌悪でもしているのだろうか。
そんなことを言われたノアの方はというと、「面白いことを言う」とでも言いたげに口元が笑っていた。
「ふん。はっきり言ってくれるじゃないか。俺はそうやってものをはっきり言うヤツは嫌いではない」
「じゃあ、さっき君の弟が言い合いをしていた彼は?」
「アレは、はっきりものをいう以前に俺たちをからかって楽しんでいる節がある。できればあまり関わりたくはない」
「へー」
リーシャはそんな2人の会話を緊張しながら聞いていた。2人が会話をし始めた辺りは衝突するのではとハラハラしていたのだ。
けれど互いに大人な性格をしていることもあり、言いたいことを言い合ってもさほど険悪な雰囲気になる事はなかった。それなりにうまくやっていってくれそうだ。
リーシャ2人のやり取りに口を出さなくてもよさそうだと胸を撫で下ろした。
シルバーもそんな2人を見て大丈夫そうだと判断したらしく、笑みを浮かべていた。
そしてシルバーは、最後にルシアへと視線を向けた。
「そんで俺はルシア、お前とだな」
「ん。わかった」
ルシアのあっさりとした反応に、シルバーは意外そうな表情をした。
「お前、案外素直に納得するんだな。てっきりお前はリーシャとがいいって言いだすかと思ってたんだが……」
「んー? チーム分けは、力のバランスとか考えて分けたんだろ?」
「まあ、そうだが」
まだ意外そうにしているシルバーに、ルシアは複雑そうな顔をした。
たしかにルシアはリーシャの事になると暴走しがちではある。
けれど元々世話焼きな性格だ。もし本当に聞き分けが悪ければ、日ごろから的確にリーシャやエリアルの世話を焼くことはできないだろう。
ルシアは困ったように首の後ろを書き始めた。
「えーっとさ、たしかにリーシャと同じチームがいいっていうのが本音ではある。そこは否定しねえよ? たださ、今回はそういう我儘じみた事を言っていい時じゃねぇと思ったから、不満はあるけど納得してるってだけだ」
「……お前、わりと物分かりいいやつだったんだな」
「ひっでー言い草だなぁ」
シルバーの口から出た思った以上に低い評価に、ルシアは苦笑した。
ルシアはリーシャにじゃれつくエリアルに視線を向け、話を続けた。
「まあ、それ以外にも俺はここに来る間ずっとリーシャと一緒だったからってのもあるんだけどな。2人を差し置いて、俺ばっかりがリーシャを独占するのはまずいだろ? そもそも、エリアルの方は限界がきてるだろうしな」
「限界?」
ルシアはエリアルの視線が自分に向いていないことを確認すると、シルバーに近づき、口元が見えないように手で隠しながら話した。
「たぶん、リーシャと別行動にさせようとしたら間違いなく喚き散らす。あいつ中身が完全に子供だから」
「ああ、そういうことか」
さすがは世話焼きな兄だった。
幼い性格の弟の感情の起伏を予測し、自分の感情をうまく押し込めているようだ。ノアに対する折り合いもわかっているのだろう。
そして、おそらくそれはノアも同じ。
兄弟それぞれが互いに大事な存在だと認め合い、上2人がそれぞれの事を理解し、動ける。それがこの3兄弟が仲の良い秘訣なのだろう。
ただシルバーとしては、そんな仲の良い兄弟だからこそこれからどうするのだろうという疑問点もあった。
0
お気に入りに追加
215
あなたにおすすめの小説
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける
朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。
お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン
絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。
「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」
「えっ!? ええぇぇえええ!!!」
この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる