魔法使いと彼女を慕う3匹の黒竜~魔法は最強だけど溺愛してくる竜には勝てる気がしません~

村雨 妖

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変わらぬ日常?(2)

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「たかだか……そんなことで喜ばないでよ。そんな変な出来の人形なのに、そんなに嬉しそうな顔して受け取られたら、なんだか、恥ずかしい……から…………」
「リーシャが作ってくれたものなら何でも嬉しいに決まってるだろ?」
「……そんなことより、わからなかったとこはわかったの?」
「ん? ああ。たぶん大丈夫だ。ありがとな」

 ルシアから恥ずかしげもなく出てくる言葉から逃げたくなったリーシャは無理やり話を戻した。指の隙間から見えたルシアの顔は、ニカッと笑っている。
 遠慮してそう言っているわけではなく、本当にきちんと納得することができたようだ。自分が教えている相手が成長していく姿を見るのは素直に嬉しいものだった。
 リーシャも恥ずかしさの抜けない顔で笑った。

「それならよかった」

 リーシャは気を取り直して横に置いていた本を膝の上に乗せた。

(さて、これで読書の続きができる)

 リーシャはルシアが立ち去ったら、そのまま読み始めるつもりだった。
 けれど、ルシアは用が済んだはずなのに立ち上がろうとしない。
 まだ何かわからないことでもあるのだろうかと思ったリーシャはルシアの顔を覗き込んだ。

「どうしたの?」
「……なぁ、もう少しそっちに寄っていいか?」
「え? 今でも距離だいぶ近くない? というか、勉強の続きをしなくていいの?」

 ベッドの端に座る2人の距離は、2人の掌を並べたほどの距離しか離れていない。これ以上距離を詰めると、少しでも身じろぎをしたら肩が触れてしまいそうな距離になる。
 ルシアはリーシャに気付かれないうちに、わずかな距離をじわりと詰めた。

「最近、夜中に来てないんだからさ、休憩がてら、いいだろ? 何もしねぇからさ」
「えー……っと……」

 リーシャはルシアのお願いについて、ぐるぐると考えを巡らせ始めた。

(夜中にベッドに潜りこまれるのに比べたらマシな気はするけど……それに、ルシアも勉強頑張ってるし、それくらいなら……)

 リーシャは何とも思っていない態度を装いながら、ルシアとは反対を向いた。

「まあ、いいけど……」
「やりぃ。言ってみるもんだな」

 ルシアは自分の膝の上に置いていた本と人形を横に置き、距離を詰めた。そしてリーシャの手の上に自身の手を重ねた。
 その不意の行動に、リーシャは慌てて手を引き抜き、立ち上がった。

「ちょ、ちょっと! 何もしないって言ったじゃない!」

 リーシャの心臓はドキドキと感じ取れるくらい、大きな鼓動を打っていた。
 別に嫌だったわけではない。ただ驚いただけ。
 一瞬だけ感じた温かさがまだ手に残っていて、リーシャの顔はじわじわと熱くなっていった。

(何でこんなに驚いてるんだろ。ただ手を触られただけなのに。もしかして、私、ルシアの事をそういう意味で意識し始めて……ううん。それは無い。だってルシアは竜。人間じゃない……)

 そんなことをぐるぐると考えていたせいで、リーシャは無意識に難しい顔をしていた。
 その表情を見たルシアはとても慌てていた。

「わ、わるい! 調子に乗った……」

 ルシアは、リーシャに嫌悪されたのではないかと思ったのかもしれない。
 いつもは釣り上がっている眉を、しょぼんと下げて落ち込んでいた。
 ルシアのそんな姿を見てしまい、リーシャは自分がひどいことをしてしまったような気分になってきた。

「……手、繋ぐ以上のことはしない?」

 その質問に、ルシアは勢いよく顔をリーシャの方へ向けた。

「しない! 絶対にしない‼」

 ルシアは嘘をついてリーシャの信用を裏切ってくるような竜ではない。素直でいい子なのは知っている。
 リーシャは溜め息をついた。再びベッドへ腰を下ろすと、ルシアへ手を差し出した。

「ん」
「!」

 ルシアは差し出された手を躊躇いがちに取ると、いつでも振りほどけそうなくらい優しい力で握りしめた。
 リーシャに不快感はなく、どちらかというと心地よいように感じていた。
 そのまま2人は特に会話をするわけでもなく、ただ手をつないで座ったまま時間は過ぎていく。


 いくらか時が過ぎ去った後、家の外側から、入り口の扉をたたく音がした。
 この訪問者の要件が今の日常を崩し去ることになるなど、この時のリーシャは知る由もない。
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