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王都で祝祭

グレイスの魔道具屋(3)

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 前回、フレイと顔を合わせたのは1週間以上前だ。初対面で時間もほんの10分程度。
 とはいえ、自分のために手間暇かけてくれた相手を忘れていた事にリーシャは申し訳なく思い、しゅんとなった。
 フレイはリーシャのコロコロ変わる表情に、ふっと笑みをこぼした。

「元気そう安心しました。もしかしたらまだ気落ちしているんじゃないかって、心配していたんですよ」

 フレイは初対面の時、意気消沈したリーシャのことを心配していた。なので、今の元気を取り戻したリーシャの姿を見て安心したようだ。
 リーシャは申し訳なく思う反面、フレイの心遣いが嬉しくて、照れくさかった。

「あはは、一応もう大丈夫です。最近まで引きこもりだったんですけどね。ギルバートさんは、今日は配達でこちらへ来たんですか?」
「ええ。本来配達は見習いたちに任せている仕事ではあるんですけどね」
「何か用事があったんですか?」
 
 他にも仕事を抱えているであろう凄腕の魔道具技師が、自分でする必要のない配達をわざわざ自分でしているのだ。よほど重要な用事がこの地にあったに違いない。いったいどんな用事があるのだろうと、リーシャは興味を搔き立てられた。

「ええ、そうなんですよ。今日はこちらの国の魔道具工房の方との話し合いがありまして。そうだ! よければリーシャさんの意見も聞いていいですか?」
「? なっ、なんですか?」

 リーシャが一般の人より詳しいのは魔法についてだ。
 それなりに魔道具の知識も有しているけれど、現役の魔道具技師と意見交換できるほどの知識があるかどうかは怪しい。
 いったいどんなことの意見を求められるのだろうと、リーシャの中で少しの緊張が走った。
 フレイはリーシャのそんな緊張を解きほぐそうとしてくれたようでフッと笑った。

「そう身構えないでください。聞きたいことというのは武闘大会で使用する魔道具についてです」
「今使われている魔道具以外にも必要になったんですか?」
「ええ。今使われているものって、武器で直接相手を攻撃する選手じゃなければ発動できないものじゃないですか」
「そうですね。剣や槍を介して、攻撃を与えた部分へ回復魔法を発動させるものですから」
「だから、リーシャさんたち魔法使いのように、遠距離から攻撃する人に対する対処が、今のところできていないんです。もともとそういう人たちは大会に出場していませんでしたから」
「魔法使いの役割は後衛からのバックアップがメインですからね」

 遠距離戦が得意な人間は、回復やサポート攻撃を主とした修練を積んでいる者が多く、1対1で戦う武闘大会には不向きなのだ。だからこれまで大会に出場した遠距離タイプの人間はいない。
 リーシャは、自分のためだけに対策を考えるというのだろうかと申し訳なく思った。
 けれど、どうやらそういうことではないらしい。

「最近はですね、あなたの影響を受けて大会に出場を希望する魔法使いが増えているようでして。今後のことを考え、大会運営側から対策となる魔道具の作成の依頼が入ったのですよ」
「なるほど。やっぱり、ギルバートさんはすごい方だったんですね」
「いえいえ。私なんてまだまだ」

 工房としては大きな受注が入って喜ばしいことではあるはずだ。
 けれど、どんな魔道具という具体的な要望もなく丸投げされてしまい、困っているらしい。

「現在大会で使われている魔道具を作ったときは、わりとあっさり案が出てきたのですけど、今回は難航していまして……リーシャさんとしては、どのような魔道具があればいいと思いますか?」

 リーシャはフレイの質問よりもある言葉が気になった。

(回復の魔道具のとき? あっさり案が出た? あれを作ったのって……)

 凄腕だとは思っていたけれど、想像以上だったことにリーシャは目を見開いた。

「え? ちょっと待ってください。もしかして、大会で使われてるあの魔道具って、ギルバートさんが作ったんですか⁉」
「? そうですけど。あれ? お話ししませんでしたっけ?」
「聞いてないです!」
 
 驚くリーシャを見たフレイは軽く首をかしげた。

(話をしてみたいと思っていた人に、まさかこんなにあっさりと知り合えるなんて!)

 リーシャは興奮気味に、フレイの事を食い入るように見つめた。
 そんな熱量を向けられてもフレイは態度を変えることはなかった。

「それは失礼しました。製作者のことは皆さんあまり気にされないものでして。まあ、その件もあってなのか、今回の依頼も妙に期待されていまして、困り果てているのですよ。意にそぐわないものを作るわけにもいきませんし……」
「そうなんですね」

 フレイは本気で困っている様子だ。
 手助けできるものなら手助けしたいと思ったリーシャは、組んだ片腕を口元にあてながら、頭の中で考えを巡らせた。
 けれど、そう簡単に良い案など思いつくはずもなかった。

「……ええっと、すぐに思いつくとしたらやっぱり、魔力上限を決めて制限をかける、ですかね。けど、“有属性魔法”の付属効果として回復魔法をつけてしまったら、余分に魔力を使うことになって、魔法使いには不利な戦いになってしまいますし……」
 
 一応思いついたことを伝えてはみたものの、これくらいの案をあの魔道具を作り上げたフレイが思いつかないわけがない。
 その感は当たっていたようで、フレイは困り気味に首筋に手を当てた。

「やはりそうなりますよね。リーシャさんでも思いつかないとなると次の大会までに良い案が出てくるかどうか……」

 フレイは肩を落とした。
 よく見ると、目の下にはうっすらと、クマができている。大会後に会ったときはクマなどなかったような気がした。
 よほど根を詰めて取り組んでいるのだろう。

「お役に立てなくて、すみません……」
「あ、いえいえ。こちらこそすみません。これは私への依頼なので、リーシャさんが気に病むことなど一切ありませんから。むしろ、自分でも打開案が出ない難題を、あなたに投げかけてしまって申し訳ない」

 疲れた顔をしているフレイは申し訳なさそうに、にっこりとほほ笑んだ。
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