魔法使いと彼女を慕う3匹の黒竜~魔法は最強だけど溺愛してくる竜には勝てる気がしません~

村雨 妖

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王都で祝祭

手紙(1)

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 王都、クレドニアムはいつも以上に人々で賑わっていた。
 主要な通路の端にはいくつもの出店が並び、王都に暮らす人々はみな楽しそうに食べたり飲んだり、騒ぎ立てていた。
 今日このクレドニアムでは、武闘大会でこの地のギルドが優勝を飾ったことを祝うための祭りが行われているのだ。


 リーシャとノアたち兄弟はこの日、ラディウスから受けた伝言通り王都へ赴き、行き交う人々の流れの中を歩いていた。
 リーシャは気づかれないように長い髪をまとめ上げ、深く帽子をかぶっている。
 そのせいなのか、はたまた人通りの多さのせいなのか、街を歩く人々が4人の姿を気に留める事はなく、リーシャはほっとしていた。
 勝利を祝ってもらえるのは嬉しいけれど、今はあまり多くの人の視線にさらされたくはなかった。
 そんなリーシャの隣を歩くエリアルはしきりに首を右へ左へと動かして周りを見ていた。
 視線の先は食べ物の出店ばかり。そわそわしていて、今にも出店の方へ走り出しそうだ。
 けれど今はまだ走って行かせるわけにはいかなかった。
 リーシャには、祭りに呼ばれた以外にも用事がある。このまま走り出すことを良しとすれば際限なく連れ回されるだろう。
 
「エリアル、先にギルドに行くから、お店見て回るのもうちょっと待ってね」
「なんでギルド行くの? なんか用事?」
「うん。もしかしたら大会の間に、手紙とかいろいろ届いたかもしれないから、それを回収しに行きたいの」
「そうなんだ」

 リーシャは森の奥にある自宅へ人が近づかなくてすむように、自分宛の手紙や荷物はギルドで預かってもらえるようにしていた。
 稀にクエストとは別の、リーシャ名指しでの依頼も混ざっているためあまり長々と放置するわけにもいかない。
 そんな話している間も、エリアルはずっとそわそわとしていた。
 リーシャはそんなエリアルの様子を見てふっと笑った。

「そこまで時間はかからないから、ちょっとだけ付き合ってね。後で気が済むまで一緒に回ってあげるから」
「! うん!」

 エリアルは満面の笑みを浮かべ、子供のように元気よく返事をした。

(どこまで食いしん坊なんだろ……)

 エリアルの笑顔の理由を、ただ食べ物に対する執着からのものだと思い込んでいたリーシャは苦笑いした。




 人の波にのまれながらも、リーシャたちはギルドの前へとたどり着いた。扉の向こうからは、外の賑わいに負けないくらいの騒がしい声が聞こえてくる。
 リーシャはそっと扉を開いた。覗き込んだ先は、いつにも増して人であふれている。
 備え付けられているテーブルの上には、外から持ち込んだ食べ物や酒、さらにはギルドの料理人たちが腕によりをかけたであろう御馳走がたくさん並べてあった。
 リーシャと3兄弟はその騒がしい中、壁に沿って奥のカウンターへと向かった。
 カウンターの向こうではリーシャと同じくらいの年齢の女性が何か作業をしていた。

「あの、アメリア」

 声をかけられたアメリアと呼ばれる若い女性は顔を上げた。

「えーっと……?」

 一瞬誰だかわからなかったようで、首をかしげていた。
 リーシャが帽子をとるとアメリアはパッと顔を明るくした。

「! リーシャ! やっと来たのね!」
「うん。久しぶり」

 彼女の名はアメリア・リッケイト。このギルドのマスターで、リーシャの親友といってもいい存在だ。
 つい最近まで別の人物がギルドマスターだったけれど、年齢を理由に隠居し、アメリアがその後を継いだのだ。
 アメリアはもともとギルドに所属してはいたけれど、討伐系のクエストを苦手としていて、捜索系のクエストやギルドの事務処理の手伝いをしていた。
 ちなみに、前マスターの孫。リーシャはこの事実を最近知ったのだった。
 彼女の発した声はなかなかのボリュームで、周辺にいたギルドの人間にリーシャが来たことを気づかれてしまった。
 アメリアに悪気はなかったのはリーシャも理解している。
 けれどその結果として、リーシャの周りには小さな人だかりが出来上がった。

「リーシャさん。体調崩してたって聞いたんですけど、大丈夫ですか?」
「よーリーシャ! あの男倒すなんてさすがだなぁ!」
「なあ、リーシャ今度クエスト手伝ってくれよ」

 それぞれが思い思いにリーシャに言葉をかけてきた。
 周りが嬉々として同時に声をかけてくるものだから、リーシャは誰の言葉から返していいかわからず、その場に立ちすくんだ。

「えーっと……あの……」

 そんな中、救いの手を差し伸べてくれたのはアメリアだった。

「みんな。リーシャが困ってるでしょ! それじゃなくても病み上がりなんだから! はい、散って散って!」

 アメリアの一声で、周りを囲んでいた人たちは悪かったなと言いながら去っていった。
 周囲の様子が元に戻ると、アメリアは眉を下げながらリーシャに話しかけた。

「ごめんね。私ったら後先考えずにあんな大声出しちゃって」
「いいよ、平気。まぁ、あんなに囲まれるとは思ってなかったからびっくりはしたけど」

 リーシャは少し困ったような顔で言った。
 あの大会でリーシャは決勝戦の1度しか姿を見せていない。それに勝ったとはいえ、あんな結末を多くの人に見せてしまったのだ。
 そんな自分に面と向かって、しかも尊敬気味に称賛の言葉を向けてくる人間がいるとは思っていなかったのだ。
 そんな後ろ向きなリーシャを、アメリアはとても大切なモノへ向けるような優しげな眼で見つめていた。

「ふふっ。囲まれるに決まってるじゃない」
「なんで? 私1回試合で勝っただけだよ? 他のみんなの方が……」
「だって、あのシルバーさんでさえ勝てなかったあの人に勝ったんだもの。1番の功績者といっても過言じゃないわ」
「ええー、そんなに? そんなたいした事したつもりないんだけどな」
「リーシャがそう思ってなくても、みんなそう思ってるのよ」
 
 リーシャは嬉しいような、困ったような表情をした。
 注目を集めたいわけではなかったため、騒がれ過ぎるのは困りものだ。
 けれどそんな思いとは反対に、高い評価をしてもらえたのは素直に嬉しいというのも事実だ。
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