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武闘大会

後日談(3)

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 ラディウスの告白に狼狽えていると、話を傍で聞いていたルシアが、2人の繋がれた手を勢いよく引き離し間に割って入ってきた。

「待て待て待て‼ いきなり人ん家に押しかけて来たかと思えば、今度は何寝ぼけたこと言いだしてんだよ‼」
 
 ルシアの割り込んできた勢いにリーシャは目を丸くした。
 驚きはしたけれど、ラディウスの言動に困っていたため、助かったという安堵感もあった。
 ラディウスはいきなり視界に入ってきたルシアの姿に驚いていた。というよりも、ルシアが近くにいたことに驚いたようだ。
 ルシアの顔を見ながら首をかしげていた。

「君、いつからそこにいたの?」
「はあぁぁ⁉ 始めっからいただろ‼ そこに‼」
「あ、もしかしてリーシャちゃんのお兄さん?」

 ラディウスのルシアへの興味の無さが浮き彫りになった瞬間だった。
 そのラディウスの態度と、おそらく“兄”という言葉が気に入らなかったのだろう。ルシアは声を張り上げた。

「違う‼ 俺はなあ! 俺は、俺はぁ……」

 ルシアはラディウスの認識に青筋を立てている。ここまで怒りの感情を見せるルシアは初めてだった。
 けれど、リーシャはそんな事よりもルシアが余計なことを口走りそうな状態に焦っていた。

(いったいなんて言うつもり⁉ 番だとか言い始める前に黙らせないと!)

 1人慌てていると、ルシアがリーシャの方を向いた。

「……今の俺らの関係ってなんだ?」

 どうやらリーシャの考えはただの懸念に終わったようだ。
 変なことをラディウスに言われなかったのはよかったと、リーシャは苦笑いを浮かべた。

(さすが残念なイケメン……)

 このままルシアに説明を任せると何を言われるかわからないため、リーシャは代わりに自分の認識で答えることにした。

「血は繋がってない。でも、関係的には兄だと思ってくれていいよ」
「いや、ちょっと待て! 俺はリーシャの兄になったつもりはないぞ‼」

 どうしてもラディウスにリーシャの兄と認識されたくないルシアは、騒いでいた。
 そんなルシアを挑発するようにラディウスは尋ねた。

「それじゃあ、君はいったいリーシャちゃんの何? 君はどう思ってるの?」
「俺たちは。俺は、リーシャと生涯を共にする――」

 リーシャは話をややこしくされないように、ルシアの口を勢いよく手で押さえて黙らせた。

「ちょっと黙って!」
「ふぇほ」
「いいから黙って!」
「……ふぁはっふぁ」

 わかったと言ったのだろう。
 眉間にしわを寄せてはいるけれど、ルシアは手を放しても言われた通りに口を閉じていた。
 ルシアが大人しくなると、リーシャはラディウスと話を続けた。
 
「あの、私あなたに守られるほど弱い女の子じゃないと思うよ?」
「知ってる。俺よりも強いよね。本気を出してた俺の腕を切り落とすくらいには」

 ラディウスは負けたことなど一切気にしていないように、見惚れてしまうような笑顔で言った。
 けれど、ラディウスが口にし出した事はリーシャがこの1週間気にし続けていた事。リーシャは眉間に皺を寄せた。

「だったら!」
「物理的な事だけじゃないんだよ。俺はね、君がどうしても乗り越えられない事があったとき、君の心が折れないように守ってあげたいんだ。今みたいな状態のときとかさ」

 リーシャはぞわっとし、身震いした。
 ただ自分が言われ慣れないようなセリフだからこんな寒気がするのだろうか。“ヤバい人”だと感じさせる何かが理由のような気もした。

「えっと……あの、ごめん。ちょっとそれは……ほとんど話したことない人に言われると……鳥肌が立った。そこまで言われるとさすがに怖い」

 リーシャはいたたまれなくなって、正直に言ってしまった。顔もあからさまな顔になっていたに違いない。

「ははっ。ちょっと元気が出てきたみたいだね」

 リーシャは呆気にとられた。
 ラディウスはリーシャの言葉や態度を全く気にしていないようだった。それどころか声を出して笑っている。

(あっ! もしかしてラディウスは元気づけるためにあんなくさいセリフを言っただけ? そうだよね。私なんかにそんなこという人なんて。というかそうであってくれないと困る)

 リーシャはその答えを知りたくて問いかけた。

「今の冗談、だよね?」
「いや、冗談ではないよ」

 残念ながらあれがラディウスの本心だったらしい。
 リーシャは渋い顔をした。
 リーシャのそんな表情を目の当たりにしているにもかかわらず、ラディウスは取り巻きの女性たちが卒倒しそうなさわやかスマイルを向けた。

「リーシャちゃん、変な顔になってる。ただ俺は、自分は何もしないけど守ってほしいって感じの女性が好きじゃないってだけだよ。よく俺の周りに群がってるような女性たちがいい例さ。かといって邪険にしたらそれはそれで後が面倒だから相手はしてあげてるけど。俺は、俺の隣に立って、本当に俺の手が必要になったときに助けを求めてくる、くらいの女性がいいんだ」

 発言内容は取り巻きの彼女たちが聞いたら、別の意味で卒倒しそうなものだった。

(そっか、ラディウスの理想が私みたいな相手なのか。意外だな。とは言え私の理想も……)

 リーシャは最低でも自分と同じくらい強い男性、ラディウスみたいな強い男性が理想だと思っていたはずだった。
 けれど、この人ではない。
 そんな気がした。
 発言内容はどうであれ、こんなことを言われたのが初めてだったリーシャは、ラディウスにどう返事をすべきなのか真剣に考えた。

「お前、よくそんなことを恥ずかしげもなく言えるな」

 自身の日頃の言動を棚に上げたルシアが言った。
 ルシアは本気でラディウスを嫌ってしまったのか、敵意丸出しで睨みつけていた。リーシャは無視していたけれど、ずっと威嚇し続けている。おそらくラディウスも気が付いていただろう。

「ちょっと、ルシア! いい加減その態度やめてよ!」
「だってさ……」

 ルシアは反論しようとしたけれど、口論でリーシャに勝てるわけはない。
 そのまま、リーシャによるルシアへのお説教タイムが始まった。
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