32 / 419
武闘大会
後日談(3)
しおりを挟む
ラディウスの告白に狼狽えていると、話を傍で聞いていたルシアが、2人の繋がれた手を勢いよく引き離し間に割って入ってきた。
「待て待て待て‼ いきなり人ん家に押しかけて来たかと思えば、今度は何寝ぼけたこと言いだしてんだよ‼」
ルシアの割り込んできた勢いにリーシャは目を丸くした。
驚きはしたけれど、ラディウスの言動に困っていたため、助かったという安堵感もあった。
ラディウスはいきなり視界に入ってきたルシアの姿に驚いていた。というよりも、ルシアが近くにいたことに驚いたようだ。
ルシアの顔を見ながら首をかしげていた。
「君、いつからそこにいたの?」
「はあぁぁ⁉ 始めっからいただろ‼ そこに‼」
「あ、もしかしてリーシャちゃんのお兄さん?」
ラディウスのルシアへの興味の無さが浮き彫りになった瞬間だった。
そのラディウスの態度と、おそらく“兄”という言葉が気に入らなかったのだろう。ルシアは声を張り上げた。
「違う‼ 俺はなあ! 俺は、俺はぁ……」
ルシアはラディウスの認識に青筋を立てている。ここまで怒りの感情を見せるルシアは初めてだった。
けれど、リーシャはそんな事よりもルシアが余計なことを口走りそうな状態に焦っていた。
(いったいなんて言うつもり⁉ 番だとか言い始める前に黙らせないと!)
1人慌てていると、ルシアがリーシャの方を向いた。
「……今の俺らの関係ってなんだ?」
どうやらリーシャの考えはただの懸念に終わったようだ。
変なことをラディウスに言われなかったのはよかったと、リーシャは苦笑いを浮かべた。
(さすが残念なイケメン……)
このままルシアに説明を任せると何を言われるかわからないため、リーシャは代わりに自分の認識で答えることにした。
「血は繋がってない。でも、関係的には兄だと思ってくれていいよ」
「いや、ちょっと待て! 俺はリーシャの兄になったつもりはないぞ‼」
どうしてもラディウスにリーシャの兄と認識されたくないルシアは、騒いでいた。
そんなルシアを挑発するようにラディウスは尋ねた。
「それじゃあ、君はいったいリーシャちゃんの何? 君はどう思ってるの?」
「俺たちは。俺は、リーシャと生涯を共にする――」
リーシャは話をややこしくされないように、ルシアの口を勢いよく手で押さえて黙らせた。
「ちょっと黙って!」
「ふぇほ」
「いいから黙って!」
「……ふぁはっふぁ」
わかったと言ったのだろう。
眉間にしわを寄せてはいるけれど、ルシアは手を放しても言われた通りに口を閉じていた。
ルシアが大人しくなると、リーシャはラディウスと話を続けた。
「あの、私あなたに守られるほど弱い女の子じゃないと思うよ?」
「知ってる。俺よりも強いよね。本気を出してた俺の腕を切り落とすくらいには」
ラディウスは負けたことなど一切気にしていないように、見惚れてしまうような笑顔で言った。
けれど、ラディウスが口にし出した事はリーシャがこの1週間気にし続けていた事。リーシャは眉間に皺を寄せた。
「だったら!」
「物理的な事だけじゃないんだよ。俺はね、君がどうしても乗り越えられない事があったとき、君の心が折れないように守ってあげたいんだ。今みたいな状態のときとかさ」
リーシャはぞわっとし、身震いした。
ただ自分が言われ慣れないようなセリフだからこんな寒気がするのだろうか。“ヤバい人”だと感じさせる何かが理由のような気もした。
「えっと……あの、ごめん。ちょっとそれは……ほとんど話したことない人に言われると……鳥肌が立った。そこまで言われるとさすがに怖い」
リーシャはいたたまれなくなって、正直に言ってしまった。顔もあからさまな顔になっていたに違いない。
「ははっ。ちょっと元気が出てきたみたいだね」
リーシャは呆気にとられた。
ラディウスはリーシャの言葉や態度を全く気にしていないようだった。それどころか声を出して笑っている。
(あっ! もしかしてラディウスは元気づけるためにあんなくさいセリフを言っただけ? そうだよね。私なんかにそんなこという人なんて。というかそうであってくれないと困る)
リーシャはその答えを知りたくて問いかけた。
「今の冗談、だよね?」
「いや、冗談ではないよ」
残念ながらあれがラディウスの本心だったらしい。
リーシャは渋い顔をした。
リーシャのそんな表情を目の当たりにしているにもかかわらず、ラディウスは取り巻きの女性たちが卒倒しそうなさわやかスマイルを向けた。
「リーシャちゃん、変な顔になってる。ただ俺は、自分は何もしないけど守ってほしいって感じの女性が好きじゃないってだけだよ。よく俺の周りに群がってるような女性たちがいい例さ。かといって邪険にしたらそれはそれで後が面倒だから相手はしてあげてるけど。俺は、俺の隣に立って、本当に俺の手が必要になったときに助けを求めてくる、くらいの女性がいいんだ」
発言内容は取り巻きの彼女たちが聞いたら、別の意味で卒倒しそうなものだった。
(そっか、ラディウスの理想が私みたいな相手なのか。意外だな。とは言え私の理想も……)
リーシャは最低でも自分と同じくらい強い男性、ラディウスみたいな強い男性が理想だと思っていたはずだった。
けれど、この人ではない。
そんな気がした。
発言内容はどうであれ、こんなことを言われたのが初めてだったリーシャは、ラディウスにどう返事をすべきなのか真剣に考えた。
「お前、よくそんなことを恥ずかしげもなく言えるな」
自身の日頃の言動を棚に上げたルシアが言った。
ルシアは本気でラディウスを嫌ってしまったのか、敵意丸出しで睨みつけていた。リーシャは無視していたけれど、ずっと威嚇し続けている。おそらくラディウスも気が付いていただろう。
「ちょっと、ルシア! いい加減その態度やめてよ!」
「だってさ……」
ルシアは反論しようとしたけれど、口論でリーシャに勝てるわけはない。
そのまま、リーシャによるルシアへのお説教タイムが始まった。
「待て待て待て‼ いきなり人ん家に押しかけて来たかと思えば、今度は何寝ぼけたこと言いだしてんだよ‼」
ルシアの割り込んできた勢いにリーシャは目を丸くした。
驚きはしたけれど、ラディウスの言動に困っていたため、助かったという安堵感もあった。
ラディウスはいきなり視界に入ってきたルシアの姿に驚いていた。というよりも、ルシアが近くにいたことに驚いたようだ。
ルシアの顔を見ながら首をかしげていた。
「君、いつからそこにいたの?」
「はあぁぁ⁉ 始めっからいただろ‼ そこに‼」
「あ、もしかしてリーシャちゃんのお兄さん?」
ラディウスのルシアへの興味の無さが浮き彫りになった瞬間だった。
そのラディウスの態度と、おそらく“兄”という言葉が気に入らなかったのだろう。ルシアは声を張り上げた。
「違う‼ 俺はなあ! 俺は、俺はぁ……」
ルシアはラディウスの認識に青筋を立てている。ここまで怒りの感情を見せるルシアは初めてだった。
けれど、リーシャはそんな事よりもルシアが余計なことを口走りそうな状態に焦っていた。
(いったいなんて言うつもり⁉ 番だとか言い始める前に黙らせないと!)
1人慌てていると、ルシアがリーシャの方を向いた。
「……今の俺らの関係ってなんだ?」
どうやらリーシャの考えはただの懸念に終わったようだ。
変なことをラディウスに言われなかったのはよかったと、リーシャは苦笑いを浮かべた。
(さすが残念なイケメン……)
このままルシアに説明を任せると何を言われるかわからないため、リーシャは代わりに自分の認識で答えることにした。
「血は繋がってない。でも、関係的には兄だと思ってくれていいよ」
「いや、ちょっと待て! 俺はリーシャの兄になったつもりはないぞ‼」
どうしてもラディウスにリーシャの兄と認識されたくないルシアは、騒いでいた。
そんなルシアを挑発するようにラディウスは尋ねた。
「それじゃあ、君はいったいリーシャちゃんの何? 君はどう思ってるの?」
「俺たちは。俺は、リーシャと生涯を共にする――」
リーシャは話をややこしくされないように、ルシアの口を勢いよく手で押さえて黙らせた。
「ちょっと黙って!」
「ふぇほ」
「いいから黙って!」
「……ふぁはっふぁ」
わかったと言ったのだろう。
眉間にしわを寄せてはいるけれど、ルシアは手を放しても言われた通りに口を閉じていた。
ルシアが大人しくなると、リーシャはラディウスと話を続けた。
「あの、私あなたに守られるほど弱い女の子じゃないと思うよ?」
「知ってる。俺よりも強いよね。本気を出してた俺の腕を切り落とすくらいには」
ラディウスは負けたことなど一切気にしていないように、見惚れてしまうような笑顔で言った。
けれど、ラディウスが口にし出した事はリーシャがこの1週間気にし続けていた事。リーシャは眉間に皺を寄せた。
「だったら!」
「物理的な事だけじゃないんだよ。俺はね、君がどうしても乗り越えられない事があったとき、君の心が折れないように守ってあげたいんだ。今みたいな状態のときとかさ」
リーシャはぞわっとし、身震いした。
ただ自分が言われ慣れないようなセリフだからこんな寒気がするのだろうか。“ヤバい人”だと感じさせる何かが理由のような気もした。
「えっと……あの、ごめん。ちょっとそれは……ほとんど話したことない人に言われると……鳥肌が立った。そこまで言われるとさすがに怖い」
リーシャはいたたまれなくなって、正直に言ってしまった。顔もあからさまな顔になっていたに違いない。
「ははっ。ちょっと元気が出てきたみたいだね」
リーシャは呆気にとられた。
ラディウスはリーシャの言葉や態度を全く気にしていないようだった。それどころか声を出して笑っている。
(あっ! もしかしてラディウスは元気づけるためにあんなくさいセリフを言っただけ? そうだよね。私なんかにそんなこという人なんて。というかそうであってくれないと困る)
リーシャはその答えを知りたくて問いかけた。
「今の冗談、だよね?」
「いや、冗談ではないよ」
残念ながらあれがラディウスの本心だったらしい。
リーシャは渋い顔をした。
リーシャのそんな表情を目の当たりにしているにもかかわらず、ラディウスは取り巻きの女性たちが卒倒しそうなさわやかスマイルを向けた。
「リーシャちゃん、変な顔になってる。ただ俺は、自分は何もしないけど守ってほしいって感じの女性が好きじゃないってだけだよ。よく俺の周りに群がってるような女性たちがいい例さ。かといって邪険にしたらそれはそれで後が面倒だから相手はしてあげてるけど。俺は、俺の隣に立って、本当に俺の手が必要になったときに助けを求めてくる、くらいの女性がいいんだ」
発言内容は取り巻きの彼女たちが聞いたら、別の意味で卒倒しそうなものだった。
(そっか、ラディウスの理想が私みたいな相手なのか。意外だな。とは言え私の理想も……)
リーシャは最低でも自分と同じくらい強い男性、ラディウスみたいな強い男性が理想だと思っていたはずだった。
けれど、この人ではない。
そんな気がした。
発言内容はどうであれ、こんなことを言われたのが初めてだったリーシャは、ラディウスにどう返事をすべきなのか真剣に考えた。
「お前、よくそんなことを恥ずかしげもなく言えるな」
自身の日頃の言動を棚に上げたルシアが言った。
ルシアは本気でラディウスを嫌ってしまったのか、敵意丸出しで睨みつけていた。リーシャは無視していたけれど、ずっと威嚇し続けている。おそらくラディウスも気が付いていただろう。
「ちょっと、ルシア! いい加減その態度やめてよ!」
「だってさ……」
ルシアは反論しようとしたけれど、口論でリーシャに勝てるわけはない。
そのまま、リーシャによるルシアへのお説教タイムが始まった。
0
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説
純潔の寵姫と傀儡の騎士
四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。
世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる