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不審人物の正体 その1
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「わるかった。まさかこんなに叫ばれるとは思ってなかったんだ」
「は? 叫ばれるって考えたらわかるでしょ、普通!」
リーシャの前には腰に布を巻きつけただけの姿の男が3人、机越しの椅子に座っていた。
向かって右端に先ほど飛びかかってきた嬉しそうな顔をした少年、中央に手を差し出してきた青年、左端に無表情でそっぽを向いている青年の順に座っている。
中央の青年はほどほどに体を鍛えているような体つきだが、他2人は細身。系統は違うけれど3人とも整った顔をしていて、黒い髪をしているという事は共通していた。
中央に座る青年はリーシャの怒りを前に、申し訳なさそうに広い肩幅を狭くして小さくなっていた。
反省しているようだけれど、人の家に勝手に入り込み、さらにはこんな非常識な格好をしていたのだ。そもそも許せるようなことではない。
しかしながらそんな事よりも、リーシャにはもっと重要な問題が発生していた。黒竜の子供3匹が行方不明という大問題だ。
その竜たちの代わりにこの不審な男が3人家に入り込んでいたという現状。この状況から考えて、竜の失踪に関して怪しいのはこの男たち以外には考えられない。
リーシャはさらに強い口調で男たちを問い詰めた。
「そんなことより、うちの子たちはどこ‼ あなたたちが攫ったんでしょ⁉」
「まっ、待ってくれ! そう思うのはもっともだとは思うけど、俺らもなにがなんだかよくわかってないんだ……」
中央に座るこの男性は眉がキリッとしているがやや垂れ目の、優しそうな印象を与える男性だ。右目の下に1つ泣きぼくろがある。
髪はくせ毛なのか、ところどころ毛先がはねた少し長めの黒髪だ。
そんな彼は困った顔をしているかと思うと、次には意を決したような表情をし、とんでもないことを言いだした。
「けど、これだけは言える。俺たちがリーシャの言ってるうちの子、竜なんだ!」
リーシャの頭の上には巨大なはてなマークが浮かんだ。
(何言っているの? 私が竜の事よく知らないだろうからって適当なこと言って……そんな話聞いたことないし、ありえない!)
大切に育てている竜たちの姿が見えない上に、勝手に家に上がり込んでいる知らない男性がわけのわからないことを言いだし、リーシャの苛立ちはさらに増した。
「何わけのわからないこと言ってるのよ! 言い訳が思いつかないからって、嘘をつくならもっとましな嘘をつきなさいよ‼」
リーシャが苛立つままに声を張り上げると、先ほどまでニコニコしていた少年がビクリと体を震わせた。そして悲しそうな表情になった。
「嘘じゃないもん! 何で信じてくれないの? 僕、リーシャねぇちゃんと話せるようになれてすっごく嬉しいのに!」
目を潤ませた少年の顔を見て、リーシャは我に返った。
「そんなこと言ったって……竜が体の大きさを変えられるってことは知ってるけど、他の生き物に擬態できるなんて話聞いたことないもん……」
リーシャは竜たちの世話を始めてから、改めて竜についての文献をかなりの量読み漁った。けれど今のところ擬態について書かれた文献は見ていない。
もしそれが本当なら、おそらく大発見だろう。
「信じられないというなら、お前と俺たちしか知らないことを言ってやろうか?」
「へ?」
リーシャが黙り込んでいると、こちらを見ようとしていなかった無表情の男性が口を開いた。
彼はじとっとした目つきをしていて、女性には見えないけれど女性に引けを取らないほどの綺麗な男性。黒い髪は腰に到達するほどの長さがある。
気づけばその男性はリーシャの事をまっすぐに見つめていた。
「普段からこの家を訪れるものはほとんどいなかったし、来ても招き入れることはなかった。なら、この家で見聞きしたことを言うことができればこの家にいたことの証明になるだろう?」
無表情だった男の顔は、不敵な笑みに変わっていた。
リーシャには、彼から醸し出されている雰囲気に何故か覚えがあった。
中央に座る青年は長髪の青年の意見を聞き、何か考える仕草をはじめた。けれどうまく考えがまとまらなかったようで、いきなり頭を軽く掻き始めた。
「あー、それが一番手っ取り早いかもなぁ。つか、他に思いつかね」
「はい! じゃあ僕から言う!」
中央の青年が言葉を漏らした後に間髪を入れず、少年は力いっぱい右手を頭上に突き上げた。その勢いは少しでも早くリーシャに自分の存在を認めてほしいと言いたげな勢いだった。
「僕がね、エリアルだよ! あのね、僕ね、リーシャねぇちゃんのことがだぁぁぁい好きなんだ! だから、僕がエリアルだってこと信じてほしいの! それで、僕しか知らないと思うことはね、うーんと……あっ、ねぇちゃん右のお胸のところに2つホクロがあるよね! ねぇちゃんはお胸のとこ開いた服着てるところ見たことないから知ってる人あんまりいないんじゃない?」
たしかにリーシャは胸元が開いた服を着ないし、かなりきわどい位置にほくろはある。
他人に見られたことのない部位の身体的特徴を言い当てられ、恥ずかしくて言葉を返せなかった。顔も熱くなってきた。
(なんでこの子がそんなことを知ってるの⁉ それに一番小柄な竜の名前を名乗ってた……誰にも教えてないのに……まさか……本当にエリアルなの?)
リーシャがぐるぐると考えを巡らせていると、少年の発言に異議を申し立てるように、中央に座る男が勢いよく机を叩いて立ち上がった。
「ちょっと待て、エリアル! 何でお前がそんなこと知ってんだ!」
隣に座っていたエリアルと名乗った少年は、大きな音と声に体をビクリと震えさせた。驚かされたことに怒ったようで頬を膨らませている。
「ビックリしたぁ。前に一緒にお風呂入ったことあるからその時に見ただけだよ!」
「はぁ⁉ いつ入ったんだよ‼ 俺は知らねぇぞ!」
「もールシアにぃちゃん声大きい。別にいつだっていいでしょ。一緒に入りたいなら、入りたいって言えばよかったじゃん」
エリアルと名乗る少年は、口をとがらせた。
少年の言葉でがっくりと肩を落とした青年はリーシャに聞こえないくらいの声で何かぼそぼそと呟いていた。
「くそっ…人間の雌は裸見られるのを恥ずかしがるって書いてあったから我慢してたのに……気にしないなら俺も入れてもらえばよかった……」
「ほらぁ、次ルシアにぃちゃんの番」
「あー、俺?」
青年はエリアルの呼びかけに脱力した返事をしていたけれど、リーシャと目が合った瞬間ハッと我に返って背筋を正した。
「えーっと……俺がルシアだ。俺もリーシャのことはだーい好きだぜ。で、他の人間が知らなさそうなことか……ならあれだ。クローゼットの奥に隠し持ってる大量の本の事とかどうだ? 何で隠してんのかはよくわかんねぇんだけど、ああいうことが書いてる本って他のやつには見られたくないもんなのか?」
リーシャは隠していた趣味を暴かれた衝撃で勢いよく立ち上がってしまった。
「なななんでその本のこと知ってんの‼ しかも読んだの⁉」
隠していた本とは、かなり濃いめの恋愛小説のことだ。
自分の部屋に他人を入れることはないけれど万が一という事を考え、リーシャはそれらの本を本棚ではなくクローゼットの中に仕舞いこんでいた。
青年はリーシャが何故そこまで戸惑うのかわからないと言いたげな様子だ。
「何でって……俺とエリアルがリーシャの部屋で昼寝をしてるとき、側で読んでただろ? 目が覚めた時にちょうどクローゼットに片づける姿も見ちまったし。あ、ちなみに文字の読み方を教えてくれてたおかげでバッチリ読めたぜ。まぁ、わからない単語もちらほらとはあったけどなぁ」
確かに、エリアルとルシアは頻繁にリーシャの部屋で昼寝をしていたし、その時にリーシャがそれらの本を読んでいたこともある。それにルシアが文字に興味を示していたため、読み方や意味を教えてもいた。
リーシャは本当に彼らがあの竜たちなのかもしれないと思い始めた。
ルシアと名乗る青年が、無表情な青年の肩をポンと叩いた。
「俺からは以上。あとは兄貴だな。」
次は一体何を言われることになるのか。
リーシャは身構え、兄貴と呼ばれた男が話し始めるのを待った。
「は? 叫ばれるって考えたらわかるでしょ、普通!」
リーシャの前には腰に布を巻きつけただけの姿の男が3人、机越しの椅子に座っていた。
向かって右端に先ほど飛びかかってきた嬉しそうな顔をした少年、中央に手を差し出してきた青年、左端に無表情でそっぽを向いている青年の順に座っている。
中央の青年はほどほどに体を鍛えているような体つきだが、他2人は細身。系統は違うけれど3人とも整った顔をしていて、黒い髪をしているという事は共通していた。
中央に座る青年はリーシャの怒りを前に、申し訳なさそうに広い肩幅を狭くして小さくなっていた。
反省しているようだけれど、人の家に勝手に入り込み、さらにはこんな非常識な格好をしていたのだ。そもそも許せるようなことではない。
しかしながらそんな事よりも、リーシャにはもっと重要な問題が発生していた。黒竜の子供3匹が行方不明という大問題だ。
その竜たちの代わりにこの不審な男が3人家に入り込んでいたという現状。この状況から考えて、竜の失踪に関して怪しいのはこの男たち以外には考えられない。
リーシャはさらに強い口調で男たちを問い詰めた。
「そんなことより、うちの子たちはどこ‼ あなたたちが攫ったんでしょ⁉」
「まっ、待ってくれ! そう思うのはもっともだとは思うけど、俺らもなにがなんだかよくわかってないんだ……」
中央に座るこの男性は眉がキリッとしているがやや垂れ目の、優しそうな印象を与える男性だ。右目の下に1つ泣きぼくろがある。
髪はくせ毛なのか、ところどころ毛先がはねた少し長めの黒髪だ。
そんな彼は困った顔をしているかと思うと、次には意を決したような表情をし、とんでもないことを言いだした。
「けど、これだけは言える。俺たちがリーシャの言ってるうちの子、竜なんだ!」
リーシャの頭の上には巨大なはてなマークが浮かんだ。
(何言っているの? 私が竜の事よく知らないだろうからって適当なこと言って……そんな話聞いたことないし、ありえない!)
大切に育てている竜たちの姿が見えない上に、勝手に家に上がり込んでいる知らない男性がわけのわからないことを言いだし、リーシャの苛立ちはさらに増した。
「何わけのわからないこと言ってるのよ! 言い訳が思いつかないからって、嘘をつくならもっとましな嘘をつきなさいよ‼」
リーシャが苛立つままに声を張り上げると、先ほどまでニコニコしていた少年がビクリと体を震わせた。そして悲しそうな表情になった。
「嘘じゃないもん! 何で信じてくれないの? 僕、リーシャねぇちゃんと話せるようになれてすっごく嬉しいのに!」
目を潤ませた少年の顔を見て、リーシャは我に返った。
「そんなこと言ったって……竜が体の大きさを変えられるってことは知ってるけど、他の生き物に擬態できるなんて話聞いたことないもん……」
リーシャは竜たちの世話を始めてから、改めて竜についての文献をかなりの量読み漁った。けれど今のところ擬態について書かれた文献は見ていない。
もしそれが本当なら、おそらく大発見だろう。
「信じられないというなら、お前と俺たちしか知らないことを言ってやろうか?」
「へ?」
リーシャが黙り込んでいると、こちらを見ようとしていなかった無表情の男性が口を開いた。
彼はじとっとした目つきをしていて、女性には見えないけれど女性に引けを取らないほどの綺麗な男性。黒い髪は腰に到達するほどの長さがある。
気づけばその男性はリーシャの事をまっすぐに見つめていた。
「普段からこの家を訪れるものはほとんどいなかったし、来ても招き入れることはなかった。なら、この家で見聞きしたことを言うことができればこの家にいたことの証明になるだろう?」
無表情だった男の顔は、不敵な笑みに変わっていた。
リーシャには、彼から醸し出されている雰囲気に何故か覚えがあった。
中央に座る青年は長髪の青年の意見を聞き、何か考える仕草をはじめた。けれどうまく考えがまとまらなかったようで、いきなり頭を軽く掻き始めた。
「あー、それが一番手っ取り早いかもなぁ。つか、他に思いつかね」
「はい! じゃあ僕から言う!」
中央の青年が言葉を漏らした後に間髪を入れず、少年は力いっぱい右手を頭上に突き上げた。その勢いは少しでも早くリーシャに自分の存在を認めてほしいと言いたげな勢いだった。
「僕がね、エリアルだよ! あのね、僕ね、リーシャねぇちゃんのことがだぁぁぁい好きなんだ! だから、僕がエリアルだってこと信じてほしいの! それで、僕しか知らないと思うことはね、うーんと……あっ、ねぇちゃん右のお胸のところに2つホクロがあるよね! ねぇちゃんはお胸のとこ開いた服着てるところ見たことないから知ってる人あんまりいないんじゃない?」
たしかにリーシャは胸元が開いた服を着ないし、かなりきわどい位置にほくろはある。
他人に見られたことのない部位の身体的特徴を言い当てられ、恥ずかしくて言葉を返せなかった。顔も熱くなってきた。
(なんでこの子がそんなことを知ってるの⁉ それに一番小柄な竜の名前を名乗ってた……誰にも教えてないのに……まさか……本当にエリアルなの?)
リーシャがぐるぐると考えを巡らせていると、少年の発言に異議を申し立てるように、中央に座る男が勢いよく机を叩いて立ち上がった。
「ちょっと待て、エリアル! 何でお前がそんなこと知ってんだ!」
隣に座っていたエリアルと名乗った少年は、大きな音と声に体をビクリと震えさせた。驚かされたことに怒ったようで頬を膨らませている。
「ビックリしたぁ。前に一緒にお風呂入ったことあるからその時に見ただけだよ!」
「はぁ⁉ いつ入ったんだよ‼ 俺は知らねぇぞ!」
「もールシアにぃちゃん声大きい。別にいつだっていいでしょ。一緒に入りたいなら、入りたいって言えばよかったじゃん」
エリアルと名乗る少年は、口をとがらせた。
少年の言葉でがっくりと肩を落とした青年はリーシャに聞こえないくらいの声で何かぼそぼそと呟いていた。
「くそっ…人間の雌は裸見られるのを恥ずかしがるって書いてあったから我慢してたのに……気にしないなら俺も入れてもらえばよかった……」
「ほらぁ、次ルシアにぃちゃんの番」
「あー、俺?」
青年はエリアルの呼びかけに脱力した返事をしていたけれど、リーシャと目が合った瞬間ハッと我に返って背筋を正した。
「えーっと……俺がルシアだ。俺もリーシャのことはだーい好きだぜ。で、他の人間が知らなさそうなことか……ならあれだ。クローゼットの奥に隠し持ってる大量の本の事とかどうだ? 何で隠してんのかはよくわかんねぇんだけど、ああいうことが書いてる本って他のやつには見られたくないもんなのか?」
リーシャは隠していた趣味を暴かれた衝撃で勢いよく立ち上がってしまった。
「なななんでその本のこと知ってんの‼ しかも読んだの⁉」
隠していた本とは、かなり濃いめの恋愛小説のことだ。
自分の部屋に他人を入れることはないけれど万が一という事を考え、リーシャはそれらの本を本棚ではなくクローゼットの中に仕舞いこんでいた。
青年はリーシャが何故そこまで戸惑うのかわからないと言いたげな様子だ。
「何でって……俺とエリアルがリーシャの部屋で昼寝をしてるとき、側で読んでただろ? 目が覚めた時にちょうどクローゼットに片づける姿も見ちまったし。あ、ちなみに文字の読み方を教えてくれてたおかげでバッチリ読めたぜ。まぁ、わからない単語もちらほらとはあったけどなぁ」
確かに、エリアルとルシアは頻繁にリーシャの部屋で昼寝をしていたし、その時にリーシャがそれらの本を読んでいたこともある。それにルシアが文字に興味を示していたため、読み方や意味を教えてもいた。
リーシャは本当に彼らがあの竜たちなのかもしれないと思い始めた。
ルシアと名乗る青年が、無表情な青年の肩をポンと叩いた。
「俺からは以上。あとは兄貴だな。」
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