上 下
17 / 22
第一章異世界に舞い降りたキチガイ

NPCはロリに興味がおあり?5/5

しおりを挟む
小学校の頃にとある名探偵の子供が着けてたからと親に無理言って掛けはじめた伊達眼鏡。
無造作ヘアーのラノベ主人公に憧れて始めた無造作ヘアー。
クールやNPCを気取るつもりでいつの間にか自然になっていた眉間のしわ。

 鏡で改めて見ると思う、腹立つ顔してたんだなー俺。
サマンサさんに眼鏡をへし折られて(止めてくださいと頼んだら目の前で笑顔で折られた)、腐ったように見えた目も少しは光って見えるようになった。
 髪をサマンサさんにバッサリ切られただけで(泣いて頼んだが、許してもらえなかった)、随分自分でもハッとするぐらいまともな感じになった。
ウザったさや、野暮ったさがなくなって、自分で言うのもなんだがすんげえ良くなった。

 扉に立ち大きく深呼吸。
 廊下の端で見つめるサマンサさんに大丈夫か?とジェスチャーすると彼女はしかめっ面で自分の眉間をぴしぴし叩いた。
おっと、いけない。気をつけねえと。
 笑うことを意識しつつ、彼女のいる扉の前に立つ。

 「アリア、スマンな。入る。」

 扉を開き、中に入る。
カーテンすら閉め切った暗い部屋の中、窓際のベットで体育座りをしていた銀髪の少女はのそりと身を起こした。
そして、顔全体で驚きを示して、後ろに逃げようとし始めた。
 後ろは窓辺だから、いくら退がっても退がれないからね

「な、な、何でそんな怖い笑い方してるんですかあっ!?ひぃいいいいいいい!?こ、こないでえええぇぇ!?こないでくださいぃぃっぃいい!?」

・・・・眉間にしわを寄せる事態がさっそく起き始めてるんだが。

 「どうしたんです?ダッサイ眼鏡と髪形を直したのはいいことだと思いますが、そんな無理した笑い方をして?相談があるなら、、、、してください。師弟関係は解消されたとはいえ、私たちは他人じゃないんですから。ね?サクラさん?」
 「さん付け!?・・・さん付けぇ!?超、他人行儀じゃねえか!?アリアさん!距離置くのはやめよう!ちょっとしたイメチェンだよ!」
 「そうなの、、、へえ、そうなんだ・・・」
 「俺が悪かったです!」

ちょっと、涙目。
 俺、笑えなくなっちゃった・・・
 でも、お互いに張っていた妙な気の張りがなくなったので良かったともいえるかもしれない。

 「で?何しに来たんです?」

アリアが少しだけ砕けた口調で聞いてくる。
アリアの横に取り敢えず座ることにする。

 「飯、昨日の夜から何にも食ってないだろ?サマンサさんからこれ預かって来た。」

アリアがうっと言って、腹を抑える。腹減ってたんだな?
そうかそうかと言って、持ってきたバスケットを開く。
サマンサさんによって作ってもらった、ミートサンドと果物サンドだ。
そして、食後にと作ってもらったクッキー。
 二人で、ベッドに腰かけ窓際にもたれかかる。
 窓は不健康だからと無理矢理開けさせたので、温かい日光と空気が入ってきてとてもいい。
 買って来た果実水をちびちび飲みながら、彼女とゆっくりのんびりと食事を取る。
 昨日の夕食や今朝の朝食の時ほど味を感じないという事もなく、味をきちんと味わうことが出来る。

アリアはどうなんだろうか?何となく彼女の方をチラッと見てみるとアリアと目が合ってしまった。
アリアはふいっと、目を逸らすと、いつもなら真っ先に手を出すクッキーや果実入りのサンドイッチには一切手を出さず、ミートサンドを一口ずつ齧っていた。
アリアらしくない。普段は俺の分まで、甘いものを食べつくしてからちょっとだけ普通の食事を食べるのに。
・・・腹減ってるだろうに、、、甘いもの大好きなくせに。

 「ゆっくりでいいから、腹には入れとけな。一人の身体じゃないんだぜ?」
 「・・・はい、ありがとうございます。でも、何ででしょう?凄いセクハラを言われた気がします。」

 異世界ファンタジー。

 取り敢えずミートパイだけでも彼女が食べきったのを見終わってから、俺は話題を切り出した。
でも、言い出すのって・・・なんか気恥ずかしくてむず痒い。
 彼女と肩が触れる位置までにあったほんのわずかな距離を詰める。
 彼女の体温を感じておかないと、どこかに行ってしまいそうな気がしてしまったから。

 「あ、アリア・・・ごめん。アリアの言ってくれたこと何一つ間違ってなかった。俺が無茶するのを止めようとしてくれたことも、魔物の大群と戦うよりも逃げることの方が正しいって言ってくれたことも。」

 「・・・」

アリアは何も答えなかった。
でも、俺の肩と触れ合い始めてから冷たく強張っていた彼女の肩は安堵したかのように緊張が抜けて、明らかに柔らかくなり体温が上がってきていた。
たく、不器用な奴・・・分かりやすすぎる。
どんな罵詈雑言をかけられると思って緊張していたのか。女の子にそんなことするわけないだろ・・・
 アリアと俺は、それから何も言わずにただお互い体重をかけあっていた。
 暫くしてからアリアは俺の肩に頭をこてんと乗せてきたが、まだ何も言わなかった。

・・・続けろってことか。

 「アリアの過去については全部聞いた。知らなかったとはいえ、英雄なんて言葉を使ってしまったことも悪かったと思ってる。本当にごめん。」

 過去、英雄という言葉にびくりと反応したものの、彼女の体温は最初の時ほど下がっていなかったし、緊張もしていないようだ。
とっさとはいえ、彼女の肌に触れれるような位置に座れたのは良かったな。
 彼女の体温のお蔭で、俺も何とか落ち着いていられる。
 体温や緊張すら分かんなかったら、今頃パニックになっていただろう。
 彼女はまだ、黙ったままだ。

 「俺、元の世界で大事なことから逃げちゃったんだ。本当に、、、大事なことなのに。だから、、、この世界では逃げ無い事ばっか意識しちゃって、、、しかもそれが成功し続けたから、、、余計それが正しいことだって思いこんじゃって、、、自分でも、アリアにこうして否定されるまで気づかなかった。」

 「・・・」

アリアは何も言わない。
 顔を見ればどんな感情なのか分かってしまうのだろうがそれをしようとすれば彼女といったん離れなきゃいけない。
それが出来なかった。今の俺には。
いつの間にか離れがたい、心地よい温度になってしまっていた。

 「また深林蜂の蜂蜜を取りに行って、サマンサさんと3人で蜂蜜クッキーを焼こう?2人でクエスト受けに行って、あのギルドの奴ら見返してやろう?一緒に龍人の里に行こう?紹介したい人もいるんだ。そうだ!近くに火山があるんだから温泉掘り当てよう?・・・そうだよ、アリアとこの村でしたいことがまだまだたくさんあるんだ。」

 「・・・」

 「サマンサさん助けたいって思うんなら、より確率の高い方法を取ろう?俺と二人で組めば、この村が避難しきれる時間を稼ぐことが絶対できる。いや、『曇の魔術師』二人でなら撤退させることすら夢じゃない。」

 「・・・」

 「・・・」

 「それでも、、、私は、、、英雄のような、、、行動を、、、とりたくないんです、、、英雄が、、、許せない、、、勇者が、、、憎い、、、」

 彼女の体が、声が、震えはじめた。
 俺の肩もちょっと熱くなってきた。湿ってるかもしれない。
・・・仲直りは出来るんだ。トーリの教えてくれた方法なら。
でも俺がしたいのは、彼女との仲直りだけじゃない。
 彼女と彼女の大事なものを守りたいんだ。
その為にはトーリの言う通り、意地になってることを騙して、自分のいいように誘導してくのが賢いやり方なんだろう。
トーリが教えてくれた、俺とアリアの関係を壊さないで済む方法。
・・・駄目だ。
アリアの信念を騙すなんて、ことしたくない。
 彼女と離れたくなんてないけど、俺は彼女の、
こんなに綺麗な彼女の大元になっている信念を汚したくは無かった。
だから、、、

 「アリア、、、違うよ。俺がしようとしてるのは英雄的な、村を救うための自己犠牲的行為なんかじゃない。」

アリアが俺から体を離して、じっと俺を見定めるかのように見る。
 熱がまだ残ってるはずなのに、肩が異常に寒く感じる。
・・・けど、これでいいんだ。

 「俺のこの行為の目的は女の子の好感度上げ↑↑が目的なんだっ!!!!!!」

だから、ごまかすことにした。

 「・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・」
 「は?」

アリアがポカンと口を開く。
まあ、、、三次元の人間は普通こんな反応ですよね。
 古今東西、あらゆるラノベ主人公が頑固な信念を持ったヒロインを説得するために行った説得法。
 正攻法が通じないからこそ、使う方法。
ヒロインの魅力を下げない素晴らしい方法。
 論理展開滅茶苦茶説得法、別名、ラノベ主人公説得法、もしくは、変態的説得法だ!

 「今回狙っているヒロインは幼女、人妻、不器用な美少女師匠だっ!」
 「え?・・・え?」
 「この村を救うことが出来れば、人妻からは『強い男の人ステキ☆フラグ』が建つし、幼女には『おにいちゃん、私の為に村を救ってくれてありがとう、チュッ♡フラグ』が建つし、何より不器用な美少女師匠には『私の親友を助けてくれてありがとう、、、今夜は二人で過ごさない?フラグ』が建つ!最高じゃあないか!」

この方法の利点、、、それは作者や読者視点ではあるが、主人公に変態的言動を取らせて変態のレッテルを張るだけで、ヒロインの清純さや純粋なイメージが守られることだ!
つまり、ヒロインの信念は全く曲げてないのに上手くいくのだ!

 「・・・・・・」
 「つ~ま~りっ!俺のやってることは、ただの幼女や人妻や美少女のポイントを稼ぐためだ!そもそも俺がなりたいのはハーレムラブコメ主人公であって、一日中女の子とイチャイチャして夜は18禁小説に乗ってしまうような性活を送りたいんだ!」
 「ぐっ、、、聞いてられない、、、な、、、何で扉しまってるんですかっ!?サマンサ!開けてください!」
 「だから、俺は、、、エロゲ主人公として、エロエロな生活をおくるためのフラグ回収してるだけで!」
 「あ、、、あの子、、、余計な気を利かせて、扉の前に置物でもおいてるんですかっ!?ああ、、、、耳が、、、脳が、、、変なものにうめつくされるっ!?」
 「英雄になりたいわけじゃねえええええええ!」
 「・・・あ、、、、あ、、、。」
 「はあ、はあ、、、だから、、、今回のココノハ村を守るという行為は、、、、今後のエロパートの為のフラグづくりの為であって、、、、英雄行為じゃない、、、すくなくとも、、、俺にとっては、、、だが。」
 「・・・・・・・・・・・・分かりました。手伝います。・・・だから、もう黙っててください・・・」

 彼女の距離は思いっきり俺から離れ、彼女は無言で聞くに堪えない言葉の暴力飛び交う部屋から脱出しようと扉をガチャガチャしていたが、何故か扉は外から閉められていた為最後まで聞く羽目になった。
そして終わった時、、、彼女は廃人になった。
 彼女は俺の説得を聞かされて、、、心が折れたのか遂に、手伝いますの一言を引きだせた。
その一言が妙にうれしくて、俺は彼女に走り寄りぎゅっと抱きしめた。

 「よし!今後のエロパートの為に頑張ろうぜ!メインヒロイン!」

 彼女は体を震わせながら返事をした。

 「その代り・・・」
 「へ?」
 「一発なぐらせろおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 「がはっ!?・・・・・わ、悪か、、、げはっ!?・・・・」

 至近距離から鳩尾に加えられ、謝ろうとしたら顎に掌底を入れられた。
 際どい所に超全力の一撃が入ったようで、あっさりと意識は飛んだ。
 薄れてゆく意識の中、顔を真っ赤にしてベッドの上をむきーと奇声を上げながら転げ回る彼女の顔をずっと俺は見ていた。
あ~あ、結局いつも通りな終わり方だ。
 俺が次第にからかって、アリアが切れて、俺が気絶。
でもやっぱり、アリアはああじゃなきゃな・・・
 この後気絶したと思って、誰かが小声で「い、一応感謝はしてあげます!・・・でも、あなたも悪いんですからねっ、あんなカッコいい真面目な雰囲気出すから、つい本気になっちゃったのに!」といってたが、そんな気がしたことにしておく。
しおりを挟む

処理中です...