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第一章異世界に舞い降りたキチガイ

NPCでも主人公でいられる場所4/4

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目覚めて、起きて、朝日の光が眩しくて、思わず身じろぎをしようとしたら、縛られていたので出来なかった。

「お目覚めですか?」
「最悪の、、、目覚めだよ。」

幽体離脱してたのが前回の状況だとしたら、何で今回に限ってはその『俺』の中に俺がいるの?
しかも、顎の痛みは、『思い出し痛』のように断続した痛みではなく、ガンガン継続したものとなっている。
いやでもここが現実だって思い知らされてしまう。
幽体離脱の時のような上から見下ろせないので、自分の眼であたりを見回す。

てか、最悪の状況だな。

現状出せる答えであった。
指まで頑丈に縛られて、しかもガリバー旅行記の小人さんにでも手伝ってもらったのか?ってぐらい念入りに地面と縄を杭で固定されている。
唯一動く首を、何とか回してみると、見覚えのある銀色の髪が。
銀髪の少女は、俺ですらはっきりとわかるほど不機嫌な様子だった。
しかもそれを強張った笑みで無理矢理隠そうとしていた。

男の俺にでもわかるほど、服はしわが寄ってる。
急いで着替えたのか?
髪も未だ湿ってるのか、しんなりとしている。
もしかして、まだそれほど時間がたってないのか?
俺の世界と、この世界の時間軸が違うのか?
俺がこの世界で眠ってた時間が、元の俺がいた世界の一日分?・・・まさか。
でも、もしそれが事実だとしたら、、、

「いつまで考え事してるんですか!」 
「うおっ!!?」

彼女は勢いよく腰かけていた岩から立ち上がるや否や、俺の目のまえに立ち塞がった。
ちょうど俺を見下ろす形になり、俺は首を無理矢理あげねば彼女の顔を見ることが出来ない。

「さて、芋虫さん。結界が張ってあったはずですが、、、どうやって入って来たんですか?」

俺に反抗の意思がないとでもみたのか、彼女は俺に質問してきた。

「アリア=レイディウス、取り敢えず人間らしい姿勢で話したいんだが?」
 「乙女の裸を見ておきながら、よくもそんな減らず口を叩けますね・・・・なんで私の名前を知ってるんです?・・・・・・まさかストーカー!?」
 「断じて違う!朝顔さんにぶっ殺されるから、マジでそういう冗談はやめてくれませんかねえ!?てか、ストーカーの概念はあんのか、この異世界!?」

if:お兄ちゃんが性犯罪者だという噂が広まったりでもしたら

answer:朝顔さんは俺を拷問にかけて、治療してから再度拷問にかけ、更に治療してから拷問にかけ、さらにさらに治療してから拷問にかけてからを繰り返し俺を殺してからも、自らの怒りを抑えることが出来ずに憤死してしまうだろう。

しかし、そんな俺の様子などお構いなしにアリア=レイディウスは叫ぶ。

 「でも、ストーカーだとしたらすべて説明がつきます!結界を張る前に内側に潜り込めばいいし!何ですか、この変態!私の裸を遠くから見るだけじゃ飽き足らず、ワザワザ感想でも行って恥ずかしがる顔でも見に来たんですか!?」
 「違うッてんだろ!?なに、勝手に話を進めてんだ!この訳の分からん敬語娘!!」
 「この!この!私のま、、、股をくぐったこと忘れてないんですから!」
 「や、やめろ!俺の顔をそんな靴で踏むんじゃ、、、ぐえええええええ」
 「ふん、なにがぐえええええええですか!ついに本性を現しましたね!」
 「ぐえええええええの、どこに俺の内面性があった!?この残念敬語娘!」
 「汚らしいところですよ!このストーカー!」

それからしばらくの間、踏む側と踏まれる側の争いが続いたが、俺のそんなに汚い汚いというが、触れているお前の足はどうなるのかな?舐めてしまいますよ?という言葉に、彼女がぶわっと反応したためようやく終わりをみせた。
てか、その時の彼女の顔がマジで気持ち悪いものを見る目だったのでちょっと傷つきました。

 「じゃ、じゃあ、あなたが変態であることは確定として、ストーカーではないんなら、あなたはなんで私の名前を知ってるんですか!」
 「確定させんな!夢にアンタが出てきたからだよ!」

 売り言葉に買い言葉、そんな感じの舌戦を続けてきたために、彼女の沈黙は俺に二の句を紡がせるのを躊躇させた。
 彼女は胡散臭げにこっちを見ながらも、なんとなく納得してもいる顔をしていた。

 「・・・痛いひとですね」
 「俺の人を見る目っていったい・・・」

ただ、ごみを見る目をしていただけだった。
 彼女は、片耳にのみに着けた彼女にはちょっと幼すぎる子供っぽいイヤリングをいじりながら、手に持った杖を構えた。
 、、、ハッ!!ゴミは魔術で消し飛ばすってことか!?

 「ま、待て!落ち着け!雲を出すのはいったん落ち着こう!な!?」

 彼女は俺の話なんて、一切聞く耳が無かったにもかかわらず、『雲』という言葉を聞いた瞬間眉をしかめた。

 「往生際の悪いゴ・・・・ん?・・・・・ちょっと待ってください・・・なんで雲を操る魔術だって知ってるんです?」
 「だから夢でアンタが魔術を使っている所を見たんだって!信じてくれよ!」
 「ふう、、、詳しく聞かせてください。」

それから、俺は彼女に有りのままを話した。
白い髪の少女二人を守るために、俺は剣を構え、彼女と戦っていたこと。
俺は同年代の少女に弟子入りしかもセクハラが原因で破門されてるようであること。
どうやら『曇の属性』とやらでお互い戦っていたようであること。
そして何らかの目的があり、それに準じて白髪の少女たちを害そうとしていたようであること。

 「・・・なんて面白い。『曇の属性』を使ってた?あなたが?」

殆ど、話を聞いていやしなかった、、、このアマ。
ほーう、ならいいだろう。
そろそろこっちも、反抗の意思を見せる時が来たようだ。

「そんなキラキラした目で俺を見つめて・・・さては俺に惚れたか?」
 「えい☆」
 「ごめんなさいぃぃぃぃぃ!」

 彼女は、杖を俺の顔がある地点に迷いなく、突き刺した。
 俺は首を必死でねじったため何とか串刺しにならずに済んだが、深くめり込んだ杖の先がまじコワス。
なんか段々セクハラ発言に抵抗がなくなってきている。
これはまたあとでジタバタ悶えることになるのだろうが、セクハラって主人公っぽいから楽しいことに気付きました。

 「セクハラって、、、主人公っぽくないですか!?」
 「ふ、、、、ふふ、、、、ふふふふふふふふ」

あ、口に出してしまったようだ。
 彼女はうちの担任の穂のちゃん先生のように、かなり危ない気配を身に着け始める・・・ヤバい!
彼女はふふふと笑いながらこっちにかがみこんできた。
そして、手にポツンと置いてある純白の種をみせながら言う。

 「あなたには二つの選択肢があります。一つは私のこの種を飲み込んで私の弟子になるか。もう一つはここでむごたらしく雲に喰われて、それはそれはむごたらしく最後を迎えるか。」

つまり選択肢は、、、二つ?

「、、、悪魔の種って?」
「ぶっぶー!時間切れです!さあ、君の!ちょっといいとこ見てみたい!はい!はい!はい、はい、はい♪」

ムカつくほどいい笑顔で彼女はぐいぐいと人差し指と親指で挟んだ白い種をぐいぐいと押し付けてくる。

 「・・・・③だ」
 「え?」

③悪魔の種を飲み込んで弟子になる(ただし飲み込む際たっぷりと指を舐める)

 「きゃ、、、、きゃああああああああああああああああああああああ」

ぶん殴られたがわが生涯に一片の悔いなし。

「ぐすっ、、、ぐすっ」
「あー、まじごめん。あんまりにもからかいがいがあったもんだから。」

本気で女の子を泣かせてしまった際はどうしたらいいですか?
P.N.異世界トリップしちゃったさんからのお便りでした。
 
小声で、おとうさん、おかあさん私、、、汚されちゃったとか言いながら彼女は俺の目の前で三角座りになってガチ泣きしている。
俺はというと、縄が不思議パワーで拘束されてたようなのか彼女がああなってからはあっさりと人間としての自由を取り戻すことが出来た。
忌まわしい縄は、全部泉にポイしてしまった。

ちなみに、泣いてる女の子に触れることが出来ないのは俺がNPCだからじゃないよね?
主人公でもキッツイ状況だよね、、、ねえ!?
さて現実逃避のお時間だ。

 「『ステータス』!」

俺のドヤ顔による叫びと共に、俺のこの世界における立ち位置を示した半透明のステータス板が目の前に現れる。

 -ステータス-
種族:ホモ・サピエンス
年齢:15
職業:無職
本属性:曇 補助属性:
本質能力:
スキル:
称号:なんちゃって異世界人 

雲の種を飲み込んでから、体に宿るあの種が何となく体にこの世界でのみ適用されるルールの使用方法を教えてくれる。
どうやらあの種が俺にどうすればよいかをなんとなく教えてくれているようだ。
ぶっちゃけ、三角座りでへこんでいる奴に聞くよりもよっぽど話が早い。

名前が無記名だとかややこしい状態になっているが、どうやら曇の魔法はステータス上では使えそうなので安心した。
だって、異世界なのに魔法使えなかったら、YOEEEE系の主人公、、、どうせだったらTUEEEEEE系の方がいいに決まっている。

腹に妙な違和感が残っている為、ちょっと嗚咽感があるのは否定しないが。
ステータスの『なんちゃって異世界人』、『親のすねかじり』とかにツッコミを入れてるうちに彼女は気を取り戻したようだ。
涙目の彼女は俺のステータスを恐る恐るのぞき込んできた。
そして、俺がぼうっと見ていたステータスに曇の本属性があるのを見て満足する。

「さて、何から説明しようかな・・・」
「魔法の使い方を出来れば最初に頼むよ。」
「え?ま、いいですけど・・・」

まじか・・・という表情をした彼女は杖を掲げて、苦笑いをした。
・・・何故だろう?怖気が走った。
 
 「ある程度は私の本質能力の『曇の種』が教えてくれると思うから、軽く説明しますね。いつもは省略する段階だけど、、、『曇の魔術-核』」

夢でも見た通り、やはり彼女の杖から大量のGN粒子、、、みたいな大量の粒子が散布された。
辺りにそれがバッと飛び散る中、俺の目の前に一つの粒子が浮かんでいた。
 一見、雪のような小さいそれはよく見ると、白い結晶体のクリスタルだった。

 「これは、核。『曇』属性は大量の空気中の自然魔力を纏わせることで、疑似的な雲を創り出す属性。いつもは面倒だから最初から雲として出しちゃうけど、基本的に『曇属性』の魔術師はこの核を放出し、雲を作って、それを操るんです。」
 「で、一応雲自体は魔法だから触れると・・・」
 「もっとも、雲に触れる以上に重要なことがあるんですけどね。それはいい、、、あ!」

 彼女は説明を続けようとしたが、何かに気付いたのかある方向に顔を向けた。

「いずれ、『あなたの魔力』が教えてくれると思いますが、雲は包んだものを知覚しそれを教えてくれる。そして、その雲を操作することで・・・『曇の魔術-寄』」

 彼女の見ている方向を一緒に眺めていると、遠くから白い雲の塊が、高速で飛んできて俺の前でピタッと静止した。

 「き、○斗雲・・・」
 「・・・?なにいってるか分かりませんが、ほら、師匠の私からあなたへのプレゼントです。」

 雲がすっと離れて行って、いきなり棒状のものが降ってきたため、慌ててそれを受け止める。
その瞬間、それがなんだかわかり、、、うほっと叫んでしまった。

 「剣だ!」
 「良い剣ですね、、、盗賊団からかっぱらってきたものですが、こんなに良い剣は貴族じゃないとなかなか扱いませんよ。」

 昔から、慣れていた細くて軽いあの剣とは違い、ずっしりとしている。
オーソドックスなナックルガードに細長い剣。
 突くことを前提とした為に、通常の長剣より長めなのが特徴のこの剣は・・・

「レイピアか!、、、個人的にはそれでいいんだが、主人公的にこれは地味だな。」

やっぱ最初はテンプレ的に安物の小剣であるべきだと思うんだ。
それなのにこのレイピアは、ナックルガードはかなり綺麗に彫刻されており、鞘から抜かれた剣身には所々、宝石が埋め込まれている。
なんだ?この、ごてごてしいのは。
あきらかに、中二病乙なレイピアである。テンプレ無視である。

 「あれ?一番良い剣を盗賊団から奪ってきたんですけど?そこに埋め込まれた魔石は、魔法の効果を底上げしたり、空気中の魔力を本人に還元するすっごい剣みたいなんですよ?」
 「はあ、、、アンタはテンプレを全然分かってない。いいか、異世界トリップ物は最初は小剣一本で戦って、そしていきなりすんげえ強いボスを新人なのに倒せてしまう事で、周りに驚かれながらも実績を積み上げていくことこそが王道なんだ!ところがあんたは初っ端から魔法は使えるようにするは、チート武器を最初から与えようとするは、、、」
 「???、、、異世界、、、トリ、、、?ま、まあ、恵まれない人よりは恵まれた方がいいんじゃないんですか?」
 「もう一度言う!面白いから、物語になるんだ!最初からチートじゃ3巻にもならない!」
 「・・・はあ」

 彼女は何故か大きくため息をつくと、俺に人差し指を突きつけた。

 「めんどくさいから端的に言います。あなたは今、雲を使えるだけで、戦えるわけではない。戦い方を自分の魔力から学んでください。」
 「え?種からじゃなく?」
 「あれは、、、ただのきっかけですから。私も、、、元々は自分の魔力から、本質能力も戦い方も、、、曇の魔術も学びましたから」
 「、、、なんだよ、自分の魔力からって、、、一体どういう意味だよ?」
 「魔力はこの世界で生まれたもの全てに、この世界で生き残っていくために与えられる能力です。それさえ忘れなければ大丈夫。」

 何かいらだつものを必死で腹の奥で抑え込んでいる彼女の表情に、彼女の過去が俺たちのような高校生とは全くかけ離れた人生を送って来たんだろうと思った。
まあ、、、いくらセクハラ野郎だとしても、真面目な顔した女の子にちょっかいはかけない。

 「つまり、、、いや、時間が無いからこれだけ説明しておきますね『曇の魔術-霞』」

 彼女は、段々雲を纏い始め、本来ならもくもくして目立つはずなのに、何故か周りの景色に溶け込み始め、近くにいる俺ですら認識できなくなってきた。
それと同時にどこからか、馬の蹄の音や足音がし始めた。
 間違いなく、こちらにむかって来ている。

 「おい!なんかこっちにむかって来てるぞ!?」
 「ああ、来るように仕向けたんですよ。」
 「はあ!?」
 「盗賊団サイクロプス、、、ここら一帯を占めてる武闘派盗賊団です。魔力自体は烏合の衆ですが、経験を積んだ歴戦の戦士が多いそうですね。そして、、、自分の獲物が奪われれば地の果てまで報復に向かうそうです。」
 「ま、まさかこの剣は!?」
 「さあ、一つ目のレッスンです。命をレートに、自分の魔力を叩き起こしてください。」
 「お前、絶対まだ怒ってるだろ!?」

ドッ、ドドッ、ドドドッ!

起きる砂埃がその人数が半端ないことを示している。
この剣の価値を示しているのか、、、それとも永遠に追い詰めるという意思の表れか。
 彼女が霧に姿を隠すのと同時に、そいつらは姿を現した。

 「なんでえ?やっぱ、ガキ一人じゃねえか」

 薄汚れた服、煤けた顔。
 歴戦の戦士である証明のような鍛えられた身体。
あまり、体を洗っていないのかひどいにおいがこっちまでも漂ってくる。

 思わず鼻をつまみたくなるが、そんな簡単なことでさえしようとした瞬間、俺は串刺しになるだろう。
それぐらいピリピリした殺気が俺にあてられていた。
 全員で10人ほど、、、間違いなく普通に立ち向かえば殺される。
そして、立ち向かわなくても、、、殺される。
 話し合いの余地、、、なんてあるはずがない。

 「ほう、黒髪か、、、不吉だと捨てられでもしたか?今まで生きてこられただけでも幸福だったなあ!」

 盗賊の一人がそう口にして、剣を抜いた。

 「さあ、さっさと終わらせちまおう。」

 一人が、弓に矢をつがえ、辺りを見回してる。

 「いや、一人とはいえ、俺らがあんなにも見張りをつけてた剣がこうもあっさりと盗まれたのは気がかりだ。気を付けた方がいい。」
 「気にし過ぎだ!どうせ、監視の奴ら酒でも飲んで、ラリってたんだろうよ!」

コイツラ、、、おれを、、、殺す前提で話ススメテル、、、?

 「『曇の魔術-発』!!」

そう思った瞬間、体が勝手に動いてしまった。
見よう見まねと種の力で無理矢理起こした雲で辺りを覆う。

 「な、なんだ!霧!?」
 「ほら、やっぱり、妙な術使うじゃねえか!!」

 盗賊たちが、大声で辺りを確認してる隙に、急いで反対側へと駈け出した。
 脚が急に動かしたせいか、上手く動かせず、フォームも適当にじったばった走る。
くそくそくそくそ、さっきまでコメディ小説だったのに!
なんで、いきなり命を狙われてんだ!
まるで、夢の中で走ってるかのように、体をいくら動かしても前に全然進まない。

 「ぎゃああああっ」

いきなり足の神経がビチッと切れた感覚が訪れ、痛みについかがみこんでしまった。
 辺りを見回すと矢があった。足にかすったんだろうか。

 「剣から雲出しながら逃げてちゃ狙ってくださいって言ってるもんじゃねえか・・・おい!足をやった!もう動けねえはずだ!妙な術使われる前に、仕留めちまえ!」

コントロールが甘かったのか、俺が作った雲はあっさりと晴れてしまっていた。
 殺気だった目をこちらに向けられながら、、、剣を持った盗賊が、、、槍を持った盗賊が、、、じりじりと油断なく辺りを見渡しながらも近づいてくる。

 「ひ、ひぃいいいいいいい」

 人間、怖くなると漏らすって言葉を聞くが、それは間違いだ。
 脂汗を全身にかき、パニックになるんだ。
そして、、、自分が今何しているのかをわかんなくなってしまう。

 何?何なの?あいつめ?死にたくない?痛い?『俺の曇の魔術』?脚が痛い?擦りむいた手?
 『曇の魔術ーうんたらかんたら』は俺のやり方じゃない?
 盗賊が血カヅいて来てる?もうけんを振り上げてる?『曇の、、、え?違う?
 主人公が他の人のまねしてどうする?ならどうすりゃいいんだと?
あ?弓から版当たれた矢までこっちにいる?死ぬ?
あ?おまえそもそもだれだよ?あ?俺zisんの魔力?
しるか、いや、しってることにする、だからいきのこるほーほー、おしえってくらさい。

 「『曇の壁≪ウォール≫』!」

ガキン!

 「なんだこの堅さは!?剣の刃が一瞬で駄目になりやがった!?」
 「まるで金属じゃねえか!?」

 目の前に突然下から上へと昇っていくように現れた雲の壁は、流動する雲のように激しく波打っていた。
そして、その壁は雲であるにもかかわらず、鉄のように固くそして、、、夢のとおり、黒かった。
 頭の靄がスーッと消えていく。
 自分でも驚くほど冷静になれていた。

 「これが、、、俺の曇の、、、魔術?」

 体が、、、軽い。
いつの間にか、アリア=レイディウス同様、体のあちこちに黒雲が巻き付いており、まるで黒のロングコートwwwwwになっていた。
 制服にロングコートなのでかなりアンバランスになっている。
でも、どうやら脚の周りにもこのコートが巻き付いているお蔭で、立つことも出来るようだ。
 傷の保護までしてくれていると、魔力が教えてくれている。

 本当に、、、何となく分かるっていうこの感覚には全然慣れないが。
しかし、種の違和感がいっさい感じられなくなったりといいことづくめではあるので文句は一切ない。
 魔力に従うがまま、次のステップに入る。
レイピアを盗賊たちの真上に突き出し、大声で詠唱する。

 「『曇の階段≪ラダー≫』!」

 剣から湧き上がる黒雲が、盗賊の真上まで、一気に伸びていく。
 『曇の壁≪ウォール≫』に武器を駄目にされたのが、そんなに恐ろしかったのか、盗賊たちは尻込みして、手を出してこない。
 俺は黒雲のコートに強化された身体能力で、自分でも笑ってしまうぐらいのスピードで登っていく。
たまに忘れたかのように飛んでくる矢も、剣で簡単にはじき返してしまえる。

 何だこれ、何だこれ。
すんげえ、今、俺、、、

 「主人公ジャナイデスカーーーーーーーーッツ!!!」

ああああああああああああ、楽しいいいいいいいイッ!
こんなに大声で周りに自分のことを主張できるのも!
こんなに自分が主人公っぽいことが出来るのも!

ここだからこそなんだろうな!

ここが『現実世界じゃないからこそ』
セクハラも、魔法も、盗賊も、人殺しも、俺が主人公であることも・・・
認められるんだろう!

 「『雲よ!雲よ!曇天よ!』」

 魔力の導きに従い、大きく黒雲を動かすため、声で命令し効率的に動かしていく
 ま、簡単に言うと詠唱だな

「『空に逆らう愚か者が見えるか?あなたは今どこにいる?』」

 盗賊たちが、集まる魔力を感知したのか、それとも、怪しげな術に恐れをなしたか。
どちらでも構わない。
 俺は『主人公として』今は詠唱を紡ぐだけ。

 「『空よ曇れ!そして集え!神の右手は今此処に顕現する!』

 周囲の黒雲が俺の足場の雲を除いて、全て俺の右手に集い、流動する曇の巨大な腕を創り出す。
そしてその腕は暴れる者共を押さえつける為に俺は下へと振り降ろす。

 「『曇神の審判≪クラウド・ジャッジ≫!』

 巨大な手が逃げようとする臆病者を、立ち向かおうと剣を、、槍を、、弓を振るう神に対する反逆者を余すことなく、押し潰す。
 鉄のように強固ながら、雲のように流動する矛盾なる手に押しつぶされた彼らは泣き叫ぶ。

 「た、助けてくれええええええ・・・」
 「ぎゃあああああ、つ、潰されるゥう!????」
 「し、死にたくねえええええ、、、、、あ                」


そして、断末魔の悲鳴は一つ、また一つと消えていった・・・い、いや、、、、死なないよ?
ただ、雲に包まれて動きが取れなくなっただけですから・・・とタジタジする俺だけが残った。

気絶させた盗賊は皆まとめて、雲の魔術で作った穴の中に顔だけ出して埋めてしまった。
待っていると、少女がいつの間にか霧から姿を現した。

 「甘いですね」

 状況一目見るなり、アリア=レイディウスはハッキリとそういった。
まあ、普通はそれなんだろうな。
 何でも許される世界だからこそ、罰は重くなる。
 盗賊たちは本来、ここで殺さなければならないのだろう。


でも、俺はここでは、、、この夢の中でなら、主人公になれる。
そして、人を殺してしまったら俺はここを現実と認識してしまう。
 現実と認識してしまったら、照れ、羞恥、プライド・・・
現実の様々なモノが俺を縛っているモノがここでも俺にNPCであれと訴えかけてくるだろう。
そんなことなら
 この素晴らしい現実みたいな夢から覚めなくていい。

 「甘い、甘くないのはなしじゃないさ。せっかく主人公になれるってのに、人を殺しちゃ夢から覚めちゃうよ。」
 「・・・ま、まさか!?殺すだけなら、簡単にできたっていうの!?」
 「武術の心得ならある。魔法も大体種から教えてもらえた・・・だけど、殺すことは出来ても、無力化できるほどの大きな力を得ることが出来なかった。」
 「なんて無駄なことを!そんな覚悟で、、、」
 「小説や物語の主人公はNPCを簡単に殺せるような人間であってはいけないんだ。」
 「な、、、何を言ってるんですか?小説・・・?物語・・・?ここは現実なんですよ?」
 「いーや!俺はここで主人公になるためには、それぐらいの覚悟で行かなきゃいけないんだ!」

 困惑した表情の少女に向けて俺は、にっと笑いかける。

 「なあ、、、俺、今、すんげえ、わくわくしてんだけど!この世界マジでサイコ-!」

 目標:この世界でコメディ小説のようなワクワクする主人公になる
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