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異世界って…思ってたんと違う。。。
しおりを挟む「…………かさ………ずか………………鈴鹿さん。」
低い男の声。優しい呼びかけ方だ。綾兄みたいな……。
ーーーにぃ、もう少し……。
「………オレはにぃ じゃないぞ?」
「っ!!」
やべ、寝ぼけてたくさい。恥ず……っ。
「……寝ぼけてただけだし。」
見慣れない部屋だ。ベットが向かい側に1つ、私の寝ているベット…いや、もう身体は起こしたけど。その間にちっちゃい棚?かな、がある。その奥に入口っぽいドアと、その手前にドア…トイレかな?宿屋か寝室みたいなところか。壁がコンクリートむき出しだから、めっちゃ近代的な雰囲気の部屋だ。デザイナーズ物件で見た事あるぞ、こんな感じの壁。
私が周りを確認していると、すっと、布が口元に触れた。
「……っ!何?!」
腕で口元を抑え、ベットの端に飛び退く。……うん、これあれだ、あれ。たまにやっちゃうやつ。
「いや……ヨダレ…。」
だろなっ!そんな事だろうと思った!てか知ってたし。
ロン毛…ネフラムは、まだバツが悪いのか歯切れが悪く、気まずそうに私と目を合わせたり逸らしたり……。黒いワイシャツに黒いパンツを着て、黒髪ロン毛も相まって何やら夜の繁華街に居そうな様な、現代版悪魔っぽい様な感じの格好をしてる。……態度と合ってねぇ。あんだけ軽い感じだったのに、ぶっちゃけ草。さっきのは何だったんよ。いや、ほんとマジで。
私は……あれ、ダボッとしたロンTに…ダボッとした7分丈のズボン。掛け布団の上にはダボッとしたロングカーデ。……うん、寝間着だね、私がいつも着てるやつ。つまりさっきと同じで、いつもと同じ。超不満なんですけど。恥ずかしさが倍になったどころの騒ぎじゃないやん。
「ネフラムは服変わってるのに何で?」
「…オレはこの世界に合う服装じゃなかったから。」
…………口に出てた。
てかこれ寝間着だけど、この世界これでいいん?
「この世界はあまりいい服着てても目立つから、これくらいで全然平気。ってかなんならオシャレな方だぞ。」
「……へぇ。」
これでオシャレか。うん、オシャレならいいや。私から恥ずかしさが無くなった。
さっきからネフラムの様子が出会った時と違う様な気がして違和感はあるけど。まぁ、私寝起きだしね。いいや。
ネフラムは、すーっとマグカップを渡してきた。……いい匂い。紅茶かな?ありがとう、と言って受け取る。それと同時に、私は違和感の正体わかりそうな気がしてきてる。とりあえず1口。
…………。
……うん、なんか知らんお茶だ。紅茶じゃねぇ。美味しいんだけどね?ちょっと違かった。
「…………。」
「……。」
……………………………………。
……え、なに気まず…っ!こいつ神でしょ?私を呼んだ本人だよね?!何か改めての自己紹介的なのとか、説明とか、お礼とか、何かないんかい!!!てか世界についての説明を率先してしろよ!神本人から何も説明しないんかい。はぁ……しゃあない、何か私から話すか。てか聞くか。状況確認スタート。
「……ここは?」
「俺たちの家、賃貸みたいなところみたいだ。ワンルーム的な。」
ふーん……ズズズー。お茶を1口。ネフラムと目はあまり合わない。
「ここってどういう感じの文化の世界?」
「ほとんど鈴鹿さんがいた世界と…日本と変わらない、何も考えず普通に生活する分にはな。」
なるほど……ズズズー。お茶をまた1口。ネフラムと目はあまり合わない。ん?
「……日本と変わらない?家畜化とか何とか言ってなかった?」
「表面上はそうだな。鈴鹿さんなら良く考えればおかしいところはたくさん見つかる。」
ふむふむ……ズズズー。お茶をまたまた1口。ネフラムと目はあまり合わない。
「情報収集から始めていく感じ?になる?」
「そうだな。」
うーん……ズズズー。お茶をまたまたまた1口。ネフラムと目はあまり合わない。
「…………。」
「………………。」
会話のキャッチボールは出来てる。説明不足感は否めないけど。…けど。何?この気まずさ。初手の軽くてチャラい感じどこいったん?キャラ変?ほんとに同一人物?
しばしの沈黙…。ネフラムは伏し目がちで身動きをしない。私の傍にある椅子に腰掛け、少し私を見つめて、また伏し目がちになる。
「……なに?」
「何がだ?」
…………また口に出てた。
まぁいいか、私は素直なのだ。それより、何がだ?じゃねぇよ。用もないのに見てくる奴があるか。てか、あってたまるか。
「チラチラ見てきて何か言いたいのかと思うじゃん。何?」
ネフラムは少しだけ私から顔を背け、肩から滑り落ちた髪を耳にかけ、気まずそうにポソッと言葉を発した。
「……悪かったな。ちゃんと説明しなくて。」
あーね。ヤクザさん…大国主命さんが説明するまでちゃんと話さなかった件か。なんなら、全部説明して貰ってたもんな。なんだ、ちゃんと謝れるんじゃん。……そこまで深刻に謝る程の事でもないと思うけどね。
「いや、もういいよ。自分の大事なものを悪く言いたくなかったってだけでしょ?」
「ああ……でも…」
「いいってば。結果的に話は理解出来たし。………てか、この話まだ引っ張る?」
もう良くね?と、気遣いでも何でもなく私の本音を言う。これから行動を共にするんだし、私もその気持ちが分かるからこそ、この世界に来たんだし。
「だから、もう普通に接してよ。私の事は呼び捨てで良いし、私も呼び捨てにしてるし。らふにいこっ!」
気遣い出来る私、やっさしー♪♪
伏し目がちだったネフラムもホッとしたようだ。さすがです、私。
「んじゃ切り替え切り替え~!マジありがとな鈴鹿!」
……………………ちっ。それお前が言うのと違くね?
ネフラムの軽さにちょっとイラッとしたけど、まぁ、さっきの気まずさよりはましだし……うん、飲み込んであげるよ。舌打ちしちゃったけどね。ははっ!
*
「……んで今後の方針なんだけどさぁ…。」
どんだけさっき我慢してたのか、気まずかったのかわからんけど、やっぱこの神めっちゃ軽いわ。てか、チャラい。
さっきの反動なのか、ものの数分で椅子に座って足は組むし、ベットサイドの小さい棚に頬杖付くし。
「やっぱ最低ラインこの世界の常識に慣れなきゃいけないと思うわけよ。オレは大丈夫だけど。」
うぜぇ。何って話し方も態度も。オレはって何だよ、オレはって。そりゃあ私生まれも育ちも日本だし、慣れてないのは当たり前じゃね?しかも来たばっかよ?
「……んだね。」
「そうなったら、まずしなきゃいけない事は1つだろ。」
「……?」
「デートだ!」
「……あーね。」
うぜぇ。うざい極まりない。ツッコミも否定もダルいしめんどい。
デートってかあれでしょ?つまるところ市政調査でしょ?買い物したり、ご飯食べに行ったりして様子を見ていくことはいいと思うけど、なんかもう全部うぜぇ。なんかキメ顔しててイライラ度up。
「んじゃ、そゆことで準備してこいよ。下で待ってるから。」
そう言ってネフラムは髪をかきあげながら立ち上がり、部屋のドアへ向かいスマートに出ていった。
こういう事をカッコつけたりしないで出来るところは、正しく紳士のそれで。さすが神だとは思うけど、色々チャラいせいで何やら腑に落ちない。……まぁ、準備するか。私はベットから起き上がりシャワーを浴びに向かう。
ちなみにシャワーは部屋の中にあったが、日本と一緒って感じのユニットバスだった。
……ほんとに異世界?
*
あれからネフラムと合流し、結構周辺を回ったけど、ほんとに日本の東京の某繁華街みたいな感じ?が1番ニュアンス伝わりやすいかもしれない。なんならそれよりもネオン街すぎるくらいだった。
ただ違うのは本当に服装が私の寝間着レベルでシンプルだって事と、至る所に監視カメラがある事くらいだった。
私とネフラムは、日用品やら、万が一のための雑貨…ネフラムの謎チョイスだったから私はよく分からんけど、釘をやたらアホのように買ったりしてたので丸投げした。あとは少しの食料品。
ーーー何か作るんだろうか…?DIYはしたことが無いからわからんけど。
そして今は買い物も落ち着いて、ファミレスみたいな…というかファミレスだなもうこれ。要するにお食事なうだ。
「……なんか、めっちゃ日本だったわ…。」
「だろ?」
ネフラムが何故か得意げだったが、料理も料理の名前も丸まんま日本だった。使ってる文字も言葉も日本語だし。たまに、てか、ほんと稀に知らない漢字があったけど……私が知らないだけかな?
まぁとりあえず、色々と本題に入らせて貰おう………と、思った矢先に、
「…そういえば、鈴鹿もうオレに敬語つかわねぇの?」
そんな事どうでも良くね?てか、使わないって話をしただろが。とは思ったが、説明したくないので初めてその説明する体で話すことにした。
「なんか、いいやってなったから。……それより」
ちょっと雑だった気がするけどいいか。
今日1日街を巡ってみても、この世界のどこに異常があるのか全然わからなかった。文字も一緒だし、そもそも争ってる感じも、家畜化の片鱗も見つからなかった。この世界の何がそんなに異常なのか?と私が言いかけたその瞬間だった。
ヴァヴヴヴーンッ!!!
サイレン…と思われる音が大きく鳴った。隣で大きく鳴り響く様な錯覚をするほどの大音量。怖っ!!てか何事?!やっと話を進められそうなタイミングでなんなんマジで。
日本にあまりにも似ていたせいで、緩みきっていた私は、急な脱日本感を体感し、正直恐怖を覚えた。ギョッとして当たりを見回そうとすると、ネフラムがそれを制した。ただ小さく首を横に振る。
「……さっさと食うぞ。反応するな。」
「……………………。」
とりあえず小さく頷いて、食事を続ける。
ネフラムは特に何も気にして無さそうだ。
「………てか、ずっと思ってたけど、お前見た目めっちゃチャラいよな。」
反応するなって言ってたし、普通にしてなきゃいけないってことだよな……と急な失礼なネフラムの発言を無視して少しだけ頭を整理する。
「………華のJKなんだし、オシャレはするっしょ。いいじゃん別に。」
普通に会話をする事にした。今はネフラムに任せてしまおう。
「不良だぁ~。」
多分気を使ってくれているのだろう。それは分かるが、癇に障るワードチョイスで素直に感謝出来ない。何か皮肉でも言ってやろうと思ったが、
「ちなみに近くにこの国で1番野蛮って言われるスラムがあんだけど、ちょっと度胸試しに行ってみねぇ?」
「え、めっちゃ嫌。」
口に出てた。まぁ、もうよくあるやつ。私って素直♡
「大丈夫だって!オレがついてんだから。スラムって割にいい暮らししてるらしいぜ?気になるだろ?」
「いいえ、ちっとも。」
「………………………………………チキってんだろ。」
「ええ、もちろん。」
ふんっ、バカめ。そんな煽りで私が自分の意見を曲げるわけなかろうが。煽り耐性はたかいんよ、私。
ネフラムは諦めたらしく、食事を続ける。
なんだかんだ、このやり取りで、さっきの爆音サイレンで落ち着かなかった心が落ち着いた。
でもさっきのサイレン何だったんだろ?火事か事件か、そんな感じかな。お店の中にいる他の客も普通にしていて避難もしないし。
食事を終えて店を出ると、もう外はすっかり夜だが、ネオンのせいで星は全く見えない。しかし日本のネオン街でもここまで派手にギラギラしていないだろう。違う世界、とまではいかなくとも、違う街にいるんだという実感は湧いてくる。
「ちょっと回り道して帰ろーぜ。」
と言っていたネフラムが私の少し前を歩いて…というよりは、迷いなく歩いていくネフラムについて行くように歩いてしばらく経って、私は違和感を覚えた。
「……どこまで行くの?てか、どこに行くん?」
気づけば、ネオン街が遠のいていた。ビジネス街?なのか、周りの景色には高層ビルが建ち並んでいる。これこそ日本のネオン街って感じの景色なんだけどね。さっきのネオン街を見てたら、明らかに歩いている人もリーマンぽいパンピーだらけだ。
「んー?…もう少ししたら着くって。」
というやり取りから更に歩いて行くうちに、団地のようなところに差し掛かったところでネフラムが足を止めた。
団地のようなところと言ったのは、露店があったり、手押し車の屋台みたいなのがたくさんあって……めっちゃ賑わってるように見えたから。この世界に来て1番落ち着けそうな、もとい、親近感が湧く場所だ。
「……着いたぞ、九操の国の13番街。さっき話してたスラム街だ。」
「……は?」
前言撤回。
スラム街ってこんなんなん?てか、行きたくないって言わなかったっけ?……いや、思ってたんと違うから別にいいんだけどね?いや良くないよね絶対!!スラムだよ?!スラム!!めっちゃ危険な場所って事しかわからんけど!!てか、分かってないけど!!いや、分かってるのか?アフリカ的なイメージ……は全然違うか。あはは、超混乱なう。てか何でアフリカ出てきた私の頭。
「え?え?何で来たん?私行きたくないって……」
超混乱してて、文句言ってやりたい気も起きない。というより、私さっき親近感湧くとか思っちゃったし。
ネフラムはそんな私を見ていたずらっぽく笑って、私が思ってたんと全然違う事を口にした。
「この国で1番安全な場所だ。……オレらにとっては特に、な。」
今日1日のツッコミ所しかないネフラムの一部始終で私の中で確信した事がある。
ーーー根本的に説明が下手なんだ、こいつ。
後で落ち着けそうな所に着いたら、ちゃんと説明させてやる、と心に固く誓った。
んで、ツッコミたい事を飲み込んで、私はスラムに見えないスラム街の、とあるビルの一室にネフラムに連れられるまま入ったのだった。
応援ありがとうございます!
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