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十話

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 俺はシュティレに連れられ、スペランツァからラウネン国の王都へ向かうため、走って南門へと向かっていた。

 ちなみにシュティレと会った時、出会い頭に思いついた一発芸をかましたが、嘲笑すらもなかったよ。

 そう、俺はまたもや滑ったのだ。

 笑いとは何か?
 そんなことを真剣に考えるのは、前の世界では芸人くらいだろう。
 第三世界にいたっては俺一人かもしれん。

 俺は心底芸人を尊敬する。
 滑るという痛みに耐え、笑いの神髄を追求する同士達よ。

 そんなことを考えながら走る俺を、シュティレが横から急かしてきた。

「もっと早く走れないの?」

「何かあった時のために、余力を残してるんだよ」

 うるせぇ、これでも全力だ。
 スライム以下のステータスだと、どうやら走りも遅いらしい。
 全力で走って、子供や主婦に追い抜かれるのは悲しさを超えて虚しくなってくるな。

 慌てる街の人達にどんどん追い抜かしていく中、真横を慌てて追い抜いて行った二人の会話がたまたま聞こえてきた。 

「俺は実際見たんだ! 尋常じゃない数の魔物の群れだった!! いくらSランク冒険者がいるからって人間に止められるはずがない!!」

「わかったから急げって! 早く逃げないと騎士と冒険者がやられたら次は俺らの番だぞ!!」

 ……あん?
 リーベから聞いた話と違うな。どういうことだ?

 俺は立ち止まり、考える。

 リーベは、大した数の群れではないと言っていた。
 だとすると、街の人達のこの慌てようは何だ?

 さっきのヤツらの話が本当だとすると、リーベは俺に嘘をついたことになる。


 何故だ……?
 ……決まっている。俺を安心させ、守るためだ。
 ……ふざけやがって。


 Sランク冒険者のリーベですら止められないってことは、あいつはどうなるんだ?

「何をしているの? 時間がないから早くして」

 立ち止まった俺の背中を、シュティレは手で押してきた。
 それでも俺は動こうとしない。
 実際は俺の方がシュティレよりステータスが低いため、強引に押されまくってるんだが。

「何故皆してこんなに慌てて逃げてるんだ? 大した群れじゃないんだろう? わざわざ王都とやらまで逃げる必要があるのか?」

「大した群れじゃなくても万が一のために――」

「嘘だからだろ?」

「!」

 やっぱりそうか。これでおあいこだな。
 俺だけ嘘をついてて罪悪感を感じていたが、少しスッキリしたぞ。

「よし、行くぞ」

 振り返って北に向かおうとする俺の目の前に、シュティレが立ちはだかり、両手を伸ばし俺の行く手を塞ぐ。

「どこに?」

「決まってる。リーベは闘ってるんだろう?」

 行き先を告げても、シュティレはどかないどころか、ジト目で睨んできた。

「……邪魔だ、どけ」

「リーベにあなたのことを頼まれた。ウチはあなたの面倒を見なければいけない。Sランク冒険者の命令に逆らえるのは騎士団長以上の権限が必要」

「そうかい。なら、お前とは適当にはぐれたとでもリーベに伝えておくよ。俺はリーベと一緒に闘う」

「行かせない。あなたのステータスはスライム以下。行った所で何の役にも立たないどころか、リーベの足を引っ張る可能性が高い。それはあなたもわかっているはず。何で自ら死にに行くの?」

 確かに俺はこの世界じゃ弱い。
 お人好しのリーベは、戦場で俺が死にかけたりしたら直ぐ助けに来るだろうさ。    


 ――俺は前の世界で、ずっと一人で生きてきた。
 アル中の母親にも、誰にも頼らず、自分だけの力で。
 少なからず、その事実が俺という人間を支えてきた。
 そんな俺がこの世界に来てからは、リーベにおんぶにだっこだ。


「リーベはへこんでた俺に飯を作ってくれた」


 借りを作ってばかりで、何一つ返せない?


「リーベは行き場のない俺を家に迎えてくれた」


 ありえねぇ、ダサすぎる。
 このままじゃ気持ち悪いんだよ。
    

「ここでリーベの所に行かなきゃ、俺は俺を生涯許せねぇ。リーベのためじゃねぇ。俺は俺のために行く」


 覚悟を決めた俺と、シュティレは暫くにらみ合う。
 やがてシュティレは、折れたかのように面倒臭そうにため息をついた。

「……そういえば、あなたを一緒に連れていって欲しいとリーベに言われたけど、どこにとは言われていない。あたしと行動を共にするなら、あたしは街の人を非難させたら元々闘いに参加する気だったから、必然的にあなたを連れていくことになる」

「……つまり?」

「リーベと共に闘う」

「話が分かるじゃねぇか、シュティレ。行くぞ」

 俺はシュティレの背中をバシッと叩き、俺達はリーベがいる戦場へと向かった。
 シュティレの背中を叩いた手の平が痛ぇ。


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