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第三章

ネル 第一関門にてガーベラの言葉を考える

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「ようこそ。山岳エリアのチェックポイントへ」

 道中仕掛けられていた罠をピーターの機転で取っ払いながら、あたし達は遂に一つ目のチェックポイントに辿り着いた。

 棒を立ててテントを張っただけの簡易的な詰め所で、先に着いていた何組かのチームと一緒に係員の説明を受ける。

「このエリアのお題は、ズバリ“崖登り”。その崖の上にある特設台に設置された機械を手持ちのタメールに翳し、再びここに戻ってきてください」
「崖の上って……この崖!?」

 ピーターがぐぐっと首を上に向ける。そこに見えるのは明らかに首が疲れそうなほど高い崖。ほとんど直角と言っても良い急勾配で、回り込めそうな道もあるにはあるけどそれでもやっぱり急な坂道だ。

「手段は問いません。崖登りと銘打ってはいますが、横の坂道を進んでもらっても結構です。ただ遠回りになることは先に言っておきます。そして一つだけ注意事項を。機械が反応するのは。他のメンバーは仲間をサポートするもここで体力を温存するもご自由に」
「……ですってよ? 我がライバル。一人でさっさと登るのは無しって事ですわね」
「分かってるよ」

 ちぇっ! あたしがリーダーだったら速攻で一人で登って片付けてたんだけどな。

 という事で説明もそこそこに、早速どう行くか作戦を練る。

「だけど、一つ目の課題は結構楽勝っぽいね!」
「いや。それはネルさんぐらいですからね!? ボクがここを登ろうと思ったらかなりキツイですよ!? まだ序盤だしここは安全を取って横の坂道を」

 ガシッ!

「よっし。じゃあ行くよピーター」
「へっ!? いやちょっと待って!? 何でネルさんボクの服を掴んでいるんでしょうか?」
「そんなの簡単だよ。手っ取り早く。ピーターは受け身だけちゃんとしてくれれば良いの。帰りは機械を翳してそのまま崖から落っこちてくれたらこっちで受け止めるから。ね? 簡単でしょ?」

 あたしが懇切丁寧かつすぐに済むナイスアイデアを披露すると、何故かピーターは青い顔をしてジタバタする。もう。暴れないでよ。持ち上げている手元が狂ったら危ないよ。

「しかし我がライバル。結構ここから高さがありますけど、本当に大丈夫ですの? 最悪崖にぶつかりでもしたらリーダーさんが潰れたトマトみたいにクシャって行きますわよ? あまり危険すぎるやり方であれば止めさせてもらいますけど」
「大丈夫大丈夫! え~っとピーターの重さがこれくらいだから……うん。イメトレもばっちり! 9割方あの崖の少し上辺りに飛ばせたから」
「それ1割はボククシャっていってますよねぇっ!? いやいやいや勘弁してくださぁ~いっ!?」

 ピーターが涙目になってる。……うん。なんかゾクゾクしてイケナイ気分になる。だけどまあぶつかっても受け身さえちゃんと出来れば骨の一本折れる程度で済むでしょ! それくらいなら邪因子の活性化を強めればすぐ治るし!

「仕方ありませんわね。安心してくださいませリーダーさん! 本当にいざとなったら私がフォローに入りますわ」
「じゃ! 行っくよぉ~っ!」
「ぎょえ~っ!?」

 ピーターの絶叫を聴きながら、あたしは思いっきり振りかぶり……。


「ヒャッハー! 先行かせてもらうぜぇ!」


 そこへ、ばさりと音を立てながら黒い影が上に飛び立っていった。見ると、猛禽類的な何かの怪人が大きな翼を広げて凄い勢いで進んでいく。

「あっ!? ズルいっ! 山登りなのに飛んでくなんてありっ!?」
「チームメイトをぶん投げようとしてた奴に言われたかねえなっ! それに手段は問わねえんだろ? バカ正直に登るなんてやってらんねぇや」

 ぐぬぬっ~! だけど確かにあの鳥型怪人の言う通り。実際今から普通に登らない手で行こうとしていた訳だし。……でもやっぱりシャクだから撃ち落としてやろうかな。

 そうして見る見るうちに鳥型怪人は崖上近くまで舞い上がり、

「ハッハ~! ゴールは頂……んなっ!?」


 


 バランスを崩した鳥型怪人は、何とか体勢を立て直そうとする。だけど風の勢いは想像以上で落っこちないようにするのがやっと。おまけに、

「なっ!? 上から何か……へぶっ!?」

 崖上から落ちてきた掌大のボールが頭に直撃。そのままくるくると回転して地上に落下してくる。そして地面に激突する直前、


「おっと。危ないですわよ」


 髪の毛を伸ばし、クッションのようにしてガーベラがキャッチした。結構衝撃があるかと思ったのに、まるで綿みたいに柔らかく。どうやらピーターにフォローするって言ったのはこの事だったみたい。でも、

「ちょっと!? 何でそんな奴助けんの? 邪因子の無駄なだけだし、怪人化してるんだから怪我こそしても死にはしないよ?」
「それはそうでしょうけど、放っておくというのもあれでしょう? 。……そこの皆様! この方のチームメイトでしょう? 介抱するべきではございませんこと?」
「あ、ああ。ありがとう」

 髪を器用に使って鳥型怪人を運び、チームメイトらしい奴らに預けに行くガーベラ。だけど、あたしは今ガーベラが言った言葉に引っかかっていた。

「競争相手であって敵じゃない……か」

 分からないな。競争相手って要するに敵じゃないの? 今だってチーム戦だからガーベラやピーターと一緒に行動しているだけで、結局は幹部の座を争う相手だと思っているけど。

 あたしがちょっとだけ考えていると、すぐにガーベラはこっちに戻ってきた。いけない。今はこっちに集中集中っ!

「お待たせいたしました。……しかし、あの方が先走ってくれたおかげで厄介なことが分かりましたわね。頂上付近に吹き荒れる暴風と、時折上から降ってくるボール。リーダーさんを放り投げていたら間違いなく風で崖に叩きつけられるかボールで迎撃されていましたわ」
「……まあね」

 流石にあんなに風が酷くちゃ狙いが定まらないし、ボールが飛んでくるのに受け身を取って着地するのはあたしならまだしもピーターにはキツそう。

「仕方ない。ここは地道に登るしかないね」


「そ、そう。それは、良かった。なので……降ろしてください」


 あっ!? 今までずっとピーターをぶん投げようとして振りかぶったままだった。ごめんピーター。すぐ降ろすからね。




 ◇◆◇◆◇◆

 ちなみに以下、本文で使われなかった裏話です。




「あっ!? そういえばガーベラさん。さっきネルさんに持ち上げられている間地面を視たんですけど、ここら一帯に邪因子が張り巡らせてありましたよ」
「地面にですか? 罠にしてはまるで発動していないですが……成程! 多分崖から落ちた参加者のための安全装置か何かですわね! 私達はここに最初に来たのでまだ人が少ないですが、本来ならもっと混雑しているはず。確実に崖から落ちる者も出るでしょうから」
「じゃあ、完全にアンタのやったこと無駄じゃん!」
「オ~ッホッホッホ! 結果論ですが、まあそういう事もありますわ!」


 という訳で、一応安全装置くらい用意されていたりします。まあ分かっていたとしてもガーベラの場合咄嗟に動いたかもしれませんが。
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