12 / 31
ピーター 魔法少女を尋問しました
しおりを挟む
尋問ピーター視点です。
◇◆◇◆◇◆
コポポポポ。
(……気まずい)
やあ皆様。ボクピーター。只今とんでもなく気まずい雰囲気で湯呑に茶を入れています。
目の前には事態が良く分かっていないといった顔のアズキちゃん。ボクはひとまず場を和ませるべく茶と茶菓子を勧める。
(う~ん。これからどうしたものか)
何故こんな事になったのか? それを一から説明するのはとても長い。なのでざっくりまとめると、
一、アズキちゃんが最近何か悩んでいるとジェシーから報告を受ける。
二、この前自分が邪因子による怪人化について話した辺りからであり、それが原因の可能性が高い。
三、それはそれとして、そろそろアズキちゃんへの尋問を行わないと本部への建前的に良くない。
四つ、そうだっ! 尋問しつつお茶会をして精神を落ち着かせよう!
という感じだ。
(幸い、アズキちゃんが和菓子が好きなのは以前羊羹を食べていた時の表情から明らか。念のため、直接町に出向いて自腹でそれ以外にも一通り買ってきたけど)
困ったことに、緊張しているのか警戒か手を付けてくれない。こんな調子では尋問も何もあったものじゃない。なので、
モグっ。
自分から先にきんつばに齧りつき、お茶を飲んで見せる。……へぇっ! こりゃ美味い! 初めて入った店で買ったけど、調査期間中は贔屓にしようかな。
そうして食べていると、アズキちゃんもおずおずと茶に手を伸ばし、そのまま最中を一口齧って、
ポロっ。
涙を流していた。
一瞬何事っ!? と思ったけど、よくよく見ればその顔はとても穏やかで、自分が泣いている事すら気づいていないようだった。
そのまま一口。また一口と最中を食べていく内に、どうやら落ち着いたのか涙も止まり、笑顔とまでは行かないけれど曇り顔が晴れていく。ここしかない。
「……良かった。少しは、元気になったようだね。ここ数日。明らかに君は落ち込んでいた。原因は分かってる。あの時怪人化の事を聞いたからだ。……ごめん」
ボクはゆっくり頭を下げ、以前の説明でこちらの配慮が足りなかったことを謝罪する。すると、
「いえ……こちらこそすみません。気を遣わせてしまって。ワタシも、頭では分かってるんです。怪人と悪心は全然違うし、邪因子があるからこそワタシもここまで持ち直したんだってことも。でも……なんとなく、その……不安なんです」
(不安か。そりゃそうだよね)
少しだけ、その気持ちは分かる。ボクも似たような経験があるから。
説明をきちんと受けてから投与された大半のリーチャー職員と違い、緊急事態とはいえ気を失っている間に何も知らぬまま邪因子を投与されたアズキちゃん。
おまけに人外が敵だと日常的に根付いている国で生活してきたのだから、自分がそうなるかもとなればその辺りはより不安だろう。
ボクは右手をちらりと見る。見せたら場合によってはボクも嫌われるかもしれない。余計不安を煽る事になる可能性もある。だけど、
『ねぇピーターっ! “悪”って何だと思う? ……社会一般の法律を破る行為? クスクス。そ~んなガッチガチの答えしか出ないんだぁ? そんなんじゃあたしの下僕二号は務まんないよっ! えっ!? それなら何なんだって? ふふんっ! 聞いて驚きなさいよっ! あたしが思う悪とは……」
(『“自分のやりたい事、やるべきだと思った事、やらなきゃいけない事を、たとえ誰かをぶっ飛ばしてでも世界の迷惑になってでもやる”。それが悪であり、あたし達リーチャーなのよ!』……か。分かってますよ。ネルさん)
ふと頭をよぎった友人の言葉を思い出し、右手をぎゅっと握りしめる。
(荒療治でもなんでも、時間が迫っている以上やらなきゃな)
「……アズキちゃん。今からボクが変身する。出来れば、怖がらないでほしい」
そう言って、右腕だけ変身に留めたのはこの方が見た目的に人間らしいから。
そしてこの状態では、アズキちゃんはボクを人間だとはっきり認識した。……そう。そうなんだよ。邪因子による変身は、人間を辞めることじゃない。君が不安に思う必要はないんだ。
「ありがとうございます。心配してくれて」
アズキちゃんはそう礼を言うけど、こっちにも意地と打算があるから礼を言われるほどじゃない。
さあ。不安も大体取り除けたことだし、今度こそ尋問を始めよう。
その日の夜。食堂にて。
「ほら皆。ボクが自腹切って買ってきた和菓子だぞっ! 感謝しながらありがたく食べるように」
「おっ! 隊長気が利くっ! 丁度デザートが欲しかったんだ。ゴチになりま~す」
「美味し美味し! ……ついでに茶もくれよ隊長さんっ!」
「茶ぐらい自分で買ってきてくれっ!? というかもっと味わって食べようねっ!?」
おのれこの隊員達ときたら。尋問も終わったし、余った和菓子も一人じゃ食べきれないので配ったらこれだ。あれだけあった和菓子が瞬く間に食い散らかされていく。
「お疲れ様です隊長。あっ!? その大福も~らいっ! ……むぐっ!?」
「あ~。そんなにがっつくからだぞジェシー。……ほら水だ。医者が喉詰まらせて倒れるなんて洒落にもならない」
手渡した水を慌てて流し込み、ふぅ~と息を吐くジェシーをボクはジト目で見てやる。
「ハハハ。ありがと。さっきちらっと見たけどアズちゃん少し元気になったみたいね。隊長やるぅ!」
「本来メンタルケアはそっちの仕事だろうに。それにあくまでこれは尋問。それがスムーズに進むようにしたってだけさ」
「もうツンツンしちゃってさ。はむっ! ……それで~? なんか分かった?」
流石に懲りたのか、少しずつほおばりながらあくまで世間話としてそう聞いてくるジェシー。なので、ボクもそのように返す。
「ああ。魔法少女自身も、公の情報より深い情報はあまり持っていない事が分かった。つまり」
「聖石とは何なのか? 悪心とは何なのか? そして、この二つの発生時期が非常に近いのは偶然なのか? その辺り全然分かってないって事ね」
聖石で変身して戦う魔法少女自身にあまり教えていないのは、知られるとマズいからか知っても意味がない事だからか。
まあこうは言ったが、実際はまだアズキちゃんは何か隠している事があるようだった。母親が政府の役人らしいので、仲が微妙とはいえ多少その辺りの情報が入ってくるのだろう。
「どのみちこれで調査が終わるってものでもないし、運良く情報が入れば儲け物くらいの期待だったしな。後はもう一回くらい聞き取りをして、ジェシーがOKを出したら邪因子を除去。記憶処理後は何かカバーストーリーを作って魔法少女の本部に届ければ良い。酷い怪我で記憶喪失になってたとか。……そのどさくさで内部に潜入できれば尚良しだ」
「抜け目ない事で」
「幹部だからね。善意だけで人助けはしないよ」
ジェシーの見立てでは回復まであと三日。その日に邪因子除去と記憶処理をするにしても、それなりに時間もかかるし準備も居る。
三日なんてあっという間だ。……また仕事が増えるのか。今日も徹夜だな。
「ところで隊長。わざわざアズちゃんの目の前で変身したんだって? めっずらしい~。あたしも久々に見たかったな。隊長のドラ」
「トカゲっ! ただの翼があるトカゲだってのっ!? ……トカゲで充分だよ」
◇◆◇◆◇◆
ちなみに今回、ピーターが和菓子屋でコムギとニアミスしていたという裏設定もありましたが、ピーターから話しかける訳にもいかないしコムギはピーターを知らないしで特に何もなく別れています。
◇◆◇◆◇◆
コポポポポ。
(……気まずい)
やあ皆様。ボクピーター。只今とんでもなく気まずい雰囲気で湯呑に茶を入れています。
目の前には事態が良く分かっていないといった顔のアズキちゃん。ボクはひとまず場を和ませるべく茶と茶菓子を勧める。
(う~ん。これからどうしたものか)
何故こんな事になったのか? それを一から説明するのはとても長い。なのでざっくりまとめると、
一、アズキちゃんが最近何か悩んでいるとジェシーから報告を受ける。
二、この前自分が邪因子による怪人化について話した辺りからであり、それが原因の可能性が高い。
三、それはそれとして、そろそろアズキちゃんへの尋問を行わないと本部への建前的に良くない。
四つ、そうだっ! 尋問しつつお茶会をして精神を落ち着かせよう!
という感じだ。
(幸い、アズキちゃんが和菓子が好きなのは以前羊羹を食べていた時の表情から明らか。念のため、直接町に出向いて自腹でそれ以外にも一通り買ってきたけど)
困ったことに、緊張しているのか警戒か手を付けてくれない。こんな調子では尋問も何もあったものじゃない。なので、
モグっ。
自分から先にきんつばに齧りつき、お茶を飲んで見せる。……へぇっ! こりゃ美味い! 初めて入った店で買ったけど、調査期間中は贔屓にしようかな。
そうして食べていると、アズキちゃんもおずおずと茶に手を伸ばし、そのまま最中を一口齧って、
ポロっ。
涙を流していた。
一瞬何事っ!? と思ったけど、よくよく見ればその顔はとても穏やかで、自分が泣いている事すら気づいていないようだった。
そのまま一口。また一口と最中を食べていく内に、どうやら落ち着いたのか涙も止まり、笑顔とまでは行かないけれど曇り顔が晴れていく。ここしかない。
「……良かった。少しは、元気になったようだね。ここ数日。明らかに君は落ち込んでいた。原因は分かってる。あの時怪人化の事を聞いたからだ。……ごめん」
ボクはゆっくり頭を下げ、以前の説明でこちらの配慮が足りなかったことを謝罪する。すると、
「いえ……こちらこそすみません。気を遣わせてしまって。ワタシも、頭では分かってるんです。怪人と悪心は全然違うし、邪因子があるからこそワタシもここまで持ち直したんだってことも。でも……なんとなく、その……不安なんです」
(不安か。そりゃそうだよね)
少しだけ、その気持ちは分かる。ボクも似たような経験があるから。
説明をきちんと受けてから投与された大半のリーチャー職員と違い、緊急事態とはいえ気を失っている間に何も知らぬまま邪因子を投与されたアズキちゃん。
おまけに人外が敵だと日常的に根付いている国で生活してきたのだから、自分がそうなるかもとなればその辺りはより不安だろう。
ボクは右手をちらりと見る。見せたら場合によってはボクも嫌われるかもしれない。余計不安を煽る事になる可能性もある。だけど、
『ねぇピーターっ! “悪”って何だと思う? ……社会一般の法律を破る行為? クスクス。そ~んなガッチガチの答えしか出ないんだぁ? そんなんじゃあたしの下僕二号は務まんないよっ! えっ!? それなら何なんだって? ふふんっ! 聞いて驚きなさいよっ! あたしが思う悪とは……」
(『“自分のやりたい事、やるべきだと思った事、やらなきゃいけない事を、たとえ誰かをぶっ飛ばしてでも世界の迷惑になってでもやる”。それが悪であり、あたし達リーチャーなのよ!』……か。分かってますよ。ネルさん)
ふと頭をよぎった友人の言葉を思い出し、右手をぎゅっと握りしめる。
(荒療治でもなんでも、時間が迫っている以上やらなきゃな)
「……アズキちゃん。今からボクが変身する。出来れば、怖がらないでほしい」
そう言って、右腕だけ変身に留めたのはこの方が見た目的に人間らしいから。
そしてこの状態では、アズキちゃんはボクを人間だとはっきり認識した。……そう。そうなんだよ。邪因子による変身は、人間を辞めることじゃない。君が不安に思う必要はないんだ。
「ありがとうございます。心配してくれて」
アズキちゃんはそう礼を言うけど、こっちにも意地と打算があるから礼を言われるほどじゃない。
さあ。不安も大体取り除けたことだし、今度こそ尋問を始めよう。
その日の夜。食堂にて。
「ほら皆。ボクが自腹切って買ってきた和菓子だぞっ! 感謝しながらありがたく食べるように」
「おっ! 隊長気が利くっ! 丁度デザートが欲しかったんだ。ゴチになりま~す」
「美味し美味し! ……ついでに茶もくれよ隊長さんっ!」
「茶ぐらい自分で買ってきてくれっ!? というかもっと味わって食べようねっ!?」
おのれこの隊員達ときたら。尋問も終わったし、余った和菓子も一人じゃ食べきれないので配ったらこれだ。あれだけあった和菓子が瞬く間に食い散らかされていく。
「お疲れ様です隊長。あっ!? その大福も~らいっ! ……むぐっ!?」
「あ~。そんなにがっつくからだぞジェシー。……ほら水だ。医者が喉詰まらせて倒れるなんて洒落にもならない」
手渡した水を慌てて流し込み、ふぅ~と息を吐くジェシーをボクはジト目で見てやる。
「ハハハ。ありがと。さっきちらっと見たけどアズちゃん少し元気になったみたいね。隊長やるぅ!」
「本来メンタルケアはそっちの仕事だろうに。それにあくまでこれは尋問。それがスムーズに進むようにしたってだけさ」
「もうツンツンしちゃってさ。はむっ! ……それで~? なんか分かった?」
流石に懲りたのか、少しずつほおばりながらあくまで世間話としてそう聞いてくるジェシー。なので、ボクもそのように返す。
「ああ。魔法少女自身も、公の情報より深い情報はあまり持っていない事が分かった。つまり」
「聖石とは何なのか? 悪心とは何なのか? そして、この二つの発生時期が非常に近いのは偶然なのか? その辺り全然分かってないって事ね」
聖石で変身して戦う魔法少女自身にあまり教えていないのは、知られるとマズいからか知っても意味がない事だからか。
まあこうは言ったが、実際はまだアズキちゃんは何か隠している事があるようだった。母親が政府の役人らしいので、仲が微妙とはいえ多少その辺りの情報が入ってくるのだろう。
「どのみちこれで調査が終わるってものでもないし、運良く情報が入れば儲け物くらいの期待だったしな。後はもう一回くらい聞き取りをして、ジェシーがOKを出したら邪因子を除去。記憶処理後は何かカバーストーリーを作って魔法少女の本部に届ければ良い。酷い怪我で記憶喪失になってたとか。……そのどさくさで内部に潜入できれば尚良しだ」
「抜け目ない事で」
「幹部だからね。善意だけで人助けはしないよ」
ジェシーの見立てでは回復まであと三日。その日に邪因子除去と記憶処理をするにしても、それなりに時間もかかるし準備も居る。
三日なんてあっという間だ。……また仕事が増えるのか。今日も徹夜だな。
「ところで隊長。わざわざアズちゃんの目の前で変身したんだって? めっずらしい~。あたしも久々に見たかったな。隊長のドラ」
「トカゲっ! ただの翼があるトカゲだってのっ!? ……トカゲで充分だよ」
◇◆◇◆◇◆
ちなみに今回、ピーターが和菓子屋でコムギとニアミスしていたという裏設定もありましたが、ピーターから話しかける訳にもいかないしコムギはピーターを知らないしで特に何もなく別れています。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
トレジャーキッズ
著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。
ただ、それだけだったのに……
自分の存在は何のため?
何のために生きているのか?
世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか?
苦悩する子どもと親の物語です。
非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。
まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。
※更新は週一・日曜日公開を目標
何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。
【1】のみ自費出版販売をしております。
追加で修正しているため、全く同じではありません。
できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)


AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる