3 / 9
第一章 時の守り人篇
第3話 自分で選んだ道
しおりを挟む
毎日毎日、行きたくもない仕事に行って。自分にはキャパオーバーな仕事を押し付けられ、周りに聞きながら何とかやり終える。
その最中もミスや小言、椅子を蹴られたり等々、精神的ダメージは多い。
家に帰ってきても一人暮らしだから誰もいない、ご飯は自分で作るしかない。でも疲労とストレスで作る気になれない。結局いつもコンビニの弁当だ。
ストレス発散方法はゲーム。だが最近はちょっとやっただけですぐ飽きてしまう、また新しいゲームを買う、飽きる、買う。その繰り返しだ。お金なんて貯まるわけが無い。低賃金だから尚更だ。
趣味でイラストを描いたり、漫画を書いたりしてみた。評価は全くしてもらえない、低評価すらもつかない。誰も見ていないのだ。
更には、毎日のようにSNSでやり取りをしていた好きな女の子からの返信が途絶えた。きっと俺との会話に飽きたんだろう。俺が一方的に好意を寄せていただけで、相手は何とも思っていなかったんだ。
「お前はダメな奴だ。」
「誰もお前なんか必要としていない。」
「とっとと消えろ。」
「お前の存在価値なんてない。」
そう世間は告げていた。こんな何の取り柄もない、誰の役にも立てない、必要とされていない人間が生きていても意味は無いんだ。そう思って惰性で生きていた。どうしても自分で死ぬのが怖いからだ。
「情けない奴」自分でもそう思う。
それでも…こんなにもネガティブで聞き苦しい愚痴のような悩みを、ジョーカーさんとサブローさんは黙って聞いていてくれた。
話しながら今までの人生を振り返り、自分の惨めさで涙が出てきた。
こんなにも優しくしてくれる2人に、俺はネガティブな情けない自分語りを押し付けている。本当に情けない奴だ。
『なんのために生きてきたのか。』
『なんのために生きていくのか。』
『なんで俺みたいな奴が生きているのか。』
自分で自分を殺してやりたい。そう思っていた。
「本当に……なんのために生きてるんですかね、俺は…。」
ひとしきり話し終えたが、涙が止まらない。そんな俺にジョーカーさんは優しく話しかけてくれた。
「そうか…毎日毎日大変なんだな。でもね士くん、君は十分頑張っている、私はそう思うよ。周りがどう思おうと。君が君自身をダメな奴扱いするのは良くないよ。」
「ジョーカーさん…。」
「振り返ってみて、嫌なことばかりの人生だったかもしれない。それでも君は一生懸命夢に向かって頑張ってきたじゃないか、その努力してきた時間は本物だ。」
「バウバウ(あぁ、問題なのはお前自身がどうしたくて、どうなりたいかだ)」
「サブローの言う通りだよ、士くん。…私は医者でも心理カウンセラーでもないから、何が正解で何が間違いなのかは分からない。最終的に決めるのは君自身だ。君の人生なんだからね。」
真剣に答えてくれるジョーカーさんとサブローさんだったが、そんな優しさを俺はどこか投げやりだと感じてしまった。俺はこんなにも苦しんでるのに、話を聞くだけで何もしてくれないのかと。
冷静になって考えてみれば、「話を聞くことしか出来ない」と言われていたのに、それを忘れた甘ったれた考えだった。
「アンタ達は…こんな所で楽して、大した苦しみもなく暮らしてるからそんな事が言えるんだ!俺は今すぐにでも助けて欲しいんだよ!!…もういっその事、俺を殺して楽にしてくれよ!!!」
「士くん……。」
「もう嫌なんだよ…生きてたって何にも良いことなんてない…、行きたくても生きれない人がいるなら俺が死んでその人のために臓器提供でもなんでもしてやるのに……。」
「バウ…(士…お前…)」
ジョーカーさんもサブローさんも口をつむぎ、場が静まり返る。次に言葉を発したのはジョーカーさんだった。
「分かった、私が君を楽にしよう。自分で死ぬという選択を排除した君は素晴らしい。それに敬意を評して私が君をこの世から解き放つ。それでどうだい?」
「バウバウ!?(おまっ、何言い出してんだ!?)」
そう言うジョーカーさんに驚くサブローさん。真剣な眼差しでジョーカーさんは続ける
「それが君にとっての幸せへの第1歩になるなら、私は応援したい。手助けをしたい。それが私の使命だからだ。なに、痛みは無く一瞬で逝けるぞ。」
上を指さし優しく言うジョーカーさんはどこか悲しげに見えた。
「ジョーカーさんが…俺を……。」
楽にしてくれる、しかも痛みも無く。その言葉は俺の心に安らぎのような心地良さを与えてくれた。もうあんなに苦しむことは無いんだ、嫌なこと全部から解き放たれる、自由になれる。なんて幸せなんだろう。
「……お願いします…。」
頭を下げて俺は頼んだ。
「バウバウッ!?バウ!!!(正気か!?もうちょいよく考えてみろよ!!)」
「サブロー、士くんが自分で選んだんだ、周りがどうこう言う事じゃないぞ。」
「バウ……(そりゃあ…そうだけどよ…)」
「顔を上げたまえ、士くん。そこに膝立ちで立ってくれないか?」
ジョーカーさんは立ち上がり、俺をテーブルの横で膝立ちになるよう指示した。
言われるがまま膝立ちになる。
「さて、痛みは無いがそれまでの時間が怖いだろう。目をつぶって居た方がいい。」
「は、はい…。その…どうやって俺を…殺してくれるんですか…?」
「この杖、実は仕込み刀になっていてね、これでスパッと。」
杖を腕の周りでくるくる回しながら言うジョーカーさん。サブローさんは物悲しそうな顔で黙っている。
「…士くん、もしもまたどこかで会えたら、その時は私のことを"さん"付けではなく呼び捨てにしてくれて構わないよ、敬語も使う必要はない。サブローにも同じようにしてやってくれ。」
優しく微笑みながら語りかけてくれる。
「…分かりました。」
俺もなるべく笑顔で答えようとするが、死を目の前にして体が震え始める。自分が望んだことなのに。
「……やっぱりやめておくか?士くん。」
震えていることが見抜かれた。
「いえ…今度はちゃんと自分の選択に責任を持とうと思います。これでいいんです。自分で決めたことなんですから…。」
涙が出てきた。やはり死ぬのが怖いのだ。
そんな俺を見てジョーカーさんは居合切りの構えをとる。
「士くん、目をつぶってくれ。君が気がつく頃にはきっと天国にいるだろう。」
俺は、言われるがまま目を閉じた。
「ありがとうございます…ジョーカーさん、サブローさん……っ。」
「こちらこそありがとう、士くん。また会おう。」
次の瞬間「ヒュン!」という音とともに鞘から刀が勢いよく抜かれた。
その最中もミスや小言、椅子を蹴られたり等々、精神的ダメージは多い。
家に帰ってきても一人暮らしだから誰もいない、ご飯は自分で作るしかない。でも疲労とストレスで作る気になれない。結局いつもコンビニの弁当だ。
ストレス発散方法はゲーム。だが最近はちょっとやっただけですぐ飽きてしまう、また新しいゲームを買う、飽きる、買う。その繰り返しだ。お金なんて貯まるわけが無い。低賃金だから尚更だ。
趣味でイラストを描いたり、漫画を書いたりしてみた。評価は全くしてもらえない、低評価すらもつかない。誰も見ていないのだ。
更には、毎日のようにSNSでやり取りをしていた好きな女の子からの返信が途絶えた。きっと俺との会話に飽きたんだろう。俺が一方的に好意を寄せていただけで、相手は何とも思っていなかったんだ。
「お前はダメな奴だ。」
「誰もお前なんか必要としていない。」
「とっとと消えろ。」
「お前の存在価値なんてない。」
そう世間は告げていた。こんな何の取り柄もない、誰の役にも立てない、必要とされていない人間が生きていても意味は無いんだ。そう思って惰性で生きていた。どうしても自分で死ぬのが怖いからだ。
「情けない奴」自分でもそう思う。
それでも…こんなにもネガティブで聞き苦しい愚痴のような悩みを、ジョーカーさんとサブローさんは黙って聞いていてくれた。
話しながら今までの人生を振り返り、自分の惨めさで涙が出てきた。
こんなにも優しくしてくれる2人に、俺はネガティブな情けない自分語りを押し付けている。本当に情けない奴だ。
『なんのために生きてきたのか。』
『なんのために生きていくのか。』
『なんで俺みたいな奴が生きているのか。』
自分で自分を殺してやりたい。そう思っていた。
「本当に……なんのために生きてるんですかね、俺は…。」
ひとしきり話し終えたが、涙が止まらない。そんな俺にジョーカーさんは優しく話しかけてくれた。
「そうか…毎日毎日大変なんだな。でもね士くん、君は十分頑張っている、私はそう思うよ。周りがどう思おうと。君が君自身をダメな奴扱いするのは良くないよ。」
「ジョーカーさん…。」
「振り返ってみて、嫌なことばかりの人生だったかもしれない。それでも君は一生懸命夢に向かって頑張ってきたじゃないか、その努力してきた時間は本物だ。」
「バウバウ(あぁ、問題なのはお前自身がどうしたくて、どうなりたいかだ)」
「サブローの言う通りだよ、士くん。…私は医者でも心理カウンセラーでもないから、何が正解で何が間違いなのかは分からない。最終的に決めるのは君自身だ。君の人生なんだからね。」
真剣に答えてくれるジョーカーさんとサブローさんだったが、そんな優しさを俺はどこか投げやりだと感じてしまった。俺はこんなにも苦しんでるのに、話を聞くだけで何もしてくれないのかと。
冷静になって考えてみれば、「話を聞くことしか出来ない」と言われていたのに、それを忘れた甘ったれた考えだった。
「アンタ達は…こんな所で楽して、大した苦しみもなく暮らしてるからそんな事が言えるんだ!俺は今すぐにでも助けて欲しいんだよ!!…もういっその事、俺を殺して楽にしてくれよ!!!」
「士くん……。」
「もう嫌なんだよ…生きてたって何にも良いことなんてない…、行きたくても生きれない人がいるなら俺が死んでその人のために臓器提供でもなんでもしてやるのに……。」
「バウ…(士…お前…)」
ジョーカーさんもサブローさんも口をつむぎ、場が静まり返る。次に言葉を発したのはジョーカーさんだった。
「分かった、私が君を楽にしよう。自分で死ぬという選択を排除した君は素晴らしい。それに敬意を評して私が君をこの世から解き放つ。それでどうだい?」
「バウバウ!?(おまっ、何言い出してんだ!?)」
そう言うジョーカーさんに驚くサブローさん。真剣な眼差しでジョーカーさんは続ける
「それが君にとっての幸せへの第1歩になるなら、私は応援したい。手助けをしたい。それが私の使命だからだ。なに、痛みは無く一瞬で逝けるぞ。」
上を指さし優しく言うジョーカーさんはどこか悲しげに見えた。
「ジョーカーさんが…俺を……。」
楽にしてくれる、しかも痛みも無く。その言葉は俺の心に安らぎのような心地良さを与えてくれた。もうあんなに苦しむことは無いんだ、嫌なこと全部から解き放たれる、自由になれる。なんて幸せなんだろう。
「……お願いします…。」
頭を下げて俺は頼んだ。
「バウバウッ!?バウ!!!(正気か!?もうちょいよく考えてみろよ!!)」
「サブロー、士くんが自分で選んだんだ、周りがどうこう言う事じゃないぞ。」
「バウ……(そりゃあ…そうだけどよ…)」
「顔を上げたまえ、士くん。そこに膝立ちで立ってくれないか?」
ジョーカーさんは立ち上がり、俺をテーブルの横で膝立ちになるよう指示した。
言われるがまま膝立ちになる。
「さて、痛みは無いがそれまでの時間が怖いだろう。目をつぶって居た方がいい。」
「は、はい…。その…どうやって俺を…殺してくれるんですか…?」
「この杖、実は仕込み刀になっていてね、これでスパッと。」
杖を腕の周りでくるくる回しながら言うジョーカーさん。サブローさんは物悲しそうな顔で黙っている。
「…士くん、もしもまたどこかで会えたら、その時は私のことを"さん"付けではなく呼び捨てにしてくれて構わないよ、敬語も使う必要はない。サブローにも同じようにしてやってくれ。」
優しく微笑みながら語りかけてくれる。
「…分かりました。」
俺もなるべく笑顔で答えようとするが、死を目の前にして体が震え始める。自分が望んだことなのに。
「……やっぱりやめておくか?士くん。」
震えていることが見抜かれた。
「いえ…今度はちゃんと自分の選択に責任を持とうと思います。これでいいんです。自分で決めたことなんですから…。」
涙が出てきた。やはり死ぬのが怖いのだ。
そんな俺を見てジョーカーさんは居合切りの構えをとる。
「士くん、目をつぶってくれ。君が気がつく頃にはきっと天国にいるだろう。」
俺は、言われるがまま目を閉じた。
「ありがとうございます…ジョーカーさん、サブローさん……っ。」
「こちらこそありがとう、士くん。また会おう。」
次の瞬間「ヒュン!」という音とともに鞘から刀が勢いよく抜かれた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる