残光

naoto

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朋樹4

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 息が荒い。
 (┅ん、こうす、け)
 自分で弄りながら、用意したティッシュの中に果てた。
 何度も躊躇った。
 光介を思い出しながらする事。
 友達をネタにするのは初めてだった。
 メンズファッション雑誌で、顔を写さない局部修正済み全裸の若い男達がコメントしてた一文を思い出す。
「彼女をオナペットにしたくないのに┅」とコメントしてたけど、その意味がよく分かった。
 肉体関係がある(らしい)彼女に対してすらそうなんだ。
 自分の中で相手を汚した罪悪感が半端ない。
 ましてや俺と光介はただの友達だ。
 どれだけ抱きしめようと、俺達にの間には何もない。
「好きだ」
 その三文字をどうしても言えない。
 今のどっちつかずの状態が壊れるのが怖い。
 嫌われるのが怖い。
 だから気持ちに蓋をした。
 どっちつかずの状態で一喜一憂して気持ちは不安定だけど仕方ない。
 深く考えない事にした。

 光介にはもう一ヶ月会ってない。
 体育館の出会いから3ヵ月で夏休みに入ったからだ。
 生活費を浮かせる為、実家に戻って、バイトして金を少しでも家に入れろという兄の厳命だ。
 生活費丸々実家からの仕送りに頼ってる俺には嫌も応もない。
 丸々2ヶ月くらい福住荘を空ける事になる。
 (あと一ヶ月もある┅)
 時間の進みが遅いのにウンザリした。

 さすがに福岡の6月だし、俺の部屋には扇風機しか無い。
 いつものように寝起きに光介に抱きつくと、首に回した腕を外されて「暑い」と言われたので、抱きつくのは季節柄、一旦諦めた。
 代わりに、光介がうちでタバコで一服してる時に、胡座をかいてるのを見計らって、隙を見て膝の上に頭を置いた。
「何しよっと?」
 怪訝な顔をする光介。
「えへへ、ひざまくらー」
「┅頭、重いっちゃん」
「いーじゃん」
 無邪気さを装ってわざと明るく言う。
 最初は大人しく膝の上だけに頭を置いてた。
 2、3日も経つと光介も「ヤレヤレ」といった態度なので、俺は徐々に遠慮しなくなった。
 光介に対するドキドキも少しずつ治まってきてたが、今も下半身は少しだけ反応している。
 少し芯がある程度の大きさだ。
 光介の膝の上に頭を置いたまま、上目遣いで俺は言う。
「光介って手ェ、大っきいよね。俺、手ェ小っちゃいっちゃ」
 光介の方に掌を差し出す。
「ん?何?」
「手、重ねて?」
「┅」
 黙ったまま光介は俺の手に自分の掌を合わせた。
「┅ホント、小っちゃ」
「光介のが大きいんだよ」
 指の関節一つ分くらい大きさが違う。
 その節くれた大きな手は何でも掴めそうな気がした。
 いきなり、ドキドキが戻ってきた。
 この掌で抱きしめられてると思うと、今度は明らかに下半身は熱を持ち始める。
 ギュッと握ると「何?」と光介は聞く。
 いけない。
 気付かれてはいけない。
 光介はただの友達なんだ。
 俺は慌てて、咄嗟に光介の親指を自分の親指で抑えて「イチ、ジュー!」と叫んだ。
「┅指相撲?」
「そー、勝ったね」
「┅小学生かよ」
 光介は呆れたように言う。
 急に照れ臭くなって、お互い自然に手を離した。

 7月に入って俺は19歳になった。
 光介からも、部屋で新品のカセットテープ5本組をもらった
 大学の友達のプレゼントにしては順当な感じだ。
 他の友達からも何人か似たようなプレゼントをもらったが、俺の中では、勿論、光介からのプレゼントが一番だった。
 その時も光介の膝の上に頭を乗せてた。
「まあ、おめでとう」
「うん、ありがとう」
「┅ケーキとかないと?」
「うーん、甘い物は好きだけど自分では買わないかなあ」
「まあ、そんなもんか」
「そんなもんじゃない?」
 膝に俺の頭を乗せた光介と膝の上から光介を見上げた俺は、二人で目を見合わせて笑った。

 実家に戻る日が近付いた頃だ。
その日も俺は光介に膝枕してもらってた。
 その日、俺はある企みを実行しようとしてた。
 いつも通り光介の胡座の膝の上に頭を乗せる。
胡座の上を体を回転させながらゴロゴロと頭と一緒に移動する。
「ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ┅」
 わざと冗談めかして、口に出しながらの行動だ。
「┅いい加減にしろよ」
「はーい┅」
 笑いながら俺は、大人しく胡座の端の方に戻る┅振りをして、光介の体ギリギリまで頭を持って行く。
 俺の企みの目当ては、勿論、光介の下半身の膨らみに頭を乗せる事だ。
「┅あー、後頭部に固い物が┅」
「ただのデニムの前ボタンだろうが」
「あれ?どれ?」
 思わずと言った体で手を伸ばして、指で確認した。
「あれえ?本体わあ?」
 無邪気に言ってみせた。
「┅触らせるかよ」
「チェッ、つまんねえのー」
「┅だから、小学生かよ」
 光介は苦笑いする。
 男の子なら小学生低学年で同性の友達の股関を手で鷲掴みした経験はいくらでもある。
 そういうマンガやアニメも流行ってた、ってのもあった。
 冗談混じりじゃないと、恥ずかしくて、照れすぎて、俺はとても光介に触れていられない。

 実家に帰る前日、俺は部屋で光介にまた膝枕してもらってた。
「┅明日、何時に出ると?」
「うん、決めてないけど多分昼過ぎくらい」
「┅そっか。当分会わないな」
「┅うん」
 微妙な空気が流れた。
 俺の地元は隣の山口県だ。
 俺が明日使って帰るJRの各駅停車でも3時間はかかる。
 快速でも30分短縮がいいトコだ。
 新幹線なら最寄りの新幹線の駅と駅の間は20分だ。
 夏休みの間どっか一緒に遊びに行こうと光介に言ってみたが、却下された。
「わざわざ戻って来んでもいいんやないと?俺もバイト入れてるけん忙しいし」
 光介は言う。
「┅うん、そだね」
 俺はいっつも光介といたいのに、光介はそうじゃない。
 それが分かっただけだった。
 たったの三時間で会えるのに。
 光介にとって俺はそれだけの価値しかないんだと思った。

 地元に戻ってビアガーデンでバイトして、中高生の時の友達と連絡を取り合って、花火大会や夏祭りに行ったりした。
 海に行ってナイロンボールで円形になってビーチバレーしたりした。
 表面上は笑ってて楽しそうにしてたけど、どこか空虚だった。
 花火大会の時は光介と一緒に花火が見たいと思った。
 夏祭りの時は、ふと夜空を見上げて、遠くにいる光介が、今同じように夜空を見上げててくれたらと願った。
 海にいる時は、遠い蜃気楼の水平線を見ながら福住荘に戻る日にちを数えた。
 自分が虚ろな目をして生活をしているのがよく分かった。
 早く福岡に戻りたいと思った。
 何となく寂しいのとは違う。
 原因は光介だと分かっていた。
 光介が足りない。
 光介に抱きしめてもらいたい。
 膝枕でもいい。
 触れていたい。
 (あなたがいなくて寂しい)
 それが俺の中の答えだった。

 バイトが休みの日にボンヤリと一人でテレビを見てると、ずっと光介の事を考えてる自分に気付く。
 (重症だ)
 どこか家の外で車の通る音がする。
 テレビは点いたままなのにとても静かだった。
 自分が段々透明になっていく気がした。
 バラバラの細胞になって霧散していく気がした。

 (キガクルウ)
 (キガチガッテシマウ)

 そんな言葉が心に浮かんでは消えた。
 自分がこんな風になると思わなかった。
 (光介の声が聞きたい)
 光介の家の電話番号は控えていた。
 しかし、話す事は特にない。
 自分の部屋に戻る日付は伝えてた。
 (光介は俺の事どう思ってる?)
 聞きたいのはそれだ。
 嫌われてはいないと思う。
 嫌いじゃない、けれど別に好きでもない。
 それが現実なんじゃないか?
 自問自答する。
 好きな相手に少しは好かれてると思いたい。
 思い込めたら幸せなのに。
 それが正直な所じゃないのか?
 どれだけ考えてみても堂々巡りで答えは出ない。
 当たり前だ。
 答えは光介にしか分からない。
 愛情や恋心を測る事はできないけれど、人の心は0か100じゃない。
 例えば単なる友達が「好き」を数字の50で表すとすると光介の俺に対する「好き」は60とか75かもしれない。
 友達を超えた部分がどのくらいあるのか分からないけれど。
 甘い煩悶を抱えながら、俺の考えは迷宮を彷徨い続ける、

「あなたについて考えている」
 どこかで読んだ言葉とかタイトル。
 頭にそんな言葉が浮かんでは消える。
 ずっと考えてるんだ。
 もし、光介が今俺以外の人を好きだと言うなら、今ならまだ引き返せると思う。
 光介に好きな人がいると考えるだけで悲しい。
 すごく悲しいけど、今ならその相手を憎まなくて済む。
 少し泣くだろうけど、きっと祝福だってできるに違いない。
 光介がよくバイトに行く大手パン工場とか大手洋菓子チェーンとかに「可愛い子とかいんの?」とわざと聞いた事がある。
「おばちゃんばっかだよ」と光介は笑いながら言ってた。
 でも俺が知らないだけで、誰か女の子と付き合ってるのかもしれない。
 土日は大学も休みだし、光介は俺の部屋に来ない。
 この夏休みみたいな長期休暇でも俺はそばにいる理由もない。
 だけど、ただの友達の俺に光介が女の子と付き合うのを止める権利ない。
 俺の中には不思議と嫉妬の芽はどこにもない。
 ただ悲しい。
 想像だけでも自分が光介の相手じゃない事がただただ悲しいんだ。

 家族が寝静まった夜中。
 俺は自分の部屋で一人自分を慰める。
 自らを扱きながらもう一方の手で小さな胸の突起を優しく摘まむ。
 (┅この手が光介だったら)
 あの大きな節くれだった手が繊細に俺に触れてくれたら、どんなにこの体は歓喜にうち震えるだろう。
 仰向けに寝て服を着たまま布団の中でゆっくりと自分の快感に没入していく。
 そのまま片方の手で優しく性器を扱きながら、もう片方の手の人差し指で性器の奥の後ろの門に触れてみる。
 あの日福住荘で二人の着衣越しに一瞬触れた光介の膨らみを思い出しながら触った。
 ここに光介を迎える事ができたら┅
 しかし、処女地に指を入れる勇気はない。
 触れただけで気持ちでイってしまいそうになる。
 (┅あっ)
 快感は性急だ。
 体の中で快感がスパークした。
 下着の中で用意したティッシュの中で俺は果てだ。
 光介をネタにした罪悪感と光介の掌と膨らみの感触に包まれた幸福感がないまぜになった不思議な感覚だった。
 俺の中で光介は恋人だ。
 実際には友達でも。
 実際には俺の単なる片想いでも。
 俺は毎夜切ない気持ちのまま眠りに落ちる。
 少しでも希望の光があれば、それにすがりたい気持ちだったが、そんな光は見出だせそうになかった。
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