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エイ、ビー、シー、ディー、イーと美しいひとの話
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今日はハロウィーン。
ずっとお世話になっているリーダーから、
家々を回って、「箱に入ったお菓子をもらってこい」と言われている。
俺たちはそれぞれに家を回った。
「お菓子をもらいにきました」と言うと、家に招かれる。
そこで箱入りのお菓子を一つと、皿に乗せたものを一つ貰った。
「どうぞ。これはあなたの分です。今ここで食べて下さい。」
そう言われて、そのお菓子を食べてからは、幸せな夢を見て眠った。
*
次の日、リーダーに言われて、俺たちは箱に入ったお菓子をアジトに集めた。
「持ってきました」
俺たちに報酬を渡すと、リーダーはそのお菓子を食べ始めた。
すると、俺たちの口が勝手に喋り始めた。
「リーダー、お前の金は、俺が全部いただくからな」
すると、お菓子を食べていたリーダーが、ゲラゲラと笑い始めた。
「お前の手が届くところには置いてない」
すると、今度はビーが困った顔をしながら喋り始めた。
「そうか?おかしいな。あの大きな時計の下の隠し部屋のものなら、もうすでにいただいたけれどな」
すると、リーダーの目の色が変わった。
「なに?…いや、なんかおかしいな。お前、誰だ?ビーのふりしやがって!」
すると、ビーはくくくと笑い始めた。
「俺が誰なのかなど、お前は知らなくても良い。お前の財産は、俺が全部奪ってやるからな!」
そして、そのセリフを俺も、エーも、シーも、ディーもイーも言い始めた。
盗んだ証拠や、使った証拠も見せ始めた。
俺たちは訳がわからない。
体が勝手に動いて喋っていた。
「なんだお前ら! 俺の…俺の金を…! この、殺してやる!」
リーダーがそう叫んだ瞬間、ばたりと倒れた。
「なんだ!? なんか急に倒れたぞ…」
俺たちはリーダーの近くにいくと、リーダーの肩を叩いた。
「ねえ、どうしたの……あっ!」
リーダーの顔をのぞいたシーが、顔を青くして後ずさる。
「なんだよ、シー。リーダー踏んづけてたぞ、今」
俺はそう言って、リーダーを抱き起こした。
「うわっ、なんかすごい重い……えっ! これ、し、死んでる!?」
大きな声をあげた俺のところに、みんながわらわらと集まってきた。
「なに? 死んでる??」
「うそ? さっきまで喋ってたよ!」
「ほんとだ……リーダー! 起きてよ!」
そこへ、暖かい色の光が飛び込んできた。
その光の中には、とても美しい人がいた。
その人は、俺たちに向かって優しく微笑んだ。
「トリックオアトリート!」
「うわっ! び、びっくりした。あ、はい。お菓子どうぞ……」
「なーんてね。実はもういただきました! とってもおいしかったですよ」
その人は、満足気な表情をしながら、ぺろりと口元を舐め上げた。
「……どういうこと? それに、あなたは誰ですか?」
俺たちは突然の出来事についていけるような、回転のはやい頭は持ってない。
五人で戸惑っていると、その人は俺たちに説明をしてくれた。
「この男は、あなたたちを利用してた、わるーい男でした。
私は、悪い人間の魂が大好き。
今その魂をいただいたんです。すごく美味しかった!」
「……え? リーダー悪い人だったの?」
すると、その美しい人は「はあ」とため息をついて俺たちを見た。
「……それもわからないほど、何も知らないという事が既に証拠です。
毎日身を粉にして働き、いくら稼いでいましたか?
知ろうとしたことはありましたか?」
そう問われて気がついた。そう言えば、そういうことは何も知らない。
「……お前達は知らない方が幸せだって言われてた。」
「そうですね、あなたたちはそれを素直に聞いた。とても純粋で美しい魂をしています。
それに、この男が悪い男である証拠は、もう一つあるんですよ」
「え?」
「それは、このおかしを食べて死んだということです。これには、あるウイルスが仕込まれています。
あなたたちも昨日これを食べたでしょう?」
それを聞いて俺たちは五人とも真っ青になった。
「食べたよ! 俺たち死んじゃうの!?」
泣きじゃくるおれたちに、美しい人は言った。
「いいえ、それはありません。なぜなら、このお菓子に入っているウイルスは、相手の死を願うと自分が死ぬと言うものだからです。あなた方は、誰かの死を願うほど心が汚れていない。心配いりませんよ」
俺たちは、ほっと胸を撫で下ろした。
「良かった。まだ死にたくないよ」
でも、あることに気がついた。
「あれ?おれたち明日からどうやって生きていけばいいの? 俺たち、誰も仕事の貰い方を知らないよ。だからリーダーが頑張ってくれてたんだったよね。」
ビー、シー、ディー、イーが顔を見合わせたあと、コクコクと首を縦に何度も振った。
「どうしよう……仕事出来ないと、ご飯食べられない。住むとこ無くなる。生きていけない!」
「ええ!? どうしよう……どうしたらいいんだろう」
「大丈夫だよ、リーダーお金残して死んでるはずだから。しばらくそれを、使わせてもらう」
「あ、そうだった! 良かった……しばらくは安心だね」
それから俺たちは、仕事を貰おうと駆け回った。
なかなかうまくいかず、どんどん蓄えは減っていく。
そのうちに、俺たちは毎日泣いて過ごすようになった。
「どうしよう……どうしよう……怖いよ、仕事出来なくなったらもう生きていけないよ」
「大丈夫だよ、イー。畑したりしてみよう。」
「ねえ、エイ。おれ、娼館いこうかな。仕事先で似たようなことさせられたし、よく褒められたよ」
「あ、俺もだよ。そうか、その手があったね」
俺たちは、みんなで娼館にお世話になることにした。
どうやらこの仕事に向いているらしく、俺たちは5人の稼ぎ頭になった。
そこからは幸せに暮らしてる。
時々、お客さんとして美しい人がやってくる。
そして、すごく悪くて美味しかった人間の話をしてくれた。
「娼館はいいね。娼妓が客の死を願うだろう? そういう時、たくさん甘いものが手に入るんだ」
「もしかして、仲間がいっぱいいなくなってるのは、あなたのせい?」
「あなたが一番酷いよ」
「でも、お腹が空いたら僕も死んじゃうし、娼妓もそれで仕事の無いところへ行けるんだよ」
「その理屈だとリーダーと変わらないよ!」
「それに、そうやって食べていってたら、そのうち誰もいなくなるんじゃないの?」
「そうなればいいと思ってるよ」
美しい人は、そう言って悲しそうに笑った。
「悪い人がいなくなったら、あなたも死んじゃうってこと?」
「そうだね」
「わかっててそうしてるの?」
「そうだよ」
「……どうして?」
「大切な人が悪い人になってしまって苦しんでいたんだ。助けたくて、このお菓子を作ったんだよ」
そう言って、また悲しそうに笑った。
「もしかして、それはリーダーのこと……?」
「さあ、どうだろう」
苦し気に笑う彼の手には、リーダーがつけていたのと同じ指輪があった。
「そうか、そうだったんだね」
俺たちは、美しい人が少しでも笑えるようにしてあげたいと思った。
「じゃあ、最後まで俺たちに会いに来てね。ずっとあなたの幸せを願ってる」
たいして贅沢もしないない俺たちは、もう死ぬまで安心して暮らせる金を貯めていた。
そして誰かを恨むことも死を願うこともない。
もし裏切られて失っても、その時誰かを恨めばすぐに死ねるという希望も持っている。
酷い人生を生きなくてもいいという、その希望をくれたのは、紛れもなくこの人なのだ。
リーダーを悪い人にしたのは、俺たちだったはずなのに、俺たちを幸せにしてくれたのだ。
「怖いものが無い俺たちは汚れないよ」
心からの思いを伝えると、美しい人の前に、ピカピカに輝く球が現れた。
「なんだろう、これ」
美しいひとがその玉に触れると、それは小さく分かれてその口の中へと飛び込んでいった。
その喉が動いて体の中へと入り込むと、彼は目を輝かせて言った。
「これは君たちからのありがとうの気持ちだ! 殺したい気持ちよりもっと美味しい!」
「ほんとう!? 良かった、じゃああなたはずっとお腹を空かせなくていいね」
「そうだね」
「そうだ」
「良かった」
「『死ね』も『ありがとう』もご馳走だ」
俺たちは、浮かれて小躍りしながら口々につぶやいた。
それを聞きながら、美しい人は言う。
「それなら僕は『ありがとうの実』を食べたいよ」
「でも『ありがとう』を無理やり言わせるのは酷いよ」
「『死ね』って思われちゃうね」
「……なんだか難しいなあ」
「眠くなったよ」
「寝ようか」
「そうしよう」
「また明日ね」
「うん、おやすみ」
俺たちは眠った。
また明日を一生懸命生きるために。
美しいひとも一緒に眠った。
また明日も、誰かを幸せにするために。
ずっとお世話になっているリーダーから、
家々を回って、「箱に入ったお菓子をもらってこい」と言われている。
俺たちはそれぞれに家を回った。
「お菓子をもらいにきました」と言うと、家に招かれる。
そこで箱入りのお菓子を一つと、皿に乗せたものを一つ貰った。
「どうぞ。これはあなたの分です。今ここで食べて下さい。」
そう言われて、そのお菓子を食べてからは、幸せな夢を見て眠った。
*
次の日、リーダーに言われて、俺たちは箱に入ったお菓子をアジトに集めた。
「持ってきました」
俺たちに報酬を渡すと、リーダーはそのお菓子を食べ始めた。
すると、俺たちの口が勝手に喋り始めた。
「リーダー、お前の金は、俺が全部いただくからな」
すると、お菓子を食べていたリーダーが、ゲラゲラと笑い始めた。
「お前の手が届くところには置いてない」
すると、今度はビーが困った顔をしながら喋り始めた。
「そうか?おかしいな。あの大きな時計の下の隠し部屋のものなら、もうすでにいただいたけれどな」
すると、リーダーの目の色が変わった。
「なに?…いや、なんかおかしいな。お前、誰だ?ビーのふりしやがって!」
すると、ビーはくくくと笑い始めた。
「俺が誰なのかなど、お前は知らなくても良い。お前の財産は、俺が全部奪ってやるからな!」
そして、そのセリフを俺も、エーも、シーも、ディーもイーも言い始めた。
盗んだ証拠や、使った証拠も見せ始めた。
俺たちは訳がわからない。
体が勝手に動いて喋っていた。
「なんだお前ら! 俺の…俺の金を…! この、殺してやる!」
リーダーがそう叫んだ瞬間、ばたりと倒れた。
「なんだ!? なんか急に倒れたぞ…」
俺たちはリーダーの近くにいくと、リーダーの肩を叩いた。
「ねえ、どうしたの……あっ!」
リーダーの顔をのぞいたシーが、顔を青くして後ずさる。
「なんだよ、シー。リーダー踏んづけてたぞ、今」
俺はそう言って、リーダーを抱き起こした。
「うわっ、なんかすごい重い……えっ! これ、し、死んでる!?」
大きな声をあげた俺のところに、みんながわらわらと集まってきた。
「なに? 死んでる??」
「うそ? さっきまで喋ってたよ!」
「ほんとだ……リーダー! 起きてよ!」
そこへ、暖かい色の光が飛び込んできた。
その光の中には、とても美しい人がいた。
その人は、俺たちに向かって優しく微笑んだ。
「トリックオアトリート!」
「うわっ! び、びっくりした。あ、はい。お菓子どうぞ……」
「なーんてね。実はもういただきました! とってもおいしかったですよ」
その人は、満足気な表情をしながら、ぺろりと口元を舐め上げた。
「……どういうこと? それに、あなたは誰ですか?」
俺たちは突然の出来事についていけるような、回転のはやい頭は持ってない。
五人で戸惑っていると、その人は俺たちに説明をしてくれた。
「この男は、あなたたちを利用してた、わるーい男でした。
私は、悪い人間の魂が大好き。
今その魂をいただいたんです。すごく美味しかった!」
「……え? リーダー悪い人だったの?」
すると、その美しい人は「はあ」とため息をついて俺たちを見た。
「……それもわからないほど、何も知らないという事が既に証拠です。
毎日身を粉にして働き、いくら稼いでいましたか?
知ろうとしたことはありましたか?」
そう問われて気がついた。そう言えば、そういうことは何も知らない。
「……お前達は知らない方が幸せだって言われてた。」
「そうですね、あなたたちはそれを素直に聞いた。とても純粋で美しい魂をしています。
それに、この男が悪い男である証拠は、もう一つあるんですよ」
「え?」
「それは、このおかしを食べて死んだということです。これには、あるウイルスが仕込まれています。
あなたたちも昨日これを食べたでしょう?」
それを聞いて俺たちは五人とも真っ青になった。
「食べたよ! 俺たち死んじゃうの!?」
泣きじゃくるおれたちに、美しい人は言った。
「いいえ、それはありません。なぜなら、このお菓子に入っているウイルスは、相手の死を願うと自分が死ぬと言うものだからです。あなた方は、誰かの死を願うほど心が汚れていない。心配いりませんよ」
俺たちは、ほっと胸を撫で下ろした。
「良かった。まだ死にたくないよ」
でも、あることに気がついた。
「あれ?おれたち明日からどうやって生きていけばいいの? 俺たち、誰も仕事の貰い方を知らないよ。だからリーダーが頑張ってくれてたんだったよね。」
ビー、シー、ディー、イーが顔を見合わせたあと、コクコクと首を縦に何度も振った。
「どうしよう……仕事出来ないと、ご飯食べられない。住むとこ無くなる。生きていけない!」
「ええ!? どうしよう……どうしたらいいんだろう」
「大丈夫だよ、リーダーお金残して死んでるはずだから。しばらくそれを、使わせてもらう」
「あ、そうだった! 良かった……しばらくは安心だね」
それから俺たちは、仕事を貰おうと駆け回った。
なかなかうまくいかず、どんどん蓄えは減っていく。
そのうちに、俺たちは毎日泣いて過ごすようになった。
「どうしよう……どうしよう……怖いよ、仕事出来なくなったらもう生きていけないよ」
「大丈夫だよ、イー。畑したりしてみよう。」
「ねえ、エイ。おれ、娼館いこうかな。仕事先で似たようなことさせられたし、よく褒められたよ」
「あ、俺もだよ。そうか、その手があったね」
俺たちは、みんなで娼館にお世話になることにした。
どうやらこの仕事に向いているらしく、俺たちは5人の稼ぎ頭になった。
そこからは幸せに暮らしてる。
時々、お客さんとして美しい人がやってくる。
そして、すごく悪くて美味しかった人間の話をしてくれた。
「娼館はいいね。娼妓が客の死を願うだろう? そういう時、たくさん甘いものが手に入るんだ」
「もしかして、仲間がいっぱいいなくなってるのは、あなたのせい?」
「あなたが一番酷いよ」
「でも、お腹が空いたら僕も死んじゃうし、娼妓もそれで仕事の無いところへ行けるんだよ」
「その理屈だとリーダーと変わらないよ!」
「それに、そうやって食べていってたら、そのうち誰もいなくなるんじゃないの?」
「そうなればいいと思ってるよ」
美しい人は、そう言って悲しそうに笑った。
「悪い人がいなくなったら、あなたも死んじゃうってこと?」
「そうだね」
「わかっててそうしてるの?」
「そうだよ」
「……どうして?」
「大切な人が悪い人になってしまって苦しんでいたんだ。助けたくて、このお菓子を作ったんだよ」
そう言って、また悲しそうに笑った。
「もしかして、それはリーダーのこと……?」
「さあ、どうだろう」
苦し気に笑う彼の手には、リーダーがつけていたのと同じ指輪があった。
「そうか、そうだったんだね」
俺たちは、美しい人が少しでも笑えるようにしてあげたいと思った。
「じゃあ、最後まで俺たちに会いに来てね。ずっとあなたの幸せを願ってる」
たいして贅沢もしないない俺たちは、もう死ぬまで安心して暮らせる金を貯めていた。
そして誰かを恨むことも死を願うこともない。
もし裏切られて失っても、その時誰かを恨めばすぐに死ねるという希望も持っている。
酷い人生を生きなくてもいいという、その希望をくれたのは、紛れもなくこの人なのだ。
リーダーを悪い人にしたのは、俺たちだったはずなのに、俺たちを幸せにしてくれたのだ。
「怖いものが無い俺たちは汚れないよ」
心からの思いを伝えると、美しい人の前に、ピカピカに輝く球が現れた。
「なんだろう、これ」
美しいひとがその玉に触れると、それは小さく分かれてその口の中へと飛び込んでいった。
その喉が動いて体の中へと入り込むと、彼は目を輝かせて言った。
「これは君たちからのありがとうの気持ちだ! 殺したい気持ちよりもっと美味しい!」
「ほんとう!? 良かった、じゃああなたはずっとお腹を空かせなくていいね」
「そうだね」
「そうだ」
「良かった」
「『死ね』も『ありがとう』もご馳走だ」
俺たちは、浮かれて小躍りしながら口々につぶやいた。
それを聞きながら、美しい人は言う。
「それなら僕は『ありがとうの実』を食べたいよ」
「でも『ありがとう』を無理やり言わせるのは酷いよ」
「『死ね』って思われちゃうね」
「……なんだか難しいなあ」
「眠くなったよ」
「寝ようか」
「そうしよう」
「また明日ね」
「うん、おやすみ」
俺たちは眠った。
また明日を一生懸命生きるために。
美しいひとも一緒に眠った。
また明日も、誰かを幸せにするために。
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