さようならかありがとう

皆中明

文字の大きさ
上 下
1 / 1

エイ、ビー、シー、ディー、イーと美しいひとの話

しおりを挟む
今日はハロウィーン。
ずっとお世話になっているリーダーから、
家々を回って、「箱に入ったお菓子をもらってこい」と言われている。

俺たちはそれぞれに家を回った。

「お菓子をもらいにきました」と言うと、家に招かれる。

そこで箱入りのお菓子を一つと、皿に乗せたものを一つ貰った。
「どうぞ。これはあなたの分です。今ここで食べて下さい。」
そう言われて、そのお菓子を食べてからは、幸せな夢を見て眠った。



次の日、リーダーに言われて、俺たちは箱に入ったお菓子をアジトに集めた。

「持ってきました」

俺たちに報酬を渡すと、リーダーはそのお菓子を食べ始めた。

すると、俺たちの口が勝手に喋り始めた。

「リーダー、お前の金は、俺が全部いただくからな」

すると、お菓子を食べていたリーダーが、ゲラゲラと笑い始めた。

「お前の手が届くところには置いてない」

すると、今度はビーが困った顔をしながら喋り始めた。

「そうか?おかしいな。あの大きな時計の下の隠し部屋のものなら、もうすでにいただいたけれどな」

すると、リーダーの目の色が変わった。

「なに?…いや、なんかおかしいな。お前、誰だ?ビーのふりしやがって!」

すると、ビーはくくくと笑い始めた。

「俺が誰なのかなど、お前は知らなくても良い。お前の財産は、俺が全部奪ってやるからな!」

そして、そのセリフを俺も、エーも、シーも、ディーもイーも言い始めた。
盗んだ証拠や、使った証拠も見せ始めた。

俺たちは訳がわからない。

体が勝手に動いて喋っていた。

「なんだお前ら! 俺の…俺の金を…! この、殺してやる!」

リーダーがそう叫んだ瞬間、ばたりと倒れた。

「なんだ!? なんか急に倒れたぞ…」

俺たちはリーダーの近くにいくと、リーダーの肩を叩いた。

「ねえ、どうしたの……あっ!」

リーダーの顔をのぞいたシーが、顔を青くして後ずさる。

「なんだよ、シー。リーダー踏んづけてたぞ、今」

俺はそう言って、リーダーを抱き起こした。

「うわっ、なんかすごい重い……えっ! これ、し、死んでる!?」

大きな声をあげた俺のところに、みんながわらわらと集まってきた。

「なに? 死んでる??」
「うそ? さっきまで喋ってたよ!」
「ほんとだ……リーダー! 起きてよ!」

そこへ、暖かい色の光が飛び込んできた。
その光の中には、とても美しい人がいた。
その人は、俺たちに向かって優しく微笑んだ。

「トリックオアトリート!」

「うわっ! び、びっくりした。あ、はい。お菓子どうぞ……」

「なーんてね。実はもういただきました! とってもおいしかったですよ」

 その人は、満足気な表情をしながら、ぺろりと口元を舐め上げた。

「……どういうこと? それに、あなたは誰ですか?」

俺たちは突然の出来事についていけるような、回転のはやい頭は持ってない。
五人で戸惑っていると、その人は俺たちに説明をしてくれた。

「この男は、あなたたちを利用してた、わるーい男でした。
私は、悪い人間の魂が大好き。
今その魂をいただいたんです。すごく美味しかった!」

「……え? リーダー悪い人だったの?」

すると、その美しい人は「はあ」とため息をついて俺たちを見た。

「……それもわからないほど、何も知らないという事が既に証拠です。
毎日身を粉にして働き、いくら稼いでいましたか?
知ろうとしたことはありましたか?」

そう問われて気がついた。そう言えば、そういうことは何も知らない。

「……お前達は知らない方が幸せだって言われてた。」

「そうですね、あなたたちはそれを素直に聞いた。とても純粋で美しい魂をしています。
それに、この男が悪い男である証拠は、もう一つあるんですよ」

「え?」

「それは、このおかしを食べて死んだということです。これには、あるウイルスが仕込まれています。
 あなたたちも昨日これを食べたでしょう?」

 それを聞いて俺たちは五人とも真っ青になった。

「食べたよ! 俺たち死んじゃうの!?」

 泣きじゃくるおれたちに、美しい人は言った。

「いいえ、それはありません。なぜなら、このお菓子に入っているウイルスは、相手の死を願うと自分が死ぬと言うものだからです。あなた方は、誰かの死を願うほど心が汚れていない。心配いりませんよ」

俺たちは、ほっと胸を撫で下ろした。

「良かった。まだ死にたくないよ」

でも、あることに気がついた。

「あれ?おれたち明日からどうやって生きていけばいいの? 俺たち、誰も仕事の貰い方を知らないよ。だからリーダーが頑張ってくれてたんだったよね。」

ビー、シー、ディー、イーが顔を見合わせたあと、コクコクと首を縦に何度も振った。

「どうしよう……仕事出来ないと、ご飯食べられない。住むとこ無くなる。生きていけない!」
「ええ!? どうしよう……どうしたらいいんだろう」
「大丈夫だよ、リーダーお金残して死んでるはずだから。しばらくそれを、使わせてもらう」
「あ、そうだった! 良かった……しばらくは安心だね」

それから俺たちは、仕事を貰おうと駆け回った。
なかなかうまくいかず、どんどん蓄えは減っていく。
そのうちに、俺たちは毎日泣いて過ごすようになった。

「どうしよう……どうしよう……怖いよ、仕事出来なくなったらもう生きていけないよ」
「大丈夫だよ、イー。畑したりしてみよう。」

「ねえ、エイ。おれ、娼館いこうかな。仕事先で似たようなことさせられたし、よく褒められたよ」
「あ、俺もだよ。そうか、その手があったね」
俺たちは、みんなで娼館にお世話になることにした。
どうやらこの仕事に向いているらしく、俺たちは5人の稼ぎ頭になった。
そこからは幸せに暮らしてる。

時々、お客さんとして美しい人がやってくる。
そして、すごく悪くて美味しかった人間の話をしてくれた。
「娼館はいいね。娼妓が客の死を願うだろう? そういう時、たくさん甘いものが手に入るんだ」
「もしかして、仲間がいっぱいいなくなってるのは、あなたのせい?」
「あなたが一番酷いよ」

「でも、お腹が空いたら僕も死んじゃうし、娼妓もそれで仕事の無いところへ行けるんだよ」
「その理屈だとリーダーと変わらないよ!」
「それに、そうやって食べていってたら、そのうち誰もいなくなるんじゃないの?」
「そうなればいいと思ってるよ」
美しい人は、そう言って悲しそうに笑った。

「悪い人がいなくなったら、あなたも死んじゃうってこと?」
「そうだね」
「わかっててそうしてるの?」
「そうだよ」
「……どうして?」
「大切な人が悪い人になってしまって苦しんでいたんだ。助けたくて、このお菓子を作ったんだよ」
そう言って、また悲しそうに笑った。

「もしかして、それはリーダーのこと……?」
「さあ、どうだろう」
苦し気に笑う彼の手には、リーダーがつけていたのと同じ指輪があった。
「そうか、そうだったんだね」
俺たちは、美しい人が少しでも笑えるようにしてあげたいと思った。

「じゃあ、最後まで俺たちに会いに来てね。ずっとあなたの幸せを願ってる」

たいして贅沢もしないない俺たちは、もう死ぬまで安心して暮らせる金を貯めていた。
そして誰かを恨むことも死を願うこともない。
もし裏切られて失っても、その時誰かを恨めばすぐに死ねるという希望も持っている。

酷い人生を生きなくてもいいという、その希望をくれたのは、紛れもなくこの人なのだ。
リーダーを悪い人にしたのは、俺たちだったはずなのに、俺たちを幸せにしてくれたのだ。
「怖いものが無い俺たちは汚れないよ」
心からの思いを伝えると、美しい人の前に、ピカピカに輝く球が現れた。

「なんだろう、これ」
美しいひとがその玉に触れると、それは小さく分かれてその口の中へと飛び込んでいった。
その喉が動いて体の中へと入り込むと、彼は目を輝かせて言った。
「これは君たちからのありがとうの気持ちだ! 殺したい気持ちよりもっと美味しい!」

「ほんとう!? 良かった、じゃああなたはずっとお腹を空かせなくていいね」
「そうだね」
「そうだ」
「良かった」
「『死ね』も『ありがとう』もご馳走だ」

俺たちは、浮かれて小躍りしながら口々につぶやいた。

それを聞きながら、美しい人は言う。
「それなら僕は『ありがとうの実』を食べたいよ」
「でも『ありがとう』を無理やり言わせるのは酷いよ」
「『死ね』って思われちゃうね」

「……なんだか難しいなあ」

「眠くなったよ」
「寝ようか」
「そうしよう」
「また明日ね」
「うん、おやすみ」

俺たちは眠った。
また明日を一生懸命生きるために。
美しいひとも一緒に眠った。
また明日も、誰かを幸せにするために。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

処理中です...