楠葵先輩は頼られたい

黒姫百合

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第六十七話

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 夜の十二時。
 トランプを始めたのが夜の九時だから、すでに三時間も時間が過ぎていた。
 三時間も五人でトランプをして遊んだのだが、楽しすぎて体感はまだ三十分しか経っていない感覚だった。
 午後にテスト勉強をして夜は大騒ぎをしたら、いくら若くても眠くなる。

「……みんな寝てる」

 優がトイレから出てくると、睡魔に勝てなかった四人が寝落ちしていた。

「楠先輩、起きてください」

 優も眠いがそこは我慢をして葵を揺さぶって起こそうとする。
 床に直接寝たら、起きた時体がバキバキになってしまう。

「……中村さん」

 葵は眠たそうな瞼を開けながら優を見つめる。
 お酒を飲んでいるせいかあまり焦点が合っていない。

「ほら、起きて女子は倉木さんの部屋に移動して寝てください」
「……中村さん……ちゅき……」

 優が葵を起こしていると、突然葵が優にキスをした。
 突然のことに優の思考が追い付かない。
 一気に目が覚める。
 今、優の唇に葵の唇が触れている。
 柔らかくてふっくらしていて、そして酒の飲みすぎでお酒臭い。

「えへへ……」

 数秒後、葵は満足したのか顔が蕩けていた。
 その後、葵は瞳と愛音を抱きかかえて実乃里の部屋に消えていった。
 優はしばらくの間、呆然としていた。

「……私……楠先輩とキスしたの……」

 優は自分の唇に触れる。
 この唇に葵の唇が触れたのだ。
 今でも信じられない。
 別に嫌ではなかった。
 嫌ではなかったのだが、ドキドキするのと同時にモヤモヤもした。
 そもそもいきなりキスをされたし、葵は酔っていて覚えているのかも分からない。

「……もう……これじゃ寝れないじゃない。……楠先輩の馬鹿」

 優は布団を敷いてそこに実乃里を寝かせる。
 優も布団に入って眠ろうとしたのだが、何度も葵とのキスを思い出すたびに悶々していまいなかなか寝ることができなかった。
 葵は月明かりに照らされた部屋で、葵に毒を吐く。
 だが優の心が晴れることはなかった。
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