楠葵先輩は頼られたい

黒姫百合

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第二十一話

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「ごめんね中村さん」

 優にパスをしてきた同級生が謝罪する。
 でもこれは優が葵をよそ見していたことが原因である。
 パスをした同級生に非はない。

「保健委員。すぐに中村さんを保健室に連れてって」
「先生。私が連れて行きます。中村さん、すぐに保健室に行って冷やすわよ。だからちょっと体、失礼するわね」

 体育の先生が保健委員に呼びかけるのと同時に葵が自分からその役目を申し出る。
 体育の先生はなんでここに三年生がという目で葵を見ていたが、葵は全く気にしていなかった。
 葵は優に一言断りを入れると、優を持ち上げる。

「あらっ」

 実乃里が声を漏らす。

「中村さん、今から私が保健室まで運ぶからしっかり掴まってなくても大丈夫よ。私がしっかり抱いているから」

 突き指をした優を労わる葵。

「……楠先輩」

 抱きかかえられた優は葵を見上げる。
 背中と膝の裏に葵の腕を感じる。
 優は葵にお姫様抱っこされていた。
 その後葵は割れ物を扱うかのように優を優しく抱きながら保健室へ向かった。
 今まで運動していたせいで葵は薄っすら汗をかいている。
 女の子と汗の混じった香りが漂ってくる。
 それと同時に優は自分が汗臭くないか心配になる。
 葵の汗の匂いは全く不快にはならない。
 だから大丈夫だが、もし自分の汗の臭いで葵を不快にさせていたら、それこそ申し訳ない。

「失礼します先生。中村さんが突き指しちゃったので見てください」
「そうなのね。それじゃーまず突き指をした指を冷やしましょう」

 その後優は流水で突き指をした指を冷やした後、湿布を貼り指を固定する。

「もし痛みが引かなかったら病院に行ってくださいね」
「はい……ありがとうございます」

 保健の先生にお礼を言った後、優たちは保健室を出る。
 葵は違う学年だったが優のことが心配でずっと保健室にいてくれた。
 流水で冷やし、湿布を貼っているおかげで、痛みばだいぶひいた。

「……」

 優の前を歩く葵は元気がない。
 こんな葵、初めて見た。

「……楠先輩」

 恐る恐る優は葵に話しかける。
 こんなにも話しかけづらいと思ったのは初めてだ。

「ごめんなさい中村さん。私のせいで」

 葵は優の方を振り向くと、俯きながら謝罪する。

「楠先輩のせいじゃないですよ。私がキャッチしそこねただけですから」
「でも私が中村さんに手を振ったから。本当に中村さんには悪いことをしてしまったわ」

 別に優は葵のせいだとも、パスをしたクラスメイトのせいでもないと思っている。
 パスキャッチミスをした自分が悪い。
 でも葵は自分が優の注意を引いてしまったことが原因で怪我をしたと思っているらしい。
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