楠葵先輩は頼られたい

黒姫百合

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第十話

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「ごめんね、瞳が勝手に話を脱線させて」
「おい待て葵。話を脱線させたのは葵だぞ」

 葵はさも瞳が悪いように言っているが、記憶を遡ってみると話を脱線させたのは葵の方だった。
 でも優には葵に借りがたくさんあるため、わざわざ口を挟むことはしなかった。
 それに優の性格上、先輩に物申すことなんてできない。

「あのー昨日楠先輩が私のことを助けてくれたのでそのお礼と思って作ってきました」
「わぁーおいしそう。これってラクスよね」

 優が可愛くラッピングしてデコレーションしたシュガーラクスを葵に差し出す。
 その瞬間、葵の表情が緩む。
 いつも優しくキリッとした顔が今はだらしなく垂れている。
 良かった。楠先輩は甘いものが好きらしい。
 優は心の中で安堵のため息をこぼす。

「そうです。昨日作りました」
「えぇーこれ手作りなの。すごーい。中村さんってお菓子作りが好きなの」

 手作りと言った瞬間、目を輝かせる葵。

「はい、でも趣味程度ですが」

 素直に褒められたのが照れ臭かったので謙虚に優は返事をする。

「なんか中村さんって凄いね」

 瞳も優のクオリティの高さに舌を巻いている。

「その良かったら食べてくれませんか。一応味見はしてあるのでそこまでまずくはないと思います」

 優はあまり期待させすぎないように伏線を張る。
 あまり期待しすぎてそれよりおいしくなかったらガッカリされると思ったからだ。

「うんうん、ありがとう。おいしくいただくね」

 葵は嬉しそうに優からシュガーラクスを受け取る。
 喜んでもらえて良かった。
 それだけでも嬉しかった。
 葵の笑顔はいつもとは違って、無邪気な笑顔だ。
 また自分の知らない葵の顔を見た優はなぜか嬉しく、幸せな気持ちになった。

「それじゃー放課後感想を言うね。でも見た目からも分かる通り、おいしそうだけど」

 優の予想外なことに葵はまた優に会ってくれると言ってくれた。
 もしここに誰もいなかったらきっと優は飛び跳ねて喜んでいただろう。
 それぐらい、嬉しかった。

「はい、では失礼します」

 優は弾むように返事をして葵の教室を出る。
 その足取りは来る時は比べ物にならないぐらい軽やかな足取りだった。
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