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94話

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 茜が密樹とデートしているその頃、早苗はずっと自分の部屋に閉じこもっていた。

「今頃、茜ちゃんは飯島先輩と二人っきりでお出かけしてるんだよな~」

 茜と密樹が二人っきりでお出かけをしていることを想像するだけで胸が苦しくなり、嫌な気持ちになる。
 こんな気持ちになるなら、もっと早く茜に告白しておけば良かったと嘆く早苗だったが後の祭りである。
 早苗と茜はあまりにも距離が近すぎた。
 いつも二人でいることが当たり前で、それが当たり前だと思っていた。
 でも茜が密樹に告白され茜を取られると思った時、その当たり前が当たり前ではないことに気づいた。
 今まで茜のことは幼馴染として好きだと思っていた。
 でも違った。
 本当はとっくの昔から茜のことは恋愛的な意味で好きだったのだ。
 だが、早苗はあまりにも茜の近くにいたせいで、その気持ちになかなか気づくことができなかった。

「……私は馬鹿だ。どうしてもっと早くに気づかなかったのだろう」

 早苗は自分を責めるものの、過去のことを後悔しても時すでに遅し。
 そんなことを一日中考えていたら、いつの間にか夕方になっていた。

「……もう夕方なんだ……今日はなにもしてないな……」

 窓の外を見て、夕方になったことを知る早苗。
 もう茜と密樹のお出かけは終わったのだろうか。
 昨日の茜の様子を見る限り、結構楽しみにしているようだった。
 だからきっと、楽しいお出かけになったと早苗は推測する。
 どんどん早苗が知らない茜が増えていく。
 それがもどかしかった。
 その時、誰かが玄関を開け家の中に入って来た。
 まだ夕方だ。
 親は毎日夜遅いため、こんな時間に帰ってくることなんてない。
 それに鍵はいつもかかっているため、鍵を解除しないと家に入ることはできない。
 親以外で早苗の家の鍵を持ち、インターホンを鳴らさずに入ってくる人は一人しかいない。

「早苗っ」
「……茜ちゃん」

 よっぽど急いでいたらしく、茜はノックもせずに早苗の部屋を開ける。
 息を切らして部屋に入って来た茜に早苗は驚きをかくせなかった。

「あたし、早苗に聞いてほしいことがあるの」

 入口前で茜が真剣な表情で早苗に伝える。
 あまりにも真剣な茜に早苗はベッドから体を起こし、ベッドの縁に座る。

「……私に聞いてほしいことって」

 早苗は恐る恐る茜に尋ねる。
 もし、密樹とお付き合いをする報告だったら上手くお祝いする自信がなかった。

「あたし、早苗のことが好き。幼馴染としてではなく、恋愛的な意味で」
「えっ……」

 予想もしていなかった告白に、早苗は脳の処理が間に合わず呆気にとられる。
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