上 下
61 / 99

61話

しおりを挟む
 昼休みになり、早苗と茜は屋上へと向かう。

「今日は久しぶりに二人で食べようか」
「そうだね。四人も良いけど、たまには二人も良いよね」

 教室を出る前にミチルたちを見ると、ミチルも渚もとても楽しそうにご飯の用意をしている。
 たまにはカップル同士、二人で食べれば良いのに、ミチルも渚も四人で食べることに固執している。
 きっとそれはミチルや渚なりの気遣いだろう。
 早苗たちとミチルたちがずっと友達でいられるように。

「ミチルも渚もカップルだね。とても幸せそう」
「そうだね。ミチルちゃんも渚ちゃんも半分ぐらいは二人で食べれば良いのに」
「ミチルも渚もあたしたちに気を使っているんだろう。全く、優しいカップルだ」

 茜もミチルたちの気遣いには気づいていたらしく、ヤレヤレとため息をこぼす。
 昼休みの廊下は活気に満ちていたが、それに反比例するかのように早苗の気分は下がっていった。
 朝にも思ったが、早苗はあまり乗り気ではない。
 別に密樹のことが嫌いなわけではないのだが、茜と密樹が話している姿を見るとなぜかモヤモヤするのだ。
 そのせいで、早苗の足取りはどんどん遅くなり茜も早苗の異変に気づく。

「どうしたの早苗。歩くスピードがいつもより遅いけど。もしかして体調が悪いんじゃない。あたしが送っていくからすぐに早退の用意をしよう。飯島先輩には悪いが今日は断ることにするよ。背に腹は代えられないからね」

 いつもと様子が違う早苗に、幼馴染の茜はすぐに気づく。
 本当に早苗のことが好きで心配しているらしく、自分が早退して家まで送っていくと言ってくれる。

「ううん、大丈夫だから。それよりも屋上に行こう。飯島先輩が待ってるよ」

 茜の優しさは嬉しいが、体調は全然悪くない。
 歩くスピードが遅かったのは密樹と一緒にいるのが憂鬱だったからだ。
 でもそんなことを知られてせっかくの茜の恋路を邪魔するのは嫌だし、そもそも早苗はその気持ちを茜に知られたくはなかった。

「無理しなくて良いよ。幼馴染なんだから早苗の嘘ぐらい分かるよ」

 姉弟のように育った幼馴染だからだろうか、茜は早苗の嘘を見破る。

「別に無理してないから。大丈夫だから」

 体調が悪いわけではなく、ただ密樹と茜が楽しそうに話している姿を見たくなかっただけだ。
 でも密樹と茜を二人っきりにさせるのも、それはそれで嫌だったから茜についていくのだ。

「……早苗が大丈夫ならこれ以上なにも言わないけど、本当に体調が悪いならすぐに言ってね。家まで送っていくから」

 どうやら体調が悪いという嘘は見破っていたが、密樹と茜が話している姿を見たくないということまでは見破られていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ウザい先輩と可愛げのない後輩

黒姫百合
恋愛
「本当に君は可愛げのない後輩だな」 高校一年生の春、北野真希(きたのまき)は高校三年生の鈴木紗那(すずきさな)に絡まれる。 紗那は真希と仲良くなりたいと思うものの、他人に興味がない真希は紗那をウザがる。 でも何度も話しかけられるたびに真希の方も無視するよりも適当に相手にする方が、時間を浪費しなくて済むことに気づき、少しずつ紗那との交流が増えていく。 そんなある日、紗那とキスをしてしまい……。 ウザイ先輩と可愛げのない後輩が紡ぐ、ラブコメが今、始まる。

柊瑞希は青春コンプレックス

黒姫百合
恋愛
「何度も言うが私は青春が嫌いだ」 高校一年生の男の娘、柊瑞希は青春が大嫌いだ。 理由はそんな安っぽい言葉で自分の人生や苦悩を語ってほしくないからである、 青春なんていらない。 瑞希はそう思っていた。 部活も時間の無駄だと思った瑞希は帰宅部にしようとするものの、この学校には帰宅部はなく瑞希はどこかの部活に入るように先生に言われる。 それと同じタイミングで瑞希と同様部活は時間の無駄だと考える少女が先生と言い争っていた。 その後、瑞希は部活をしない部活を創立し、二人の女子と交流を持つようになり……。 ひねくれ男の娘が少しずつ大切なものを知っていく物語が今、始まる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

楠葵先輩は頼られたい

黒姫百合
恋愛
「これからはもっとたくさん楠先輩と思い出を作っていきたいです」  教室に友達がいなかった高校一年生の男の娘、中村優(なかむらゆう)は居心地が悪くなり当てもなく廊下を歩いていると一人の少女にぶつかる。その少女は高校三年生の女の子でもあり生徒会長でもある楠葵(くすのきあおい)だった。  葵と出会った放課後、優は葵に助けられたお礼をするためにシュガーラクスを持っていく。葵は優の作ったシュガーラクスを気に入り、また作って来てほしいとお願いする。 それをきっかけに優は葵とどんどん交流を重ね、しまいにはお泊り会も? 後輩に頼られたい女の子と友達作りが苦手な男の娘のラブコメが今、始まる。

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...