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54話

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「ん? つまり別に私のことが嫌いとか生理的に受け付けないというわけじゃないんだな」
「えっ、あ、はい。飯島先輩はあたしではもったいないぐらいの男の娘だと思いますよ」

 なにか引っ掛かるところがあったのか、密樹は茜に確認をする。
 茜が密樹を断った理由は、嫌いだからでも生理的にも受け付けなかったからでもなく、ただたんに密樹のことをよく知らないから断ったらしい。
 もし、密樹のファンが聞いていたら、間違いなく発狂していたに違いない。

「それじゃー私をもっと知ってもらえれば好きになってもらえる可能性があるんだな」

 密樹は水を得た魚のように生き生きしながら茜に詰め寄る。
 その迫力に茜は思わず後ずさる。

「神崎さんの言う通り、いきなり知らない先輩に告白されても困惑するよな。確かに私も知らない先輩に告白されたら確かに困惑する」

 密樹は茜が言うことはもっともだと納得し、茜に寄り添う。
 早苗も知らない先輩にいきなり告白されたら困惑するだろう。

「私も神崎さんのことをよく知らないし、神崎さんも私のことをよく知らない。ならまずはお互いを知るためにも友達から始めないか。お互い知らないままここで結論を出すのは時期尚早だと私は思う」
「……確かに飯島先輩の言う通りですね。知らないから断るというのは時期尚早でしたね。友達からでしたら、ぜひ喜んで」
「そっかぁ……友達からよろしく頼むよ」
「……えぇー……」

 密樹のことをよく知らないから断ろうとする茜に密樹は、友達から初めて少しずつ仲良くなってお互いのことを知ってほしいと提案すると、茜は腑に落ちるところがあったらしく、その提案を了承する。
 その答えを聞いた密樹は、安堵と喜びが混ざったため息を吐き出す。
 茜の予想外な返事に、幼馴染の早苗は大声を上げそうになるが、なんとか口を塞いでそれを回避する。
 今朝、ラブレターを受け取った茜はあまり乗り気ではなかった。
 それが蓋を開けてみれば交際は断ったものの、お互いのことをよく知り、交際するしないかを判断するために密樹と友達になった。
 なんかモヤモヤする。

「ずっとそこにいることは分かってる。もう出て来ても良いんじゃないのか」
「え……早苗」
「ああは……盗み聞きをしてごめんなさい」

 密樹は最初から早苗が盗み聞きをしていることに気づいていたらしく、盗み聞きをしていた早苗を強い口調で呼びかける。
 逆に茜は気づいていなかったらしく、驚いた表情を浮かべている。
 もうバレてるので、逃げも隠れもしないで早苗は盗み聞きをしていたことを謝罪する。

「別に怒っていないが、盗み聞きは感心しないから次からは気をつけるように」
「はい」
「ダメだよ早苗。盗み聞きは。良くない」
「はい」

 密樹と茜に怒られた早苗は、二人に何度も平謝りをする。
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