山鹿キリカの猪鹿村日記

伊条カツキ

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「選挙でGO」公演台本~4~

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     〇ここから、ゲスト枠


キリカ  あれっ、村長だ。村長、病院に居なくていいんですか


     山鹿行成登場


山鹿   マスコミ対応だよ。選挙が終わるまでは、私が現職だからな。ゲストさん、どーぞ!


     ゲスト登場。


キリカ  あっー、もしかして〇〇さん?

ゲスト  はい、私、〇〇と言います。


     ゲストによって、ネタを変える?


キリカ  なんで? どうしてこんな処に?

ゲスト  取材で、羽金山に登りに来たんです。

キリカ  わざわざこんな処に?

雨雲   登山なら背振とか雷山のほうが、いいんじゃないですか。

ゲスト  君たち、この村の人?

キリカ  まぁ、一応は。

ゲスト  それじゃあ、羽金山の黄金伝説、知ってる?

雨雲   黄金?

ゲスト  羽金山には10万両の小判が隠されていると言われているんです

キリカ  10万両!って、いくらなの?

雨雲   今で言えば100億はくだらないな。

キリカ  100憶! それ、マジなの。

ゲスト  約400年前、島原の乱の鎮圧に向かう為、この地を通った黒田忠之の軍勢が、山賊に襲われて軍資金10万両を奪われた。その金が羽金山の巨石群に隠されていると言われているんです。

キリカ  じゃあ、それを探しに?

ゲスト  今度、特番やるんです「〇〇の歴史ミスタリー、黒田家400年の謎、奪われた軍資金100億、徹底解明スペシャル」って

キリカ  完全に徳川埋蔵金のパクリじゃない!

ゲスト  来週放送されますから、見てくださいね。


     ゲスト、去る。


キリカ  埋蔵金かぁ。

雨雲   うーん。

キリカ  何考えてるの?

雨雲   いや、この時間になって、いろいろフラグ立ってるけど、伏線回収できんのかなって。

キリカ  あんたが心配することじゃないでしょ!

雨雲   それもそうか。

キリカ  それより、今度の討論会どうしよう。どう言ったら村の人たちの票が貰えるのかな。

雨雲   情がダメなら、実利だな。

キリカ  実利?

雨雲   人口が増えれば税収入は増える。こんな田舎の村にとっちゃ、それが一番大事だろ。

キリカ  私もそう思ってたんだけどさ、あの意識高杉君に言わせたら、私らクラウドワーカーは、そもそもの収入が低いから、対して税収の足しになってないんだって。

雨雲   そんなに低いのか。

キリカ  まあね……。でも税金って高いよね。

雨雲   世帯年収が900万超えるまでは、税金を払うことによって受ける利益のほうが多いらしいぜ。

キリカ  そうなの? 

雨雲   所得に関わらず、公共サービスが受けれるっては社会の良いことだな。

キリカ  はぁ、どうしよう。

雨雲   このさい、方向性を決めようぜ。不安を語るか、希望を語るか。

キリカ  二択なの?

雨雲   そのほうが聞いてるほうにとってわかりやすいだろ。

キリカ  うーん、わかった。


     舞台暗転。
     政策討論会。
     上手に京香、下手にキリカ。

キリカ  皆さん。世の中大変な勢いで変化してます。変わらないということは、置いていかれるってことなんです。人だって村だって、世の中との繋がりを断ち切っては、成り立たちません。私達は変わるべきです。

京香   いくら世の中が変わっても、変わらないものはあるわ。それは人の心であり、人同士の交流よ。原点を大切にすることが大切なの。

キリカ  道具が変われば、人の心だってコミュニケーションのあり方だって変わるはずです。確かに私達移住者の価値観は村とは相いれないのかもしれません。でも、私達移住者は若い人が多いんです。先住者であり、年配である村の方々が異なる価値観を受け入れて頂けないでしょうか。

京香   それは若い人の傲慢よ。郷に入っては郷に従えというでしょ。あなた達移住者のほうから、村の価値観に合わせるべきよ。いい、人の堕落は、下じゃなくて、上に落ちていくの。技術の発達が人を堕落させる。インターネットがあるから、引きこもりが増える。SNSやインスタなんかあるから、自己承認を求めるようになる。違って?

キリカ  道具は所詮道具です。そんなのは、使い方次第です。

京香   あなた、さっき道具が変わればコミュニケーションも変わるって言ったわよ。

キリカ  それはっ

京香   形だけの繋がりじゃないの。人ってのは直接顔を合わせて、初めて濃密な関係になれるのよ。皆さん、古き良き農村の形は残さなければいけません。必ず、その伝統が必要とされる時が来ます。私は、皆さんもご存じのように、一度この村を捨てました。ですが、だからこそ外から見たこの村の良さがわかります。四年前、私は再度過ちを犯しました。

キリカ  村長に協力したのが、過ちだったって言うんですか。

京香   私に最後のチャンスを下さい。私は約束します。昔の猪鹿村をみんなで、取り戻しましょう。

キリカ  私達移住者だって、この村の住人です。私達の居場所を、奪わないでください。私達の言葉にも、どうか耳を傾けてください。



     舞台暗転。
     キリカ、雨雲、桜庭がいる。

キリカ  なんか、何を言ってもダメ。暖簾に腕おしって感じ。聞いてくれてる感じがないのよね。

雨雲   人望ねえんだな。

キリカ  私のせい? 

雨雲   しかし、思ってたより、この村で猪瀬家ってのは強いんだな。

青井   だいぶ、実弾も使用されてるみたいですしね。

キリカ  実弾?

青井   現金、とまではいかないでしょうけど、商品券やギフト券などが、配られているようです。

キリカ  あの人、そんなことしてるの。

青井   おそらく、秘書の赤木の手口でしょうね。

キリカ  明らかな選挙違反じゃない!

青井   米寿のお祝い、初孫の誕生、病気の退院祝い、いくらでも名目は付けられますから。

梅田   田舎になるほど、選挙戦は激しくなるしね。

月影   この村では猪瀬家って絶大な権力を持ってるんだね。

桐谷   飯塚の麻生さん、久留米の鳩山さんって感じね。

キリカ  でも、村長の山鹿家だって、そうなんでしょ。

青井   この猪鹿村は、猪瀬、山鹿の両家が作ったと言われていますから。

キリカ  それなのに仲悪いんだ。

桐谷   何か事情があるんでしょうね。

桜庭   結局、人ってさ、何を言ってるからより、誰が言ってるかを重視しちゃうのよね。私さぁ、以前ローカルアイドルやってたのよね。

キリカ  ここで、いきなりのカミングアウト!

雨雲   あぁー!そうだよ、どこかで見たことあると思ってたんだ。あんた、どっこい少女隊のサクラだろ。イメージ違うから気づかなかった!

梅田   そうなの!

キリカ  知ってるの?

雨雲   ローカルアイドルのグループでさ、だいたい、グループ名から言って、地雷臭がプンプンだろ。どっこい少女隊だぜ、完全にパクリだし、どっこいしょとかけてんだぜ。センスゼロだよな。

梅田   (ボソッと)俺は好きだったけど。

雨雲   これまた、楽曲が絶望的にクソでさぁ。

桜庭   言わないで、黒歴史なんだから。

梅田   いや、俺は好きだったよ。

雨雲   それでも、ルックスとダンスで、それなりにファンついてたんだよ。でも、確か解散したんじゃなかったっけ。

梅田   あの時はショックだったなぁ。

月影   梅田さん、何ブツブツ言ってるんですか?

梅田   い、いや、何でもない。

桜庭   芸能の世界でね、一番の不幸は才能のないやつを好きになることなの。

桐谷   どこの世界でも一緒よ。

キリカ  どういうこと?

桜庭   嫌いなやつが言う正しい事より、間違ってても好きな人が言う言葉を真実だと思っちゃうの。

月影   好きな人って、才能有るように見えちゃうんだよねぇ。

キリカ  じゃあ、咲良さんは、プロデューサーの事を?

梅田   えぇ! 恋愛禁止だったのに。

桜庭   今考えたら、何でって思うけど、私も若かったから。有名芸能人とのパイプを自慢して、既存の曲に暴言吐く彼の事、かっこいいって思っちゃてたのよね。

桐谷   ダメ男に惚れる、典型的なパターンね。

雨雲   否定する人間が凄そうに見えちゃうんだよな。不良っぽいやつがモテるのと同じだ

キリカ  どうして、辞めたんですか

桜庭   若い新しいメンバーが入ってきたの。

梅田   あぁ、鶴見ちゃんね。

桜庭   そしたら、プロデューサーがその子と付き合いだして。

梅田   それ、聞きたくなかった!

桜庭   それからよ。ただでさえ酷かった楽曲が、無茶無茶になっていったのは。

雨雲   あるあるだな。女と宗教ってのは、段取りを飛び越えちゃうんだよ。権力ある人間に直接近づいて自分の意見を通しちゃえるから

キリカ  誰も、何も言わなかったの?

桜庭   云えないわよ。彼は云いたい事があるなら、何でも言ってくれ、とかいうけどさ。全然、そんな空気だしてないし。

月影   いるよね、無礼講って云いながら、構われないとキレる人。

桐谷   いるいる。

桜庭   中にはその娘に露骨に媚び売るのも出て来るし。

雨雲   そういうのって、本人は気づかないんだよなぁ。

桐谷   どうしたの、梅田さん?

梅田   知らないほうがいい事って、あるんだねぇ。

桜庭   結局さ、他人に何を言われても人って変わらないのよ。自分で実感して、自分が気が付かないと。

雨雲   そうだよ。それなら気づかせればいいんだ。実力行使だよ。

キリカ  実力行使?

雨雲   数日、いや一日でもいいから、ネットを使えなくするんだ。去年の11月、ソフトバンクの携帯がたった6時間ほど不通になっただけで、どれだけの人が困ったよ。ネットの無い生活に戻ることがどれだけ不便なのか、きっとわかるだろ。

キリカ  でも、どうやって?

雨雲   物理的に遮断する。

キリカ  そんなことできるの?

雨雲   この村を覆ってる高速WIFIの中継局がどこかにあるだろ。

梅田   それ、羽金山の山頂じゃなかったかな。

キリカ  羽金山?

雨雲   あの高いアンテナが立ってるとこか。

青井   あれは、標準電波送信所って言って、日本に二つある、電波時計の電波を送信する設備です。

梅田   確かそこに併設されたんじゃ。

雨雲   そこだ。

キリカ  どうするの?

雨雲   電源引っこ抜く。一日でもネットが繋がらなくなれば、必要性がわかるだろ。

桜庭   失って初めて気づく大切さってやつね。

桐谷   いいんじゃないかしら。

青井   いや、さすがにそれは。

キリカ  そうですよ。そこまでしなくても。

桐谷   何言ってるの。このまま何もしなかったから、負けるかもしれないのよ。

キリカ  どうしてそこまで必死になるんですか。

桐谷   私ね、大学生の息子がいるの。

キリカ  そうなんですか

桜庭   えー、子どもいるように見えない。

桐谷   若い時に生んだ子だから。私一人生活するなら、この村に来なくても充分にやっていけたわ。でもね、少しでも多く息子に仕送りしてあげたいの。だから、この村の生活が変わってしまったら、困るのよ。キリカさん、政治って人の人生を変えてしまえるのよ。だから、全力を尽くして。その結果負けたのなら、私達だって納得して、それを受け入れるから。

キリカ  ……わかりました。やりましょう。行動あるのみです。

青井   キリカさん。

雨雲   大丈夫です。たまたま 登山に行って、たまたま足を引っかけって、たまたま、電源が抜ければいいんです。

キリカ  山頂には、どうやって行くの?

桐谷   羽金山なら、白糸の滝から登山道を登れば、行けるはずよ。

梅田   でも、そのルートだと人目につきやすくないかい。

雨雲   村の人間に見つかるとやっかいだし、佐賀の方からアプローチしよう。

キリカ  それで、いつ行く?   

青井   羽金山には、この時期、早朝に深い霧がかかることがあります。そんな時は地元の人も近づきません。霧が出る条件に当てはまるのは、天気予報から言うと、おそらく明後日あたりかと

キリカ  ありがとう、青井さん。

月影   僕も行くよ!

雨雲   よし、実力行使だ!


     舞台暗転。
     霧深い薄闇の中を、ライトを手に進む三人。


月影   しかし、すごい霧だね。

雨雲   足元気をつけて。

キリカ  こんなに急だなんて、聞いてなかったー

雨雲   もうそろそろ山頂のはずだけど。

キリカ  この霧、何か匂わない?

雨雲   霧が匂うわけないだろ。もしそうだとしたら、これは山の匂いだよ。

キリカ  山の?

月影   霧に乗って、周囲の匂いが漂ってくるんだよ、これは、寒牡丹かな。

雨雲   月影さん、わかるんだ。

キリカ  ねぇ、何かいる! ほら、あそこ!

雨雲   何にもいねえって……(観音様に気づいて)うわっ!

月影   これ、観音様だよ。

キリカ  なんで、こんな場所に?

雨雲   村の広場にもあったな……あれっ、これってもしかして

キリカ  どうしたの?

雨雲   いや、何でもない。もう少しで、山頂のはずだ。少し休もうか。

キリカ  ゴメンなさい、月影さん。こんな事にまで付き合わせて。

月影   僕にとっても、今度の選挙は大事ですから。僕ですね、今遠距離の彼女がいるんです。

キリカ  彼女?

月影   今までは生活が安定しなかったんですけど、この村なら充分に生活できるから。選挙が終わってキリカさんが村長になったら、彼女をこの村に呼んで結婚……

キリカ  それ以上言っちゃダメ!

月影   えっ?

キリカ  どうしよう、今フラグ立っちゃった?

雨雲   うーん、ギリギリかなぁ。

月影   な、なに? どうしたの?

キリカ  「〇〇が終わったら結婚するんだって」台詞を言った人の9割は、死んじゃうんです。それ、呪われた台詞なんです。

月影   えぇ、そうなの!

キリカ  台風の時、屋根の修理をしに行くのと同じくらいですよ。

月影   ど、どうしよう。

キリカ  さっきの台詞、否定してください。結婚なんてしないって、彼女とは別れるって。

月影   いや、無理だよ。

キリカ  どうしよう。

雨雲   落ち着けよ。そこまでベタな展開はないって。

キリカ  そ、そうかな。


     三人、山頂へついて。


雨雲   ついたぞ、山頂だ。

キリカ  電波塔の横にある施設って言ってたけど。

雨雲   向こうに見えるあれだな、ちょっと行ってくるから、二人は見張ってて。月影さん、ライト貸してください。 

月影   う、うん。


     雨雲、去る。システムがダウンする音。


キリカ  ねぇ、向こうに誰かいる。

月影   また地蔵が何かじゃないの

キリカ  違う。ほら、灯りが。


     雨雲戻ってくる。


雨雲   いがいに簡単だった。

キリカ  ねぇ、誰か登ってきてる。

雨雲   このタイミングで見つかったら、まずいな。 

月影   ここは僕に任せて、二人は向こうから降りるんだ。

雨雲   えっ?

キリカ  で、でも

月影   どうしたの?

キリカ  その台詞も死亡フラグです!

雨雲   ここは、月影さんに任せよう。

月影   心配しないで、後で必ず追いつくから。

雨雲   あぁ、駄目おし!


     キリカ、雨雲去る。月影、隠れる。


月影   あれ、もしかして……。


     山鹿行成と猪瀬京香登場。


京香   やっぱり、あなただったのね。

山鹿   昔の習慣とは、怖いものだな。羽金山の霧が香る朝、それが二人っきりになれる合図だった。

京香   今なら、わざわざこんなとこまで来なくても、二人きりで話す事も簡単だったのでしょうね。

山鹿   ……昔の事だ。


    〇回想シーン(若い頃の山鹿と京香)


京香   村を出るって、どういうこと?

山鹿   この村にいる限り、僕達は一緒になれない。

京香   でも……。

山鹿   この村の伝統は呪いだ。僕は子どもにそれを背負わせたくない。だから、一緒に村を出よう。

京香   ……考えなおして。私達で一緒に村を変えましょう。

山鹿   無駄だよ。

京香   お父さんだって、あなたの意見は聞いてくれたじゃない。

山鹿   聞くだけだよ。理解したふりだけしても、心の底では変化を嫌っている。そんな人間は永久に変わることなんてない。ここに居たら、何も変わらないんだ。変わる為には環境を変えないと。

京香   私達がいなくなったら、この村はどうなるのよ。

山鹿   逆だよ。僕達が居なくなれば、村だって変わるかもしれない。そうだろ。

京香   それは……

山鹿   行こう。僕らの為だけじゃなく、子どもの未来の為に。

京香   ……


     舞台は再度羽金山


京香   いよいよ、来週ね。

山鹿   ああ。

京香   どうしてあの娘を巻き込んだの。

山鹿   この村の変革を諦めない為だ。あの娘なら、必ずこの村を変えてくれる。

京香   だからって……。

山鹿   君こそ、どうして私の変革に反対する。

京香   父が亡くなる前、私に言ったのよ。この村が余所者に荒らされては、ご先祖に申し訳がたたないって。

山鹿   私達は過去に縛られるより、未来へと向かうべきだ。そうだろう。


     月影が動く。


京香   誰?
月影   やばっ。


     そこに蝶野老人登場。


蝶野   わしじゃよ。

山鹿   蝶野さん。

蝶野   羽金山に、猪瀬、山鹿、蝶野の当主が集まるのは、いつぶりかのぉ。猪鹿交わらず、蝶は見届ける。か

山鹿   もうやめませんか。いつまであんな昔の約束を守るつもりですか。

蝶野   250年続いた迫害の歴史。100年の差別。それは、わしらの身体に染み付いておる。

京香   私達の先祖が、ずっと受け継いできたものよ。それを自分の代で終わらせる事なんてできないわ。

山鹿   そんな理屈はない。

京香   理屈じゃなくて、気持ちなのよ。 400年間続いた思いを、あなたは断ち切る事ができるの。

山鹿   それでも、誰かがやらなければいけないんです。

蝶野   わしらだけで決められる問題でもなか。

山鹿   次の選挙でキリカが選ばれたら、始めて村以外で育った村長が誕生します。そうすれば、この村は新しくなるんです。

京香   村の人達が、許すと思うの?

山鹿   やってみないとわからないだろう。

蝶野   わかった。その時は覚悟を決めよう。

京香   蝶野さん。

蝶野   わしとて、考えた事がないわけでもなか。


     蝶野、去ろうとして。


山鹿   どこに行くんですか。

蝶野   電源じゃ。

山鹿   電源?

蝶野   あいつらの目論見など、お見通しじゃ。映画が見れなくなるのは、困るからのぉ。(月影のほうを向いて)帰り道には、気を付けないかんばい。

京香   えっ?

月影   バレてた!

     月影、逃げ出す。
     舞台暗転。
     月影の悲鳴。


     選挙当日。
     選挙立ち合い人として、蝶野老人、アヤメ婆さんがいる。
     お客さんは投票用紙に、候補者の名前を書いて投票箱に入れる
     (立ち上がって直接投票して欲しいが、無理な場合は回収する)
     投票が終ったら、すぐに開票が始まる。
     開票を待つ、キリカ陣営。


キリカ  あぁ、この開票結果を待つ間って、何していいかわからないわよね。

青井   できるだけの事はやりました。後は、祈るだけです。

桐谷   大丈夫、私達はやりとげたわ。

梅田   うん、貴い犠牲もあったしね。

桜庭   いい人だったのにね、月影さん。

キリカ  あんな台詞言うから。


     そこに、月影、雨雲登場。


月影   勝手に殺さないでくださいよ!

キリカ  あっ、生きてた。

雨雲   言っただろ、そんなベタな展開無いって、それより、わかった。わかったんだ。山頂で見ただろ、あの観音様。

キリカ  そういえば、やけに気にしてたわね。

雨雲   あれ、マリア観音だよ。ね、月影さん。

月影   うん。おそらく間違えない。

キリカ  なにそれ?

雨雲   世界遺産になっただろ、潜伏キリシタン関連遺産。キリシタンがマリア像の代わりとして作ったのが、マリア観音だよ。

梅田   じゃあ、ここは潜伏キリシタンの里だったんだ。

雨雲   違う、ここは隠れキリシタンの隠れ里なんだ。

桜庭   ねぇ、潜伏キリシタンと隠れキリシタンって、何か違うの?

雨雲   明治になってキリスト教が解禁された時にカトリックに帰属した人達を潜伏キリシタン、そのまま当時の風習を続けた人達を隠れキリシタンって言うんだ。

桐谷   それが村の秘密?

雨雲   この村ができたのが約四〇〇年前。だとしたら、島原の乱の鎮圧に向かう黒田家の軍勢が軍資金を盗まれたのと同じ時期だろ。

キリカ  羽金山の埋蔵金。

雨雲   推測だけど、こういうことだ。キリシタンの叛乱である島原の乱鎮圧に向かう黒田家の軍勢から、軍資金強奪を図った一味がいた。それは伝説にあるような山賊じゃなくて。

月影   キリシタンが、仲間の元に行く軍勢を防ぐ為の妨害工作だったんだ。

雨雲   そして、彼らの計画は半ば成功し、半ば失敗した。

桜庭   その後、彼らは奪った金を隠すのと同時に、自分達の身も隠したのね。

桐谷   キリシタンの隠れ里。それが、この猪鹿村。

梅田   余所者を嫌う理由はそこにあったのか。よっぽど信仰心が強いんだろうな。だから、新しい人間が村に住むのを嫌うんだ。

桜庭   どうして?

梅田   信心が深い(新人が不快)

キリカ  それ本当なの、青井さん?

青井   僕からは、何も……。

雨雲   あの爺ちゃんに聞いてみようぜ、絶対知ってるはずだから!

青井   そんなことはいいんです! それより! 今は選挙の結果に集中しましょう。

キリカ  青井さん?

雨雲   何ピリピリしてんだよ。

桜庭   そうよ、なんだか青井さん、怖いわよ。

青井   すいません。ですが、まもなく選挙の結果がでるんです。


     開票終って。


アヤメ  投票の結果、猪鹿村の村長は〇〇に決まりじゃ。


     お客さんの拍手。舞台暗転。
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