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私の王子様

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馬車の中で着替えさせて貰い、アンドリュー様と他愛もない話をしながら学園へと向かう。



「アンドリュー様は古代文字がお好きなんですか?」



ゲームでは苦手な科目として設定されていたら魔法学が大好きだといわれ、つい尋ねてしまう。



この世界の魔法は古代文字を使うので、言語学が好きイコール魔法が好き、という方程式が成り立つのだ。



「好きというか、1番得意なんだ。ところで、リューと呼んでくれないか?アイリス嬢」



柔らかな笑みとともにそう言われて仕舞えば、拒否なんて出来もしない。



するはずもないんだけど。



「はい、リュー様」



「ふふ、いい子だね」



いい子なのはリュー様です!なんて、悶えていたら門の前に着いていた。



先に降りたリュー様が手を差し出してくれ、その手に自分の手を重ねて(でも体重はかけない、重いって思われたくないもの)、苦笑されながら後に倣う。



途端に周囲がざわめき出す。



あの隣にいる見窄らしい娘は誰かしら、とでも言われてるのかしら。



「アンドリュー様ですわ」



「相変わらず凛々しくていらっしゃる…」



「いいえ、あの方は可愛らしいのよ!」



「美の結晶」



「いいえ、叡智の結晶よ」



「なんでもいいわ、美しく聡明で」



「まさに次代の国母たる御方だ」



「王の器とも言えるだろう」



「王太子殿下自ら、御本人が王配になりたいと仰られているのだろう?」



「あの御方も変わられたよな。冷たい空気が一変して、婚約者であられるアンドリュー様を溺愛しておられる」



「逆じゃないか?マイナー殿下がアンドリュー嬢に夢中で、そんな殿下をアンドリュー嬢が可愛がっておられるような」



「生まれてくる性別を間違えたんじゃないかと俺は思うよ」



あらゆる角度からそんな声が聞こえてくる。



やっぱりリュー様は、あの悪役令嬢アンドレなんだ。



マイナー殿下と言えば、あの王太子様だもの。



ゲームでは中盤で必ず死ぬ、あの王子様。



ビークイーンの悪役令嬢が規格外と言われた、原因とも言える登場人物よね。



悪役令嬢アンドレが、ヒロインに王太子と結ばれて王妃になれと言ってくるの。


必ずどのルートでも、なんとなくこの人かなって決まってくる辺りから。



最初はお小言ばっかりだったのに。



さらにゲームを進めてくと、暗殺シーンが出てきてヒロインの好感度が1番高い人が怪我をして、王太子は死ぬの。



それからは、貴女のせいでって悪役令嬢が普通に嫌がらせをしてきて、断罪シーンを経てヒロインと攻略対象が結ばれてハッピーエンド。



巷では、悪役令嬢×ヒロイン(敵対カプ)とか、王太子×ヒロイン(悲恋カプ)、悪役令嬢×王太子(すれ違いカプ)とか。



それ、どうなの?っていう作品が二次創作で作られてた。



一部では過激なすれ違いカプ勢がいて、ヒロインアンチ作品が多く生まれたくらい。



たしかに、悪役令嬢も最初はただ親切心で注意してくれてただけだし。



でも最終的に断罪されてたから、アンチはやりすぎだと思ってた。



いま目の前にいるリュー様を見るまでは。



「ふふ、貴族ばかりで不安かもしれないけど、この学園は身分を無視していいことになってる。



言いがかりには反論していいし、それでも怖かったら私に言ってくれ。



必ず君を守るから」



だって、こんなに優しいんだもの。



もしも貴女が断罪されるなら、私が守るからね。



ないとは思うけど、ゲームの強制力は未知数だから。



もしもの時は、絶対に守りたい。



貴女のその笑顔は、きっとどの攻略対象よりも素敵だと思うの。



だからずっと笑顔でいてね、私の王子様。



「きっと大丈夫です。だってリュー様が大好きなこの学園が、ひどい場所だとは思わないもの」



「君は優しいね、アイリス嬢」



優しいのは貴女だよ、リュー様。










かくして、ヒロイン"アイリス・キャンベラ・ダイナー"が学園入りを果たしたことで、この世界はスタートラインに立ってしまった。
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